step3_(日常編:アカギ)
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※生理的に気持ち悪い表現が多く出てきます。
無理だと思われた方は読まれないでください。
一度目は気のせいかと思った。
二度目は流石に不安になり、暫く対策を取って様子を見ることにした。
そして、暫く経ってから三度目に事が起こった時、それがほぼ確信に変わり、恐怖を覚えた。
アカギさんとわたし19
「どうしよう、どうしよう……こんな時、どうしたらいいの…?」
混乱、困惑、恐怖、憤り……様々な負の感情が体中をまるで血液のように駆け巡っているような気分。
youは半泣きになりながら、震える指で携帯の検索を掛け始めた…。
・
・
・
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「you、遅くなってごめん。さっき携帯のメッセージ見たんだよ……雀荘いたから…半荘終わるまで気付かなくて………you…?」
夜半前、大体の人が食事や風呂を終え、そろそろ就寝するか、深夜までの数時間何をするかと考える頃、隣人の赤木しげるが(大家から奪ったと思われる鍵を使い)202号の玄関に現れた。
いつもならそこですぐにリビングから「おかえりなさい」や「いらっしゃい」などの声が響いたり、
そこから家主であるyouが直接顔を出したりするのだが、本日に限ってはそのどちらも無い様子…。
いつも気紛れに、基本的には自分本位で彼女の家を訪れるアカギだったが、
本日に限っては珍しくyouから「相談したいことがある」とのことで呼び出しがあり、遣って来た。
その為、家主が不在…ということはないはずなのだが…。
アカギは小首を傾げながらも、靴を脱ぎ、短い廊下をリビングへ向かって歩く。
「you、ただいま。」
ドアを開けてリビングに入ると、確かにその空間にyouはいた。
いつもTVを見たり雑談をする際に使うソファに座っているため、彼女の後頭部から肩にかけての後ろ姿がアカギの視界に入っている。
しかしながら、TVも付けず、まるでイヤホンか何かで音楽でも聴いているかの如く、こちらに気付かず、真っ直ぐ前を見て無反応。
アカギは更に不思議そうな様子で彼女の傍まで近付き、ソファの後ろからポンっと彼女の頭に手を置いた。
「ただいま。」
「!!!!!」
瞬間、ガタっと音を立ててソファから立ち上がり、youが後ろを…というより、アカギの方へと振り向いたのだが、
その顔色は蒼く、表情も驚嘆というよりは恐怖に近いもので、アカギでなくともその異変には気付くだろうという程だった。
「あ、す……すみません!ボーっとしてて…わたし……え、今帰ってきたんですかね?」
「ああ、うん……たった今だよ。」
「そう、ですか……あ、アカギさんご飯は?」
「いや、この時間だしね、流石に食ってきたよ。」
「そうですか。」
「それより、さっき送ってくれたメッセージ見て帰ってきた。気付くの遅くなってゴメン。」
「いえ、こちらこそ……急にお呼び立てしてしまってすみません…。」
「いや、寧ろオレとしてはyouから呼ばれるなんて何か新鮮で、嬉しかったよ。」
アカギはそう言いながら、フフ…と笑ってソファの反対に回り込み、彼女の横に着席する。
その反対に、youはソファから立ち上がり、自分の分とアカギの分のお茶を用意するべくキッチンへ向かった。
ものの数分でお茶を準備し、戻ってくると、ソファの少し前にあるテーブルに2つ分のお茶を置いた。
「よかったらどうぞ。」
「ん、ありがと。」
お茶の提供を終わらせると、youはアカギの隣に着席。
そこでようやく話が再開されることとなった。
「それで、相談したい事って何?」
「それはその……相談と言いますか、依頼、お願い事というか…。」
「ヘェ……youがオレにお願い、ね…。」
本当に珍しいな、と…。
少し目を大きく広げ、僅かばかり口角を上げたアカギ…。
