step3_(日常編:銀二)
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「よう、嬢ちゃんじゃねぇか。」
「銀さん!」
夜の街中でバッタリ出くわしたのは
同じ福本荘の謎に包まれた住人だった
銀さんとわたし1
「こんな時間にこんなトコで何してんだ?」
「えっと、実は友達と飲み会で…今から帰るトコなんです。」
「タクシーでか?」
「え?いや、そう遠くもないので歩いて帰ろうかと…。」
「・・・。」
「銀さん?」
近くに寄っても酒の匂いがあまりしないので、恐らく飲酒の量としては僅かだろうが、
ほんのり上気した頬や普段より少しゆっくりめに返事を返す様子などを見る限り、確かに酒気帯びていると分かる状態…。
歩けば早ければ15分、彼女の歩みなら20分か30分程…余計なお世話と言われてしまえばそれまでなのだが、
知り合いの、しかも年上の男としてはちゃんと家に帰れるかどうか心配してしまうわけで…。
特にその後の予定も無かった彼は、ただ一言、シンプルな言葉を彼女に告げた。
「送る。」
「え?」
「いや、オレも今日は久々に福本荘へ帰る。だから、一緒に帰ろうや、you。」
「はい、是非っ!」
歩けば少し時間が掛かるため、実は少しばかり一人では不安だったという事もあり、
「一緒に帰る」というフレーズが嬉しかったのか、ぱぁっと明るい顔で頷いたyou。
別にフラついているわけではないが、彼女が普段より高さのあるパンプスを履いている事に気付いた銀二は、
彼女が躓かないよう大きな手を差し伸べる。
自身でもその不安要素を自覚していたのと、周囲には民家ばかりで人通りが少なく照れもそう抱かなかったため、
彼女は「ありがとうございます」と少し恥ずかしそうに銀二の手を取った。
「酒飲みって言ってたが……合コンってヤツかい?」
「ち、ちがいますよ……そんなの呼ばれたことないです。」
「そりゃあ……何つーか……安心だな(主に福本荘の奴らにとって)。」
「安心…?」
「いや、こっちのハナシだ。」
「はぁ…。銀さんはお仕事だったんですか?」
「まぁな……予想してたより、待ってた結果が早く出たんでよかったよ。正直あと1、2時間は掛かるかと思ってたからな…。」
「銀さんのお仕事って謎が謎を呼びます…。」
「フフ……youにはちょいと難しいだろうなぁ。」
「そうですか…。」
「何だ、知りたいのか?」
「いえ……ただ、その…。」
「?」
「ちゃんと睡眠取れてるのか心配になったので…。」
「あぁ…そりゃあ……何つーか……。」
ある人は金の無心の為に。またある人は興味の為に仕事の内容を尋ねてくる。
過程や方法はどうあれ、自分のやっている「仕事」と称するものに対しての他人からの評価はそんなもの。
彼女に限って前者はないだろうが、普段通りのパターンで「興味本位で」と答えられるものだとばかり思っていたため、
彼女の予想外の感想に銀二は目を丸くし、すぐに返す言葉を見失う。
そのため、やっと口を突いて出た言葉は銀二の心からの本心となった。
「ありがとな。」
「わ!」
銀二の大きな手がyouに伸ばされ、天辺の髪をくしゃりと撫でた。
「オレもそろそろ体力的にハードな仕事からは抜けたくてね……その辺り、森田にマルッと全部任せたいんだわ。」
「あはは、じゃぁ今度は森田くんの心配しなきゃですね。」
「クク……ま、そういうことになるな。」
「アカギさんもそうですけど…福本荘の皆さんは夜型人間過ぎます!睡眠はしっかり取らなきゃですよ。」
「尤も過ぎて反論できねぇなぁ……叱られちまった。」
「ふふ、寝る前にハーブティーやホットティーを飲むとぐっすり眠れるらしいですよ。」
「嬢ちゃんが振舞ってくれるのかい?」
「え、い……いいですけど…ハーブティーは買ってこないと無いのでホットティーやミルクなら今日でも何とか…。」
「おいおい、マジだったのか。」
「え?」
「いや……また今度でいい。ちゃんとアポ取って、お前さんの時間をもらってからな。」
「そんな大それた…。」
「しーっ。」
人差し指をyouの唇に当てて口を噤ませた。
急に何事かと、ビックリして思わず立ち止まってしまえば、同じように銀二もその場で立ち止まってくれたのだが、
見上げた彼は何故か少し困ったような…怒っているような複雑な表情で自分を見下ろしている。
「こんなオッサンだろうと、夜中に無闇に男を家に上げちゃいけねぇよ、嬢ちゃん。」
「アカギさんはよく来ますよ??」
