Little Lark 〜君へ謳う〜 (アカギ)
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カナリアが
鳴くのをやめた理由
そして私が
泣くのをやめた理由
籠の鳥
「おぉおお、君が平山君か…いやいや、すまなかったね。」
そう言葉を発しながら鷲巣巌という男は平山の方へと歩いてきた。
そして、その両肩に手を置き、ポンポンと叩く。
「君に勝負の誘いをして、その場で返事が貰えるとは思っていなくてなぁ…。」
「(よく言うぜ…ほとんど拉致だろ、あんな誘い方。)」
「仕事の話をしに都心まで行っていてね……付き合いで堅苦しい会食までさせられて、いや参ったよ。」
「そうだったんですか…。」
「他人に気を使いながらの長い時間というものは、年寄りには厳しいわ…ハハハ。」
一人高らかに笑った後、静まり返る部屋。
真夜中の広いホールにほんの少し反響したその音が何とも不気味だった。
そして、鷲巣が愛用のステッキを持って平山の前を歩き出した。
「しかし…しかし、勝負の時間というのは別だと思っとるんじゃ。」
「別?」
「人が何かを賭けて戦うあの瞬間、あの時間は別物!あの…あの崇高なまでの時間は逆に……ワシを蘇らせる。」
「・・・。」
「そんな時間を今から味わえると思うとこれは本当に……感謝せねばいかん、平山君に…。」
時刻はもう既に次の日になってしまっているが、
彼はあくまで今から麻雀の勝負をする気のようだ…。
彼の部下から聞いた情報では、鷲巣は齢75をまわる高齢者。
にも関わらずこんな山奥から都心にまで行ったり来たりし、取引相手と酒を酌み交わし
更には真夜中から寝ずのギャンブルを繰り広げようとしている…。
少なからず平山はそのバイタリティー溢れる現役っぷりに驚き、暫し呆けるのであった…。
そんな平山を余所に、当の鷲巣本人はうきうきとした顔で勝負の場へと彼を誘う。
「さぁ、平山君…勝負の席は別に用意してある…純粋に勝負をする為に作った別室がね…ほら、こっちじゃよ。」
「別室…?」
「説明が遅れてすまなんだ、「鷲巣麻雀」の説明をすることを部下には許しておらんのでな。」
「「鷲巣麻雀」…?」
「まずは実際の雀卓と使用牌を見てもらったほうがいいじゃろう……ここが、その部屋じゃ…。」
ギギギ…
と、重低音の扉の開く音が響き、部屋の扉が開かれた…。
足を一歩踏み入れると、壁一面に描かれた何とも悪趣味な地獄絵図…。
そこに描かれた様々な地獄の支配者達に監視されるようにして、その部屋の中央にテーブルが置かれている…。
近寄ればそれは何でもない、普通の雀卓だ。
「ここがその卓……?」
「いかにも……そしてこれが、今宵ワシらが勝負する「鷲巣麻雀」…!!」
後ろをついてきていたSPの一人が、いつの間にか何かを手に持っている。
そのスーツケースのような鞄を開いて出てきたのは綺麗に敷き詰められた麻雀牌だった。
余程高価な牌で作られているため「鷲巣麻雀」等と呼んでいるのかと思っていた平山だったが、
鷲巣に促されるままに牌を確認して、そのアブノーマルな牌の姿に目を見開いた。
「な…?!」
「綺麗じゃろぉお?透明なガラスで出来た牌なんじゃ。」
「こんなもん使ったら相手の牌が見えちまうじゃねぇか!」
「いかにも。」
「はぁっ?!!」
「よく見てくれ平山君……同種牌四牌中三牌がガラス牌。この三透牌での麻雀が「鷲巣麻雀」なんじゃよ。」
「敢えて全員に牌が何なのかわかるようになっている…っていうのか?」
「そこが「鷲巣麻雀」の面白いところなんじゃよ……相手の考えている策を読み、切っていくその心理戦が…。」
