step5_(恋人編:アカギ)
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「単刀直入に申し上げます。赤木しげると別れていただけますか。」
「え…。」
思考停止に陥るには十二分の言葉に
文字通り絶句した休日の午後
アカギさんといっしょ17
それはちょうど、アカギが安岡からの依頼で他県に麻雀の代打ちとして連れていかれて2日目のことだった。
休みの日のお昼過ぎ、近所のスーパーに買い物に出掛けようと福本荘の敷地を出て数歩歩き出したところで、
とても洗練された…しかし何処か冷たさと翳りのある美人な女性に声を掛けられたyou。
「少しお話いいかしら?赤木しげるの恋人……youさん?」
「え…あ、あの……貴女は…?」
「まずはイエスかノーかで質問に答えてくださるかしら?」
それは質問と言うよりは尋問に近い形で問い詰められる…。
少し不快に思ったものの、どうしてか逆らったり反論するのが怖く思え、
youは一呼吸置いた後、ゆっくりと頷いた。
「…はい、そうです。」
「そう……色々思うところはあるけれど……そういう野暮ったい話をするのは醜いからしないわ。」
それってつまり「貴女は赤木しげるに相応しくない」と言いたいのですよね…と、喉元まで出掛かった言葉を何とかぐっと堪えるyou…。
「少し…貴女と話をしたいのだけれど……お時間をいただくこと、できるかしら?」
「スーパーに行くだけでしたので…構いませんよ。」
「じゃあ、その近くに何処か喫茶店やカフェはある?そこで話しましょう。」
「あー……ありますね、じゃあすみません、付いてきてください。」
特にスーパーへの買い物以外の予定も無いし、目の前の女性はアカギに関して何かとても重要な事を伝えたいのだろうと察したため、
youは意外にも素直に受け入れることにした。
それから2人で少し歩き、youの目的地であったスーパーの近くにあるカフェを訪れ、
各々の注文した飲み物が届いた後、目の前の席に座る、未だ名も知らぬ女性が口を開いた。
「初めましてyouさん。黒崎と申します。」
「黒崎、さん。」
「単刀直入に申し上げます。赤木しげると別れていただけますか。」
「え…。」
まだ挨拶を交わして名前を確認しただけだと言うのに、目の前の彼女はいきなり本題も本題を投げ掛けてきた。
何となくだが、出会ってからの雰囲気で恐らくはそのようなことを言われるのではなかという予想はある程度していたのだが、如何せん早すぎる…。
その為、youは流石に切り返しの言葉が上手く出てこず、フリーズしてしまうこととなった。
「聞いてます?」
「あ、は、はい……聞こえて、ます…。」
「ご存じかとは思いますが、まずは麻雀。あんな神懸かった闘牌、フリーにしておくなんて世の中の為にならない……彼はそんな逸材。私はその輝かしい道を膳立てする事ができる人間。それが1つ。」
「は、はぁ…。」
「まぁ、それは別にオマケみたいなものよね……人が敷いたレールをすんなり歩いてくれるような男じゃないだろうし……だから、こっち。こっちが本題。」
「?」
麻雀に関しては、周囲の人間の反応も知っているため、表であれ裏であれ、そういう道に進まなくても良いのかyou自身も気にはなっていた事…。
しかし、彼女は「それはオマケ」だと言う。
少しだけ小首を傾げたyouの呼吸が数秒停止したのは、この後のことだった。
「私、妊娠してるの。」
「・・・。」
「6か月目、安定期。手放すつもりはないわ。」
「・・・。」
「私の言いたいこと、分かりますよね?」
「・・・。」
「貴女には悪いけれど……この子の為にも、やっぱり彼が必要なの。なので、別れていただけますか?」
「ちょ……っと…理解が…。」
「・・・。」
「すみません……なんと言いますかその……青天の霹靂…。」
彼女の声と言葉を耳に入れる毎に正に雷に打たれたかのような衝撃が走り、
数分と経たずにyouの脳内はぐるぐるとパニックに陥った…。
そんな彼女を見て、軽い溜息を吐いて、女性…黒崎は冷静に、淡々と語りかける。
「貴女が混乱されるのも理解できます。けれど、現実。何なら母子手帳でも確認しますか?」
「結構です……結構です……必要ないです…。」
「それは……私の言ってる事を信じるということ?」
「にっ……妊娠…されていらっしゃることを疑ってはいません……でも…本当に…。」
