step5_(恋人編:アカギ)
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心地良い天気、爽やかに吹く風、手入れされた様々な花々が咲き乱れる美しい庭…。
最高の条件でのティータイムはご近所の鷲巣邸にて。
アカギさんといっしょ9
休日、市街に赴いて買い物を終え、昼食後暫くして家へ帰る途中、ばったり鷲巣と遭遇したyou。
彼もまた知人との会食の後、家路につくところだったのだと言う。
まだ日も明るく、お茶をするのにちょうど良い時間だったため、
鷲巣の邸宅で庭でアフタヌーンティーでもどうか、とのお誘いがあり、二つ返事で「是非」と答えた。
しかしながら、鷲巣と2人で会うことをあまり良く思っていない恋人との約束があったため、youはアカギに電話を入れた。
「あ、もしもしアカギさん?」
「youか?さっき家に行ったけど留守だったよね、今どこ…?」
「今、鷲巣さんの車の中です。」
「は?!」
「買い物の帰りにばったり会って、今から鷲巣さんのお宅でお茶をいただくことに…。」
「すぐ行く。」
アカギはそう言うや否や、電話をブツッと切る。
切られた電話を耳から離し「切れちゃった…」と小さく呟くyou。
「どうした、you。」
「あ、いえ……今アカギさんに連絡してたんですけど…。」
「アカギィ?アカギがどうかしたか?」
「多分…なんですけど、アカギさんも鷲巣さんのお家に来られるのかも…です。」
「今日は呼んどらん!」
「はは……で、ですよね…。」
本日は本当に純粋にyouとアフタヌーンティーをする気分になっていたらしい鷲巣…。
折角穏やかな午後のひと時を過ごすつもりになっていたのに、
急に宿敵の名前が飛び出てきて若干血圧が上がりそうになったらしい…。
苦笑するyouを他所に、彼はプイっとそっぽを向き「ヤツは家に入れるつもりは無い!」とリスのように頬を膨らませた。
それから十数分後…。
白服の付き人、鈴木の運転で鷲巣邸に到着した2人を玄関で待ち構えていたのは勿論アカギ。
「アカギさん!」
「you!」
恋人の傍に駆け寄り、その身の無事を確認してホッと安堵の息を吐いた。
「無事みたいだな…よかった。」
「ただの買い物帰りですし……別に怪我するようなことは何も…。」
「いや、無事ならいいんだ。」
「はぁ…?」
車の中で鷲巣が癇癪を起して麻雀牌を投げ付けられて無いかとか、
失言で怒りを買って杖で叩かれたり、乱暴されていないかなど…。
凡そ全てに於いて自分にしか当てはまらないような心配を抱いていたアカギであった…。
そんな恋人を心配してやってきたアカギに対し、鷲巣は不機嫌そうに声を掛ける。
「何しに来た、アカギぃ…。」
「何って、youを迎えに。」
「youは今からわしと優雅に庭でアフタヌーンティータイムッ!貴様は不要っ、そもそも呼んでおらん!帰れ!」
「ククク……つれないな鷲巣巌…。」
「つれるもつれんもあるか!さぁ、さっさと帰れ、今すぐ帰れ。この場から消えんかッツ!」
「そうカリカリすんなよ……じゃあ、お前が欲しがってたモンをオレが賭けるって言ったら?」
「・・・何ィ…?」
野良犬を追い払うが如くシッシッ!と手を動かしていた鷲巣だったが、思わぬアカギの言葉にピクリと耳を傾けた。
邸宅を見ても分かる通り、巨万の富を築き上げてきた自分が、この期に及んで欲しいものなど、あるわけがない!と、
眉間に大いに皺を寄せ、アカギを下から睨みつける鷲巣だったが、ぼそぼそっと耳元で囁かれた男の言葉に目を大きく見開く。
「(お前が欲しがってるモノ……オレの命。それを雀卓で賭けてやるって言ったら?)」
「!!」
「(血液でも腕でも何でも、好きな通りに賭けてやる。)」
「……本当にか?」
「いいよ。全然、それでいい。」
「むぅ……。」
「youがいるから負けるつもりないし?金だけ吐き出させてやる。」
「何じゃと貴様ッ!!殺す!絶対殺すッ!!」
