step3_(日常編:カイジ)
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「you…絶対幸せにするから…。」
そう囁いて、神父の言葉に2人で「誓います」と、返事を重ねる…。
決定付けられたパターンにして、結婚式で最も重要な誓いのキスをすべく、カイジはゆっくりと彼女のヴェールをあげた。
「カイジくん…。」
「!!!!」
カイジくんとわたし2
「ギャァアアアア!!!」
という悲鳴を上げて飛び起きた福本荘203号の伊藤開司。
汗をびっしょりかき、着ていたTシャツがべったり身体に張り付いて気持ち悪い。
何か恐ろしいものに追われて逃げ続けていたかのように息切れし、うっすら涙さえ浮かべていた。
「あ…悪夢だ…。」
我慢できずにやっぱり涙は布団に零れ落ちた。
何とか気を取り戻し、ゆっくりとベッドから起き上がる。
現在、時刻は夜の10時。
既に食事も入浴も済ませて、TVを見ながら転寝してしまっていたカイジ。
二度目のシャワーで水道代が気になるところではあるが、自身の汗臭さに丸一日は耐え切れそうに無い。
カイジはまだ潤む目をゴシゴシ擦って、渋々シャワーを浴びることにするのだった…。
それから一時間後、やっと完全に落ち着きを取り戻したところで、家のインターホンが鳴った。
例えばそれは滞納分の家賃を取り立てに来る大家の遠藤だったり、
貸した3万円を回収に来る隣のマンションの一条だったりと、普段自分を訪ねてくる人物には碌な人間がいない。
(ここで、支払いを怠っている自分が悪いとは考えないのがカイジの悪いところなのだが…。)
そのため、警戒心を剥き出しにして、ドアの確認窓からそっと外の様子を見たのだが、
そこにいたのは今一番自分の心を支配している人物で、
また今はあまり会いたくない人物でもある、隣202号に住むyouであった。
会いたくはないが、好きなので会いたい。
結局カイジはドアを開けてyouの前に顔を出した。
「…you…?」
「あっ、カイジくん!よかった、ちゃんといた!」
「何か用か?」
「うん、こんな遅くにごめんね…あの……今から用事とか、ある…?」
「え?いや……特に無ェけど…つか、11時だし……出る予定も無い…けど??どうした?」
「えっと…そっか、じゃぁその……もう外に出て散歩したりとか……やっぱり誘ったら迷惑だよね…。」
「え、散歩…??」
「う…うん…。」
申し訳なさそうに、俯き加減でyouは「実はね…」と誘い出す真意を語る。
「コンビニに行こうかと思って……でも、もう遅いし…絶対行かなきゃいけないって目的も無いんだけど…。」
「はぁ…。」
「その、何か無性にちょっと高いあのアイスが食べたくなって……だから、コンビニ。」
「ああ、あのちょっと高いアイスな。」
「そうなの!で……一人で行ってもいいんだけど、何かちょっと怖くなっちゃって……カイジくん…付き合ってくれないかな、と思って…。」
「別に……いいけど……つか、寧ろ頼ってくれて嬉しいっつーか……!」
ほのかに照れたような表情で、カイジは頬をぽりぽりと掻いた。
そんな彼の言葉にパッと顔を明るくし、youは「ありがとう!」と歓喜する。
「夜は物騒だからな……今日だけじゃなくて、これからもそういう事あったらオレ呼んでよ。」
「い、いいの?!」
「当たり前だろ……危ないからyou一人で夜道歩かせらんねぇって…!!」
「カイジくん……優しい…。」
「いや、まぁ……youはトクベツっていうか…。」
「ふふ、何か嬉しい。」
「・・・。」
知らずのうちの特別扱いは周囲が気付き、当事者が気付かないことが殆どだが、
こうして「特別だ」と口にしてもらえると、有難い気持ちと、ちょっとした優越感を直に感じられるワケで…。
youもやはりそこは嬉しかったようで、
少し頬を赤らめて、カイジに「ありがとう」と笑みを向けた。
「よーし、じゃあ行こう!」
「ハイハイ。」
「あ!用心棒のお礼にカイジくんにもアイス買ってあげるね!」
「ハハッ……ま、それくらいなら素直に受け取れるかな。」
カイジにとってはyouとの時間そのものが報酬とも言えるのだが、
まさか面と向かってそんな事を言う勇気などあるわけもなく…。
