step3_(日常編:アカギ)
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「you、今から用事ある?」
「今からですか?特に無いですけど…。」
「そう、良かった。じゃあ、ちょっと付いてきて。」
「いいですけど…。」
その「ちょっと」がちょっとではなかったと知ったのは
手を引かれて連れて行かれた先で、新幹線に乗せられてからであった…。
アカギさんとわたし25
「あ、あ、あ……うそでしょ…?!」
「・・・。」
「アカギさん!これは一体どういうことなんですか?!何で新幹線に乗せられてるんですか?!ていうか何処行くんですか?!!」
「you、煩いよ。」
「どの口が!てか、誰の所為で怒鳴ってると思ってんですか!」
「車内はお静かに。」
「う…っ!」
急に正論を振りかざされて、言葉に詰まったyou…。
怒り散らしたい気持ちをぐっと飲み込み、指定された座席にドスン!と腰を下ろした。
事の発端は数時間前に遡る…。
その日、youが夕方頃いつものように家に帰宅して夕飯の準備に取り掛かろうとしたところで、
これまたいつものようにアカギが彼女の家に顔を出した。
「お、良かった、もう帰ってた」などと不思議な事を言うので、
何か自分に用事でもあるのかと尋ねれば、冒頭のように「今から用事が無ければ自分に付いてきてほしい」と言葉が返ってきた。
頻度こそ高くは無いが、普段もそういったことはあり…。
それは例えば買いたいものがあるので、近所のスーパーに出掛けるなど、些細な内容の事から、
博奕で臨時収入があり、泡銭をパァッと使いたいからという理由で夕飯を奢ってもらったりなど…。
割と幅広い内容で帰宅後急に外へ駆り出される事があったため、今回もその類だろうと思ってOKを出したのが間違いだった…。
それから「ちょっと遠いけど、一緒に付いてきてほしいとこがあってさ」とそれだけ言われて、
あれよあれよという間に電車に乗り、そのまま大きな駅で新幹線に乗り継ぎを促され…。
「あの列車だから!」と発車の時刻が迫っていると手を掴まれて走らされ、
戸惑う事ばかりの中、問い掛けることを禁じられた状態で新幹線に乗車させられてしまった…という経緯である。
なので、乗車後ほぼ拉致されたと言っても過言ではないこの状況下で、彼女が憤って叫ぶのも無理のない話なのだが…。
「目的の駅に着くまであと数時間あるけど、社内販売来たら何か食う?それとも着いてから食べる?」
「いやそもそもどこに何しに行くんですか…?!そこをちゃんと教えてください!」
「あー……うん…。」
「うんじゃなくて。」
「他県に…………代打ち?」
「……安岡さん風邪引いたんですか。南郷さんも用事があるって?」
「ビンゴ。え、凄いね、何で分かったの。」
「分からいでか。」
とどのつまりは、安岡に駆り出されるいつもの麻雀の「代打ち」の依頼の一環で、
普段であればそれをセッティングした安岡がアカギを連れ回すのだろう。
しかし、安岡が何らかの事情で同行できない場合は大概2人の知人である南郷が駆り出されるはず…。
その南郷が同行できなかったが故に、自分が拉致されたのだろう…と…。
youは予想し、それが正に的中した…といったところ…。
youは盛大に溜息を吐いて、アカギに問う…。
「何でわたしなんですか……麻雀なんて……他にいるでしょ、カイジくんとか…。」
「まさかだろ。あの人は代打ち向かないよ。」
「え、どうして?」
「人の金には甘いから、多分全部負けちまうよ、あの人。そうして莫大な負債を自分で負ってからしか多分覚醒しないと思う。」
「うーん…わかりみが深すぎる……あ、平山さんとか…。」
「安岡さんが凡夫じゃ渡り合えない相手だって判断したからオレが駆り出されてるんじゃない。」
「もう、平山さんに失礼ですよ。」
「どっちにしても打つのはオレだし……あと、コンビで打つのとかあんまり好きじゃない…。」
「それは知らん。」
「あらら、少しくらい興味持ってよ。」
「麻雀に?」
「オレにだよ。」
「何で?!」
今の会話の何処にどんな要素があったのかと…。
