step3_(日常編:アカギ)
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「おや、君は…この間の!」
「あ、確か…!」
夕刻、少し遅めの買い物にて遭遇したのは意外な人物でした。
アカギさんとわたし21
「雀荘のオーナーさん…ですよね?」
「その節はどうも…確かyouさん…だったよね?」
「あっ、そうです!」
「こちらは、あの寄付のお陰で壊れたところを全て修繕できたよ。」
「そうですか、それは良かったですね!」
「本当に…君達には感謝しているよ。」
「いえ…わたしは全然!お金持ってたのも、寄付したのもアカギさんなので…。」
youが偶然近所のスーパーマーケットで出会ったのは、アカギがたまに訪れる雀荘の店主だった。
先日、どうにも手の付けられない金持ちの無法者が彼の雀荘で暴れた際、
アカギがその男と勝負をして勝ち、彼の有り金の約130万円程を毟り取ったのだが、
その金をyouとのデートでパーッと使いたいというアカギを彼女が諭した結果、
それなら被害を被った雀荘の修繕に充てたらいい、と……雀荘に全額寄付したのである。
(※「アカギさんとわたし20」参照)
「そういえば……あれからアカギ君と自腹デートはしたのかい?」
「えっ?」
「?」
「いえ、してないですよ。」
「そうなの?アカギ君は何が何でも君と出掛ける心積もりだったから、危ない金をデートに使わないよう、寄付したように思えたんだが…。」
「うーん…ちょっとは話し合ったんですが、場所がお互い「どこでもいい」という感じだったのと、休みの兼ね合いで…流れて…という感じです。」
「そうなのか……youさん、もしよかったら君から彼を誘ってみてくれないかな、きっと喜ぶから。」
「え…。」
「元はキミとのデートに130万もの金を使おうと思っていたくらいだから、よっぽど君の事を大事に思っているんだと思う。」
「(ひぃ…愛が重い!!こわい!)」
「寄付してもらった僕が言うのも申し訳ないけど、アカギくんを応援させてもらいたいからね。ささやかに君にお願いさせてほしい。」
「店長さん…。」
「まぁ、君の気持も勿論大事だから無理強いはしないよ。」
「…そうですね、考えてみます。」
「ありがとう、よろしく。」
そう言うと、既に買い物を終わらせていた雀荘の店主はyouに向かって軽く手を挙げ、別れの挨拶をする。
「それじゃあ、僕はこれで。」
「はい、雀荘の経過が知れて良かったです!」
「あ、そうそう、忘れるところだった!椅子もアカギ君のリクエスト通り、前よりずっと良いものに買い替える事ができたから、そのうち遊びにおいでって伝えておいてよ。」
「分かりました!」
その件に関してはアカギへの朗報としてしっかり伝えたいと、youは笑顔になる。
彼女の明るくなった表情を見て、店主は少し安堵したように微笑み、買い物袋を片手に店を出て行った。
・
・
・
・
「ということでして、雀荘の店長さんが椅子を良いものに買い替えたから、そのうち是非来てねと仰られていましたよ!」
「へー、分かった。今度行ってみるよ。」
同日の夜、家にやって来たアカギに、近所のスーパーでばったり雀荘の店長と会ったことや、
先日の寄付に感謝していると再度言われたこと、雀荘に遊びに来るよう言っていたことなどを早速伝えたyou。
アカギの様子を伺う限りでは「どんな座り心地なんだろうね」と、若干楽しみな様子が見受けられ、
雀荘へは顔を出しそうだったため、にっこりと安堵するyou。
そこまでは良かったのだが、問題はその後…。
特にアカギは何も言うことなく、youが出してくれたお茶を飲み、まったりとTV観賞を再開するが、
雀荘の店主から出された課題を持ったyouはまったり寛ぐ余裕は皆無…となった。
ゴクリと唾を飲み込んで、緊張した面持ちでアカギに呼びかける…。
「あのっ…あ、アカギさん…!」
「んー?」
「雀荘の店長さんに会って思い出したのですが…。」
「?」
「そっ……あの…ぅ。」
「??」
まるで餅でも喉に詰まらせたかのような歯切れの悪さと口籠りっぷりに、