コソコソ話ののち、急に大声で怒り出した鷲巣にビックリするyouと、本日の付き人の鈴木。
そんな2人を尻目に、鷲巣は手に持っていた杖の先端をビシィっとアカギに向けて叫ぶ…。
「いいだろう!貴様を家に……いや、今日という今日は墓場に入れてやるッツ!!」
「ハハハ…! 調子が出てきたじゃねえか……鷲巣…!」
「余裕ぶっていられるのも今のうちっ!!雀卓に突っ伏して死ね!死ねッ!死ねっ!!」
「ククク……。」
鷲巣から飛び出す暴言の数々に、youはオロオロしだすが、
鈴木はもう見慣れた光景なのか、全く動じることなくスマートに門を開け、一同をさりげなく屋敷へと誘導していった。
玄関の扉を潜れば、外出から戻った家主を向けるべく、白服の男たちがずらりと並んでおり、
激おこ状態の鷲巣に声を揃えて「おかえりなさいませ、鷲巣様」と挨拶を発する。
「鈴木ィ!!吉岡ァアッツ!」
「「はっ、はいっ?!」」
「わしは今から鷲巣麻雀をするッツ!鈴木、貴様はその準備をせいっ!!」
「かしこまりました!」
先程、玄関先からの遣り取りをずっと見ていた鈴木はビシッと鷲巣の言葉に一礼。
すぐに他の白服数人とプレイルームへと向かった。
「吉岡!貴様はアフタヌーンティーの準備じゃ!!!」
「かしこまり……え?」
お怒りモードの鷲巣から急に出てきたファンシーな単語に、吉岡の承諾の言葉が一時停止する。
「何でアフタヌーンティー?」と固まっていたが、その後の鷲巣の行動で何となく経緯を察した。
鷲巣は吉岡に指示を出すと、youの前に向かい彼女の手を取って言った。
「おお、you…先程から喧しくしてしまってすまなんだ…。」
「い、いえ…。」
「今から速攻、半荘1回…イヤ、この際東風戦……秒でアカギの息の根を止めて戻ってくるから、少しの間待っておれ。」
「あの、どうか穏便に……仲良く対戦されてください…。」
「それまで吉岡がお前を持て成すから、庭で綺麗な花でも見ながらお茶して寛いでいなさい。」
「ふふ、それは純粋に嬉しいです。お庭拝見させていただきますね。」
困惑していたyouの顔が、鷲巣の庭の花々の話になると綻びを見せる。
鷲巣もそれを見て安堵したようで、吉岡に「頼んだぞ」と告げて、杖でアカギの背中を突きながらプレイルームへと入っていった…。
その場に残された吉岡とyou・・・。
2人で盛大に「はぁ~~~」っと溜息を吐いて、顔を見合わせる。
「またか。」
「またですね。」
「ここで文句を垂れていても仕方が無い……今日は天気も良いから、家政婦さんに頼んで庭にお茶を準備させよう。少しだけここで待っていてくれ。」
「分かりました。」
そう言うと、本当にほんの1、2分ほどだけyouをその場に待たせ、すぐに吉岡はその場に戻ってきた。
「玄関なんかに待たせてすまない。今伝えてきたから、あと10分程でティータイムの準備ができるだろう。こっちだ、付いてきてくれ。」
「あ、はい。」
吉岡は玄関に自分の靴を出し、靴を履き替える。
youもそれに倣って靴を履き替え、2人はそのまま玄関を出て庭へと向かった。
季節が代わっても相変わらず美しい花々を咲かせているその庭を見て、youは感嘆の溜息を零す…。
「わぁ…っ、相変わらず素敵なお庭……前のように薔薇は咲いてませんけど、他の花も凄く素敵!」
「君のように客人を家に招くことも少なくないからな、ちゃんと手入れしておられる。」
「確か、専属の庭師さんがいらっしゃるんですよね。」
「ああ、そうだ。」
「(これだけ綺麗な状態を維持しないといけないなら、結構な頻度で手入れされてるんだろうな…)」
「そろそろお茶の準備ができると思うが、もう少し庭を見て回るか?」
「そうですね、折角なのでもう少しお庭を拝見させていただこうかな…。」
「では俺は向こうにあるテラスにいるから、好きに見て回ってくれ。」
「はい、分かりました!」
吉岡が「向こう」と指さした場所を見ると、鷲巣邸の大きな窓の外に設けられた屋根付きのテラスがあった。
絵に描いたような洋風の屋外用テーブルとイスが2セットほど用意してあり、