ただ、気遣ってくれることも確かに嬉しかったので、
彼女が提案する報酬の申し出を有難く受け取ることにするのだった。
・
・
・
・
「これとこれと……クリスピーのも買っちゃおう!」
「(うわっ…何だコレ…『ガリガリくんナポリタン味』だと?!…えげつねぇ…ッ…。)」
「カイジくん、どれがいい?」
「え?!あ、えっと……普通にバニラかな。」
「おっ…何か通って感じだね。」
「そうか?」
ただ単にシンプルなのが一番美味しいと思うが故なのだが…。
もしかすると、男女の感性の違いというやつなのかも知れない…とぼんやり考えるカイジ。
そういえば彼女が手に持つフレーバーは味の賑やかそうな新商品で、
あながち自分の考えは正しいのではなかという気がしてくるのだった。
youが「どうぞ」とカゴを前に出すので、自分のバニラアイスを追加する。
ちょっとばかり申し訳ない気もするが、当初の予定通り、用心棒の報酬として買ってもらうことにした。
「ナポリタン味買わなくてよかったの?」
「いや…いい、マジで要らないから…。」
「意外とおいしいかもよ?」
「お願い、ギャンブル以外でも危ない橋渡らせないで!」
「(何か切実!?)」
会計を済ませた帰り道、とり止めもない話をしながら帰路に着く。
福本荘まで戻ってきたところで、youが何気無くカイジにアイスを今から食べないかと提案してきた。
「あ、迷惑じゃなかったらわたしの部屋でアイス一緒に食べない…?」
「え。」
「もう寝るとかだったら、いいんだけど…。」
「いや、いいのか?オレは嬉しいけど。」
「うん!!是非!どうぞ、上がって!」
「おじゃまします。」
迎え入れられたyouの部屋は自分の部屋と間取りだけ同じの全く別の空間だった。
201号のアカギ程ではないが、カイジの部屋もシンプルなもので、
生活必需品以外のインテリアといえば漫画が収まる本棚や雑誌のラックくらいのもの。
「(何度か来たことあるとはいえ…。)」
「カイジくん、コーヒと紅茶とお茶、何がいい?」
「あ、コーヒーで。」
「分かった。用意するから適当に座ってて~。」
「あ、ああ。」
テーブルの形、クッションの色、カーペットの柄…それら全てが自分の部屋と比べても
お洒落というか…女性的でセンスが良いというか……兎に角違うのだ、空間全てが…。
女性の部屋なのだ。
「(ニオイのせいもあるかも……何かいいにおい……youのニオイが…ってオレは変態かッツ!!。)」
「おまたせー!」
「おわぁああ!!」
「?!!」
「あ、さ…サンキュ。」
「う、うん…???」
後ろから声を掛けたとはいえ、カイジのあまりの驚きっぷりに、反対に驚くyou。
頭に疑問符を浮かべながらも、カイジの横に腰を下ろした。
一緒に持ってきたトレイを床に置き、テーブルの上にアイスと飲み物を用意する。
「はい、カイジくんのアイス。と、コーヒー。」
「サンキュ。」
「あ、アイス、ちょっと溶けかけていい感じ。」
「帰ってくるまでの時間が絶妙だったんだな。」
「いただきます……んっ…おいしい!食べたかったんだー、これ!」
「ハハ、幸せそうだなー!」
「うん、幸せ……カイジくんと一緒だからもっと幸せだよ。」
「へ!?」
「付き合ってくれてありがとう、こんな嬉しいの、カイジくんのお陰。」
「いや…オレの方こそ……アイス、オゴってもらってるし…。」
彼女の性格からして、素直に、純粋に甘い物を口にして幸せに思ったことから出た台詞なのだと、
頭で理解できていても、心は過敏に反応してしまう。
「(クソッ、またそういう言い方を……無防備過ぎだろ、マジ……オレじゃなかったら襲われるって…ッ。)」
夜中に、年頃の男女が同じ空間で時間を過ごすというこの状況…。
健全な男子であれば隙とタイミングを見計らい、いい雰囲気に持っていったところで
「いただきます」という事態を考えていてもおかしくないだろう…。
しかしながら、それはあくまで一般的な話であって、
こと伊藤開司に至っては、口ベタで、女性の扱いに手馴れてなどいないワケで…。
結局「いい雰囲気」に持っていくような術を持たない彼は、
彼女に「手を出せない」のではなく「手を出さない」のだと自分に言い聞かせ、