「勿論いいよ。」
「えぇっ、まだ何も言ってないのに!」
「だって、他でもないyouからの頼み事だし…。どんなことでもいいよ。それで、オレは何をすればいいの?」
「何をすればいい、というか……その…。」
「うん。」
「あ……アカギさんの……。」
「オレの…?」
「アカギさんの洗濯物を一緒に洗わせていただけませんか?!」
「・・・は?」
そう、正に「は?」というに相応しい依頼と、その反応だった。
何か買ってほしいものがあるとか、食べさせてほしい料理があるとか、そういった類の頼み事ではなく、
〇〇するのに協力してほしいという系列のものではあることは理解できるが、それにしても意味不明な依頼である…と。
何故自ら面倒…というか、日々の仕事量や手間を増やすことを依頼としたのか、矢張り気になり、アカギは問うた。
「いや、意味が分からないんだけど……何で?オレの洗濯物、洗ってくれるって意味??」
「そうです…。」
「・・・なんで?」
「なんで……あ、ああ……えっと……。」
「だって、理由があるんだろ?」
「何て言ったら…どこから話せば…うーん…。」
「最初から。」
「う……やっぱりそうですよね…。」
しゅん…と困った表情を浮かべるyouに、アカギは小さく溜息を吐いて「別に怒ってるワケじゃないから」と、
彼女が話やすくなるようにフォローの一言を添えてやった。
それに少し安堵したのか、ぽつりぽつりと、youは順を追ってその理由を話し始めた。
「最初は……多分2か月前くらいだったんですけど……その…無くなりまして…。」
「え、誰が?」
「あ、違います!紛失の意味です!えっと……その………下着が。」
「下着…。」
「はい……でも、その日は凄く風が強くて、一緒に干してた靴下もベランダに落ちてたんで、飛ばされたんだろうなって思ったんです。」
近くに落ちていると恥ずかしいので、外へ出て福本荘の近辺を少し歩き回ってみたが見つからなかった…と、彼女は補足する…。
「それから数日経って……次は風も強くなかったのに、また下着が無くなってて、それで流石に怖くなったので、暫く部屋干しに切り替えたんです。ちょうどその辺りから天気も暫く崩れるということだったので、まぁ都合も良かったんですけど…。」
「なるほどね…それで?」
「はい、それで……1ツキくらいかな……そろそろ大丈夫かなって思ったのと、ここ最近天候も暫く良かったので久しぶりに外干ししてみたんです。そしたら今度は上下セットで無くなってて……これはもう、偶然じゃないかもって…。」
「・・・。」
「そう思ったらめちゃくちゃ怖くなって、でも天気がいいのに何でわたしだけ外に干せないんだろうって、悔しくて…もう、今までこんな目に遭った事なかったから…どうしたらいいか分からなくてパニックだし、もしかしたら泥棒じゃないかもだけど、でももしそうだったら怖いし、ムカつくし……っ…て、それで…っ。」
実際に口に出すことで色々な感情が沸き上がってきたのか、じわり…と目尻に涙が浮かぶyou…。
事の経緯を聞く限り、彼女には悲報だろうが、十中八九それは盗難の被害に遭っているだろうとアカギも考える。
そこで何故自分の洗濯物を洗うという流れに至ったのかはさておき、まずは彼女を慰める事が先だろうと…。
アカギはyouの腕を引き、まずは泣けと言わんばかりに身体を抱き寄せた。
「怖い思いしてたのに気付かなくて悪かった…。」
「っふ……な、んで……ぁ、アカギさんのせいじゃ…っ…!」
「ゴメンな、you…。」
「っ……すみませ……ぅぁぁああ!!」
アカギに全て吐露し、また彼がそれをまるっと受け入れるための受け皿として抱擁してくれたことにより、
今までずっと堪えてきた一番大きな感情だった恐怖心をやっと解放することができたyou…。
自分でも恥ずかしくなったものの、一度決壊した涙腺を塞き止める術は無く…。
結局ひとしきり感情が収まるまでアカギの胸の中で子どものように泣きじゃくってしまうのだった。