そこで家政婦の方がゆったりとした動作でお茶の準備を進めているのが分かる。
「(何か……いい職場だなぁ…。)」
鷲巣の本性を知らないyouにとっては、綺麗な庭付きの大きな豪邸で余裕をもって労働に勤しんでいると思えるため、家政婦さんや白服達を羨ましいと思ってしまうのであった…。
彼女がそんな事を考えているなど全く知らない吉岡は、
それこそ優雅な足取りで、家政婦さんを手伝うためにテラス席の方へと歩いて行った。
それから大体5分、10分程、綺麗に咲き誇った花々を見て回り、youがテラス席の方へとやってくる…。
「エェっ!?なんかめっちゃ凄い!!!」
「ああ、戻ったのか。」
「え、吉岡さんこれ、え?!」
youが驚くのも無理はない…。
彼女としては軽くクッキーでも齧りながら、紅茶を1、2杯くらい飲んで談話する…くらいのものかと思っていたのだが、
目の前のテーブルには3段重ねのティースタンドに小さな軽食やスコーン、スイーツなどが御洒落に置かれており、
高級そうなティーセットがそれらを更に華やかに飾るようにきっちりと定位置に置かれている状態…。
言うまでもなく、それらはまるで高級ホテルのアフタヌーンティープランで提供されるような代物である…。
「ちょ、ちょっとこれ豪華すぎません?!」
「先程、車移動の際に、鷲巣様から君とアフタヌーンティーをするから準備しておけと屋敷に連絡があったらしい。俺は知らなかったからさっき困惑したが、家政婦はそれから準備していたそうだ。」
「ひぇぇ~!それでこんなクオリティのものが?!」
「鷲巣様が客を招いて持て成す場合は、これくらい普通だ。」
「そ、そうなんですか……(今更だけど、そんな方を「さん」付けで呼んでていいのかしら…)」
明らかに招く客人の層が自分とは違うと分かるため、自分の立場を顧みてたじろぐyouだったが、
良いも悪いも、不遜な態度を取り続ける上に呼び捨てのアカギよりマシか…と、すぐに遠い目をするのであった…。
「軽食は君の分しか準備していないから、座って遠慮なく食べてくれ。」
「え、あ、、そうなんですか?!」
「食べるところを横で立って見ているだけなのも逆に失礼かと思うので、俺もお茶を呼ばれようと思うんだが…一緒に座って問題ないか?」
「勿論です!吉岡さん、寧ろそうしてください!!」
「はは、ありがとう。」
鷲巣が戻るまでの間、彼女を持て成せと言われた吉岡。
他の客人は兎も角として、鷲巣だけでなく、吉岡の顔見知りでもある彼女の場合は、
一人にさせず、話を繋ぎながらという意味合いであると察し、一緒にお茶をすることを申し出てくれた。
・
・
・
・
それから数十分後…。
「そうなんですか?凄い!鷲巣さんってやっぱり凄い方なんですね!」
「ああ、今はもう現役を退いてはいるが…それでもまだ今も、数多の要人との関わりがあるんだ。」
「こんな素敵なお屋敷に住まれてるのも納得です。」
「そうだろう、そうだろう。」
「吉岡さん達みたいな有能な方々が傍にいらっしゃるから、きっとそれもあるんでしょうね。」
「はは、褒められても紅茶のお代わりくらいしか出せないぞ?」
「ふふ、美味しい紅茶なので嬉しいです。」
爽やかな風の吹く美しい庭のテラス席で、和気藹々と話をしながらティータイムを過ごしている男女。
更に言うなれば、吉岡は人と対話するにあたって失礼の無いようにサングラスを外しているので、
制服でもある白いスーツを着た只の伊達男と化しており、傍(はた)から見ると優雅なアフタヌーンティータイムを楽しむカップルに見える状態…。
そんな2人の姿を今正に目にしているのは、この屋敷の主である鷲巣と乱入者であるアカギ…。
youとアフタヌーンティーを過ごす予定だった鷲巣が、アカギの挑発に乗りインスタントデスゲームを行うことにして数十分…。
頭に血が上っていた事もあり、本来の力の半分も出し切れなかった鷲巣はアカギに惨敗…。
プレイルームを出て喚き散らかしながら庭に出てきたのだが、
