リゾット
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『キミしかいらない!』の続編のようなもの
「ボンジョルノ!ベッラ!何処から来たの?チャイナ?コリア?それともジャポン?」
「ええと…あー…一応は日本…ですけど。」
軽いお使いの帰りに、こうやって路地裏で声を掛けられる…。
それも割と頻繁に。
あなたはわたしのものなので!
「南イタリアへようこそ!こんなところで何してるの?この辺は土産屋も無いし……もしかして迷子かな?何なら俺が観光案内ついでに宿泊ホテルまで送っていってあげようか?」
「えーっと……。」
「って、イタリア語でベラベラ喋っても分からないよね?英語なら通じる?キャニュースピークエングリッシュ?」
アジア人であるyouの外見はこのナポリの観光スポットに於いてはそう珍しくないのだが、
ひとたびこのような路地裏や住宅街に入ればそのレア度はグンと高くなる。
なので、人懐っこい南イタリアの人々の特性から、彼女は老若男女問わず「道に迷ったのか?」という問いかけをよくされている。
ただ、それだけで済むこともあれば、相手が男性であれば今回のようにひたすら歩きながらも声を掛け続けてくる者もしばしば…。
「あの、喋れます、イタリア語。下手ですけど…。」
「ワオ、マジで!すごいじゃん!え、留学生とか?この辺大学あったっけ?」
「いえ、学生では…。」
「まぁ、どうでもいっか!ベッラ、名前は何て言うの?留学生じゃないならやっぱ観光?これから一緒にカッフェでもどう?すぐそこに美味しいカッフェを淹れてくれるバールがあるんだ!」
「い、いえ結構です…。」
「そう言わずにさぁ…!」
「お、お使い帰りなんです……なので寄り道できなくて…。」
「あ~、なるほど!ホームステイね!それなら暫くココにいるってことだ!」
「ある意味ホームステイなんですけど…ちょっと違うっていうか…。」
「家はどこ?送らせてよ、今度迎えに行くから一緒にデートしない?」
「そ、それはちょっと…。」
「え、どうして?もしかして故郷に恋人でもいる?大丈夫、こんな離れた場所なら浮気もバレないって!」
「はぁ…。」
怒涛のトークに溜息なのか呆れた言葉として出したのか、どちらともつかない音を放ち、youは目の前のナンパなイタリア人男性を見上げる。
視線がかち合ったことで、彼女の言葉を待つことにしたのか、男は少し押し黙った。
youとしては家で待つリゾットの元へ早く戻りたかったので、ここは丁重にお断りを入れるべきだろうと薄く唇を開いたのだが…。
「you、こんなところで何をしている……買うものを買ったらすぐに戻って来いと言ったハズだが。」
通り過ぎた路地の角から急に声を掛けられたので、ナンパ男と2人で後ろを振り向けば、そこにいたのはyouのホストファミリー……否、居候先の家主であるリゾットであった。
コードネームにしても目立つその名前は仲間内でしか利用しないというルールのため、youはいつもの名前をググっと飲み込み、彼がよく使う偽名を大きく声に出した。
「り……ぞ…じゃないーええと、ヴァレリオ!?」
「どこをフラフラほっつき歩いているかと思えば……ん、何だその男は…。」
「フラフラなんてしてないですよ!ちゃんと寄り道せずに帰ってる途中で…!」
「そんなことはどうでもいい。その男は何なんだ?」
「ど、どうでもいい?!今寄り道せずに帰っていたのかって言われたから答えたのに!」
「それで、お前……いや、君は誰なんだ?youの友人か?」
「無視?!」
買い物に出てからそこまで時間は経過しておらず、遅くなったとも言えないはずなので、youはリゾットの指摘に不服そうに反論したそうにするものの、彼はそういった時間の問題ではなく、彼女の隣にいる見知らぬ男のことが気になって仕方がない様子。
youの前に歩み出て、今一度「君は彼女の何なのか」、「どういった関係なのか」と2メートル近くある身長と強靭な肉体を見せつける様に腕組をして男を上から見下ろせば、流石の男もその圧に気おされてしまったらしい…。
「あ、えっと、俺はその……あぁっ!急用を思い出した!スンマセン!失礼しますッツ!!」
「・・・。」