「彼の子なのかって?」
その言葉にコクリ、と頷くyou。
「あまり言いたくはなかったけど、信じてもらうためには致し方ないわよね……私、黒崎組…組長の娘なの。」
「え…?!」
「だから彼とは代打ちの場で知り合った。さっき「赤木しげるが輝ける道を用意することができる」って言ったのものそのせい。」
「なる…ほ、ど…ですね。」
「彼が身を置く場所……何処が相応しいか…それも併せて考えていただければ幸いよ。」
「・・・。」
「できれば穏便に、彼から離れてほしいと思ってる。」
「お、穏便…?」
「ええ。」
そう言うと、彼女は徐に横に置いていた高級なブランドバッグから厚みのある茶封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。
十中八九、現金が入っているであろうそれと、彼女の顔を交互に見るyou。
「これは引っ越しの資金。海外で暫く暮らせる程の額は入れていますが……足りなければ追加でお渡しします。」
「ひ、引っ越し?!か、海外?!」
「あの家……ひいては赤木しげるからそっと離れて暮らしていただきたいので。だって、傍にいるの、辛いでしょう?」
「!!」
「何も言わず、そっと出ていっていただければありがたいわ。とても。」
「そんな…それは無理です!」
「勿論すぐにとは言いません……でも極力早めの方がいいから……返事は早くいただきたいの。youさん、次にお会いできるのはいつ?別にお休みの日でなくてもいいの、昼でも夜でも、時間あります?」
「え……ええ、夜なら……大体いつでも…。」
「そう・・・それなら3日後、20時頃にまたこのカフェで待ち合わせていいかしら?」
「わ………かりま、した…。あの!でもこのお金は持って帰っていただけますか!?」
「・・・分かったわ。じゃあ、それまでしっかり考えてほしい……私のことはいいから、彼の今後の事、彼の子どもの事……主にこの2つね。」
「・・・。」
「では、お先に失礼するわ。今日はお忙しいのに時間を作ってくださってありがとう。ここは私が払っておきます。」
「あ、いえ!自分で…!」
そんなyouの反論も聞かぬまま、彼女は颯爽とカフェから退店していった。
本当はその場ですぐにでもあれこれ考えようとしたのだが、全く考えが纏まらず…。
更に言うと、しっかり考えてしまえば確実に動揺して人前にも関わらず泣いてしまうであろうと確信があったため、
youは少しフラつきながらも、何とか自宅へ戻り、その日はそのままベッドにダイブして夜まで眠ってしまうのであった…。
・
・
・
・
それから約束の期日までの時間が永遠にも長く感じたのは言うまでもなく…。
思考が定まらずボーっとして包丁で手は切るわ、赤信号に気付かず横断しようとして轢かれそうになるわ、
情緒不安定極まって、急に涙腺が緩むので慌ててトイレに駆け込んで号泣したり…。
肌は荒れるし、目のクマもたった数日で酷い状態…。
そんな状態で、いよいよ明日は再度の対話の日…。
できることなら、アカギと2人きりで件(くだん)の事についてきちんと話し合いたかったが、それもどうやら叶いそうにない…。
自分が去るか、それとも子どもから父親を奪うことを選択するのか…。
結局どちらも決められないままでいた。
決められないままではあるが、もしかすると、これが最後になるかもしれないと思ったら、
youの手は自然に携帯を掴み、アカギに電話を掛けていた。
数コールののち、愛しい声で「もしもし」という言葉が聞こえ、通話が開始される…。
「you、どうしたの?」
「ちょっと…アカギさんの声が、聞きたくなったので…。」
「フフ……そう、オレもyouの声聞けて嬉しいよ。」
「…ありがとうございます。」
「もう寝るところ?」
「もう少ししたら、寝ようかな……あ、アカギさん…麻雀は…?」
「昨日終わったよ。勝ったから安岡さんが色々贅沢したいらしくて付き合ってる。明日明後日くらいに帰る予定だから。」
「明後日…。」
「全然楽しくないから、オレとしては一刻も早く帰りたいんだけどね…。」
「ふふ……安岡さんには色々お世話になってますから、孝行しないと…。」
「世話にになった覚え、無いけど…。」
どっちかと言うと世話してる方なんじゃない?と、笑うアカギ。
「ああ、何か……声聞いたら会いたくなるね。」
「そうですね。」
「いかん………抱きたい。」
「わたしも、アカギさんにぎゅーっと抱き着きたいですよ。」