テラスで楽しそうにお茶をする彼らの光景を見て珍しく呆けた顔で絶句するアカギを見て、多少気が晴れたらしい。
眉間に皺を寄せた怒り顔から、すぐさま眉を下げニヤニヤと口角を嬉しそうに歪ませた。
「おぉ~、吉岡め、わしが不在でもちゃんとyouを持て成しとるみたいだの。」
「・・・。」
「見てみろアカギぃ……あの2人の楽しそうな顔!微笑ましい光景じゃの~~~ぉ~~!」
「・・・。」
「ねぇ、今どんな気持ち!?ねぇどんな気持ち?」とばかりに煽ってくる鷲巣に、いつになく鋭い視線を向けるアカギ。
「矢張り、youにはうちの吉岡の嫁にきてもらうとしよう!カカカカ!!!」
「テメェ…。」
そうすればまるで自分の娘のように家に呼んでお茶をしたりできるしな、と笑う鷲巣。
「それにyouだってわしの家の庭を気に入っておるし?」
「庭だけだろ。」
「吉岡の事も悪くは思ってないハズだしの!!」
「あんな男じゃ役不足だって、前にも言っただろ。」
「じゃ、何であの2人はあんなに楽しそうなんじゃ~~??あ~~??」
事実、楽しそうに談話しているのだから、これに関してはアカギも何も言えなくなる。
結局、勝負には負けたが、アカギのイラついた態度にご機嫌になった鷲巣と、
勝負には勝ったが不機嫌になったアカギがyouと吉岡の元へやってくる。
途中、鷲巣の姿を視界に入れた吉岡がサッとその場から立ち上がり、サングラスを装着して一礼した。
「鷲巣様!」
「うむ。」
既に3段のケーキスタンドなどは片付けられており、シンプルにティーポットとカップだけの状態になっていたテーブル。
吉岡は今からそれも片付けて鷲巣とアカギ、youの3人分で改めて準備をすると発言したが、
鷲巣もアカギも「この男とお茶なんてするワケないだろ/じゃろ」とお互いを指差して拒否。
youも今の間で沢山お茶を飲んだので、遠慮すると申し出た。
「鷲巣さん、優雅なアフタヌーンティータイムをありがとうございました。」
「堪能できたか?」
「とても!」
「それは良かった……吉岡はちゃんと持て成しておったか?」
「はい、勿論です、色んなお話をしていただきましたよ。」
「そうかそうか……楽しかったか、それはよかった。」
「お庭も相変わらず素敵ですし、茶器も素敵で、紅茶もとても美味しかったです。」
「そうか…いや、すまなかったな……わしとしたことがアカギの挑発に乗ってしまって…折角youと楽しく談話しようと思っておったのに…。」
「また次回に持ち越しですね。」
「そうじゃな。」
ははは…と笑ったものの、次回もまたアカギが間に割って入るのではないかと大いなる懸念が過るyouと鷲巣であった…。
気を取り直して、庭の花々はどうだったか、準備させた紅茶や軽食に不備は無かったかなどを鷲巣が彼女に尋ねるが、
勿論、全てに於いて文句の付けようがなかったため、そのように答えたる。
「そうかそうか、いや安堵した…気に入ってくれたのなら何よりだ。」
「ありがとうございました。」
「しかし、約束を反故にした点はわしも反省しておる……故に!」
「?」
「この詫びは次回、挽回させてもらおう。」
「全然、お気になさらず。寧ろ図々しく一人で優雅にティータイム堪能させていただいてすみませんでした。」
「カカカ、気にするでない!今度、お詫びに夕食をご馳走しよう、楽しみにしていなさい。」
「吉岡さんから聞きました、鷲巣さんいつもお忙しいんですよね、なので本当に本当にお気遣いなく。」
「いやいや気にするな、わしが言うのもなんじゃがジジイ共とつまら~ん会話しながら食う飯より、youとゆったり食べる夕飯の方が楽しいしの。」
「そんな!わたしの話なんて大したことないです…。」
「謙遜せずとも良いよい。では、今度は吉岡と3人で夕飯をしような。」
「え?吉岡さんですか?」
それは何故…??と、尋ねたyouに、鷲巣はニコニコしながらその理由を語り出す…。
「いや、先程屋敷からお前たちの様子を見ていて、とても楽しそうだったからの。」