「ぐずっ……ずみまぜ……あ、あがぎさ……そ、そこのティッシュを…。」
「オレの服で拭っていいよ。」
「ばなみず(鼻水)なんで……。」
「あー、ちょっと待って。」
「ずみばぜ…。」
「・・・はい。」
「ありがどぅ…。」
youを片手で支えたまま、何とか腕を伸ばしてテーブルの上にあった箱ティッシュを手繰り寄せると、そのまま彼女に手渡したアカギ。
数枚ティッシュを取り出し、涙や鼻水を綺麗に拭いとると、youはゆるゆるとアカギから身体を離してゴミ箱へティッシュを捨てに行く。
「ズッ……お見苦しいところを……すみませんでした……。」
「目腫れてる…冷やさなくていい?」
「あい、大丈夫れす……そのうち治る…。」
「そう……。」
ストン、と再度ソファに腰を下ろすと、未だ目や鼻は赤いし、声も鼻づまりの状態ではあるものの、
youはペチペチと自分の頬を軽めに叩き、話を本題に戻すことにした。
「それで、続きなんですが…。」
「うん。」
「色々調べたところ、基本はやっぱり部屋干しなんだそうです…。」
「だろうな。」
「でも、友人に相談したところ男性物の洗濯物と一緒に干したりすると効果あったそうで…ネットでも一定数そういう案が…。」
「ああ、成程、それで…。」
「ちなみにマミヤちゃんは引っ越して初手から防犯用の男性物下着を一緒に干していたそうで、被害無いそうです…。」
「そうなんだ?」
「はい、わたしだけ!!負けた気がして悔しいし…女性の下着って結構高いのに!!高いんですよ!!おのれ…。」
「(今日一怒ってんな。)」
「効果があるかどうか分かりませんが…もし効果あれば、天気がいい日は外に干せるようになるので……それで、アカギさんの洗濯物を一緒に洗わせて…というか、干させてほしいなと思ったんです…。」
「オレは勿論いい……っていうか、寧ろ有難いけど……いいの?面倒じゃない?」
「そりゃ毎日セーターとかお洒落着着てるとかならアレですけど、アカギさんそんなんじゃないし。」
「まぁ…それはそうなんだけど…。」
「零くんや銀さん達は部屋が離れてるので、アカギさんかカイジくんにお願いしようと思ってたんですが、アカギさんの方がわたしの家に来る頻度高いので、洗濯物の回収も返却も早く済むかなと思って…。」
「うん、オレの事頼ってくれて本当良かった。こんな役得な……何でもない。」
「それに、防犯のためだけに男性用の下着を何枚も買ったり、定期的に買い直したりするより、アカギさんもラクになるならそっちの方が良いかもって思ったので…。しかも効果無かったらそのメンズ用下着は無用の長物となるわけで…。」
「確かに。」
「効果を確認できるまでの間でいいので、一緒に洗濯させていただいてもいいですか?」
「え…うん、じゃあ……よろしく。」
「よかった…ありがとうございます!効果があるといいんですけど…。」
「オレも安岡さんに話して巡回厳しくできないか相談しておくよ。あの人もyouの為なら動くでしょ。」
「本当ですか、ありがたいです!!!」
先程の涙は何処かへ、アカギが提案を受け入れてくれたことのみならず、
心強い味方の存在を思い出し、パッと明るい笑顔になるyou。
「今回の盗難が今日…というか昨日の夜のことなので、ここから急に男性物の下着が現れると「防犯の為に買ったもの」と思われるかもですし、ここからまた1ツキ程経過してミッションを開始したいと思うのですが、いいですか?」
「(ミッションて)……いいよ。」
「題して『福本荘202号、女性独り暮らし辞めたってよ、もう下着盗れないね大作戦』!」
「長い。」
「略して『F202』!何かカッコいい。」
「そもそもオレがyouの恋人になればいいだけの話なんじゃないの?付き合おうよ。」
「作戦のためにそんなことお願いできませんので、お気になさらず!」
「チッ…。」
「ご協力お願いいたします!」
