石田三成
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私には大事な存在がある
我が君主である秀吉様
恩師の半兵衛様
友である刑部
揺ぎ無く、在る
私はそこに
他の誰かが加わることは
生涯無いと思っていた
はじめての温度
そんな三成がいつ頃からか、視界を奪われるようになった存在がある。
彼女の名はyouという。
生涯妻は娶らないというスタンスを貫く秀吉には、己が子が生まれることは無い。
それ故、様々な家柄の男女を養子に迎え入れており、youはその一人だった。
年の頃は三成と同じくらいだが、その存在は性別だけでなく、何もかもが三成とは違っていた。
普段全然笑うことの無い三成と比べ、彼女はよく笑う。
笑うというより、いつも微笑んでいると言った方が正しいだろう。
すぐに癇癪を起こして家臣や兵に当り散らす三成と違い、彼女はいつも周囲を気遣う。
故にか、彼女を誰かが囲む時は皆、一様に笑顔が絶えない。
初めは自分と真逆の彼女の存在を三成は疎ましく思っていた。
しかしながら、それはすぐに撤回に至った。
その理由はやはり己が君主によるもの。
youと話している時、秀吉が珍しく微笑んでおり
見たことの無い君主のその顔に痛く感動したというものである。
それ故思ったことはただ一つ。
『秀吉様をも笑顔にさせる、youの存在は(そうは見えずとも)偉大である』…と。
今まで会話など殆ど交わしたことが無かったであるにも関わらず、
その頃から密かに、三成はyouのことを崇高な存在として意識することとなった。
そんなある日、軍議を終えて三成が廊下を歩いていると、庭先にyouの姿を見つけた。
「(you様…?)」
何をしているのかと…少し目を凝らせば、彼女は急に左右をキョロキョロと確認し、蔵の方へと小走りで駆けて行った。
特に何も用事を持っていなかった三成は、不思議そうな表情でそれを追う。
蔵の正面にやって来たものの、そこにyouの姿は無く…。
改めて不思議そうな顔で小首を傾げれば、建物の裏からニャァという鳴声が聞こえた。
よもやと思い、鳴声の元を辿れば…。
「・・・猫ですか。」
「ぎゃん!?」
猫と・・you。
1人と1匹の姿を目にして、背後から声を掛ければ
警戒心の強い猫はその場から逃げ去り、近づく気配に気付かないほど鈍いyouが驚く。
振り返り、大きく目を広げて三成を見上げ、youは焦りの色を見せ始める…。
「いっ、いっ、石田さま?!」
「隠れて猫をお飼いに?」
「そういうわけでは……ここ数日、よく見掛ける子で…。」
「いつも此処に餌を?」
「い、居なくなるまでは…と。」
「・・・。」
「あの…皆には言わないでほしいの!お願い、石田さま!」
「分かりました。」
「あれ、意外とあっさり・・。」
「you様のご命令とあれば。」
「は、はぁ…?」
2人がまともに会話をするのはこれが初めてのこと。
確かに、君主の娘であるyouに家臣である三成が敬意を払うのは正しい事だが
自分は彼の主である秀吉ではなく、ただ、その娘というだけの話だ。
何もそこまで遜らずとも…と思いながらもyouは少し困惑した顔で「ありがとう」と礼を述べた。
「よかった、見つかったのが石田さまで。」
「何故です?」
「だって、女中さんじゃご飯を猫にあげるなんて、って怒られるし…。」
「そうですね。」
「他の者でも、鳴声が煩いからって追い出されたりしちゃうでしょう?」
「そうですね。」
「ああ、家康さまならきっと大丈夫なんだろうけど。」
「家康…ですか?」
今まで淡々と受け答えをしていた三成が僅かにピクリと反応を見せる。
しかしながら、youはそれに気付いていないようで、
綺麗な笑みで三成に言葉を返してきた。
「ええ、徳川の。」
「家康とは…お親しいので…?」
「特別親しいわけではないですが、明るくて、お話していて楽しいし、いつも元気をいただいています!」
「・・・。」
「石田さまは家康さまと仲がよろしいんですか?」
「いえ…ただ、秀吉様に仕える同胞というだけです。特別親しくはありません。」
「そうなんですか?家康さまが城に来られた時はいつも石田さまとお話をしているから、てっきり仲良しさんなのかと。」
「あ奴が迷惑にも勝手に話し掛けてくるのです。」
「ふふ、そっか。」
「なにか可笑しいでしょうか…。」
「ううん、なんだろう…ただ、羨ましいと思っただけ。」
それは家康に話し掛けられる事が羨ましいのだと思えば、
何故か三成の心はヒリ付く想いを覚える…。
自分の慕う存在が、自分ではない別の家臣を望んでいるという事が悔しい。
youと楽しそうに話す家康の姿を想像して、三成は分からぬようにぐっと唇を噛んだ。
そんな三成の様子をオカシイと感じたらしい、youが恐る恐る声を掛ける…。
「い、石田さま…?」
「さ、まは…。」
「え?」
「you様は…家康のことをお気に召しているのですか?」
「えぇっ?!」
「…私よりも…。」
「え?」
「わ…。」
「石田さま・・・??」
「私の、秀吉様に対する忠義心は絶対です…!それと同じくらい、貴女様への忠義も揺ぎ無く、在ります!絶対に、他の誰にも負けぬほど!それこそ家康などと比べようもない程に!!」