流石のアカギも怪訝な顔をして彼女を見返している…。
「え、何かあったの…?」
「うぐ…ぅ。」
「急に吐きそうになったけど大丈夫?お茶飲む?」
「ちが……いや吐く!吐かなきゃ!吐きますッ!!」
「お、おう。」
youが古典の活用形の如くに「吐く」と連呼するので、アカギはその場を少し離れ、
近くにあったリビングのごみ箱を持って彼女の前に差し出し、スタンバイする…。
アカギが何故ごみ箱を手に持っているか分かっていないyouは、
一瞬その行為に不思議そうな顔をしたものの、気にせず意を決して発言することにした。
「でっ…!」
「お、出るか?」
「っ…デートしませんか?」
「・・・。」
「・・・。」
「えー…っと…?」
「アカギさんが、良ければ…ですが…。」
「…嘔吐するんじゃなかった?」
「何の話?!」
ここで初めてアカギが「吐く」の意味合いが「嘔吐」ではなく「気持ちを吐き出す」の意味だと気付き、
youもまた、アカギが勘違いしていた意味合いに気が付いたため、
アカギは手に持ったごみ箱をそっと横に置き、youは若干恥ずかしそうに咳払いをして、
「違います、その吐くじゃありません」とやっと言葉で訂正をするのだった…。
「えーっと……ゴメン、you……オレの聞き間違いかもしれないから、もう1回言ってくれる?」
「えぇっ?!うん……いいですけど……なので…だから…その……アカギさん、デートしませんか?」
「・・・。」
「ちょ、だ、黙らないでくださいよ……!」
「それは…近所のスーパーに一緒に買い物行くとかじゃなくて?」
「え、まぁ…はい……。」
「youと一緒に、どこに行くかちゃんと予定決めて行くやつ?」
「そうなる…かな。」
「それってデートじゃん。」
「デートですけど?!」
だからそう言っている!と、ツッコむyou。
珍しく動揺した(ように見えるだけかも)アカギだったが、それも一瞬のことで、すぐにパッと真顔に戻る。
恐らくはデートの誘いの裏側に何か別の意図があるのではないかと探っているのだろう…。
「なんで?急に?」
「急というか……先程言った通り、雀荘の店長さんに会って思い出したんです……元々、あのお金を寄付したら、普通に、全然特別じゃないデートをしましょうねって…話してたこと…。」
「うん、覚えてる。」
「あの後色々話したけど、結局場所や日程が決まらなかったから、流れてしまって…今更ながら申し訳なかったなと思って…。」
「でも、いつもならyou、オレが誘うまで黙っとくじゃない。」
「それはそう…なんですけど…。」
「…もしかして、オレのこと待ってた?」
「いや別にそんなんじゃ…。」
「でも、この際どっちでもいいよ、兎に角youから誘ってくれて嬉しい。ありがとう。」
「そ、そうですか…?」
「嬉しいに決まってるじゃない……他でもないyouからのデートの誘いなんだから…。」
特に裏も表も無く、ただ単に約束を覚えていてデートに誘ってくれたことが嬉しい、とアカギは微笑む。
それは、いつものからかうような笑い方でも、愉悦の笑みでもなく、
純粋に嬉しさを表現する綺麗な笑みで、良すぎるという意味で普段のアカギとのギャップが凄まじく、
youは一瞬で顔を真っ赤にして口を噤んでしまうのだった…。
更に言うなれば、今正にほんのり嬉しそうに「どこへ行こうか」と呟きながら携帯で休みの日程を確認するアカギが
予想以上に喜んでおり、それはまるで待ち遠しい遠足の予定を確認する少年のようで…。
雀荘の店主からの依頼ありきで誘うことになったが、自発的にはありえなかった事を思うと
割とズキズキと良心が痛むyouあのであった…。
「youはどこか行きたいとこはある?したいこととかさ。ああ、目的を美味いもの食いに行くっていうデートもアリかな…。」
「・・・。」
「you、いつ休み?オレはいつでもいいから、youの休みに合わせるよ。」
「・・・。」
「you…?」
「へっ?!」
「休みはいつ?デートの日にち、聞いてる。」
「すす、すみませんボーっとしてて…!えっと…来週のこの日とか…。」
「分かった、じゃあその日ね。」