「まぁ(そのうち本当に何がなんでもアンタと付き合うつもりだから)いいけど……じゃあ、始める時にでも声掛けて。」
「はい、そうさせていただきます!」
グッと両拳を握り、気合の入った返事をするyou…。
しかし、アカギとしては「期間を空けても3度の盗難被害に遭った」という経緯から、
若干の同一犯からの執着を感じざるを得ず、一抹の不安を抱く…。
ただ、それを口にすると、いったん落ち着いた彼女の心境をまた不安にさせ、ざわつかせることになるため、口を噤んだのだが、
後になって、この時に止めておくべきだったと後悔することとなるのだった…。
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それは作戦を立てた約1ツキ後…。
実際にyouがアカギの洗濯物を一緒に干す作戦を遂行し始めて数日後のこと…。
男性物の下着を一緒に干す事が功を成しているのか、数日経過したが特に盗られる気配もなかったため、
もしかして、こちらの目論見通り、この部屋で一人暮らしをしていた女性の住人に約1ツキの間に恋人ができて
下着の窃盗をし辛い状況になったと誤認させる作成に、効果があったのではないかと思っていた矢先の事だった…。
「なん……どう、して……。」
夕方過ぎの帰宅後、干した洗濯物を取り込もうとした際に発した言葉…。
外に吊られている物干しの様子を目にし、あまりの恐怖で立っていられなくなったyouは、
ずるずるとその場にしゃがみ込むと、腰が抜けた状態で何とかずるずると這いながら、携帯のある場所へと向かった。
出るかどうか分からなかったが、一縷の望みを掛けて手にした携帯の通話ボタンを押す…。
そろそろ10コール目というあたりで、電話が繋がり、いつもの低いながらも柔らかで凪いだアカギの声で「もしもし?」と声が聞こえた。
「あ…アカギさ……ごめん、いま…話せ……っく…。」
『you…?』
「ひっく、すみませ……ごめんなさい……ごめんなさい、電話…っして。」
『今、家?』
「っ……はい…っ…。」
『すぐ帰る、待ってて。そこにいて、何処へも行くなよ。』
「~~っ!」
恐らく電話口で彼女が声無くコクコクと頷いてるであろうと認識し、アカギはその後すぐに電話を自分から切ると、
南郷と安岡が待つ雀荘に向かおうとしていた身体をくるりと方向転換し、福本荘への道を走り出した。
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「you!」
アカギにしては大きめの声で玄関で彼女の名前を呼ぶも、返事はない…。
リビングの電気は点いていたが、部屋に入っても誰の姿も無く、
アカギは勢い良く左右の確認をしてみたが、視界にはyouの姿を捉えることはできなかった。
そうなると、ドアを隔てた寝室か洗面所、トイレ…それくらいしか行ける場所はないため、
次点としてアカギは寝室を選び、そこのドアを開く…。
「you!」
「アカギさ……っ。」
開けた寝室のベッド近くに突っ伏して倒れているyouの姿を見て、アカギは駆け寄り、その身体を抱き起す…。
「何があったの、怪我したのか?体調悪い?」
フルフルと首を横に振って、アカギの問いに否定を示す。
youはというと、アカギの姿を見て安堵したのか、堪えていた涙がボロボロとあふれ出した。
「急に呼び出してごめ、なさ……。」
「何、どうしたの?」
「ふっ……ぅ…ぅえ……アカギさん、助けて…も、むり……っ…ひっく…。」
「何があったの?」
「したぎ……が…っ、そこ、……こわくて…っ!」
「下着……また盗られたのか…。」
ブンブンと首を横に振って、再び否定を示すyou。
盗られていないのであれば何に恐怖するのか、と…。
そう尋ねようとしたアカギの言葉を、先にyouの言葉が勢いよく遮った。
「逆!逆なの!も、戻ってきてる……ッ!!」
「何だって…?!」
取り込んではおらず、窓の外に干されたものを見ただけではあるが、
