step5_(恋人編:アカギ)
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「ただいま。」
「あ、アカギさん…おかえりなさい。」
それはいつもと同じような言葉の遣り取りから始まった
アカギさんといっしょ27
「今日はどこにも寄らなかったんですね。」
「ああ、うん……行こうと思ったんだけどさ、別のことしようと思って。」
「別の事…?」
夕飯は出来上がっているようで、リビングにやって来たアカギとすれ違うようにしてキッチンへ向かうyou。
カチャカチャと更に盛り付けを初める中、会話は続く…。
「you、夕飯食った後ちょっと外行かない?」
「外ですか?え、散歩とか…??それとも何処か目的が…。」
「全然、どこでも。本当散歩でいい。どう?」
「はぁ……それはまぁ、構いませんが…。」
外に出ることは問題ないが、何でまた…?と不思議そうな声色で言葉を止めたyouの元に、
冷蔵庫から飲み物を取るためにやってきたアカギが直接その理由を伝える…。
「今日さ、月が凄い綺麗だったから。」
「月…?」
「まだ暑い日が続いてるけど、日が暮れるのは早くなってるからさ、今ももう外は結構暗かったんだよね。」
「え、あ…本当だ。」
アカギの言葉を確かめるべく、部屋の窓を遠目から見てみると、その外の景色はもう既に見えない程暗くなっており、
すっかり日が暮れてしまっていたことに、youはようやく気付くのだった。
「確かにもうこんなに暗くなってるなら月も確認できるか……ええ、全然いいですよ。行きましょう、夜の散歩。」
「フフ…良かった。」
「あ、アカギさん、カーテン閉めてもらっていいですか?」
「ああ。」
勝手知ったる何とやら…。
youが夕飯の準備をしている間、先にリビングに戻ったアカギは各部屋のカーテンを閉めて戻り、
ローテーブルで一人、先に晩酌を始める…。
数分後、お待たせしましたの声と共にyouが夕飯の準備を終えて着席した。
「それにしてもお月見とは……タイムリーですね。」
「あ。」
ふふ…と小さく笑ったyouの言葉の意味は夕飯の献立を確認してすぐにアカギも気付くこととなった。
「夕方のニュースで「中秋の名月」って言ってたんで、今日のメニューはこれにしようかなって思ってたんですよね。」
「いいね。確かにタイムリーだ。」
「ふふ、いただきます。」
「いただきます。」
それは、ハンバーグの上に目玉焼きを乗せた、所謂月見ハンバーグというメニュー。
明確には言わずとも、微かな以心伝心というものが嬉しくなる2人であった。
そうしていつものように夕飯を終えて、食器を洗ったり、歯磨きをしたり、
少し食後の休憩として小一時間ほど寛いだ後、2人は日が落ちて少しだけ涼しくなった夜の散歩に出掛ける…。
福本荘の敷地から外の道に出てみれば、空には確かに大きな月が輝いており、
普段のものよりずっと美しいそれを共に見たいと、アカギが感じたのも頷けると感じたyou…。
「わぁ!本当に凄い月ですね…!」
「そうでしょ、オレもそう思ってさ。」
「街灯要らずなくらい輝いてますね…。」
「ああ、明るいな。」
月の話を皮切りに、ぽつぽつととりとめのない話をしながら、近所の中でも少し広い夜の公園へと向かう。
「夜の公園って結構人がいらっしゃるんですね。」
「ここ、結構広いしね。」
公園へ着くと、全く運動に関係のない服装で現れてしまったことに若干躊躇してしまうほど、
夜にも関わらずランニングやウォーキングをする人でなかなかの賑わいぶり…。
幸いというか、流石ともいうが、日々の運動で訪れているであろう人々は、
己との闘いとばかりに、耳にイヤホンをして、ただまっすぐ前を見据えて歩いたり走ったり…。
他人の服装など微塵も気にすることなくアカギとyouの横を通り過ぎていく…。
「凄いなぁ…わたしもウォーキング日課にしようかな…。」
「いいと思うけど、ちょっとこの公園までは距離あるから夜一人は推奨できねェな。」
「ですね…公園への行き帰りに難あり…か。」
「毎日じゃないけど、たまにはいいね、こういう夜の散歩。」
「ですね。まだちょっと暑いですけど、もうちょっとしたら凄く過ごしやすくていいかも。」
そうやって、早く過ごしやすい季節になるといいというような話だったり、
今日あった出来事、次の休みになにをするか、そしてたまに黙して空を見上げたりを繰り返しながら公園内の散歩を終えた2人…。
家への路を歩きながらも、またふいに見上げた月が綺麗で、
youはぽつりと素直にそれを口に出す…。
「本当……月が綺麗ですね。」
「ん?」
「はっ!や、今のは、ち、違います、いや違わない?んですけど、これはその…!文学的なあれじゃなくて素直な感想として出ただけでその…!!」
「…何の話?」
「な……。」
「な?」
「ナンデモナイデス。」