少し怪訝な表情で小首を傾げれば、アカギはyouの手を掬い取って自分の膝の上に乗せた。
「一人で打つ方が性に合ってる、とかさ。」
「はぁ…。」
「代打ちでどっか行く時は本当は安岡さんとじゃなくてyouと行きたいと思ってる、とかね。」
「な…なんで…。」
「好きだから。」
「うっ…。」
「一緒に色んなとこ行きたい。」
「あぅ…。」
「今回、安岡さんが風邪引いたのは本当。でも南郷さんに声掛けるより先にyouに会えたら、youと一緒に行こうって思ってたし。」
「わたしの意思は無視で?」
「youは付いてきてくれるでしょ。実際付いてきてくれたし。」
「それは行き先をアカギさんが言わないから!てっきり近くのスーパーとか居酒屋とかに行くとばかり…。」
「まぁ、確かに……いつになく無理矢理ではあったかな。悪かった。」
「悪いと思ってないくせに…もう!」
「だって、昨日夕飯の時に「明日頑張れば連休だ!ゴロゴロしよう」なんて目の前で言うから……オレの思考がそう動いても致し方ない…。」
「何という自己都合…!!!」
何も休みの予定が入っていないことは確認済なので、拉致……基、泊りがけの誘いを掛けても問題ないよね?とのたまうアカギ…。
自分に全く非は無いが、結果的には本当に自分の連休に何の予定も無かったことは確かなので、
諦めてこの拉致(旅行)を楽しむしかないか…と盛大な溜息を吐くyouなのであった…。
「それで、何処へ行くんですか?」
「関西の方面だよ。」
「あ、いいですね……もう折角なんで楽しもう。」
「そうしなよ。往復の切符も今日明日で泊まるとこも安岡さんが手配はしてるしさ。」
「今日明日?明日帰るんじゃなくて?」
「目的の勝負は明日の夜中だから。」
「なっ…なら別に今日帰宅早々拉致しなくても、明日行ってもよかったじゃないですか…!」
「新幹線の予約は今日だったからね。多分…安岡さんが観光したかったか、前乗りしないと体力持たなかったんじゃない?」
「うーん…それは……致し方ないかも…。」
自分も新幹線や飛行機の予約が決まっていればそれを一番に優先させるだろうし、
安岡の選択に関しても、失礼ながらどちらの可能性も考えられるな…とyouは思考を逡巡させてしまったのだが、
細かな意見は言わぬが花と、黙っている事にした。
それから暫く…。
列車が発車した際には夕暮れだった車窓の景色も色々と話しているうちに、夜の帳を下ろしてしまった…。
小一時間程の間に、社内販売で飲み物とちょっとした軽食を購入して、お互い何度か手洗いに行き、
粗方話すべきことを話し終えてしまってからの沈黙…。
少しの間、今後の予定などを携帯で確認して、画面を閉じると、
話すべきことや確認しなければならないことを終えた安心感からなのか、ドッと眠気に襲われたyou…。
後方を確認して座席のリクライニングを下げるなどもままならぬまま、目を閉じて眠りに落ちてしまった…。
「・・・?」
会話が無くなって暫く、急にトッ…と、肩に感じた重み。
アカギがゆっくりと横を向いて確認すれば、眠りに落ちたyouが自分の肩にもたれ掛かっている姿が視界に映る…。
「フフ…。」
横に並んでいるので寝顔を見ることは叶いそうに無いが、普段無いシチュエーションにらしくなく口角が上がってしまう…。
ひとまずはこの愛しい重みを堪能するように、アカギはyouの手を掬い取り、先程と同じように自分の膝の上に置くのだった…。
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「多分「ヤスオカ」で予約してると思うんですが。」
「確認致します、少々お待ちください。」
無事に新幹線で目的の駅に到着した2人…。
安岡に携帯宛に送ってもらった段取りの詳細に書かれているビジネスホテルへ向かい、チェックインを行う…。
本当は余裕があれば駅に着いて食事でもと思っていたが、
しっかり寝入っていたyouがまだ眠そうな様子だったのを察して、アカギは寄り道はせずにホテルへと遣って来た。
「ご予約の確認が取れました。今日、明日で「ヤスオカ」様のお名前で2名様、ダブルルーム2部屋のご予約ですね。」