熱を帯びた溜息を一つ吐くと、それと真逆の冷たいアイスを口に含むに留めるのだった…。
「んー!流石、ちょっと高いこのアイス!安定の美味しい!カイジくん、わたしの食べる?」
「え、あ、ああ。」
ぼんやりとした瞳でアイスを味わっていると、ふいにyouに呼び掛けられた。
ハッと我に返ってみれば、彼女のアイスを味見するかということだったようで、
生返事をした後、ようやっと内容を脳内で噛み砕いた時には既にyouがアイスを掬って自分へとスプーンの先を向けていた。
「はい、あーん!」
「あ、さ…さんきゅー…ん。」
「どう、美味しい?」
「ああ、安定の美味しい、だな。」
彼女の食べていたフレーバーは新商品で、初めての味が口の中に広がる。
それでも、美味しいことに変わりはなかったので、彼女の言う「安定の美味しさ」と、
メーカー自体を賞賛する言葉で感想を返してあげた。
その答えに大いに納得したように、嬉しそうに笑うと、
今度はカイジの食べている味も試食させてほしいと小さなお願いをされる。
「でしょー?カイジくんのバニラももらっていい?」
「ああ……ほら。」
それくらい構わないと、カイジは普通に自分の分のバニラアイスをスプーンでひと掬いし、
雛鳥に餌を与えるように彼女の口元へとそれを向けてやった。
「あー……あむ!?」
「わ、悪ィ!溶けかけ!」
驚いた顔をしたのは御互いで、大盤振る舞いをして大きくアイスを掬ってやったことが仇となったようだ。
表面積をオーバーした部分のアイスがyouの口の端に当たって溶解してしまったらしい。
「んー…。」
「……?!」
「っ。」
ひとまずスプーンに乗った分のアイスを全て口に含んだものの、
youの口元から顎へ、溶けたバニラの雫が伝う。
その光景を薄く唇を開いて、固まったまま傍観してしまうカイジだったが、
気付けば、取り急ぎ指で拭き取ろうとしたyouの腕を掴んでいた。
「you……。」
「ん?」
「何か……エロい…。」
「!?」
「…もっかい……youのアイスちょうだい。」
テーブルの向かい側ではなく隣にいた事で、腕を掴んだ手を引き寄せればすぐに彼女の華奢な身体はカイジの胸に納まることとなった。
突然抱き寄せられたことに驚いたyouだったが、どんどん近付くカイジの男らしい顔に目を見開いて、その名を小さく呼ぶ…。
「え、か……カイジく…んっ…!?」
「ん…っ…。」
そうなる予感はあったのだが、それはあくまでも「口付けられるかもしれない」という行為のみ。
しかし、実際にはyouがカイジの名を呼んでいる最中、唇が触れた瞬間にその開かれた口の中に有無を言わさず舌が侵入…。
普通のキスだけでも驚きなのだが、舌まで入ってきたうえに、
口内に残ったアイスの甘さを余すところなく堪能するように執拗に蹂躙される。
最終的に唇が離された時には、お互いに呼吸は荒く、youに至ってはじんわり涙が目尻に滲んでいた。
「ふぁ…っ…!」
「すげー……甘い。」
「かい…。」
「オレ……ヤバい……多分……つか絶対…オレ、youのこと……すげー好き…。」
「え…え…?!」
「さっき、転寝してて……youの夢、見た。」
「ゆ、め?」
「…you、ウエディングドレス着てた。すげー綺麗だった。」
「そ…それはまた……突拍子も無い夢、だね。」
「ん…でさ、いざキスしようとベールを上げると……うぅっ…!」
「(何故身震い?!)」
「上げるとみこ…(っぶねーーー!!美心の名前出すトコだった!!)」
「とみこ?」
「いや…ベール上げると……それが、別のヤツに代わっててさ……相当ショックだった。」
「そ、そうなんだ…?」
「うぅっ……ああ…っ!」
再びフラッシュバックしたようでうめき声をあげて目をぎゅっと閉じるカイジ…。
ショックというより衝撃的と言った方がいいのでは…と思ったものの、そこはつっこまずに流しておくyouであった…。
しばらくした後、少し落ち着きを取り戻したカイジがぽつぽつと今の心持ちを独白するように彼女に伝え始める…。
「だから……ずっと…夢の中でも……you「と」……キス、したかった…みたい、で、す…オレ…。」
「そっ……そう……なんだ…?」