「オレのはそういう意味じゃないんだけど……まぁ、いいか。」
「抱く」の意味が違うと指摘しようかとも思ったが、
彼女の言う意味合いの「抱く」でも今は十分嬉しい言葉であるため、敢えて言わずに享受することにするアカギ…。
そんな折、ふいにyouが「ちょっと聞いてもいいですか?」と質問を投げかけた…。
「アカギさん……もし、わたしが急にいなくなったら……やっぱり探す?」
「え…何急に………探すに決まってるじゃん。」
「そっか……見つける自信は?」
「あるよ……世界の果てだろうが地獄の果てだろうが……絶対見つけるし、逃がさない。」
「はは、こわいなぁ……。」
「・・・you、何かあった?」
質問を投げかけたところから、明らかに声色が変化したことに気付いていたアカギ…。
しかし、まるで抑えることが難しい…というように、彼女は尚も一方的に言葉を紡ぐ…。
「あのね、アカギさん……。」
「ん?」
「もし、わたしの事探し出して見つけたら…。」
少しの間をおき、震える声でとんでもない懇願を、言った。
「アカギさんから逃げちゃった、わたしのこと、ちゃんと殺してくださいね…。」
「…you…?」
「やくそく……っを、まもって、くださいね…っ?」
「おい、ちょっと待て…。」
みるみるうちに彼女の言葉は筋道を失い、電話越しの声はもう震えるではなく、
明らかに泣いてしゃくり上げる声へと変わってしまった…。
それでも、彼女は一番伝えたいことだけは…と、泣きながらアカギに呼びかける…。
「アカギさん…っ…。」
「you、今家?どこにいるの?」
「アカギさ……っごめんなさい、やっぱり信じてる。さよなら、したくない……アカギさん、大好きです。」
「youってば!」
受話器の向こう側でアカギが声を荒げたところで、電話を強制的に切ったyou。
切られたアカギはというと、通話終了の画面をじっと見つめ、
たった数日の間に何かとんでもないことが起こったことに困惑し、思わず呟きが零れた。
「アイツ……何があった…?」
・
・
・
・
約束の期日…即ちアカギが他県に出掛けて5日目の夜…。
約束の時間よりも大分早めにyouは先日のカフェに到着し、彼女を待っていた。
早めに来ないとそれこそボーっとしたり、焦って事故に遭遇しそうな気がしていたから…かもしれない。
約束の時間ピッタリに彼女が遣って来て、前回と同じ席に同じように向かい合って着席する…。
「それで、答えを出していただけたかしら?赤木しげると、別れてくださる?」
「アカギさんは…子どものことをご存知なんですか?わたしが見てる限りでは知らない様子なんですが…。」
「youさんは………知り合ってからはどうか分かりませんが、あの人と付き合い始めてからは間もないですよね?」
「それは…はい、まぁ…。」
それに関しては彼女の言う通りであるため、youはコクリと頷く。
アカギと出会ってからそれなりの時間は経過しているが、
確かに彼女が妊娠して約半年と言っていたため、その時点ではまだ付き合ってはいなかった、と。
しかし何故、そのことを知っているのか…そもそも何故自分の顔や名前を既に知っていたのか…と、
ようやくここで改めての疑問点が湧いた。
「申し訳ないとは思ったけれど、問題が問題なので、彼の身辺の調査を依頼したの。幸いお金には困っていないから。」
「ああ……それで…ですか。」
「ええ、だから……貴女が去った後、彼が身軽になった状態で話したいの。」
「…え…でも…普通真っ先に本人に伝えたいものなんじゃ…。」
「伝えようと思ったところ、いつの間にか貴女という存在がいたの。ご理解いただけるかしら?」
「・・・。」
多少違和感を抱いたものの、思った以上に冷静沈着で物事をスマートに運びたい人格なのかもしれない…とyouは思う。
しかしながら、一方的に自分が邪魔者扱いされるのもなかなか堪えるものがあり、
一先ず、自分の抱いた正直な感想を伝えてみることにした。
「あの…!お気持ちは分かるんですが…それでもやっぱり、わたしはアカギさんも呼ぶべきだと思います!」
「そうしたくないから貴女に直接伝えて来たのに……それが分からないワケではないでしょう?」
「だとしても、です…!黒崎さんの状況や心情…お話を全て聞かせていただいた上で、わたしはそう思ったんです。」
「話にならない。」