「ああ、多分それなんだけど……部屋空いてれば広い部屋に変更できる?1室でいいん……もが…!」
勿論、当初は安岡とアカギの2人で来る予定だったため、部屋の予約も素泊まりの1人部屋を2室だったのだが、
状況の変化を良い事に、また我儘を発動しようとするアカギの口をyouが慌てて塞ぐ。
「その予約そのままで問題ないです!」
「は…はぁ、よろしいでしょうか。」
「よろしいです!!」
「かしこまりました……ではこちらがお部屋の鍵になっております。」
「はい、ありがとうございます!」
その後、ホテルの設備などの簡易的な説明をしてもらい、同じ階の隣同士並んだ部屋の前まで向かったアカギとyou。
「広い部屋に変えてほしかったのに…。」
「じゃ、今からおひとりでフロント行ってきたらどうです?」
「ケチ。」
「安岡さんの予約通りでいいじゃないですか、全然問題ないでしょ!」
「youと一緒に泊まんないと意味ない…。」
「おやすみなさいアカギさん、また明日。」
「(覚えてろよこのアマ……)」
彼女の完全なるスルーに、こうなったら何が何でも部屋に押し入ってやる…などと考えてしまうアカギであった…。
翌日…。
任された勝負の時間が深夜ということで、日中は完全なる自由時間…。
適度な時間に起床して、市街地へと繰り出し、その土地特有の名物料理を堪能したり、
なかなか行く機会も無いだろうと、2人で観光地を巡ってみたり…。
最初こそ無理矢理連れて来られて憤っていたyouも、この日は色々と吹っ切れていたようで、
全ての場所を楽しんでいるようだった。
そんなこんなで観光をし尽くした後、アカギの希望で少し早めに夕飯を摂り、
2人は夕刻過ぎ頃に一度ホテルへと戻ってきた。
「夕飯、美味かったな。」
「本当ですね、凄く美味しかった。」
「また来ようね。」
「それは……考えておきます…。」
「なんで。」
「また急に連れてかれると困るんで…。」
「じゃあ、前もって伝えたら一緒に来てくれるの?」
「うっ…そ、それは…!」
「ま、いいけど……(そのうち絶対「一緒に行きたい」って即答させる…)。」
いそもそも言い淀む時点で一考の余地ありということなので、本当は今日一日が彼女にとって
再度一緒に訪れても良いと思うくらいには楽しかったのだろう…とアカギは人知れず思うのだった。
そんな会話をしながら、ホテルの部屋の前に着いたところで、アカギがyouに相談を持ち掛けた。
「you、オレは勝負の時間まで寝るから、もし何処か遊びに行きたいなら行ってきていいよ。」
「あ、そっか……時間が深夜だから終わった後にホテル戻ってきても、数時間しか寝れないからですね?」
「そういうこと。」
「分かりました。でも、今日色んな場所に行って疲れたし、今からはもう出掛けないかな……行くとしても近くのコンビニくらい…。」
「そう……出掛けないんなら、オレ、アンタの部屋で寝てもいい?」
「なんで。」
「え、だって……折角一緒にいるならyouの傍にいたいし。」
「部屋狭いし、アカギさん寝てるなら起こさないように気を遣うじゃないですか…。」
「平気へーき。ていうか時間になったら起こしてほしいし。」
「えー……もう…仕方ないなぁ…。」
「ありがと。」
そういう理由であれば無碍にもできない…。
もしかすると安岡もこういった時はアカギを起こしてやっていたのかもしれないと思えば、
彼の代わりに此処に来ている自分としては、余計に彼のフォローをしてやるべきではないかと考えてしまうわけで…。
結局、溜息混じりに部屋の鍵を開けて、彼女はアカギを部屋に招き入れてしまうのであった…。
「見事に同じ間取りだな。」
「そりゃそうでしょうよ。」
「飯食って腹いっぱいだからすぐ寝れそう。」
「そうですね、寝てるアカギさん見たらわたしも眠くなりそうです。」
「じゃあ一緒に寝る?」
「結構です……ていうか起こさなきゃいけないし。」
「フフ…残念。でも、眠くなったら遠慮なくおいでよ。」
「それよりもお風呂とか入りたいけど…煩くしたら起きちゃいますよね…。」
「全然構わない。今結構眠いし…多分寝入ったら起きないと思うよ。」