「はぁ…?それはまぁ、楽しかったですけども…。」
「じゃから、是非にと思ってな……youにはうちのこの、吉岡の嫁…」
鷲巣の言葉が突然途中から聞こえなくなり、youがビックリしていると、
いつの間にか背後にアカギが立っており、自分の両耳を手で塞いでいた。
「あ、アカギさん?!」
「聞く価値ナシ。」
パッと両耳を塞いでいた手を離せば、自由になった彼女がくるりとアカギを振り返る。
「な、何ですか急に…?!」
「you、そろそろ帰ろう。もう麻雀終わったし、オレも鷲巣もここで優雅に茶なんてシバかないし。そもそもこの男と言葉で語る事など何も無い…。」
「またそんなこと言う…。」
「いいから、ちょっと説教もしたいし。」
「何で!!?」
「ホラ、行くぞ。」
「あああ、ちょ、ちょっとアカギさん?!」
グイグイと腕を引き、最終的にはズリズリとyouを引き摺って歩き出す始末。
挨拶も途中でぶった切られて、強制的に鷲巣や吉岡と次第に距離を離されながらも、youは謝礼の言葉を叫ぶ。
「鷲巣さん、吉岡さん!!今日はありがとうございましたぁあ!とっても楽しかったですぅうう!!」
「コラ―!!アカギィイ!youを勝手に連れて行くでない!!」
「あのあのっ、お片付け手伝えずすみませんんんーーー!!」
「アカギィイイ!!!」
youの謝礼と鷲巣の怒り…。
言葉をぶつける相手が違うため、全く噛み合わない状況を吉岡だけが生暖かい目で眺めていた…。
結局、アカギとyouは(靴も履いているので)そのまま庭から玄関への道へ戻り、鷲巣邸の敷地の外へと出て、
そこで初めて彼女は腕を解放されるに至った。
「もう、アカギさん!だめじゃないですか……きちんと挨拶せずあんな風に出てきたら…!」
「きちんと挨拶するような仲じゃないし…。」
「アカギさんはそうでも、わたしは違います!!」
「あのさ、ちょっと冷静になりたいから、黙ってほしいんだけど?」
「え?はぁ?アカギさんいつも冷静じゃないですか……急に何言って…。」
「黙らないとここで舌突っ込んでキスする。」
「・・・。」
「イイ子。」
口にチャックするジェスチャーをアカギに見せた後、秒で沈黙したyou。
静かになった後、アカギは深めに深呼吸…というか溜息を吐いて、その場から歩き出す。
勿論、彼女もそれに続いて歩き出し、自然に横に立った。
「…今日の事、鷲巣の車にホイホイ乗ったのは憤るけど、連絡入れてくれたのは本当に良かった。」
「・・・。」
「あと、鷲巣の屋敷に入るため仕方がなかったとはいえ、勝手に鷲巣と麻雀を始めて悪かった。」
「アカギさん…。」
「元々youを迎えに行っただけだったから、麻雀するつもりなんて無かったのにな……つい悪い癖が出ちまって…。」
「そうだったんですね……お茶する目的で行ったのであの場で帰宅という選択肢は流石に選べなくて…。」
「まぁ、確かにね。」
「わたしも、すみませんでした。」
この謝罪で喧嘩両成敗…となるだろうと思っていたyouだったが、的は外れたようで、
彼女の謝罪を聞いてアカギは違う、と首を振る。
「オレが冷静じゃなかったのは、それじゃない。」
「え、鷲巣さんの家にお呼ばれしたことじゃないんですか??」
「オレが言ってるのは、オレと鷲巣が麻雀打ってる時にyouがオレ以外の男とイチャついてた事だよ。」
「吉岡さんのことですか?」
「そう。凄く楽しそうにしてたからさ。」
「えーっと……それは……もしかしなくても……。」
「そうだろうね。」
「嫉妬…ですか?」
「うん。」
アカギは隠すことも否定することもなく、彼女が吉岡と楽しそうに話していた様子に嫉妬したことを伝えた。
だからこそ、鷲巣が出してきた吉岡の話題を遮るようにして、バタバタと屋敷から出てきたのだと言う。
さて、それを聞いて彼女がどのように反応するか……喜ぶか、照れるか、はたまた呆れるか…と、アカギは黙して反応を待つが、
そんなアカギの考えに対して、良い意味で全く異なる反応を返してくれるのが彼女なのである。
