Little Lark 〜君へ謳う〜 (アカギ)
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さようなら私の初雪
こんな汚れた私でも
キレイな恋ができていたかな
夏の雪
「こんな山奥で麻雀するのか?」
「はい、鷲巣様もまぁ、その……ご高齢になられますので。」
「……そんなんで麻雀なんてできんのか?」
「それは勿論……貴方が思っているよりも遥かにお元気で…そしてお強いです。」
山道を行く一台の高級車…。
雨降りしきるその中で、麻雀代打ちを生業として生きる一人の男…
平山幸雄は呟くように尋ねた。
「……何を賭けるんだ。」
「はい?」
「態々オレを逃さないようにして持ちかけてきた勝負だ……ハイリスクなんじゃないのか?」
「……それは貴方の腕次第かと。」
「ッハ!言ってくれるじゃねぇか……ま、いいけどな…今更辞めるなんて言っても帰しちゃくれねぇんだろう?」
「そんなことはいたしません……どうされますか?」
悪びれず、遜りもせず……何の感情も無いような声で
シート前列の助手席に座る白いスーツの男は言う…。
平山はふぅ、と一つ溜息を吐いて黙った。
車は尚も早いスピードで前進し、雨も一層強く車のフロントガラスを打つ…。
暫しの沈黙ののち、観念した様子で平山が口を開いた。
「……ここまで来たんだ、キチガイ的な高レート麻雀を持ちかけるご老人の顔だけでも拝んで帰らねぇとな。」
「……鷲巣邸へ行かれる、ということでよろしいでしょうか。」
「あぁ、打つ。」
「・・・・。」
それ以降、鷲巣低へ到着するまでの間の会話は無かった…。
誰も、何も語らぬまま車は一軒の豪邸へと入っていった…。
雨脚は少しだけ良くなったのか、大分細かな雨になっている…。
ナイスタイミングだなと思いながら、平山は案内されるまま鷲巣邸の門まで向かう…。
ふと、雨音に混ざって誰かの声が聞こえた気がして、彼は後ろを振り向いた…。
しかしそこには不思議そうな顔をして「どうされました?」と質問する白服の男だけ…。
「いや、なんでもない…。」
そう一言答えて、再び前を向いて歩き出す…。
だが、やはり何か歌のようなもの聞こえているような気がして平山は眼前に聳え立つ屋敷を見上げてみた…。
すると…正面に向かって右の棟の二階奥、その窓から女と思わしき人の姿を捉えた。
ハッとして目を凝らした瞬間に背後から声を掛けられて已む無く視線を外す平山…。
もう一度見上げた時には彼女の姿は何処にもなかった…。
「(……聞いたことあるな、あの歌…)」
「平山様?」
「オイ、鷲巣サンはこの屋敷で一人暮らしなのか?」
「はい、お一人でいらっしゃいます。と言っても我々SPやハウスキーパーのような者がおりますので、完全に一人というわけではありませんね。」
「そうか。」
「それがどうかされましたか?」
「いや、一人暮らしには大きな屋敷だったから……。」
「そうですか…。」
先ほどの女はメイドなのかと思うと、何か心が晴れたような気がして
ふぅ、と軽く呼吸をして平山は歩みを再開させた…。
*。゜.*。゜.*。゜.*
ギィ…と音を立てて開いた鷲巣邸の扉…。
まだ夕方だというのに真夜中のように陰鬱な暗さに
平山は少しばかり恐怖心さえ抱いた…。
すぐに家の主が迎えに出るかと思っていたが
まるでその気配はない…。
疑問に思って白服の男に尋ねようとした時に廊下の方から声が響き、
平山はそちらに意識を向けた…。
と、そこに現れたのはまたサングラスに白いスーツ姿の男…。
「(クローンかよ、ここのSPは!)」
心の中でそうツッコミを入れる平山だった…。
そんなことを一人で考えていると、現れた男が平山に一礼して
後ろにいる……これまた白服の男と会話を始める…。
平山には内容を聞こえないようにして会話を進め、
話が付いてからお互いの距離を離した白服の男達。
一人、平山の前に出て説明をし始めた…。
「申し訳ございません……平山様がお誘いした今日の今日で来られるとは思ってなかった為、鷲巣様は屋敷の者数名と外出されてしまっているようです。」