そう一蹴する彼女の言葉に、自分の膝の上でぎゅっと両拳を握って、ずっと言いたい気持ちを詰まらせていたyouが
とうとう、意を決したように感情的な言葉を吐きだした。
「それでもやっぱり………わたしはどうしようもなくアカギさんが好きです……稚拙に聞こえるかもしれませんが、アカギさんが好きで、大好きで……何があっても信じてるんです。」
「はぁ…。」
「アカギさんが「絶対裏切らない」って言った言葉を、信じてるんです。」
「子どもの為に身を引こうとは思わないのね。」
「っ……それは……それは状況によります!」
「状況…?」
「アカギさんとわたしが納得できる結果であれば、わたしは……凄く悲しいですけど、辛いですけど、お子さんのために身を引ける…と思います、身を引きます!」
「納得できる結果っていうのは……この子の父親が彼なのかという確証…ということ?」
「ええ、相違ありません。」
「困った方ね……聞き分けの無い……先に説明した通り、私は組長の娘、貴女をどうにでもできるのよ?」
穏便に済ませるのは結果的に貴女の身の安全のためなの、と…。
話を別方向から切り返した黒崎。
しかしながら、幸か不幸か、赤木しげるという存在のお陰もあって、
多少なりとそういった凄みや脅しの環境に耐性が備わってしまっているyouにはあまり効果はなかった様子。
「では……お伺いします……なぜ、何故黒崎さんはアカギさんを此処に呼ばないんですか?」
「!」
「まるでアカギさんに会う事自体を避けているみたいで…。」
「貴女…!」
「アカギさんが不在の状況でわたしに直接話をされたのも意図的なのではないですか?すみません…どうしても…わたし…。」
「子どもの話が嘘だと?私の話を信じていないってことですか?」
「ち、違います……アカギさんを信じてるだけなんです!だから真実が知りたいだけで…!」
「屁理屈もいい加減にしていただけないかしら?!」
これが非堅気(かたぎ)である彼女の持ち得る素質というものなのか…。
今にもテーブルを思いっきり叩きそうな表情を浮かべた目の前の彼女に、youは一瞬ビクッと肩を震わせる…。
それでも、懸命にyouは訴えた。
「だって!わたしと同じようにアカギさんを信じていらっしゃるんでしょう?」
「ッ…!!」
「アカギさんは……そんな重要な事を無碍にする程不誠実な人じゃないですし……だから、黒崎さんもアカギさんを信じてちゃんと話すべきです…。わたしに対しても、アカギさんに対しても…それが誠実な対応だと……お、思うの、で…っ!」
「貴女いい加減に認めなさいよ……この子は彼の子なの!そもそも貴女に対しての誠実って必要なの?」
「わたしへの誠実さが不必要でも、アカギさん、への誠実さは必要…なんじゃないかと…っ!」
「だからそれは、貴女がいなくなった後に彼にする話よ!いいから、お願いだからさっさとお金を受け取って彼の知らない場所へ消えてちょうだい!!」
「…っ!!」
今度こそバン!と、彼女は鞄から取り出した現金入りの封筒をテーブルに手と共に叩きつけた。
youはそれを見もせずに、ただブンブンと泣きながら首を横に振り、拒否を示す…。
そんなものは要らない、ただ今すぐアカギに会いたい…と、嗚咽を飲み込んだ刹那…。
「ふーん……成程、それで急にいなくなったらどうするの何のって、聞いてきたワケだ?」
「「!!」」
耳に届いたのは聞き知った声…。
先日電話越しに聞いて、本当はすぐにでも直接聞きたいと思っていた赤木しげる、その人の声…。
「随分面白い話してるじゃない……誰に、誰の子どもがいるって?」
「あ…あか…。」
「ただいま、you。遅くなってごめんな。」
今すぐにでも抱きしめて深いキスでも落としそうなくらい愛おしそうな顔でテーブル席に座っているyouを見下ろすアカギ…。
既に泣いているyouには、その表情は滲んでいて殆ど見えていないので、
アカギの表情を見て知っているのは目の前の女性のみ…。
彼女は突然の当事者の乱入にざわ…と、動揺した表情を浮かべた。
「赤木……しげる……。」
「…どうも。オレの連れが世話になったみたいで。」
「どうして…ここに……そう……貴女、もう既に彼に知らせてたってワケ?」
既に自分との会ったことや、話した内容を伝えており、
他県に行って暫く留守にするはずのアカギに戻ってきてくれるよう伝えていたのかと問う黒崎…。
youは無言で首を横に振り、自分は知り得ない…と否定する。