アカギが差し出した携帯の画面に出ていたカレンダーを指さし、youは自分の希望日を伝え、彼もそれを承諾。
ようやく日程が決まったことで、次は何処へ何をしにいくのか…という目的の話し合いへとフェーズが移行する…。
「オレはどこでもいい、youは行きたいところある?」
「いえ…特には…。」
「うーん…じゃ、何かしたいこととか、食いたいものは?」
「…これと言って…。」
「・・・。」
「・・・。」
「you…オレとデートする気ある?」
「あ、あります…一応。」
「一応…ね…。」
「す、すみません……本当、思いつかなくて…。」
「オレも別に何処だっていい……特別なことしなくても、youと出掛けられれば十分だし……それこそ、近所の公園だっていいんだぜ?」
「公園……あ!」
「?」
何かを思いついたのか、ぱんっと手を叩いて急に表情を明るくするyou。
「それ採用です!公園行きましょう!」
「え…まじ?」
「マジです!良いことを思いつきましたので!」
「まぁ……youがそれでいいって言うならオレも構わないけど…。」
候補には上がったものの、まさか本当に公園デートになるとは思っていなかったので、
そんなところでいいものか…と、若干困惑するアカギ。
ただ、彼女の様子を見る限りでは公園デートに何かしらの目的があるようで、
今尚楽しそうに何かを想像しているように見受けられたため、アカギは微かな溜息を吐だけに留めてておいた。
結局、彼女が何故公園デートを提案し、希望してきたのか判明したのは当日のこと…。
昼前の約束した時間にアカギがyouの家のインターホンを押すと、
大きめのバスケットを持った彼女が「お待たせしました!」と朗々とした様子で出てきたのを見て、
彼女の目的が広い公園でのピクニックなのだと気付いたのであった。
「その荷物……もしかして…弁当作ってくれたの?」
「はい!朝からちょっと頑張りましたよ!」
「youがオレとのデートのために…。」
「まぁ、わたしも食べますし…。」
「うん、そうだけど、でも素直に嬉しい。」
「ふふ…このお弁当は美心ちゃんにレシピ教えてもらったものなので、味も保証しますよ!期待しててください!」
レシピや味云々の話より、朝からこのデートのためにせっせと準備をしてくれたいたという事実が彼の中で当然ながら上回るので、
よくできた…と、得意気に話すyouの姿をじっと愛おしそうな表情で見つめるアカギであった。
「行きましょうか!」
「荷物持つよ。」
「でも飲み物入ってるし重いので…!」
「だから尚の事オレが持つって言ってるの、貸して。」
「うう……すみません…。」
「じゃなくて?」
「アカギさん…ありがとうございます。」
「うん、じゃあ行こうか。」
「はい!」
そうして出発した2人…。
道すがら、そもそも公園でピクニックというのを思いついたのが美心のことを思い出したからで、
「昔、カイジくんとお弁当持って公園でピクニックしたんだ」という話を聞いて、それを提案したのだというyou。
その他、ピクニック用のバスケットやらカトラリーやお皿などは自分は持っていないため、
借りるついでにその時のレシピを教えてもらった、という流れということなどなど…。
そんなことを話しながら、2人は目的の公園へと到着。
時間的にもちょうどお昼になったため、着いて早速バスケットの中身を軽くすることにした。
基本的に相談役であった美心の女子力がハイレベルであったため、その辺りは抜かりはなく、
凡そ独り暮らしのyouでは持ち得ない(必要無いとも言う)レジャーシートなどもしっかり貸してくれていた。
「準備万端だね。」
「ええ…美心ちゃん様様です…。」
手頃な芝生の上にシートを引き、持ってきたバスケットをその上に置く…。
アカギが先にそのシートの上に座って一息つくと、youが声を掛けてきた。
「アカギさんはコーヒー?」
「うん、ブラック。いいよ、オレが買いに行く。」
「いいの、わたし自分で飲み物選びたいから、アカギさんはお弁当の番をしててください!。」
「そう…分かった。」
「あっ、先に開けたらダメですよ?待っててくださいよね?!」
「はいはい。」
「絶対ですよ?!」