「?」
英語教師をしていた夏目漱石が「I love you」を「我君を愛す」と翻訳した教え子に対し
「月が綺麗ですねとでも訳しておきなさい」と言ったという、明治時代からずっと語り継がれる逸話…。
口承でも文献でも確認されていないそれは時に都市伝説とも言われているが、
確かにこの時代にも人の心を動かし続ける創造的な翻訳…。
一定数はその概要を知る者もいるだろうが、こと赤木しげるに於いては存じ上げなかった様子…。
youはホッとするやら、一人で慌てて恥ずかしいやらで、顔に熱が集まるのを感じた。
「よく分かんないけどさ、you。」
「はい?」
「また月が綺麗だったら、一緒に見てよ。」
「も…勿論です!」
「約束。」
「…はい。」
立ち止まったアカギにつられてyouもその場で立ち止まれば、
スッと差し出された右手と、立てられた小指…。
youはふっと笑みを浮かべると、己の小指を絡ませた…。
少し名残惜しそうに指を離すと、今度はアカギが月を眺めながら同じ台詞を零す…。
「ああ……やっぱり、今日の月は綺麗だね。」
明るい月に照らされたその男の白い髪は、普段よりずっと美しく、まるで透明な銀糸のように輝いており、
長い睫毛やスラリと高い鼻、見上げる顎の角度など、顔(かんばせ)の整い具合も併せて、youの心臓を鷲掴みにくる…。
本当に色んな意味合いを含んではいるが、この人外染みた唯一無二の男は
既に自分の中で失うことは「死」を意味する圧倒的な存在になっている…。
それが嬉しくも、恐ろしくもあり、気付けばyouは無意識にアカギの腕を掴んで涙を流していた。
「…あ…あの…っ。」
「…you…?」
「例えばもしこの先……一緒に月を見ることが叶わない未来しか無かったら。わたし…多分今死んでもいいかも。なんて…。」
彼女としては、それくらいの気持ちを向けていると伝えたかっただけなのだろうが、
一瞬だけ浮かべた怪訝そうな表情を見る限り、彼には歪曲して伝わってしまった様子…。
「you。」
「は……いっ…?!」
何でもない道端、一定距離に設置された街灯はまだ先に…。
月明りのみの光の元、アカギはyouの身体をグッと引き寄せ、有無を言わさず口付けた。
それは深くはないが、自分の存在を感じているかと伝えるような、いつもより少し長めのキス。
ゆっくりと余韻を残すように唇を離され、youは潤んだ瞳でアカギを見上げる…。
「ぁ…アカギさ…。」
「そんな未来、来ないよ。やっと手に入れたんだ……死んでも離すワケないじゃない……。」
「っ…!」
「明日も、明後日も、いるよ。」
「・・・。」
「同じ月を見れるくらいには近くにいる。」
そう言って、アカギはyouの頬に伝う涙を指で拭う…。
「アカギさん……あの、すみませんでした…馬鹿な事を言って…。」
「本当だよ……あー傷付いた。あー、ショック過ぎる…。」
「え?!すっごい棒読み!!」
そこで空気は一転…。
アカギは彼女が自分でバカな考えをしていたことを認め、
その気持ちを改めたと判断したようで、あからさまに不機嫌そうな顔をして、ワザとらしく大きな溜息を吐く。
「こんなに深く想ってるのに、不安に思うことがあったんだな、youは…。」
「深いって…執念深いっていうか…。」
「あ?」
「ナンデモナイデス…。」
「you、何か言うことは?」
「ご、ごめんなさい…。」
「許してほしいよな?」
「え…ええ、それはまぁ……。」
このまま不機嫌な状態で自分をわざとらしくチクチク責めてくるのは勿論避けたいです…
と素直に答えたyouだったが、すぐにその判断を後悔することとなる…。
未だ抱きしめられた身体を少し解放されたかと思えば、
先程頬に伝う涙を拭ってくれた手が顎に添えられ、クイっと強制的にアカギと視線を合致させられてしまう。
「じゃぁ、この後家に帰ってする事、分かるよな。」
「!!!!!」
このくらい月が明るいと、電気消しててもアンタの裸は見えちゃうね、と…。
月の女神から遣わされた天使のような見た目で、悪魔のような台詞を吐くアカギに、
怒ればいいのか、本気で謝って許してもらえばいいのか、はたまた全て受け入れてしまえばいいのか…。
胸中を混沌とさせるyouなのであった…。
だって「愛してる」って言われた気がした
(you…もう1回…。)
(だめ…だめです…本当に、もう無理です…動けません…!)
(ん…大丈夫…オレが動くから…。)
(そっ、そういうことじゃな……ひっ…ぅ!)
(月が明るくて……全部見えるから…終わってもまた勃っちまう。)
(かっ……!)
(か?)
(カーテン…っ、今すぐ閉めてくださいぃいいッツ!!!)
(ヤダ。)
words from:yu-a
2024/09/20
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