「you、ちょっと横詰めて。オレが聞かないとダメそうな話みたいだし、立ち会わせてもらうよ。」
女性2名が互いに混乱する中、飄々と現れた男は眼下のyouの頭をポンポンと撫でると、
すぐに4人掛けのその席、youの横に誰の許可も得ずに堂々たる様子で着席した。
「あ……あかぎさ……ど、して……戻っ…。」
「昨日の夜、あの電話終わってすぐ宿出て、最終の新幹線で戻ってきた。安岡さんには後で連絡するよ。」
「っく……ごめ、なさ…。」
「何でyouが謝るの?何か……どちらかと言うとオレの所為でまたアンタの方が巻き込まれてそうなんだけど…?」
ハァ…と、小さく溜息を吐くと、アカギはテーブルの下でyouの手を掬い取り、力強くぎゅっと握った。
「それで……どこの誰がオレの子どもを妊娠してるって?」
「ぁ……えと…。」
尋ねられたのが自分か、彼女かは分からなかったが、アカギに問い掛けられたにも関わらず
暫く待っても彼女の口から説明が始まることはなかったため、恐る恐るyouが代わりに説明を始めた。
「こちらの……黒崎さん……今妊娠6か月目で……安定期に入られてて……。」
「ふーん…そう…それで、オレの子どもだからyouに身を引けって?金を渡してどっか遠くに行かそうとしたワケだ。」
「・・・。」
先程の会話を少し聞いたのと、昨日のyouとの電話だけで凡そのアタリを付けてのことだろうが、
それはもう見事な推察で、思わずyouは大きく頷いてしまった。
すると、アカギは徐にyouの方へ顔を向けて質問をする。
「youが福本荘に来て何年経つっけ?まるっと2年ちょいは経つよね?」
「え…あ…そうですね。」
「なら、まだ生まれてもないオレの子どもがいるってオカシイよな。」
「「え?」」
アカギの言葉に声を合わせたyouと黒崎…。
「福本荘に来てそう経たないうちに好きになっちゃったからね……。」
「えっと…。」
「要するにyouと知り合ってから、オレ一度も女抱いてないから、子どもとかできるワケないって話なんだよね。」
「「は?!」」
「そも……仮に好きでもない奴とヤるのにオレそんなヘマしないし…。」
ボソッと心の声まで吐露したアカギだったが、そんなことより前者の言葉の方が2人には衝撃だったらしい…。
絶句する彼女たちを他所に、アカギは最後の独白を続けた。
「だから、youが気になるならDNA鑑定?でも何でもやって証拠出させたっていいよ?」
「っ……!!」
「そもそも、おたくはどちらさん?」
「!!」
目の前に座る美女、黒崎を見つめてアカギは「お前は誰だ」と問うた。
当然、知り合いも知り合い、さぞ親密な関係にあるのだろうと思っていたyouとしては驚き以外の何物でもない…。
泣き腫らした赤い目を丸くして、彼女はアカギと黒崎を交互に見遣る。
「私を……覚えていない、ですって…?」
「悪いけど…。」
「黒崎組の娘……貴方と麻雀で勝負したわ!」
「黒崎組…?」
「そ、それすら覚えてないって言うの……信じられない…!」
「悪い…キョーミ無い相手との会話とか出来事ってあんまり覚えてなくてさ…。」
「あの時、貴方はうちの兄弟組の藤野組の代打ちとして来ていたはず!」
「あー… 藤野組は覚えてるよ、何となく。」
「じゃあ対戦相手は?!」
「・・・いや、覚えてない。」
「私よ!!」
「?!」
今までの冷静沈着でしたたかそうな様子は何処へやら…怒り心頭といった様子でアカギに食って掛かる黒崎。
しかし、彼女の話を聞いても尚、イマイチその存在にピンと来ていない様子のアカギ…。
「南場から対戦相手が代わったの……覚えていないの?!」
「南場から…あ!そういえば女に代わった気が……あれ、アンタだったのか。」
「そうよ!!私の……私の代打ちデビュー戦だった!!」
「あぁ…成程、だから……(東場の流れの記憶しかないのか)。」
「そう……貴方に完膚なきまでコテンパンに負かされた屈辱のデビュー戦だった!」
キッときつい眼差しをアカギに向け、彼女は更にアカギへの怒りをぶつけ続ける。
「あの時、藤野組の若頭に言われたはずよ!?黒崎組の娘だから勝ちを譲るようにって!!なのにあんた……それを無視して!!」
「生憎と金の為に打ってるワケじゃないからね……八百長とかまどろっこしい事は御免被る。」
「父に無理を言って代打ち稼業を許してもらったのに……箔をつけて依頼が舞い込むどころか、初陣惨敗だなんて、道を断たれたようなもの……アンタの所為で私は…!!」