「マジかよ………。」
「卓を見て分かるように……洗牌は半自動卓で行われ、山は積まず配牌やドラ、ツモは卓の中央の穴から取り出すようにしておる。それから、盲牌を防ぐため皮の手袋を着用することもルールに加えとる。」
自慢気にルールを話し始め、細かな決め事を平山に説明していく…。
前代未聞の麻雀に、動揺を隠せない平山…。
唖然とした顔で話を聞いている最中に鷲巣のSPに背中を押され、卓に着かされる。
そして黒い手袋が渡された時、正面に座った鷲巣がニタリと笑った…。
「そうそう、これが一番重要だったな……レートに関して。」
「…。」
「ワシが賭けるものは勿論金、ワシの財産……その額は…」
「そっ、その前に……ちょっと尋ねたいことがある…ッ!!」
「ー…なんじゃ?」
話を遮られて少し不機嫌そうな顔で平山を見た鷲巣。
「youはアンタの…何なんだ?」
平山は曇りなく…じっと鷲巣の目を見つめ、問いかけた…。
*。゜.*。゜.*。゜.*
真剣な眼差しで鷲巣を見据える平山に、素っ頓狂な声色で彼は答えた…。
「you…?」
「そうだ。」
「一体誰のことを言っとるんじゃ、君は…。」
「東の棟、二階、奥の部屋にいる女のことだ。」
「………。」
「アイツはアンタの何なんだ?!孫か?!娘か?!アイツは何で喋らない?何であんなに……あんなに悲しそうに歌うんだ!!」
平山は息切れするほどに叫び、気付けば雀卓に両手を付いて立ち上がって鷲巣を睨んでいた。
それから、しん…と、不気味なまでに静まった部屋…。
誰一人動かずに時計の秒針だけが進む中、
ククク…と微かな笑い声が部屋中に広がっていく…。
「クククク……ヒヒヒ…。」
ひとしきり一人で笑った後、鷲巣はスゥっと息を飲み込み…そして叫んだ。
「吉岡ぁああッツ!!」
「は、はいっ!」
「あの棟には誰も入れるなと言ったハズだろう!この馬鹿者めが!!」
「も、申し訳ございません!!」
「只でさえゴタゴタしておるというのに、あの娘の存在が世間に知れれば…それこそ最早言い逃れは出来んのだぞ!!」
「申し訳ありません!!」
鷲巣は席を離れ、SPの一人に「馬鹿者!馬鹿者!」と…何度も罵倒しながら
手持ちのステッキでその男を殴る…。
鷲巣の思いがけない行動に、唖然として傍観していた平山だったが
慌てて彼らを止めに走った。
「おい!おい止めろ!ソイツ血が出て…!」
「五月蝿いわ!凡人め!!貴様も立ち入ってはいかんと知っておったろうが!!」
まるで鬼か修羅のような形相と剣幕で凄まれ、一瞬その身をビクリと跳ねさせた平山。
吉岡というSPを気の済むまで叩き、殴り終え、鷲巣はゼィゼィと肩で息をする…。
何を成すこともできずにただ呆然と立ち尽くしていると、
呼吸をある程度落ち着けた鷲巣が元の席へと着席し、平山の名を呼んだ。
「平山君……戻りたまえ。」
「あ…ああ。」
額にじんわりと嫌な汗が浮かぶのを感じ、
平山は拳を強く握り締めることで強い自我を保とうと試みた。
「すまな…いや、申し訳ない。」
「何がだね?」
「…禁止線は無くても入ってはいけないと言われていたのに、立ち入ってしまって。マナーがなってなかった、本当に。許してほしい。」
「……もうよい!秘密というのは知られてしまっては隠しても意味の無い事。」
「・・・。」
「それよりあの女、さっき「歌った」とか言っておったな、平山君。」
「あ、あぁ…。」
「では「喋った」か?」
「・・・・。」
「『沈黙は肯定』…そうか、喋ったか…あの娘め…!!ワシを謀りおって…ッ!!」
燃えるような…怒りを孕む目で床を、否…頭に思い浮かべた少女のことを睨み付けているのだろう。