3度盗られた自分の下着が全て戻されており、その時盗られたもので間違いないというのだ。
アカギは一旦、youをその場に起こして座らせると、自分は立ち上がり、窓の方へと足を進めた。
窓越しに見てみると靴下や男性物の下着に交じって、確かに1日分にしては目に見えて女性の下着のみ多く、
洗濯バサミで留められ、吊るされていることが確認できた。
「you、窓開けて外見たりしてない?」
「し…してません……カーテンは開けましたけど…その洗濯物見てすぐ腰抜かしちゃって…。」
「そう……ならいい。」
もしかすると、本当に悪質な犯人なら家主の女性がそれを取り込む様子などを確認しようとしているかもしれない…と。
アカギはそこまで考えを巡らせ、自分がそれを回収することにした。
鍵を開けてベランダに出ると、洗濯物の回収よりも先にそこから大きく身を乗り出し周囲を確認する…。
周囲が暗くて完璧には見えない状態だったが、辺りに怪しい人物の姿は見受けられなかった…。
いないなら居ないで、その方が良いことではあるため、アカギは小さくフゥと安堵の息を吐き、
洗濯物の回収をしようと手を伸ばしたのだが…。
「…っ…!?」
一瞬、苦々しく顔を歪ませた後、伸ばした手をすぐに引っこめると、
アカギは洗濯物には手を触れずに部屋に戻ってきた。
その様子をずっと見ていたyouが不思議そうに「アカギさん?」と声を掛ける。
「ん?」
「何か…ありましたか?」
「ううん、ちょっとね……怪しいヤツが周囲にいないかの確認してみただけ、特に人影はなかった。」
「そう、ですか……よかった。」
「you、立てるか?」
「あ…はい……多分…もう…。」
アカギは彼女の背中を摩りながらその場に立たせると、
彼女の両肩に手を添えて、少しだけ屈んで目線を合わせながら語り掛ける。
「気持ち悪いだろ?見たくないだろうし、あの洗濯物はオレが片付ける。」
「え、でも…。」
「悪いけど、掛かってる下着だけじゃなくて靴下とかオレの下着とかも全部捨てていいか?全部ビニール入れてまとめて捨てるから。」
「そんな…いいです、自分で…。」
「you、ダメ。見たらだめだよ……いい子だから…向こう行ってて。」
「でも、そういうわけには…。」
「ダメ。オレが処分する。youは一度スッキリするためにシャワー掛かっておいで。お願い。」
「・・・わかりました…。」
言葉の端々から、アカギがどうしても自分にはあの洗濯物を見せたくないということが伝わったため、
youは申し訳なく思いつつも、言われた通りに行動することにした。
洗面所に入り、下着をネットに入れると、明日からまた部屋干しが確定してしまったことに
言いようの無い憤りと悲しみがこみ上げる…。
ただ、申し訳ないのは自分の問題にアカギを巻き込んでしまった事…。
自分の安易な作戦の所為で、急に呼び出してしまったり、
今だってあまり恐怖を感じさせぬよう洗濯物の処分を行うなど、気を遣わせてしまったことや、
最終的にアカギ自身の下着まで廃棄することになってしまった…。
「(ごめんよアカギさん……給料が入ったらアカギさんの下着と靴下わたしが買うから許しておくれ…。)」
恐怖も去る事ながら、アカギへの申し訳なさでぐすぐすと泣きながらシャワーを浴びるyou。
・
・
・
・
一方こちらは再度ベランダに出て、干された洗濯物と対峙するアカギ…。
「世の中には本当に色んなヤツがいるんだな……それにしても陰湿な……なんで、もっとスカッと生きねぇのかな…。」
はぁー…っと深いため息を吐くと、一度部屋へ入った。
勝手知ったる他人の家…。
かなりの頻度で彼女の家に出入りしているアカギには割と物の置き場所も把握できており、
スマートに彼女の部屋からビニール袋を入手すると、再びベランダへと戻ってきた。
「オレだって直に触りたくないくらいなのに……こんなのyouに見せれるワケないよな…。」
そう呟いて、嫌そうに手を伸ばしたのは恐らく彼女が「盗まれたが戻ってきた」と言っていた分の下着…。