じり…じり…と、牽制するようにして後ろへ後退し、その後ダッシュで一番近くの自販機へ飲み物を買いに行ったyou。
そんなに疑わなくても…と思いつつも、内心、彼女が作ったという弁当を自分だけ先に確認して
人知れず感動したい欲も無いことはないな…と考えてしまうアカギなのであった…。
それから数分後、パタパタと小走りで「お待たせしました!」と、youが駆け戻ってきた。
「はい、アカギさんの分です。缶コーヒー小さかったんで、念のためお茶も買ってきました。足りなければどうぞ。」
「わざわざありがと。」
「ではでは……いよいよお弁当オープンですよ。」
そう言って、バスケットから程よいサイズの重箱2段を取り出してシートの上に置き、
youはカパッとそのふたを開いた。
「………そぉい!」
「変わった掛け声だね。」
「(そこツッコむんだ…?)」
「にしてもこれ凄いね、めちゃくちゃ種類あるじゃない。おにぎりもサンドイッチもある。」
「そうなんです!ワケあってちょっと頑張りましたよ!あ、あとこれも…。」
「?」
もう1つ、バスケットからyouがスープポットを取り出し、
一緒に持ってきたプラスチックのカップに中身を注ぎ分けてアカギに手渡す。
「え、スープまであるの?」
「ふふ…今日のわたしは凄く頑張ったのです…。」
「食っていい?」
「勿論!一応味見もしましたので遠慮なくどうぞと、しっかり言えます。」
「じゃあ、いただきます。」
youが説明の最中にもテキパキとお皿やフォーク、おしぼりなどを準備しており、
アカギは少し申し訳なく思いつつも、手を拭いて先に食事を始めさせてもらうことにした。
適当な量、皿に食べたいものを盛り、最初の一口を噛み締めた…。
「……うまい。」
「っでしょー!?おかずもスープも坂崎美心レシピなんですよ!」
「うん……こっちも美味い。」
「よかった……流石!美心ちゃん凄い!」
「…レシピは坂崎さんかもだけど、朝から…いや、昨日の夜からじゃない?これ全部作ったyouも凄いよ。」
「そ、そうですか…?」
「うん……ありがとう。」
アカギは一言感謝の言葉を述べると、ふわ…と綺麗に笑んで、youの頭に手を伸ばす。
急に何事かと驚いたものの、その大きな手で頭をよしよし…と撫でてきた。
なかなかこの歳で頭を撫でられて褒められるなどという機会も無いため、
youは頬を恥ずかしそうに赤らめながら口を開く…。
「て…照れますね……ん、でも褒めてくれてありがとうございます。アカギさんが喜んでくれたなら、頑張った甲斐がありました。」
「(やっぱオレのために頑張ってくれたってことじゃん……。)」
「アカギさん?」
「ううん、何でもない。公園デート最高だなって。」
「そ、そんなに…?」
「ああ。」
そこは間違いなく言い切れる…と、意思の固そうな表情で頷くアカギであった…。
それから、作ったおかずのポイントや、難しかったところなどを話ながら、
2人で弁当を食べ進めていき、ほとんど弁当箱を空にした頃…。
アカギが「ごちそうさま」と箸を置き、お茶を飲んでいた時の事…。
「……ん、you、頬っぺた卵付いてる。」
「へ?あ、うそ、どこ?」
恐らくは今しがた食べていた、たまごサンドの中身であろう欠片が彼女の頬に付いているとアカギが指摘してきた。
「頬っぺた」と言われたのだが、咄嗟に指で口元を右に左に動かして拭うも場所が全く違っており、
見兼ねたアカギが「違う」と首を振って、彼女の顔に手を伸ばしたのだが…。
「反対……。」
「え、こっち?」
「ううん、ここ。」
伸ばした手で卵の欠片を取るではなく、彼女の顔を自分の方に向けさせて、
ぺろっと、まるで軽めのキスをするように欠片を取り去っていった。
「!!!!」
「取れたよ。」
「なっ、な…!」
「顔真っ赤。」
「ふっ、普通に取ってくださいッ!!」
「クク……そんな顔すると思ったからやったんだよ。」
「もう!もう!折角アカギさんの為に作ったのに、お弁当返せとか言いますよ?!もう食べちゃってるけど…。」
「そう……やっぱそうなんだ?」
「え…?」
「やっと言ってくれた。」
「な、何を…ですか??」