youは「それを言うなら…」と、立ち止まってアカギの服の袖をクイ、と引っ張った。
「わたしも嫉妬したんですよ?」
「え、は?」
「だって、アカギさんも来たから皆で一緒にアフタヌーンティーすればいいのに、鷲巣さん、アカギさんと麻雀始めるんだもん……。」
「うん、ゴメン(でもお茶だけは今後も絶対無い…)」
「鷲巣さん達にアカギさんを取られちゃった感じでモヤモヤしてたんですよ?」
「!!」
「まぁ、正しい言い方としてはアカギさんが鷲巣さんとのティータイムをわたしから取った感じなんでしょうけど……わたしにとってはアカギさんの方が大事な恋人、なので……あ、なんか照れるな、この言い方。」
そう言って一人で急に照れ出すyou。
見つめていたアカギから視線を逸らして、歩道や地面をキョロキョロと見始める。
彼女の想いや言葉は、アカギが珍しく抱いたドロドロした嫉妬という感情を瞬時に見事昇華させたようで、
彼はいつものような平静さを取り戻し、ククク……とその場で至極楽しそうに笑った。
「あ、アカギさん…?」
「多分、今の百点満点だと思う。」
「え?」
「ご褒美あげないとな、youに。」
「???」
「そうだ、さっき鷲巣との勝負に勝って結構お金もらったから、せっかくだしホテルの屋上とかでちょっと高いご飯食べて帰ろうよ。」
「賭け麻雀、よくないですよ。」
「カタいこと言うなよ。オレだってそれなりのもの(命)を賭けてんだから…こんなんじゃ割に合わないくらい…親一回は流石に致死量には至らなかったけど…。」
「何て?」
「ナンデモナイ。」
いつものように、ついうっかりボソッと小さな声で本音を漏らしてしまうアカギにすかさずツッコむyou。
しかしながら、折角嬉しい気分になったため、またここでモメるのも嫌だと…アカギはyouの手を掬い取り、歩き出す。
「わ、ちょっと…アカギさん!」
「you、折角こっち戻ってきたのに悪いんだけど、また市街行っていいか?」
「ご飯ですか?」
「うん。どう、ホテルディナー?」
「・・・行く。」
「決まりだな。」
美味しい料理を食べる点に於いてはyouは勿論だが、アカギも望むところなので、
こういう場面では割と率先して彼女を引っ張って行く傾向にあるらしい。
2人が少し時間を掛けて市街地へと赴けば、夕飯としてちょうど良い時間帯。
そこでアカギが適当に選んだしっかりしたホテルの上階にある店で夕食となった。
元々、ホテルの宿泊者がメインで利用する店であることや、その日は市街地もそこまで混雑もしていなかったこともあり、店にいる客もそこまで多くはなかったため、
アカギとしては騒がしくない、程よい環境で満足している様子…。
「美味しい…凄い贅沢……。」
「何か飲むか?追加で何か食べたいのがあれば頼んでいいよ。」
「いえいえ!このコースの内容で十分…いや、十二分ですよ!」
「そう?麻雀で待たせちまった詫びとご褒美なんだし、遠慮せず飲み食いしていいよ……奪った鷲巣の金だけど。」
「(鷲巣さん…)」
「ま、あのじーさん、金なんて掃いて捨てる程貯めてるし、このくらい痛くも痒くもないと思うけどね。」
「ああ、それ、吉岡さんから聞きましたよ、鷲巣さんって凄い方なんですね。」
「あーーーー……・・色んな意味で。」
「…い、色んな意味で。」
鷲巣巌という男と一度勝負をする上で、彼の生い立ちや築き上げてきたものの全てを知り、思考の対策を練った事のあるアカギ。
確かに経歴は素晴らしく、同じ人間だとてその立場が一般人から見れば雲上人のそれであることは理解できるものの、
麻雀の卓で相対した際の常軌を逸した考え方や、自分に対しての暴言や奇行を考えると、確かに「色んな意味」で凄い人となる…。
嘘は吐いていない…。
だが色々察してくれ、と目で語る。
「もう鷲巣の話なんていいじゃない。youの話聞かせてよ……今日は市街で何してたの?」
「ああ、今日は化粧品を買いに行ってたんですよ。その帰りに鷲巣さんとお会いしたんです。」
「そうだったの。」