「オイオイ、人を呼び出しておいてソレかよ…。」
「申し訳ありません…。」
言葉は謝罪を述べているが、本心からのモノでは無い。
そんな声色で白服の男が平山に一礼を入れる…。
チッと舌打ちをすると、似たような背格好(しかもまた同じ服)の男がもう一人やってきた。
「鷲巣様と連絡がつきました。現在、取引先の方のところに出ておられるようです。」
「そうか……では戻って来られるのは夜半だな…。」
「えぇ、おそらく会食をされてお帰りになるでしょうから、やはり勝負は深夜に……ということになりそうです。」
「……ということなのですが。よろしいでしょうか、平山様?」
良いも悪いも、こんな山奥に連れてこられて自力で帰れるわけがない。
分かっていて了承を呼びかけるという
あからさまな白服達の態度に平山は呆れたような表情で溜息を吐いた…。
「で、その間オレはどうやって暇を潰せばいいんだ?」
「お分かりになると思いますが、ほとんど別荘のような立地なので……この近辺には何も娯楽がありません…。」
「じっと待ってろってか?」
「申し訳ございません……では、お屋敷を御覧になられては如何でしょう?」
「ここを?」
「はい、鷲巣邸には鷲巣様が集められた多くのコレクションがありますので……。」
「確かに、美術館並みに広いしな。」
「ゲストルームで寛がれても結構ですし、屋敷を見学というのもありかと。」
「……まぁ、まずは小一時間ほど休ませてくれ。車に乗りっぱなしだったからな。」
「かしこまりました。」
平山の決断に頷いて、白服の男は前を歩き出した。
*。゜.*。゜.*。゜.*
部屋へ向かいながら、平山が男に問いかける…。
「退屈になったら勝手にあちこち出歩いてもいいのか?」
「構いません、立ち入り禁止の場所には鍵が掛かっていますので、それ以外でしたらどこへでも。」
「そうか…。」
「ただ……鍵が無いので口頭での注意になりますが……東の棟の二階は立ち入りを禁止されていますので、くれぐれも徘徊されないようにお願いします。」
「東…ね。」
そういえば先ほど歌っていた女がいたのも東の二階だったと…。
平山は記憶を巻き戻した。
雨音が強くてあまり良くは聞こえなかったが、歌っていた曲には覚えがあった。
よく耳にする賛美歌『いつくしみ深き』だ。
歌詞は無かった。
ただ、流れるように美しい声で音を紡いでいた気がする…。
それと重ねての「立ち入り禁止」令だ…
彼女はどうやら単なるメイドなどではなく、何かワケありの人間のようだ…。
「籠の中の鳥か……。」
「何か?」
「いや、何でもない。」
「では、こちらがゲストルームです。鷲巣様がお戻りになられるまで今しばらくお待ちを。」
「あぁ、勝手に見学させてもらう。」
白服の男に背を向け、部屋に入る平山。
一緒に入ってきた男は軽く部屋の説明をしてすぐに去っていった。
現在の時刻は午後四時半頃…
対戦相手であり、家の主である鷲巣が帰宅するのはおそらく深夜。
部屋に掛けられた時計を見て、かなりの時間があることを改めて認識した平山…。
「何でこんなコトに…」とブツブツ文句を言いながら
高級ホテルばりのキングサイズベッドに身を投げ打った。
「少し眠るか。」
そう呟いてサングラスを外し、目を閉じた先の闇に意識を預けた…。
『…ら らら らら ら、らら 。』
「ん…。」
耳に歌声が響いたかと思った瞬間に、平山の意識は現実の世界へと連れ戻された。
頭に手を添えて靄がかかった意識が晴れるのを待つ…。
起き上がり「う」と、小さく呻いて目を開いた…。
「今度は『主よ、人の望みの喜びを』か……ここのカナリアは敬虔なクリスチャンか?」
溜息とも乾いた笑いとも思える呼吸をフッと吐き、
平山はベッドから降りて立ち上がった。
無言でドアを開き、廊下に人がいないかを確認して歩き出す。
目的の場所は一つ…東の二階。
途中で鷲巣の部下たちに会うことはあったが、その都度平山は
「鷲巣邸の探検ごっこだが、何か問題があるか?」と誤魔化して難を逃れた。
そして…
「二階、か……警報鳴ったりしないだろうな?」
一歩…
足を階段に置いたが、特に何も起こらない…。