そして、それら全てに付着しているもの…。
まだ完全に乾ききっておらず、ところどころ部屋の蛍光灯の光に反射している部分も見受けられるそれは、恐らく犯人のものと思われる体液。
数か月の間に同じ場所で数着も盗むことができたのだから、彼女の家は恰好の獲物となっていたのだろう。
それを、フェイクであれ本当であれ、男物の下着を混ぜて干し、対策のアピールをしたことで、犯人の逆鱗に触れたようだ。
これから盗難が続くか、ここで打ち切るかどうかは犯人以外知り得ないが、
どちらにしても腹いせに恐怖心を植え付けるという報復行動を起こしたのだろう…。
「クク……浅はかだな。わざわざ立派な証拠を残して……有難く追い詰める手がかりにさせてもらう。」
ギュ…っとビニール袋の口を縛り、アカギはそれを一度自分の家へと持ち帰る。
彼女に見せたくないというのは勿論真実だが、体液が付着していると分かった時点で、
回収した洗濯物は全てそのまま刑事である安岡に渡し、犯人特定と逮捕に繋げてもらうつもりでいたアカギ…。
そのため、彼女をその場から去らせるために入浴を提案し、洗濯物に関しては違和感を感じさせないために
「見ないで」=「全て記憶に残らせないため」の意味合いで通じるよう、自分のものを含め破棄させてほしいと願い出たのだ。
洗濯物の回収が終わった後、再びyouの家に戻ったが彼女の入浴がまだ終わっていないようだったので、
その間に安岡に連絡を取り、犯人逮捕への協力を促した。
「……ということで、協力してもらっていい?」
『雀荘来ねェと思ったら…そういう理由だったか。』
「ゴメンごめん。」
『鑑識に回すのは構わんが……お前の方こそ、調書の協力とかしねェだろ…。』
「うん、やだ。」
『はぁ~~……その辺りはオレんとこの管轄じゃないから……いやまぁ、分かった……特定さえできれば何らかの方面から対処できるか…。』
「頼みましたよ「安岡刑事」。」
『おま…っ、白々しい!』
「フフ…じゃ、失礼します。」
電話口から「まだ話は終わってないぞ」といったような定型文が聞こえたような気がしたが、
気にせず通話終了のボタンを押し、you宅のリビングで会話を終わらせるアカギ…。
そんなタイミングで洗面所から風呂から上がったyouが戻り、声を掛けてきた…。
「アカギさん?」
「あ、you、おかえり。」
「今どなたかと話されてました?」
「ああ、安岡さんにね、ちょっと。さっきの話とか。」
「そう、ですか…。」
「それよりどう、ちょっとはさっぱりできた?」
「あ、はい!お陰様で……ちょっとすっきり…。」
「そ、良かったね。」
「…アカギさん、本当に色々と…ありがとうございました。」
「フフ、別に……オレはちょっと早く帰ってきて、洗濯物を回収しただけだよ。」
アカギはポンポンと彼女の頭を叩いて「気にするな」と微笑む。
「寧ろ、良かった。オレのこと呼んでくれてさ。」
「え…。」
「こういう時、人に迷惑掛けたくないとか言って一人で抱え込みそうだもんな、アンタ。」
「そ、そんなことは…。」
「あるよ。でも、最近変わってきたんじゃない?」
「・・・。」
「困った時に頼れよって、オレの日頃の調きょ……教育の賜物って事だよな。」
「今調教って言った…?」
「幻聴、幻聴。」
ははは…と乾いた笑いで誤魔化すアカギ…。
怪訝そうに彼を見上げてはみたものの、実際否定はできないわけで…。
確かに福本荘に来たばかりの今までの自分であれば、周囲を巻き込んで迷惑をかけることを良しとしなかっただろう。
しかし、ここに越してきて、色んな人と関わり、その中でも特に一番影響を(現在進行形で)受けているのがこの赤木しげるとの対話に他ならず…。
一般人が言う面倒な事態など微塵も面倒事とは感じない様子で、いつも飄々と
「何だそんなことか」と対応されるので、気付けば話を聞いてもらったりしてしまっている今日この頃…。
今回もその延長でアカギに相談してしまっており、