「アイツは特殊な(それで手ぇ出してねぇとか……相当惚れてんだろうなぁ)。」
「はぁ。」
「オレのためにホットミルクなんかを甲斐甲斐しく用意する姿に盛っちまうかもしれないからなぁ。」
「っ……//」
添えていた人差し指をするりと親指に置き換えて、銀二は彼女の唇をゆっくりとなぞる…。
途端に顔を真っ赤に染めて心拍数が上がった様子のyouに、彼はニヒルな笑みを落とした後、そっと指を離した。
「な?そういうコト。分かったかい?」
「ぅ……ハイ…。」
「そんじゃ、またオッサンの介護の程、よろしく頼むよ。」
そうして、一度離されてしまった手を、また繋ぐための言葉を自然に持ってくる銀二…。
「またそんな……お酒飲んでヒール履いてるわたしの方が要介護って思ってるくせに…。」
「そんなことは………あるかもだな。」
「ほらぁ!」
銀二が自虐をしたのでフォローを返したかと思えば、そのままからかわれてしまったり…。
そんな彼女との会話の方法を熟知しているのか、終始楽しく話をしながら福本荘へと帰り着いた2人…。
youは2階、銀二は1階の部屋なので必然的に銀二の方が早く家に入れるのだが、
最後まで紳士的な彼は、すぐには102号に入室せず、彼女を見送るために階段の近くまで付き添って歩く…。
「ここまでくれば流石に1人で行かせて大丈夫だろ。階段で転ばねぇ限りはだが…。」
「もう!またからかう……気を付けますっ!」
「ハハ、分かってるよ。じゃぁな、おやすみ、嬢ち……いや、you。」
「銀さん……はい、おやすみなさい。」
ふわりと、お互いに同じような穏やかな表情で挨拶を交わす。
銀二がヒラヒラと軽く手を振り、youは階段を上がり出した…。
が、しかし。
数段ほど階段を上ったあたりで急に彼女は立ち止まって、思い出したように銀二に声を掛けた。
「あ、銀さん!」
「ん?」
「送ってくれて本当に…ありがとうございました。」
「フフ…気遣う必要はねェよ……一緒に帰ってきただけだって言っただろ?」
「もう…。」
銀二が元々は福本荘ではなく、別の場所に行こうとしていた事を覚えていたyou。
ただ、彼としては仕事の進行度で福本荘に戻ってもいいという状況で、
かつ彼女を一人にしておけないという2つの理由が重なり、ただ天秤が傾いただけだから気にすることはないと本心で訴える…。
「えっと…あ、じゃぁ…。」
そう言うとカツカツとヒールの音を響かせて、上った階段をまた降りてくるyou。
当然その理由がわからない銀二は、彼女が再び自分の前の前に立ち、見上げてきても頭に疑問符しか浮かべられなかった。
「?」
「おかえりなさい、銀さん。」
「!」
それはとても嬉しそうな顔で微笑み、日々交わす言葉を紡ぐので、まるで自分が彼女の夫になったような気分になってしまう銀二。
年齢差、職業と収入の格差、他からの彼女へのアプローチ事情を知っていても尚、
手を伸ばしたくなる……そう、心が揺れてしまうくらいには嬉しかった、と表現すべきだろう…。
抱き寄せたいとピクリと動いた右手をぎゅっと握って制止し、銀二は微笑む。
「ただいま、you。」
「ふふ。」
「まいったねぇこりゃ……。」
「んー?」
「アンタがいるなら、ココ(福本荘)に毎日帰りたくなる。」
「はい、是非!」
「クク…。」
「それならわたしは毎日、ここで銀さんに「おかえりなさい」を言いますから。」
「かなわねぇな、youには…。」
そう、盛大な溜息を吐きながら零した銀二。
それから再び「おやすみなさい」と笑顔で二階へ上がっていった彼女を見送り、
ほんの少しだけ熱くなった頬を冷ますように、夜風に当たりながら一服してしまう銀王なのであった…。
きっとキミの名前を
呼ぶ回数が
増えるんだろう、と
(なぁ、森田よ…。)
(何ですか銀さん。言っておきますけどまだ引退なんてさせませんよ。)
(何で分かった?)
(分かりますよ!!何日連続で同じ事言うんですか!!)
(そんなに言ってたか…?)
(自覚無いんですか!?)
(無い、きっとボケたに違いない、もう引退だ、これはもう隠居して嬢ちゃんとのんびり金を崩しながら生活するしかねぇ。)
(はいはい、もう少し仕事したらそうしましょうね。で、次は何をすればいいんですか?)
(おう、前は競馬だったが、今回は不動産だ。土地に関わるヤツにまともな人間はいねェ…まずは…。)
((結局仕事好きなんだよな、この人…。))
words from:yu-a
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