恐ろしいまでの声色と態度に驚いたのは、少なからず平山だけではなかったよう。
周りのSPも皆一様に口を閉じ、不安気な表情を浮かべていた…。
「youは……youは一体アンタの何なんだ?!」
「貴様こそ、あの娘の何だ。」
「オレは…たまたま出会って、仲良くなっただけだ…だた、それだけ…。」
「フン、白々しい…まぁ、アレは確かに貴様のような凡夫が惚れるくらいの女ではあるだろうな。」
「べ、別にそういうワケじゃ…。」
「肌も白く柔らかで…髪は艶めいて、若く…。」
平山は確かに、鷲巣の喉がゴクリと鳴るのを聞いた。
はっきり言ってしまえば、この鷲巣という男を気持ち悪いと…。
そう感じた瞬間、ハッと何かが繋がった気がした。
何故、youがあの部屋に密に監禁されているのか。
そして、鷲巣が戻ってきた時にあんなに取り乱したのか…。
「アンタ……まさか…。」
「あー…?」
「まさかyouを…。」
「「あれ」はワシの娘であり、金糸雀であり、小夜啼鳥であり、駒鳥……決して雲雀にはなれない哀れな娘。」
「何…。」
「夜には美しく囀るが、陽の目を浴びて歌うことは叶わん、ワシだけの…。」
「もういいッツ!!」
平山は血管が浮き出るくらい強く拳を握り、射殺すような視線で鷲巣を睨み付けた。
いくら鈍い思考回路を持つ人間でも、今の会話からyouと鷲巣の関係を感付かない者はいないだろう。
平山もすぐに察した。
youは鷲巣の愛玩人形なのだと。
恐らく彼女は鷲巣からの興味を逸らす為に喋らず、歌わず、無感情を装っていたのだ。
『私がココにいる理由はヒミツ。ユキは知らないでほしい。』
『ユキのことが好きだから』
『……もっと…いっしょにいたいね。近付きたかった。』
鮮明に思い出せるのはyouの苦しそうな笑顔…。
平山は一度目を閉じ…呼吸を落ち着かせる。
そして、彼はたった一つの決心を鷲巣に告げた。
*。゜.*。゜.*。゜.*
「…鷲巣さん、アンタの望む通りにこのクレイジーな『鷲巣麻雀』を受けてやる…。」
「「受けてやる」とうのは語弊があるじゃろぅ…ワシが貴様に「受けさせる」んじゃ。」
「ああ、もうそれでいい、ただ、オレがしたいのはレートの話しだ。」
「フン…予想はついておるがな。」
「じゃぁ…!」
「貴様が勝てばyouを渡せと…そう言いたいんじゃろう。」
「ああ、その通りだ。」
「金は。」
「要らねぇ。」
「ほぉお…これは感心…凡夫といえども君を少し見直したぞ。」
「・・・。」
「しかしだなぁ、平山くん……人間一人を賭けるというのであれば、その価値もそう、いやつまり、人間でなくてはいかん。」
「……。」
「君もそう思わんかね?」
ねっとりした声色で囁く様に告げ、鷲巣は上目遣いで平山を見上げる。
この短時間に鷲巣巌という男がどんな思考で動いているのかを、勘のいい平山はもう悟っていた。
しかしながら、自分の命が惜しくてこの勝負を放棄する気にはもうなれない。
今日、自分がyouを見つけたことで、今後は鷲巣邸を訪れる来客に対して一層の警戒が敷かれるであろう。
今日、自分がyouを自由にしてやれなければ、鳥籠から出せる人物は金輪際現れないのだから。
「ああ、分かってる。何も持たないオレが賭けられるのは、オレの命だけだからな。」
目を輝かせながら高笑いをした後、鷲巣は全員を席に着かせた。
*。゜.*。゜.*。゜.*
あなたは
あなたのすべてを捨てて
籠の鳥に
ケージの鍵を与えてあげました
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*