それをyouは「面倒事」だと思っているので、申し訳ないというスタンス…。
一方のアカギは自分が相談するように今まで伝えてきたのだから、それで良いと彼女を宥めた。
「…それに、今回の件に関しては実際you一人で抱え込むには荷が重い…。」
「それは……確かに…。」
だって警察沙汰の案件だしね、と示唆する内容を察して、思わず頷いてしまうyou。
「あ、それはそうと、アカギさん!」
「ん?」
「さっきの洗濯物!アカギさんの分まで全部捨てちゃったって…。」
「ああ、うん。」
「本当にすみません、わたしの所為で……あの、弁償しますんで!新しいの買ったら教えてください、お支払いします!」
「そんなの全然気にしなくていい。」
「気にしますよ!」
「オレの分とか買わなくていいから、自分の買いなよ。寧ろオレが選んで買ってやろうか。」
「お気持ちだけで結構です。」
「遠慮するなよ。」
「結構です。」
「チッ…。」
いつも通り、アカギのセクハラには塩対応で流すyou。
そしてこれまたいつも通りそれに舌打ちで反応するアカギだったが、
こと今回に於いては性的な軽口をあまり続けるべきではない方が適切かと思ったため、
それ以上彼女を追い詰めることはしなかった。
「そういえばyou、明日休み?」
「いえ……でも、ちょっと元気に頑張れそうな気がしないので、明日はお休みをいただこうかと考えています…。」
「そうだね、そうしなよ。」
「ズル休み、ですね。」
「全然狡くないと思う。身体だけじゃなくて心だって消耗するものだしね。ゆっくり休みな。」
「アカギさん……ありがとう。」
珍しく真面目な会話をして、自分の心を労ってくれるアカギの言葉にジーンときてしまうyou…。
というのも、先程の犯人の所業をアカギは見ているため、
もし、自分が助けに入れなかった場合、最悪彼女が見ていたベランダのあの光景のことを思うと、
1日といわず、長い事正気に戻れなかったかもしれないと考えての発言だった。
「さてと…ちょっと早いかもだけど、そろそろその「心」を休ませてやんなきゃな。」
「確かに少し早いかも…でも、そうですね…今日は早めに寝ようかな。」
「そうしなよ。」
「あの、アカギさん…。」
「何?」
「今日、アカギさんの部屋に泊まりたいんですけど……。」
「え。」
「……やっぱり、ダメですよね。」
急にサラリと夜の誘いの発言が想い人の口から飛び出し、アカギは驚いて目を見開いた。
当然ながら、その真意を確かめるべく質問を開始する…。
「いや、ダメじゃないけど……何で急にオレの家なの。」
「だって……犯人がまた家に来そうで怖くて。反対に、アカギさんの家には来ないでしょうし…。」
「あー…成程ね。」
それは確かに一理ある、と頷くアカギ。
「オレの家掃除してないから部屋ちょっと埃っぽいかも。」
「そのくらい…マスクして寝ますから。」
「敷布団だし。」
「問題ないです……ちゃんと片付けますし…シーツも洗いますよ。」
「枕1つしかないよ。」
「上からカバー代わりにタオル掛けて使わせてもらいますよ………て、うん??1つでいいのでは?」
「え、何……youの分はオレの腕枕ってこと?まぁ、オレは別に構わないけど。」
「アカギさんはわたしのベッド使ってもらって…。」
「何言ってんのアンタ。」
じわじわ噛み合わなくなってきた会話に、とうとうアカギがツッコミを入れる。
「オレの部屋に泊まるってことはオレの布団でxxxするってことだろ。」
「アカギさんこそ何言ってんですか。」
「いや、今のはそういう話の流れでしょ絶対。」
「いや違います!アカギさんの家にわたしが避難して、代わりにアカギさんがわたしの家に寝るって話です。」
「そんな話通じるわけないじゃん、バカなのアンタ。」
「ばっ…!?」
「あーじゃあ何だ、仮にオレがyouの部屋に泊まったとして、アンタのベッドはオレのxx塗れになるけどいいんだな?」
「嘘でしょ…。」
「マジ。それは流石にイヤでしょ。」