「アカギさんこそ、今日はお仕事だったのでは??確か明日が休みじゃなかったです??」
「ああ、今日はたまたま。何か工場の機械のメンテか何かで午後から急遽休みになった。」
「あー、それであんな時間に家にいたんですね。」
「youが休みって言ってたから、家にいるかと。」
「すみませんでした。明日アカギさんと過ごすなら、今日のうちに用事済ませておこうかと思ったので…。」
「え、何、you明日も休みなの?」
「あっ、そうです……言ってませんでしたっけ…。」
「知らなかった、ふーん……そっか、明日も休みか。じゃあ、ゆっくりできるな。」
「?」
それは良いことを聞いた…という反応を見せるアカギ。
元々、youとしてはアカギと過ごすつもりでいたので、特に不思議に思うこともなく…。
そうやって、明日はどこか出掛けるのか、それとも家でのんびり過ごすのか…など、翌日の予定について話し合ったりして食事の会話を繰り広げた。
そんなこんなで時間を過ごし、最後のデザートの前に一度綺麗にテーブルを片付けられた後にアカギが徐に席を立つ。
「ゴメン、ちょっとトイレと煙草。デザートはオレ待たずに食べてて。何ならオレのも食べていいよ。」
「流石に勝手には人の分は食べませんよ…。」
「(許可があれば食うんかい)」
「いってらっしゃい。」
「ああ。」
彼女の発言で、スイーツに於いては矢張り食い意地が張っているな…と改めて思うアカギであった…。
アカギが席を立ってすぐにコースの最後のメニューであるスイーツがやってきたが、
アイスなどの溶ける代物でもなかったため、youは彼を待つことにした。
それからややあって、アカギが席に戻ってくる…。
「ただいま。」
「あ、アカギさんおかえり。」
「食べてないの?」
「アイスなら食べようと思ったんですが、違ったので待ってました。」
「悪かったな、大好きなデザートを前に「待て」させたみたいで。」
「人を犬みたいに言わないでください!もう!」
「クク……ごめんゴメン。」
アカギが着席したところで、youがウキウキ顔でデザートフォークを手に取る。
プレートにお洒落に飾り付けられたデザートをフォークでカットして頬張れば、
呆れるほど幸せそうな表情でその味を堪能するyou…。
いつ見ても飽きないな…などと思い、少しだけ口角を上げながらも何もいう事はせずに、アカギも自分の分のデザートを食べ始めた。
そうして2人はコースの料理を全て食べ終え、少しだけ温くなった紅茶とコーヒーを最後に堪能する…。
「はぁ…美味しかった……最高です、アカギさんありがとうございます。」
「うん、色々あったけど麻雀勝って良かった。」
突然の贅沢ができた、とアカギも笑う。
最後の飲み物を飲み終え、カウンターで会計を済ませ、2人はエレベーターへ乗り込む…。
事が起きたのはその後…。
帰宅すべく、そのまま1Fのロビーへ向かおうとエレベーターのボタンを押したyouだったが、
すぐにその後アカギが別の階のボタンを押したのだ。
「もー、アカギさん、いたずらしちゃダメですよ……あ、知ってました?エレベーターのボタンって同じとこ2回押したらキャンセルできるらしいですよ~?」
そう言って楽しそうにアカギの押し間違ったボタンを2回押してみようとするyouだったが、その手はパシッとアカギに掴まれてしまう。
「アカギさん…?」
「それ、押し間違いじゃない。」
「え、何言って…。」
「you、明日休みなんだよな?」
「え、ええ…。」
「じゃぁ、この階だ。」
「?!」
狭い箱の中、目的階に到着したベルが鳴り、1Fではない階でアカギに手を引かれて降りることになったyou。
エレベーターの待機スペースに出ると、彼女はすぐにアカギに困惑して尋ねる。
「ああ、アカギさん??ちょっと、どういうことか…。」
「明日休みだから、折角だし泊まっていこうと思ってさ。金も結構余ってたし。」
「いや、そうじゃなくて…いや、それもありますけど!」
「何?」
「いつの間にぃい?!」