羞恥心で若干涙目になっているyouをじっと見つめ、アカギはふっと笑う。
「オレのために準備してくれたんだよな、この弁当。」
「!」
「自分も食うからとか、坂崎さんがどうのとか…オレには割と本当にどうでも良くてさ。」
「・・・。」
「ただ、素直に「アカギさんのために頑張って作った」って言ってほしかっただけなんだよ。」
「…っ…。」
「だって、教えてもらったレシピだって、自分が坂崎さんの味を楽しみたいからじゃないでしょ?」
「う、う…。」
「言ってよ、youの口から聞きたい。」
本当にこの男には何もかもを見透かされている、と改めて確信してしまうyou…。
言い淀みはするものの、ここまで追い詰められていると最早どんな逃走方法も無いわけで…。
youは眉をハの字にさせ複雑そうな表情で、アカギの望む、自分の本心を伝える…。
「…自分のためじゃないです……折角なのでアカギさんに美味しいものを食べてほしかったので、美心ちゃんに教えてもらって、準備しました。」
「うん。」
「あ、でもやっぱり1割2割ほどは自分でも美味しいものが…。」
「そういうのいいから。」
「あい……すみません……アカギさんの為です。」
「フフ……ありがとう。」
追い詰めてごめんね、と口角だけを上げてアカギはyouの頭を撫でる。
さて、ここまでくれば…と、結局嘘…というわけでもないのだが、
心に留めておくのが少し苦しくなったため、youは本心を全て明かすことにした。
「ごめんなさい、アカギさん…。」
「どうして謝るの?」
「アカギさんのために頑張ったの、理由があるんです…。」
「理由?」
「実は先日雀荘の店長さんにお会いした際、アカギさんをデートに誘ってあげてほしいと…言われたんです。」
「ああ、そうなの?」
「わたしが誘ったらきっと喜ぶからって言われまして…。」
「うん、めちゃくちゃ嬉しかった。」
「うぅ……なので、そうなんです……あの時アカギさんがあんなに喜んでくれると思わなくて…。」
「まあ、youが自発的にオレを誘ってくれたと思ってたからね。」
「ですよね!ああ、もう……ほんと…それがすっごく、心苦しくて…。」
「なんだ、そんなこと……気にしなくていいのに……ていうかそこで黙っときゃいいのに、こうやって吐露しちまうあたりがyouって感じだな。」
「うっ……微塵も反論できない…。」
「フフ、でもいいじゃない……だからこそオレはyouが好きなんだよ、改めて。」
「な、なんで!」
「とりあえず相手を想って行動するでしょ。」
「ど、どういう意味でしょう?」
「だってさ…。」
自分の不器用さに項垂れるyouに、アカギは顔を上げるようにと反意語を以って伝える。
「この弁当がそうじゃん、オレの為に詫びの気持ち込めて作ってくれたんだろ?結局今バラしちまったけど、最終的にオレは嬉しく思うよ。」
「でも、本心を伝えたからアカギさん、傷付いたんじゃないですか?」
「うーん、傷付いたっていうか……ま、ちょっとだけガッカリしたかな。」
「黙ってれば「お詫び」じゃなくて、ただ「アカギさんの為のお弁当」だったのに…。」
「そうかもね。でも多分、オレは見抜くよ。ていうか見抜いてた、かな。」
「!」
「デートに誘ってくれた時さ、ちょっとうわの空だったでしょ。だから、ああ、コイツなんか悩んでんなって思ったし。」
日程を決める時や、何処に行って何をするなどを話している時既に違和感を持っていたとアカギは伝える。
流石にそれが何かは分からなかったが、今この状況になってようやく合点が行った、と…。
「そ、その時点で?!」
「(だってyou分かりやすいし…。)」
「「何か変じゃない?」とか言ってくれればよかったのに……いや、そんなのただの我儘か…。」
「フフ…あの時はオレも舞い上がってたからね。」
「(いや、それ程には見えなかったけど…。)」
「どっちにしても、オレは満足。アンタの本心が分かった分、今の方が良かったかな。」
「ごめんなさいアカギさん…最初から正直に店長さんと話したことを伝えればよかった…。」
「もういいって。」
「でも…。」