「そうですか…?ならいいんですけど……あ、あと何時に起こせばいいかだけ教えてください。」
「えーと……そうだな、夜の11時くらいでいいよ。」
「わ…本当に遅い時間なんですね……分かりました。」
「ふぁ……ん、悪いけど、休むね…。」
「はい、おやすみなさい。」
「おやすみ…。」
そうして、部屋に入ってすぐにベッドへと向かうと、アカギはそのまま寝入ってしまった。
残されたyouはというと、特に何もすることが無いため、ひとまず戸締りをしてコンビニへ向かう…。
そこでアカギが出ていく際に必要かもしれないと、栄養ドリンクと携帯用の補助食バーだったり、
自分用のお茶などを購入してホテルへ戻った。
部屋に戻って確認したところ、アカギはぐっすりと眠っている様子だったため、
起こしたら申し訳ないとは思いつつも、そっと入浴まで済ませてしまった。
「(ほっ……良かった、起こしてないみたい…。)」
浴室から出た後、ベッドの上を確認したが、起こしてはいない様子だったため、
youは安堵の息を吐き、手狭な鏡台の椅子に腰掛けて少し遠目から眠るアカギを眺める…。
「(相変わらず綺麗な寝顔だこと…。)」
いつもの我が道を行く我の強い態度など嘘のようにスヤスヤと純粋そうなアカギの寝顔を見つめ、
呆れとも感嘆とも取れるような息をはぁっと吐くyou…。
寝顔を見ていても眠たくなるだけ…と、自分の携帯を弄り始めたものの、
今日一歩き通しだったこともあってか、結局暫くして鏡台机に突っ伏して寝入ってしまうのだった…。
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「you、起きて。」
「ん……んぅ…。」
「時間になった。」
「時間ん……ハッ!!」
ゆさゆさと肩を揺さぶられてがばっと顔を上げれば、立った状態で自分を見下ろしている赤木しげるが其処にはいた。
「しまった!わたし、目覚まし役なのに寝ちゃってた!!?」
「そうみたいだね。」
「ごごご、ごめんなさい!!」
「大丈夫。目覚まし掛けてくれてたからそれで起きれたし。」
「あ……。」
「ゴメン、アラームはさっき勝手に止めた。画面に「停止」って出てたから…。」
「何か…すみません……お役に立てなくて…。」
「問題ないよ。オレの方こそ悪かったな……youも疲れて眠かったのに、ベッド、陣取っちまって。」
「い、いいんです…わたしのはやる事がなくて不可抗力で寝ちゃったみたいなもんなので…ハイ…。」
「途中で起きたら抱き上げてベッドに連れていけたんだけどね……残念。」
「そ、それはさておき……。」
コホン…と、小さく咳払いをして、改めてyouは目覚まし役を果たせなかったことを詫びて、アカギを送り出すことにする。
「本当にすみませんでした……あの、時間大丈夫ですか?」
「ん、ああ、平気。ちょっと早めに時間言ってたから。」
「そ、そうなんだ…良かった。」
「目覚まし掛けてくれてありがとね、助かった。」
「何は無くとも間に合いそうなら良かったです。もう出られますか?」
「ん、そうだね……そうしようかな。」
そう言うと、アカギは煙草や財布などをポケットに詰め込んだだけ、手ぶらで身軽ないつもの姿で部屋の外へと向かうので、
そういえば…と、youは先程コンビニで購入したものをビニールに入れてアカギに差し出す…。
「あ、アカギさんこれ……良かったら持って行ってください。」
「何これ…。」
「さっきアカギさんが寝てる間にコンビニに行ってきたんです。深夜帯だしお腹空くかもしれないと思って。」
「栄養ドリンクに携帯食……え、いいの?」
「勿論です、アカギさんのために買ったものですし…。」
「そう……そういうことなら遠慮なく……ありがとね、you。」
「いいえ。」
自分の為にそこまで気を遣ってくれたのかと、アカギは珍しく目に見えて嬉しそうな表情を浮かべ、最後に手洗いを済ませて部屋を出る…。
youも見送る為にアカギより先に、人気の無いホテルの廊下へと出た。
そうしてアカギが廊下に出ると、お互い正面で向かい合い、「じゃ、行ってくるね」と彼女に告げたのだが、何故かそこで不意に心細くなったyou…。