「そんな膳立てで代打ちとはね……そもそも、わざと負けてもらってアンタ嬉しいわけ?」
「ぐっ…!」
彼女は自分本位な考えを怒りに任せて吐露した結果、アカギに正論を突き付けられて言葉を噤む…。
ただ、結果的にyouとアカギが理解できたこととしては、
誤解が解けて、これからも変わらず傍にいられるだろうという事…。
「まぁ、あの時の南場の対戦相手がアンタだったとして……その時しか対峙してないアンタと、オレがどうやって子ども作れるって言うんだ。」
「・・・。」
「そろそろ、本当の事話してもらわないと……流石に今回のはyouを傷付け過ぎてる……オレも本気で怒るレベルなんだけど?」
それは冷ややかな視線と言葉の温度で…。
今まで激情に駆られて発言を繰り返していた彼女を押し黙らせるには十分過ぎる程のものだった。
それから冷静さを取り戻した彼女の口から、ようやく本当の事が告げられた…。
アカギと対戦して、代打ちとしては初手から惨敗というレッテルが付いて回り、大成することがかなわず、
親分である自分の父親に「自由に生きる事」を認めてもらえなかったこと…。
そのため、兼ねてから付き合っていた一般人の恋人との間に子どもができた際、
父の差し金で別れさせるために彼の元に組から圧力が掛かり、自分が黒崎組の組長の娘だと分かってしまったのだという…。
「ヤクザの娘となんて結婚できるわけない、子どもは勿論堕ろせ……そう言われて、それっきり……。」
「そんな……それこそ、お父様の圧力の所為で、彼の本心とは違うんじゃ…。」
「だったらどんなに嬉しかったか……これでも、お互い結婚考えて子ども作るくらい長く一緒にはいたんだから……分かっちゃうよね……本心で嫌悪して言ってたって。」
「・・・。」
「それでも音信不通になった後、父が何かしたんじゃないかって心配で……酷いことをされて入院したり、まさかの話、最悪殺されてないか本気で心配して……でも違った。そうじゃなかった……ただ、お金を受け取って、引っ越しただけだった…それだけだったの。」
彼女の話を、眉根を寄せて聞いていたyou…。
掛ける言葉が見つけられないでいると、彼女はアカギから言われた通り、
ここまでに至った経緯を全て語ってくれるようで、話の続きを始めてくれた。
「そんな父が、言ったの。あの藤野組との対戦を見学していて…『赤木しげる…あの男程の才があるのなら、たとえ一般人だとしても相手として申し分ないだろうな』と。」
それからも代打ちにはなれずとも、麻雀は好んで打っており、組員や雀荘などで周囲の者たちから
アカギの打ち手としての凄さを改めて伝え聞き、気付けば憤りは消え失せ、憧れと羨望、渇望といった欲求に変わっていったのだという…。
「組長の眼鏡に適う程の男なのに、その相手が貴女で……彼に何ももたらすことができないのに、って……私なら…私ならって思って。」
「うう…(その通り過ぎて反論できない…。)」
「本当にごめんなさい………申し訳ありませんでした…。」
「あ、いえ……本当の事が分かったので、それだけで十分です……。」
「もう二度と、お2人の前には現れません……本当に反省しています…。」
「あの………お子さんは…。」
「生みます……だって……組長の娘だと分かるまでは本当に…お互いを分かっていたし、愛してた確信があるから……。」
「そうですか…。」
「…それに…彼の判断は、一般人の考え方としては圧倒的に正しい……正しいと分かる自分がいるから。……悪を嫌悪する、正義感の強い子になってほしい。」
「黒崎さん…。」
そう育てます、と強く言い切った。
全てが明らかになり、どこか吹っ切れたような眼差しで改めてyouとアカギに詫びを入れ、
此度の騒動の発生源である黒崎はカフェを出ていき、ようやくいつもの穏やかな日常が戻る事となった…。
その場に残されたアカギとyouだったが、今までの会話の内容が内容なだけあり、
このような公共の場所で引き続き話しを続けるべきではないだろうと、家に帰って膝を突き合わせることにした。
それから約10分程で福本荘のアカギの家に帰り着いた2人…。
広めのベッドの上で、向かい合って話し合う…。
「あ、あの……まずはアカギさん……おかえりなさい!あと……先程はありがとうございました…。」
「ただいま。」
「あっ!安岡さんへ連絡!」
「大丈夫、さっきメッセージで送った。」
「良かったです!」