真っ赤な顔でコクリと小さく頷き、自分の素直な気持ちを正直に打ち明けるカイジ…。
まずはキスをされたことに驚き、その動揺が落ち着いたと思えば突如として向けられたカイジからの好意…。
更なる困惑のため、youは怒る、憤る、叱る、詰問する…という行動には自分の感情を移行できなかった様子…。
暫しの沈黙が訪れたのち、プルプル震えて喚きだしたのはカイジであった…。
「うぐぁあ…!!現実で…こんないきなり……キスしてマジでごめんッ……でも、嫌われたら多分、オレ一生立ち直れない…ッ。」
「そんな、嫌いになんて…ならない、けど……正解かは…分からない…ちょっと憤ってる。」
「う…けど…ッ、後悔はしてない……!」
「・・・。」
「してないッツ!!」
「カイジくん…。」
「あっ……でも、youがオレなんかクズでまるでダメな男だからキスとかしたくなかったってドン引きして泣くくらい嫌だったら滅茶苦茶申し訳なかったと全力で謝罪するしか……いや、逆に金払わないとダメか…?っていうかダメ……圧倒的ダメ…寧ろアウツ…ッ!寧ろ警察沙汰…ッ!?」
「急にどうしたの?!!」
今までの意志の固さは幻か…急に自分を卑下するカイジ…。
この期に及んでも負け犬根性はなかなか抜けないらしい…。
めそめそと泣きながら、キスしたことを猛省していると、
youはくすっと1つ笑みを零してカイジの頭をぽんぽんと撫でた。
「ひぐっ……you…っ。」
「そんなめそめそ泣いちゃヤだよ、カイジくん…。」
「っだって…!」
「もう、さっきの威勢の良さ、どこいっちゃったの?」
「儚くも消失しました…。」
「もう、消失させないでよ……折角……ちょっとカッコイイなって思ったのに…。」
「へっ…?」
「ビックリしたし、今でもちょっと混乱してるから怒るべきか悩んでるけど……。」
「ううっ…や、やっぱり…。」
「でも、腕を掴まれた時とか……後悔してないって言い切った時のカイジくんは……ちょっと男らしくてドキドキした。」
「!!」
「そういうカイジくん……初めて見たから…。」
「えっと…。」
そういえば、201号のアカギや大家の遠藤、近所の一条などはカイジの事を「本気になると豹変する」と言っていたことを思い出し、
今のような姿が彼らの言う本気の際の伊藤開司なのかもしれない…と人知れず考えるyou。
「カイジくんって不思議…。」
「は?え?な、なんで…?」
「明るかったり暗かったり、弱かったり強かったり……結構波が大きいよね。」
「は……はは…(自覚しかねェ…)。」
「ふふ、わたしもっと、カイジくんの事知りたくなっちゃった。」
「えっと……多分悪いトコの方が多いから恥ずかしい限りなんだけどさ……知りたいって言ってもらえるのは、正直嬉しい。」
「ふふ、きっと良いところも沢山あるよ。」
「あー……沢山、見つけてもらえるよう努力する。」
「うん…。」
「オレも、youのこと……もっと知りたい。」
「じゃぁ……改めて言うのもなんだけど………これからもよろしくね、カイジくん。」
「…おう、よろしくな……you。」
まるで小学生が仲直りや友達を作るために挨拶するように、至って真面目な言葉で手を差し出すyou。
自分の愚行を、怒るでも嫌悪するでもなく窘めて、これからも笑顔を向けてくれると言ってくれただけでもありがたいわけで…。
少し照れくさそうに頬をぽりぽりと掻きながらも、カイジはその手を取ってぎゅっと握るのだった…。
改めまして
君が好きです!!
(ところで、カイジくんの夢でわたしが出て、その後誰に代わってたの?)
(ちょっとそれは言えません…。)
(そ、そっか……そう……。)
(すげーいい女ではあるんだ……youと違ってスタイルもモデル並にめっちゃいいし……でもどうしてもダメなんだよ…それでもオレはやっぱyouが……!)
(・・・。)
(・・・ぁ。)
(カイジくん。)
(本日の営業は終了いたしました。速やかに203号へお帰りください。)
(いやっ、違う!そうじゃなくて!オレが言いたいのは!!)
(最低!もう出てけぇええ!!!)
words from:yu-a
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