気付けば次に続く言葉の用意も無いのに「あの…」とアカギを引き留めていた。
「?」
「わたし……付いていった方がいいですか?」
「何、どうしたの急に……あー…もしかして安岡さんの代わりに、とか思ってる?」
「そうじゃ…ないですけど…。」
先程の寝起きでぼんやりした様子とは打って変わって、深刻に眉根を寄せて不安気な表情を浮かべるyouに、
アカギも何かを察して彼女をじっと観察し始める…。
「付いてこなくていい。」
「でも、何かあったら心配…。」
「代打ち」で麻雀を打ちに行く…というところまでは理解しているが、
その相手が恐らくは堅気の者ではない…ということをここに来て急に意識した様子…。
彼女のそんな思考を察してアカギが思う事があるとすれば、
有体に言ってしまえば「余計な心配」というものなのだが、
他の誰でもない、youに本気の心配を向けられることは彼にとって大変心地が良い物となる…。
故に、彼はフッと口角を上げて、彼女の頭にポン…と大きな手を乗せて言った。
「全然心配しなくていい、ちゃんと帰って来るよ。」
「でも…。」
「寧ろ一緒にいられると困る、かな。」
「え、な、なぜ…?!」
「相手が相手だし、それに…。」
連れて行った先で何が起こるかは相手次第…。
極力彼女の身に危険が及ぶことは避けたいという本音を伝えたアカギ…。
ただ、主だった理由はそれだけではないようで…。
これは言うべきかと悩むような仕草を見せた後、暫しの沈黙を経て、彼はありのままの心境を吐露し始めた。
「……勝負の後ってさ、熱が冷めやらなかったりするんだよね…相手が強ければまだ足りないって思ったり、
弱ければ、それはそれでフラストレーションが溜まってもう一勝負したいって思ったり…。」
「そう、なんですか…?」
「うん。そういう時、youが傍にいると……困る。」
「え?なぜ?」
勝負後に自分がいることで、労いの言葉の一つや二つでも伝えられれば、
その気持ちを緩和できるかもしれないので、同行した方が良いのではないか?と小首を傾げるyou。
恐らくそんな事を考えているのだろうなと察したアカギはフルフルと首を横に振る。
「だってさ、熱を鎮めたくて、無理矢理襲っちまうかもしれないだろ。」
「!!!」
甘々な彼女の予想の斜め上をいくアカギの返答に、youは顔を一瞬で赤くして肩を跳ねさせる…。
「だから、さ……いい子で待ってて。オレが夜中帰ってきてベル鳴らしても出ちゃダメだよ。」
「…っ!?」
「食われちまうかもしれないよ?」
そう言うと、アカギはyouの頭上に乗せていた手を動かし、スリ…と彼女の頬を手の甲で一度撫ぜて、下に落とした。
共に行かない理由を告げたアカギは、今度こそ…と、足を一歩だけ後ろへ下げ、
そのまま振り向いて歩き出すところだったのだが、youの言葉が再びそれを遮る。
「あ、あのっ!」
「ん?」
「その……も、もし……勝負の後、熱が冷めなくてフラストレーションが溜まったら…その…行かれるんですか?そ、そういう…夜のお店……とか…。」
「あ…?」
「や、な、なんでもないです!忘れてください、行ってらっしゃい気を付けて!お休みなさいまた明日!」
「ちょっと、you。」
踵を返して部屋に駆け込もうとするyouの細い手首を、アカギの大きな手がガシッと掴む…。
逃げ遂せることが叶わなかった身体は、腕を引かれてくるりと反転…。
そのままドアに背を押し付けられ、アカギが迫りくる壁となってその間に閉じ込められてしまう…。
「う……は、離して…くださ…。」
至近距離で見つめ合うことを羞恥して顔を逸らすyouに、
少し憤った声色でアカギが彼女を責めた…。
「行くわけないでしょ、そんなとこ……此処には…youと一緒に来てるのに…。」
「でも……辛いんじゃないですか…?」
「辛いけど、そんなモンどうとでもなる……アンタを泣かせる方が寝ざめ悪いって。」
「なっ、泣きません!」
「泣く。」
「泣きません!」
「絶対泣く。」
「泣かないって…いっ……ん…っ!?」
こんな意味の無い不毛な問答は強制終了だとばかりに、アカギは腕の中に収まる彼女に無理矢理口付ける…。