「はぁ……何でオッサンの心配してんの………絶対自分自身の心の方が心配の優先度高いでしょ……。」
「はは……そうですね……流石に今回は……っ…ずっと…胸が苦しかったです…。」
アカギのツッコミに、賛同した直後…ここ数日の眠れない夜や纏まらない答えを抱えて生活した昼間を思い出し、
youは思わず堪えられずに涙を零す…。
アカギは彼女の腕を引き、すぐに隙間なく抱きしめた。
「しかしまぁ…凄い嘘吐かれたな………苦しかったろ。」
「ん…ぅ…はい、とっても。だって……お相手も組長さんのお嬢さんでしたし……この凡夫極まれりなわたしでは、いよいよ太刀打ちできないぞ…とか…。」
「関係ねェな…そんなこと……立場や肩書なんて人間性には関係ないしね。」
「そうは言いますが……わたしは本当に…圧倒的に持たざる者なんだって思い知りました…。」
「・・・。」
またじわりと目尻に涙が溜まり、はらはらと透明な涙が流れ、抱きついているアカギの服に零れ落ち、その色を濃く変えた。
「黒崎さんに「私はアカギさんが輝ける道を作ってあげれる立場にある」って言われた時…反論できなかった……そういうの、アカギさん自身が要らないと思ってても、それでもやっぱり…わたし、何もしてあげられないなぁ……って…っ。」
「ちゃんとオレの事分かってるのに、何をそんなに自分を卑下する必要があるんだか……本当にバカだね、youは…。」
「わ、わかってます…っ、ばかです…っ!」
「youは何も持ってないワケじゃない……自分で気付いていないだけ。」
「…?」
「でも、それでいい……それはオレだけが知ってればいい話…。」
様々思う事はあるが、最終的に言うなれば「だってオレを愛する事に命を懸けてくれてるじゃない」の一言に尽きる。
ただ、それくらいは理解できるだろう、とも思うのでアカギはそれ以上なにも言わず、ただyouを抱きすくめてキスをする。
まだもう少し、言葉を交わしたいとも思ったため、一旦唇を離して視線を合わせたアカギ…。
「地位や立場の差もあって、子どもなんてカードまで出されたのに……退かずに信じてくれたんだ、オレのこと。」
「はい…ぃっ…。」
「・・・ありがとう。」
「アカギさん……ずっと、会いたかった。」
「そうだな……そうだよな、もっと早く帰れば良かった……けど、間に合ってよかった…滅茶苦茶後悔するとこだった…。」
あと1日遅ければ、こうやって胸に抱きしめることも叶わなかったかもしれない…と。
安堵の混じった長い溜息を吐くアカギ…。
そうして、未だぐずぐず泣いているyouの背中を優しく撫でていると、
少し呼吸が落ち着いたところで彼女は大きく深呼吸をして、アカギからゆっくりと身体を離した。
「本当に今更なんですが……アカギさんの子じゃなくて良かった…。」
「ていうかありえないでしょ。」
「ありえない……は、あの…聞いてもいいですか?」
「なに?」
「わたしが福本荘に来てからずっと……その…誰ともしてないって……流石に冗談ですよね…?」
「え、なんで?」
「いや、なので……黒崎さんから真実を聞き出すために嘘を…ということですよね?」
「嘘じゃない。」
「え。」
「本当に誰ともしてないよ。youだけ。」
「!!!」
実のところ、先程カフェでそのような話をした時、あまりにもアカギが本気の目でそう語ったので、
嘘のようで嘘ではない、とyouも黒崎も思ったことは確かである…。
だがしかし、真実が全て分かって冷静になった今、よくよく考えると、
そこは常に冷静沈着で人の思考を操作できる程のポーカーフェイスな赤木しげる。
その言葉も誘導尋問のために吐いた嘘だった可能性があると改めて思い返したのだというyouだったが、
彼はそれこそ嘘の無い至って真顔、至って普通の声色で「本当のことだよ」と言う…。
「だってオレが欲しいのはずっとyouだけだったし…。」
「で……でも、それにしてもその…か……間隔が!間隔が!に、2年て…!!」
「結構長く耐えてたんだな、オレ。滅茶苦茶偉くないか?」
「え、偉いっていうか……その……大丈夫だったんですか…?」
「大丈夫なワケないじゃん……ほぼ毎日据え膳我慢の日々だぞ。フラストレーション溜まるに決まってる…。」
「えっ…でも誰ともしてないって…。」
「そんなの、youでヌいてたに決まってるだろ。」
「?!」
しれっと、当時の対処方法(という名の爆弾発言)を口にするが、