「さっき、飯食ってる時。」
「え……あ!ああ!あの時?!」
そう、先ほど食事の際、トイレと喫煙のために席を外した時…。
アカギはロビーまで降りて、空室の確認と部屋の確保をしたのだと言う。
「うん、そう。」
「ひぇ…。」
「さ、どうする?・・・youが嫌なら、部屋、キャンセルするけど?」
「う…っ。」
「オレはyouと泊まりたい。」
「うう……ああもう、泊まります!泊まりますよ!」
「フフ……ありがと。」
そう言うと、アカギは軽くyouの額に口付けて、その身体をふわりと抱き寄せる。
「もう…アカギさん、ちょっとスマート過ぎません?」
「そう?よく分からねェな、そういうの。」
自分は自分のやりたいように行動するだけだから…と、小さく呟く。
それから彼女の髪を軽く横から撫でて身体を離し、手を引いて部屋へと歩き出した。
部屋の前に来て、カードキーでドアを開けて中に入るや否や、部屋の中に入ろうとしたyouを
その場に塞き止めるようにして壁に手を付き、壁との間に閉じ込めるアカギ。
「なぁ、you、もうちょっとしたら一緒に運動しような。」
「しません。」
「あらら……怒ってるの?」
「べ、別に驚いただけで怒っているわけでは…。」
「オレとエッチするの、イヤ?」
「そ、それは…嫌というか…。」
「思いっきり甘やかして、優しくするって言っても?」
「もう、何で…!」
「じゃなきゃ滅茶苦茶陰湿に攻めて意地悪して泣かせるけど……それでもいい?」
「よくないわ!!」
「じゃ、どっちがいい?」
「うう…優しい方がいい……です。」
「了解。」
そもそも、初手で一度拒否しているのだが、アカギはそれを綺麗に流して、
具体的な選択肢を提示することによりyouの中から「拒否」という根本の選択肢を消失させた。
有耶無耶にされたことに彼女が気付かないうちに、アカギは再びyouの額に口付けて、オートロックの扉から離れる。
「(とは言うものの……。)」
「アカギさん?どうかしたんですか?」
「ん?何でもないよ。you、風呂はどうする?」
「あ、入ってきてもいいですか?歯も磨きたい…。」
「じゃ、先にどうぞ。」
「え、あ、ありがとうございます。」
じゃあ行ってきます…と、ベッド上に準備されていたホテルの備品のパジャマを持ってバスルームへと向かうyou。
一人残されたアカギは、ベッドにバフっと仰向けに倒れ込んで天井を見つめる。
「ああは言ったけど、今日は…正直、優しくできるか怪しいよな……。」
あの時、確かに彼女の言葉で昇華したとはいえ、振り返って考えてみれば、
鷲巣と2人で楽しくアフタヌーンティーを過ごすつもりだった事や、
それが無くなったことによって自分以外の男と楽しそうに談話していたという事実…。
決して1つではない複合的な要因を考えると、嫉妬心から優しく抱くことが難しいのではないかと思い、
ここに来て、ちょっとだけ頭を抱えてしまうアカギなのであった。
まぁいいさ、
何とかなれ、と。
→優しくされた?
(・・・アカギさんの嘘つき……嘘つき。)
(ゴメンて。)
(全然優しくなかった…。)
(そうか?)
(です!)
(……あまり酷い事しないようにしたつもり……なんだけど…。)
(確かに酷くはされてないですけど……けど…。)
(だろ?加減しなきゃもっと多分酷い事してたと思うから、結構抑えたはずなんだよ…。)
(酷い事って……酷い事って??!…怖ッツ!!)
(まぁ、そういう事だからさ……あんまり嫉妬させないでよ。)
(わたしとしては、そんなつもり微塵もございませんのに?!!理不尽!!)
(だって、心中できるくらい好きなんだから、仕方なくない?)
(そうでした……ね。)
(忘れないでよね……アンタの頭の天辺から足のつま先、髪1本に至るまで……今は全部オレのものなんだから。)
(き…肝に銘じます…ッツ!!)
words from:yu-a
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