逃げようと藻掻いても、がっちりと両肩を掴まれて動けない状態…。
息継ぎもそこそこに何度も角度を変えて口付けられ、とうとう舌まで侵入してくる事態となった…。
「はぁ……。」
「っは…。」
「ぁ…ぁかぎさ…。」
「……こんなに伝えてるのにさ……オレがその感情と性欲は別だって割り切って、今夜、他の女を抱いても泣かないって本気で言いきれるの?」
「っ…!?」
本当に馬鹿な質問をしたと後悔した時は既に遅し…。
こうやって見事に返り討ちを喰らったyou…。
これまでの赤木しげるという人物の思考回路を本質までは分からずとも、
隣人のカイジや零など、人との関りや関係性に対しては、ある程度どういった距離感やスタンスで動いているかは
何となく察することができるわけで…。
それが、少なくとも好意的な意味合いで、しかもこうして旅行にまで連れてくる間柄の自分に対して、
あまりにも失礼な問いかけだったと、youは改めて反省するに至った。
まぁ、その結果として、自己嫌悪やアカギへ向ける様々な感情が混沌と入り混じった末に泣いてしまったのだが…。
「ほら、泣いてるじゃない。」
「っ…でも、だって……これは…色々違うやつで…。」
「違わないでしょ……ね、you……。」
両肩を掴んでいた力を緩め、アカギは彼女の額に優しいキスを落とす。
「っ…ふ…。」
「オレはちゃんと帰って来るつもりだけど……オレの素行が心配なら何か言う事ないの?」
それはある意味でアカギからの救済というか…彼女の失言に対しての赦しでもあった。
少しだけ腫れてしまった瞼でもって、youはアカギを見上げる…。
「よ……っ、寄り道せずに……?」
「フフ……「寄り道」ねェ………せずに帰ってきてほしい?」
結局のところ「他の女性を抱くのか?」という問いが彼女の口から出る時点で、
「そういうことはしないでほしい」と懇願しているも同等なので、
それを理解しているアカギにしてみれば、想い人からのただの可愛い我儘に過ぎないのである…。
そんな彼の予想通り、彼女はコクリと首を小さく縦に振って頷いた。
「いいよ、分かった。」
「アカギさん…ごめんなさい…。」
「ハイハイ。あ、ちゃんと戸締りしなよ。ビジネスホテルだし、オートロックじゃないからさ。」
「…はい、ありがとうございます。」
「じゃあ、行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
クシャっと最後に彼女の髪を撫でて、エレベーターへ向かって行くアカギ。
youは手を振ってその背中を見送ったのち、
言われた通りに部屋に戻る際にしっかりと戸締りをして、最終的に心穏やかに一日を終えるのだった…。
否…。
確かに一日を終えた時点では心穏やかだったyouだったが、
何故か朝目覚めた際に狭い1人用のベッドでアカギに抱きしめられており、
起きて早々困惑と混乱と羞恥と怒りで打ち震えることになるのであった…。
人に部屋に入れるなって言っておいて!
(ちょ……何でアカギさんが一緒に寝てるんですかッ!)
(んー……ねむい…。)
(ちょっと、アカギさん!)
(んぁ……おはよ…you……昨日はよく寝てたね。オレが帰ってきても起きなかった…。)
(なな、なんでここで寝てるんですか?!戸締りしたよわたし!寝る直前にも確認したもん!)
(だって……youの部屋の鍵、持ってってたから。)
(・・・。)
(ほら、オレが寝てる間にコンビニ行ったって言ってたでしょ。その時行ったって事はもう外には出ないだろうなって思って。)
(なっ、か、鍵は?!)
(鏡台の上に置いてあったの持って来た。youに見られないようにこっそりね。)
(そ、そういえば……見送る時わたしの方が先に部屋を出た…!あの時?!!抜け目無さすぎです!!)
(フフ…。)
(人には「オレを部屋に入れちゃダメ」とか言ったくせに!)
(自制心保てなそうなら止めようと思ったんだけど……我慢できそうだったからさ。)
(もう恐怖でしかない!!!)
words from:yu-a
2024/09/13
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