捨て台詞よろしく、男はバタバタと大きな靴音を立てて脱兎の如く2人の前から立ち去って…基、逃げ去っていった…。
そして、その場に残されたリゾットとyouはというと…。
「軟派野郎が…。」
「リゾット、ナンパだって分かってたんですか?」
「分からいでか。」
「だって、知り合いか~友人か~ってしつこく聞いてるから、てっきりそう思ったのかと…。」
「現時点でお前にオレとチームのメンバー以外にこのナポリでの知り合いがいないことは分かっている。」
「そ、そんなことないかもしれないじゃないですかぁー!そんな、友達が少ないみたいに言わないでくださいよ!」
「いるのか?」
「超絶美人の金髪美青年とか穏やかで誠実で海みたいに広い心を持ったイケメンとかIQ152の天才とか!!クールビューティーに見えて実は情に厚い女の子とか、そういう友達がわたしにも…!!」
「いるのか?」
「いたらいいなと思ってこのナポリで日々生活をしています!」
「いないんだな。」
「いつか作るもん…。」
む…と、口を尖らせて不満顔を顕にするyouの頭に、少し安心したような息を吐いたリゾットが手を伸ばし、その髪をくしゃりと撫でた。
「身の安全のためだ、当分は我慢しろ……。」
「それ3ヵ月前も同じこと言われましたけど…。」
「・・・。」
「・・・。」
youの思い掛けない反論に、表情こそ変えないものの押し黙るリゾット。
これは突き詰められるのではないかと、youが彼の顔を覗き込んだところで、フイッと顔を逸らされる。
ちゃんと答えてほしいと、今一度「同じこと言われました」と呟けば、リゾットは分が悪くなったのか、急に歩を進めだした。
「ちょ、ちょっとリゾット!」
「じゃあまだ安全じゃあないって事だ。」
「もう!それ何の基準でですか?」
「オレの判断だ。」
「横暴だぁ……作らせてくださいよ、友達ぃ…。」
「チームの奴らがいるだろう?そもそも、それだって………というか。」
「・・・?」
すぐそこの角を曲がれば、家に到着する…というところで、急にリゾットが立ち止まり、youもそれに倣って歩みを止めた…。
「オレだけでは不満なのか?」
「え……いや、不満というか………。」
「何だ。」
「・・・。」
今まで饒舌だった口が急にしおらしくなったなと、リゾットは眼下で口をもごもごさせている恋人を見つめる。
言おうか言うまいか迷っている様子の彼女に、はぁ…と軽い溜息を吐いてから、リゾットはyouの頬に大きな手を伸ばし、包み込むようにして優しく撫でた。
「言いたいことがあるなら言え……解決できるか分からないが、一緒に悩むことはできる。」
「でも、リゾットが……。」
「ん?」
「言ったら、リゾットが困るかも……困らなくても切ないし、困ったら申し訳ない。」
「ほぅ……気になるぞ……言ってオレを困らせてみろ。」
「えー……じゃあ言っちゃいますね…うん、えーっと…。」
「・・・。」
いざ伝えるとなると、本人の目を見ては言い辛かったようで、リゾットと向き合ってはいるものの、少し視線を横に逸らして彼女はポツリと言葉を落とした。
「不満はない……けど、寂しい。」
「・・・。」
「リゾットがお仕事で出てる時……買い物に行ってもリゾットと夕飯の相談をしたいって思っちゃうし、その帰りにジェラートを食べても2人でいたらシェアできるのになって。だから、色んな場所を歩いても、一人じゃなくて誰かと一緒におしゃべりしながらがいいって……思っちゃうんです……。」
「喋る相手がいれば誰でもいいというワケか?」
「勿論、一番隣にいてほしいのはリゾットですよ!でも、流石にリゾットにニートになれとは言えないし…。」
「ニートが何なのかは知らんが、流石に食い扶持が無くなるのは承諾できんな…。」
「でしょう?だから友達を…。」
「それは却下だ。」
「な~ぜ~だ~!!」
「オレが付き合う。それで我慢しろ。」
「えっ?!だめですよ!リゾットがニートになったらどうやってわたしを養うんですか!」
「堂々ヒモ宣言をするんじゃあない……職を辞すとは言っていない…「付き合う時間を作る」と言ったんだ。」
「付き合う時間を……つくる?」
「そうだ。」
小首を傾げたyouに、リゾットは彼女の頭をポンポンと撫でながらその内容を説明する。