「い、い、石田さまっ?!!?」
拳を握り締め、明後日な方向(恐らく秀吉のいる天守閣)を見つめ、
徐々にヒートアップして主張をする三成に、youは思わず呆けてしまう。
言い終えた後、くるりと彼女の方を向き「ご理解いただけましたでしょうか!」と凄む三成。
あまりの威圧感に言葉無くコクコクと必死に頷けば、思いがけず三成が笑みを零した…。
「本当ですか…?!よかった…。」
「(ぁ……。)」
「では、どうか、私の事も「三成」とお呼びください!」
「え、し、しかし…。」
「家康と同じように、名で……お困りの事があれば何なりと御命令を!」
「あらら…えっと…これは…。」
「どうか、you様…!」
「えと…では、三成さまと?」
「呼び捨てていただいて結構でございます!」
「そ、そういうわけには…。」
「どうか。」
「だっ、だめです!わたしは…!」
「はい!」
キリリとした目を向ける三成と相反して、youは困ったような顔で言葉を紡ぐ…。
胸の前で両拳をぎゅっと握り、youは三成を見上げた。
「い、いし…えっと、三成さまを部下として接したいわけではないから…!」
「!」
「わたしはできることなら、三成さまともっと……た、沢山お話をしたいです!」
「話…ですか?」
「は、はい!部下ではなくて…一人の殿方として…お友達として!」
「と、友?!」
「はいっ!ずっと、いつもそう思っていたのです!」
「そっ、それはその…。」
「いけませんか…?」
「わ、私などと…。」
「三成さまがいいのです!だから、いつも家康さまが羨ましくて。」
「!」
youの言葉に三成は思わず目を見開いた。
それは今しがた自分が考えていたことがまるで間違っていたと気付く言葉で…。
つまり彼女は家康ではなく、自分と話をしたかったのだと。家康を羨んでいたのだと、知った。
「you様が、それをお望みになるのであれば。」
「だ、だからそういうのでなくて…。」
「どういうもの…でしょうか?」
「うーん……よく皆さんと話しているのを聞くと「ざんめつ」とか「いね」とか…。」
「お忘れください。今すぐに。」
「えぇっ?!」
「いいですか、それは誰かに尋ねてもいけません。」
「き、気になります。」
「いけません。」
「でも…。」
「返事は。」
「は、はひ…。」
家臣や敵方から、密かに三成が「凶王」と呼ばれているという噂は聞いていた。
それがどんなものかyouには分からなかったが、今のそれはきっと「凶王」に近いものだろう。
言い知れぬオーラと威圧感に気圧されて一瞬は彼を『怖い』と思ったものの、
つまりそれはyouの知らない三成の一部ということ。
知りたいと思っていた、知らなかった事が今日一日で沢山増えていく。
youはそれが嬉しくて思わず笑い出してしまった。
「ぷっ…くく…!」
「…you様…?」
「ふふっ、ああ、でも、こんな感じです!」
「?」
「こんな風に、三成さまと自然に一緒にお話したいって…いつも思っていたの。」
「あ、有難き幸せ……しかし、それは何故です?」
「わたし、この豊臣に来てから数年経つから、沢山の人たちと沢山お話をしたと思ってる。」
「そうですね。貴女様の周りはいつも陽の様に明るい。」
「そう?でもね、三成さまとは…随分長くいるのに、ず~っと話をしたことがなくって…ずっと気になっていたの。」
「それは…お気を遣わせてしまって申し訳ございません。」
「ううん、わたしが話しかける勇気がなかっただけ。三成さまは何も悪くないです。」
「・・・。」
「だから、今、とっても楽しい。」
「それは…よかったです。」
「三成さまとお話できて、凄く幸せ。」
「はい、私もです!」
「これからも、わたしと沢山お話してくださいますか…?」
「勿論で御座います。」
「いつか、その物凄く遜った敬語も止めてくださると嬉しいです。」
「それは・・・分かりませんが。」
「もうっ!」
三成の返事に頬を膨らませるyou。
その仕草が可愛らしいと思えたのか、三成は困ったように…でも珍しく微かな笑みを浮かべた。
三成の笑顔が見れたことに更にテンションが上がったらしい…。
youは嬉々とした顔を浮かべ、ぐっと三成に顔を近づける…。
その行動に驚いた三成だったが、慕うyouが近くにいることは嬉しいようで、逃げることはなかった。
それどころか、心臓がばくばくと鳴り、顔が熱くなる感覚さえ覚えてしまう。
「そうだ!では、猫の事は秘密にしておいてくださいね!」
「はい。」
「三成さまとわたしの、2人だけの秘密ですからね?」
「・・はい。」
「じゃぁ、指きりです!」
「・・はい。」
差し出された白くて細い小指に、自分の小指を絡める。
始めて触れた彼女の温度はあたたかく、まるで幸せが小指から伝わってくるようで…。
三成は言葉に出来ない何かで全身が満たされていく気がした。
「…三成さま?」
「い、いえ…何でもございません!」
其れと同時に、彼女の全身をこの腕で抱きすくめれば
どれだけの幸せに満たされるのだろうと考えたのは、三成のみぞ知るところである。
それはきっと
恋の温度になるのでしょう
words from:yu-a
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