動揺するyouはまるで無視して、アカギは大口で欠伸をかます…。
いつ、どこで、どうやって!?などと、羞恥を抱えながらもyouがツッコミを飲み込んだのは、
後に続いたアカギの言葉があったからに他ならない…。
「……何回も言ってるから言わなくていいと思うけど……オレは他の誰かで満たそうとか考えないから…。」
「あ、あ……あの…。」
「わ、何?……何で急に泣いてるの?」
自分としては、ありのまま本音を伝えただけだったアカギ…。
確かに、この赤木しげるという男の生態を考えると、思考や忍耐力など、
全てのステイタスに於いて凡そ一般的な男性とは比較にならない程強靭なものなのかもしれないが、
それにしても、本能に忠実な雄でありながら人間の3大欲求のうち1つを、出会ってから今の今までを耐えうるとは、
その在り方は最早、ある意味で狂人染みている…。
そもそもそこまでのレベルで自分は想われていたのかと思うと、
嬉しいという感情であれ、申し訳ないという謝罪であれ、恐怖心に対しての戸惑いであれ…
兎に角、言葉でも言い表せることなどできるはずもなく…。
その結果、様々入り混じった感情の波に襲われて、youは自分でも止められない無意識の涙を零す…。
「アカギさん…。」
「うん?」
「とても恥ずかしいんですが……でも、感謝とか、嬉しさとか、戸惑いとか色々凄いですが、結論だけ言いますね…。」
「何を…?」
youの涙を指で拭いながら、不思議そうに尋ねるアカギ。
すると、彼女はガシっと彼の両腕を鷲掴んだ…!
鷲掴んだ……のだが、ガクン…と顔を伏せ、何やらモゴモゴと言葉を言い淀んでいる様子…。
「だっ……。」
「だ?」
「…抱いてください。」
「・・・。」
「・・・。」
「何て?もう1回…。」
「あの……なので……抱いてください。」
「あー……聞こえない……もう1回大きな声で。」
「絶対聞こえてますよね!!」
「……聞こえてません。」
「うそつき!!」
「クク……そうだね、オレ嘘は吐くけど……youのことは絶対裏切らないから。」
「!」
「勿論いいよ。」
「え…。」
「お願いされなくても一晩中抱くつもりだったし…。」
「!!」
「だから今日はオレの部屋に来てもらったしね」と言葉を続けて、アカギはyouの額に軽いキスを落とす。
「これからもオレが絶対youのこと裏切らないって信じられるように。」
「アカギさん…。」
「…大事に抱くから。」
「・・・はい。」
それは本日、黒崎と話し合いの途中、他県から帰ってきたアカギが其処に遣って来て、
数日ぶりに彼女を見た際の、愛おしそうな表情…。
そんな表情で口付けながら、ゆるやかに2人、ベッドへと倒れ込む…。
その後は言葉の通り、たった数日離れていただけで
大いに傷付いてしまった心を慰めて、癒すように愛するという行為をした2人。
結果的に、辛い事件ではあったが、かえって絆が深まって良かったのかもしれない…と思うyouと、
自分のいないところで彼女が傷付くことがあるのなら、いっそ軟禁でもした方がいいのではないかと…
とんでもないことを考えるアカギとの、大いなる感想の差が生まれるのであった…。
いつだって
無意識に
狂えるほど
ずっと愛してる
(そういえば、どうしてアカギさん…わたしの居場所が分かったんですか…?あのカフェで話してるって…。誰にも言ってないのに…。)
(ああ、それは偶々……南郷さんがスーパーで買い物して帰る時、店に入るyouを見たって連絡が入ってさ。)
(凄い心配してたよ…遠目から見てもやつれてて、夕方過ぎだったから暗かったし一瞬見間違いかと思ったけど…って……。)
(そう……だったんですか……南郷さん……。)
(オレが言うのもなんだけど……今回は本当に南郷さん様様……でも、ちゃんとyouのこと守れたから……良かった。やっぱ運命だな、ハハ…。)
(・・・。)
(まぁ、電話でも言ったけど、仮に間に合わなくてyouがいなくなったとしても絶対見つけるんだけどさ…。)
(アカギさん…。)
(……不可抗力とはいえ…オレの所為でyouを傷付けることになってゴメン…。)
(そんな……全然アカギさんの所為じゃないです…。)
(でも、ずっと信じてくれて嬉しかった……ありがとう。)
(はい…これからもずっと、信じてますから。)
words from:yu-a
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