「昼食の時間や外回りの任務帰りなど…割ける時間がある時はお前に連絡を入れるから……外で一緒に過ごそう。」
「!!!」
「外回りの回数はそんなに無いが、昼食や外出の合間なら……っ!」
バスッと何ともいえない音を立てて、youがリゾットに抱き着く。
顔は胸に埋められているので表情は判断できないが、彼の背中に回された腕の力がぎゅうっと力強いため、とても感情が込められていることだけは理解できた。
「ひとまずはそういう落としどころでどうだ?」
「・・・。」
「you……返事は?」
「んぅ……。」
「それでいいか?」
「いい……けど、すごく嬉しい、ありがたい……けど…。」
「けど、何だ。」
それとこれとはまた別で、友人は欲しいのだと、この後に及んで反論しようものなら、声が枯れるほど丸一日抱き潰して独占欲を知らしめるか、はたまた、もういっそ外出禁止令でも出してやろうかと…。
そんな良からぬ考えがリゾットの脳内を逡巡する。
だがしかし、そんなリゾットの予想に反して、ゆるりと顔を上げた恋人は涙を浮かべ、グスグスと情けない声で別の心配事を口にするのだった…。
「りぞっと、お金なくならない…?ずっと外で食べたらご飯代もばかにならないよぉ…?」
「・・・。」
「薄給…なんだよね、りぞっとのチーム…。」
「・・・あのな…。」
「りぞっとの分だけならまだしも、わたしまで外食なんて……そんな…ウッ…。」
「もう黙れ……いや、黙ってくれ、頼む。」
男として恋人に金の心配をされることのなんと情けないことか…。
リゾットは彼女に恐怖を与えるところか、逆に思わぬカウンターで精神的にダメージを与えられてしまう…。
そんな彼の心境を知らぬyouは、自分が居候であるという負い目もあり、尚も「無駄遣いしちゃダメです」やら「寧ろ弁当男子なんてどうですか?」などと訴え掛けてきている…。
「youッツ!!」
「ひっ、はい?!」
「オレはそこまで考え無しに金を使う人間じゃあねェ……だから、要らん心配をするな……色々厳しいとオレが判断した場合はちゃんと控える。」
「確かに…。」
「それに……すごく嬉しいんだろう?それなら素直に喜んでくれた方が男としては嬉しい。」
「そっか……そうですよね、うん……リゾット、ありがとうございます、凄くスゴクすっごく嬉しいです!」
「事務所(アジト)から家までもそう離れていないのだから、オレが家に帰ってもいい。それならyouが懸念する点も解消されるだろうし…。」
「経済的!でも行ったり来たり……面倒じゃないです?」
「短い時間でも愛するyouといられるなら、苦にはならない。」
「ふぁっ……リゾット…すごい!イタリア人みたい!」
「みたいじゃなくてオレはイタリア人だ……(正確にはシチリア人だがな)」
「うう、でも本当にいいんですか?」
「構わない……というより、オレがそうしたい。でなければまたお前は寂しいからと、金髪美青年の友達を探そうとするだろう?」
「ん……でも、リゾットが一緒にいてくれるなら探さなくてもいい、かな。」
「グラッツェ、その言葉を待っていた。」
独占欲丸出しで、自分以外の人間を知らなくていいとやんわり押し付けていることは恐らくyouも気付いているのだが、その本人が「それでもいい」と言ってくれるのであれば、リゾットの希望としてはとしては最高の形なワケで…。
軽いキスを額に落とし、リゾットはyouに向けて、ふっと嬉しそうな笑みを零した。
「有言実行、早速明日から連絡を入れることにする。」
「はいっ!嬉しいです!」
そう言って、どちらからともなくお互いの手を取り、すぐそこの家までの道を2人で並んで歩き始めた。
余談だが、確かに翌日からリゾットは取り決めを有言実行し、昼の時間にyouに連絡を入れ、家で食事を摂り始めたのだが、
食後の運動だとか、そもそも食事よりもお前が食べたいだとか、何かにつけ真っ昼間から身体を貪られることが多発したため、youは再びリゾット以外の友人を欲し始めるのだった……。
独占欲の
享受を願う!!
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*
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