告げなくていい経緯を伝えてしまったことで、アカギをガッカリさせてしまったことを
何とかして詫びたい…という様子のyou。
彼女としては言葉のやり取りで納得する答えを見つけたかったのかもしれないが、
まどろっこしい事はあまり好ましくない、とアカギは彼女の言葉を遮るようにして提案を出してきた。
「じゃぁ、youがオレを傷付けたとかガッカリさせたということにしよう、仮に。」
「は、はい…?」
「何か、してくれるの?」
「え。」
「オレのために、何か。」
「えっと…例えば改めてデートのお誘いしたり、お弁当作ったり…そういう?」
「うん、まぁ、そんな感じ。」
「いいですよ、アカギさんをぬか喜びさせてしまった点は本当に申し訳なかったなって思うので、アカギさんが笑顔になれるなら何でも……わたしにできる事なら…ですけど…。」
「え、何かちょっと得した気分じゃない、これ……何お願いしてみようか。」
急に降ってわいた貴重な機会かもしれない…と、アカギは割と本気で考えに走っているようで、うーん…と、小さく唸って目を閉じている…。
約1分程経過して、アカギが「あ!」とyouの顔を見た。
「雀荘付いてきてよ。椅子が新しくなったって言ってたでしょ?」
「え、あ、はい……そんなの全然いいですけど…。」
「オレが麻雀打つとこ見ててよ。」
「分かりました。」
「半荘の間、オレの膝の間に座ってさ。」
「却下。」
「ケチ!」
そんな恥ずかしい付き添いができるか!という意味合いを込めて強く拒否をするyou…。
「他の条件じゃないと承諾でき兼ねます!」
「今の以外思いつかねェ。」
「そんなことはない、絶対そんなことはないぞ、赤木しげる。」
「そんなことあるのに…。」
少しムスっとした表情を浮かべると、ちょっと考える…と、youに背を向けるアカギ…。
youはやれやれといった様子で、この時間を利用して
レジャーシートの上に広げた空の弁当箱や食器などを片付けていく…。
そんな折、外側を向いたアカギが大きな欠伸をしたのを見て、
youが小さく「あ」と言葉を零した。
「あの…アカギさん?」
「なに?」
「これはわたしからのご提案なんですが…。」
「提案…なに?」
「膝枕…などはいかがでしょう。」
「ひざ、まくら…。」
「今、ご飯食べたからちょっと眠くなってません?」
「・・・。」
「なので、アカギさんのためにできることではありますし、ちょうどいいかなって…。」
「youの膝枕…。」
「勿論、イヤだったら全然他の条件考えてもらって構わないんですけど、はい!!」
「それいいね、でも逆にしよう。」
「ぎゃ…逆、ですか?」
「うん、オレがyouにする。」
「な、なんで?!」
「だって、今日、あんまり寝てないだろ。」
「・・・。」
「だから、今日は逆にしようよ。」
「アカギさん…。」
今日の日のために、前日に下準備をしたり、今日だって早起きして作業したと分かっているから、と…。
アカギは軽く微笑んでそうすることを促すように、自身の太腿をポンポンと叩く。
「アンタの太腿と違ってあんまり寝心地は良くないかもだけどさ。」
「ど、どうなんでしょう…。」
「いいじゃん、試してみなよ。」
「というかアカギさんはそれでいいんですか?それがお詫びでいいんですか??」
「別に構わない。」
「そう…ですか……ならいいんですが…。」
「うん。」
「あの、足が痺れたり、アカギさんも眠くなったら遠慮なく起こしてくださいね。」
「はいはい。」
「じゃぁ……えっと……失礼します…。」
「ドウゾ。」
ポスっとアカギの膝(正確には太股なのだが)に頭を預け、寝る体勢を取ったyou…。
正直な感想としては、矢張り少し硬いので枕やクッションの方がいいなぁ…というものだったのだが、
いざ横になって目をそっと閉じてみると、早起きして準備した影響は思ったより強いようで、急にドッと睡魔が襲ってきた。
「ふぁ…え、横になったら急に眠くなりました…。」
「疲れが来たんじゃない?暫くゆっくり寝ちゃいなよ。」
「ん……すみませ…お言葉に甘えます…。」
「おやすみ、you。」
「おやすみなさい…。」