「イヤです、絶対イヤ。」
「じゃあ、どうするの。」
「ど…っ………。」
「自室でこのまま1人で寝れる?」
ブンブンと首を横に振るyou…。
「じゃあベッドが汚れる代償の元、部屋を交代する?」
「イヤです…!」
「じゃああとはオレの部屋で寝るしか無いんだけど?」
「でも、でも…。」
「はぁ…。」
呆れるように溜息を吐き出し、アカギは片手で彼女の後頭部に手を伸ばし、そのままyouの身体を抱き寄せた。
「こんな状況で手なんて出すわけないだろ…。」
「あ、あかぎさ…。」
「怯えて怖がるyouの顔はそそられるものがあるけど、それはその顔させてるのがオレだったらって話…。今回みたいに他の男…ましてや犯罪者なんかが怖がらせてる状況、良しとするわけない。」
「ふ、複雑な心境…。」
「甘言みたいに「オレが守ってやるよ」って、手籠めにするのは簡単だけどさ……敢えてそうしないオレを見てくれると嬉しいってこと。」
「~~!」
「さて、どうする?オレと一緒に布団で寝るか?」
後頭部に添える手と反対の手が、彼女の背中に回され、ぽんぽんとあやす様に背中を一定のリズムで叩いていく…。
自分のベッドを汚すなどという脅し文句には憤りを感じたものの、
よくよく考えれば、自分の伝え方も良くなかったという自覚が少しあるyou…。
微かに、一度だけ長めの呼吸をした後、まるでアカギの心音を聞くように胸に顔を預け、目を閉じて一言…。
「うん、そうします。」
と、伝えた。
それからすぐに「じゃ、行くよ」と玄関へ向かって歩き出したアカギに、
彼女は自分の部屋やリビングの電気を消して、付いていく。
そうして靴を履き替え、先に玄関に降りたアカギが家のドアノブに手を掛けながらくるりと振り返る。
「アカギさん…?」
「悪いけど、枕は貸せないよ。」
「あ、はい……それは別に問題ないですけど…。」
「youに貸せるのはオレの腕だけだから、それで我慢してよ。」
「は…っ…。」
フフ、と小さく笑って外へ出て行く。
やっぱり選択を誤ったかもしれない…と、眉根を寄せたものの、
チラリと振り返った薄暗い自分の部屋を見て、先程の恐怖が蘇り身震いする…。
申し訳ないの言葉ばかりだが、ここは最後までアカギの好意…(今は下心が大いにあるだろうが)に、
甘えさせておらうことにするyouなのだった…。
腕枕を借りるどころか
寧ろ身動きさえ取れない
抱き枕にされましたが?!
(you、朗報持って来たよ。)
(あ、アカギさん、お帰りなさい。朗報ですか??)
(この間の泥棒、犯人逮捕されたって安岡さんが教えてくれた。)
(本当ですか?!良かった…!)
(前科あったらしくて、結構な回数色んなところに盗みに入ってたらしいから、実刑かもなんだって。)
(おぉ!!)
(まぁ……ソイツのみならず、今では誰も恐らく福本荘に盗みには来れないかもだけどね…。)
(ええ……確かに…。)
(フフ、良かったね。)
(ええ、まさかわたしも、福本荘のあらゆる場所に大変性能の良いセンサーライトと高画質のウェブカメラが設置されるとは思いませんでした。)
(大家には「防犯強化してくんない?」って言っただけなんだけどな。)
(本当にそれだけですか…?)
(クク…さてどうだろうね、まぁ、ちょっとばかし圧は掛けたかも?)
(アカギさんの圧って…(半端ないんじゃ…)。)
(だって、またyouが被害に遭うの困るしね、絶対防がなきゃじゃん。)
(アカギさん……気に掛けてくれてありがとうございます。)
(まぁ…オレも流石に犯罪者にはなりたくないしね…。)
(え?どういう…??)
(だってyouのこと怖がらせた犯人とか、良くて半殺しにするかもしれないし……。)
(良くて半殺し?!)
(良くて半殺し。)
(…うん、遠藤さんがここまでセキュリティ強化した理由がよく分かりました。)
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*