ちょっと安堵の息を吐き、見つからないうちにと足早に階段を登りきった。
そしてそれは広い廊下に出た時だった…
長い廊下の先に女が一人、立っている。
血のように真っ赤なカーペットの上に真っ白なワンピース…。
その鮮やか過ぎるほどのコントラストに一瞬、目を奪われた平山。
女は立ち止まったままでいる平山の存在に気付いたらしく、
ニコっと一度微笑んだ後…彼女は背を向けて歩き出した。
それから廊下のつきあたり、奥の扉の前に立って平山を振り返る…。
「…ぉぃ…。」
掠れるような声で呼び掛けると、彼女はチョイチョイと手招きをして奥の部屋に入っていった…。
明らかに自分を誘うその行為に、少しの恐怖と大いなる好奇心が沸き上がり…
気付けば平山は無意識のうちに扉を開いていた……。
*。゜.*。゜.*。゜.*
「……ここは…。」
床から壁から天井まで…ぐるりと部屋を見回して、平山から漏れた言葉…。
そこは不気味な鷲巣邸の外観からは想像もつかないような可愛らしい内装の部屋だった…。
息を飲んで不思議そうな顔で入口に立ち尽くす平山に、恐らく部屋の主である白いワンピースの女が紙を差し出す。
「なん…?」
紙に目をやると何やら文字が書かれており、平山はそれを口頭で読み上げる…。
「『こんにちは』。」
紙と彼女を交互に見遣ると、紙を奪われて更に文章を書き足された。
『私の名前はyou。あなたは?』
「……お前、難聴なのか?」
しかし、よくよく考えれば先ほどから彼女は歌を歌っていたはず。
自分で問いかけた質問に間違いを見出した平山だったが、訂正する間もなく答えが出された。
彼女は首を横に振って、また文章を追加する。
『人と話をしたくないの』
「……そうか…勿体無いな、綺麗な声なのに。」
『歌、聞いたの?』
「……あぁ、雨音が邪魔して聞こえにくかったけど。」
『聞いたのが貴方でよかった。あの人の前では歌わないし話さない、そう決めてるから。』
「……あの人…?」
『だから今日みたいに雨の日で、あの人がいない時しか歌わないの。』
「………。」
『ねぇ、それより名前!貴方の名前を教えて?』
「…あぁ、そうか…悪かったな。」
思い出したように平山は自己紹介を始めた。
言葉と…そして彼女の書いた文字が並ぶ紙を使って…。
「ひーらーやーま……ゆーきーお……っと。」
ペンを彼女に渡して反応を待つと、すぐにサラサラと下に文字を連ねた。
それは素早く書き終えるワリにはとても綺麗な字で、彼女がこの筆談に慣れていることを示している…。
『平山幸雄……「幸せになる為に生まれてきた男の子」、いい名前だね』
「……そ、そうか?///」
『うん、とても。「ユキ」って呼んでも?』
「何か女みたいで恥ずかしい。」
『「ユキ」がいいな、私の前に降った「真夏の雪」…うんうん、凄く詩的で好きかも!』
「人の話聞いてたのか、お前…。」
『「ユキ」がいいな。』
「……わーかったよ、でも条件付きだ。」
『条件?』
「youの言葉で呼んでくれ、youの言葉で聞きたい。」
そういい終わった後、youが結論を出す為にペンを走らせる…。
そう思っていた平山だったが、彼女の手は一向に動かない。
不思議に思った平山がyouの顔を見ると、その目はジッと自分を見ていた。
「なん…」
「ユキ。」
「!」
「人と…随分会話をしていなかったから……上手く言葉にできてるか心配だな。」
「いや、うん……大丈夫だろ…。」
「……どう、したの?」
「いや……綺麗な声してる、思った通り。」
「……ユキに言われるのは嬉しいな、とても。………ありがとう。」
そう告げて微笑んだyouの顔に暫し見とれてしまう平山。
そんな感じで平山は彼女の言葉をまるで音楽のように耳に通し、
youは夏の初雪の来訪に喜び、異様な程の興味を示す…。
こうして2人の会話は進んでいった…。
文字通り「時間を忘れて」…。
*。゜.*。゜.*。゜.*
出会わなければよかったの?
最初で最後の…
夏の雪
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*