その言葉を皮切りに、いよいよyouの眠気はピークに達し、束の間の夢の中へと落ちて行った。
余程疲れていたのか、ものの数分ですやすやと寝息を立て始めたyouを、目を細めて見つめるアカギ。
「…何でこうも自分の感情には鈍感なんだろうね、アンタは…。」
彼女の頬に掛かった髪をサラリと撫でて、横に払う…。
よく見えるようになった彼女の顔を人差し指で軽く突いてみるが、少し「ぅ」と唸っただけで起きることは無かった。
それ以降も、ゆっくり流れていく雲や晴れた空を眺めたり、
公園の遊具で楽しそうに遊ぶ子どもや、それを家族が見守る様子などを観察したり…。
いつもの慣れた夜の歓楽街や繁華街の喧騒とは凡そ真逆の、まったりと過ぎていく時間を過ごしたアカギ…。
彼女が寝入って30か40分程経った頃…、微かなうめき声をあげてyouがうっすらと目を開き、気怠げに身体を起こした。
「ぅう……ん…。」
「もう起きたの?まだ1時間も経ってないよ……ゆっくり寝てていいのに。」
「んん……あかぎさん……。」
「おはよう、you。」
「ふぁ……おはようございます…。」
大きな欠伸を手で隠し、まだ少し眠そうにしながら目を瞬かせるも、
意識はどんどん覚醒していっているようで「どのくらい寝てましたか?」「足は痺れてませんか?」とアカギに尋ねてくるyou。
「大体3、40分くらいかな……足は痺れてない、大丈夫。」
「お陰様で眠気は落ち着きました…アカギさんのお陰です、ありがとう。」
「飯食ったし、昼寝もしたけど……この後どうする?あそこの白いふわふわのドームみたいなのでガキに混じって遊んできていいよ、オレは遊ばないけど。」
「楽しそうですけど遊びませんよ!そもそもアレ、子ども専用ですよね!」
「クク……そうなんだ?」
「さっき気になったからチラッとみたら看板にそう書いてありました…。」
「(遊びたかったのか…。)」
「公園広いですし……食べたもの消化するためにも散歩しながら帰るのはどうですか?」
「そうだね、そうしようか。」
散歩がてら2人で話をしつつ、公園をゆっくり歩きながら家路に着こうということで方針が決まり、
2人は芝生の上に敷いていたレジャーシートを片付け、荷物をまとめて歩き出した…。
アカギの髪色が目立つということもあるのだろうが、季節の花や木々を背景に2人で微笑みながら歩く姿は妙に絵になるようで、
幾度となくすれ違う人々からの視線を集めたのだが、お互いの話に集中しているからか、2人がそれに気付くことは全く無かった。
・
・
・
・
「結局夕飯も外で食べちゃったから、遅くなっちゃいましたね。」
「っつてもまだ夜の10時前だし……割と早い方じゃない?」
「まぁ、そうですね。」
公園から家に戻るまでに、少し寄り道などをした後夕飯を摂って福本荘へ戻ってきた2人…。
2階への階段を登り切った後、ふいにアカギがyouの腕を掴んだ。
「you、最後に1ついいか?」
「はい…?」
「オレ、今日はアンタの本心が分かったから、満足だって言ったじゃない、それ……覚えてる?」
「え…あ、はい……その節は色々とすみませんでした…。」
「ううん、逆。」
「はい?」
「youはさ、どうでもいいヤツとか嫌いなヤツ相手に「デートに誘ってやれ」って他人から言われて、誘ったりする?」
「するわけないじゃないですか。」
「じゃぁ、仮に出掛けることになったとして、前日の夜から準備して、朝早起きして弁当とか態々作ってやるの?」
「だから、しませんよ…。」
「フフ……だから、オレは満足したんだよ。」
「??」
「ここまで言っても分かんないの?本当に鈍い…。」
「む。」
「要はyouにとって、オレはそこまで気に掛けてもらえるに足る相手だってことだろ?」
「!!!」
「無自覚なんだろうけど、そう言ってるようなもんだったからさ、嬉しくて。」
「そっ、それは!」
「クク…まぁ、そういうこと。」
「そ、そういうことって…。」
「言っちまっていいのか?」
それはつまり「オレのこと(かなり)好きでしょ?」という確信を突いた問いを示唆しているワケで…。
涼しげな表情で小首を傾げているアカギとは対照的に、youは真っ赤な顔で首をブンブンと横に強めに振る。
「や、だ……だめです…!まだ……確証無い…自信も。」
「そう、残念。まぁいいよ、オレはいつでも。youのこと受け入れる準備してるし。」
「あ、アカギさん!」
「性的な意味で。」
「ヘンタイ!」
「あらら、ちょっと口が滑ったね。」
「大分お滑りになられたようですが?!」
「もしかして今ので好感度下がったか?」
「ええ割と。」
「えぇ~。」
「えぇ~じゃないです!そんな反応するならちょっと発言を自重したらどうですか?」
「だって…オレyouのこと好きだからキスもxxxもしたいし。正直な気持ちがつい…。」
「普通、付き合っていない相手にそれは口に出さないと思います…通報ものですよ。」
「ふーん?そうなんだ?」
「・・・。」
「……通報しないの?」
「う…。」
「しないんだ?」
「とっ、友達なので!通報しないだけです!」
「またそんな……ケチなことを言う…。」
「い、いまはこれが限界なんです……勘弁してくださいよ、もう!」
「クク……分かったわかった…もういじめない。」
「うう…。」
アカギは少し涙目になったyouの頭をポンポンと軽く叩き、その後に彼女の額に軽く口付ける。
そうして、そっと唇を離すともう一度「ごめん」と微かに微笑んだ。
甘い問答が終わって階段を離れ、デートの終わりに2人は202号のyouの家の前で立ち止まる…。
「今日はデート誘ってくれてありがとね。やっぱり、youと出掛けるなら公園だって何処だって構わないって、改めて思った。」
「デート…になったかは分かりませんが…。アカギさんとはいつも家で一緒にお話ししたりしてますけど、場所が変わると、それはそれで新鮮で楽しかったです。」
「あと弁当も。すごく美味かった。」
「それは美心ちゃんに…。」
「そうだね、でも作ったyouにもだよ……美味しかった、ありがとう。」
「…はい……どういたしまして。アカギさんが喜んでくれたなら何よりです。」
「ああー…。」
「どうしました?」
「いや、離れたくねェなって……。」
「ひぇ……?!」
「でも、そうもいかねェよな…特に今日は。」
「はぁ…??」
「…じゃ、今日はオレ、お前の家上がんないで家で寝るから……疲れ取って、ゆっくり寝ろよ。」
「ああ、なるほどそういう事か……ふふ、お気遣いありがとうございます。」
「おやすみ、you。」
「おやすみなさい、アカギさん。」
アカギは最後にyouの髪をくしゃくしゃっと撫でて、大きな手を離すと、
そのまま浮かせた手をヒラヒラと振って、家に入っていく彼女の姿を見届けるのだった。
I'll go wherever you go, my love.
(あ、あ…アカギ!い、今の!な…!?お前らつ…付き合ってるのか?!)
(ああ、カイジさん…どうも、こんばんわ。バイト帰り?)
(いや今日はパチ……じゃなくて!「今日はオレ、お前の家上がんないで家で寝る」って……どどどういう意味だよ!)
(クク…さぁ、どういう意味でしょうね。)
(ちゃ、ちゃんと答えろよ!ていうか今まで何処に…ふっ、2人で出かけてたのかッ?!)
(まだ付き合ってはないですよ。今日はyouと2人で公園に行ってました。)
(こっ…公園んんん??ていうか「まだ」ってお前…。)
(なんていうんですかね……ああ、ピクニック?みたいな。)
(はぁっ?!アカギが?!)
(ええ。youが昨日の夜から準備して、今日も朝早くから頑張って作ってくれた弁当とか食って…。)
(な、な、なっ……youの手作り弁当だとッツ?!)
(その所為で眠くなってたから、オレが膝枕してちょっと寝かせてやったりとかして…。)
(あ……あ…。)
(あ、寝顔の写真見るか?)
(見るッツ!!)
(はい。)
(う……ぅ…がわぃい゛……して、だよ…。)
(え?)
(どぉしてだよぉぉぉぅ!!何でなんだよぉお!)
(うぉっ?!)
(同じなのに全然オレと違うじゃん!全然、全然美心と違うじゃんかよぉおおお!!!)
words from:yu-a
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