step5_(恋人編:アカギ)
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「あれ…おかしいな…?」
ある日、部屋のカレンダーを見て
ふいにyouが呟いた。
アカギさんといっしょ8
「確か今日って、アカギさん来るって言ってた日じゃない?」
約1週間ほど前、アカギから電話で「安岡さんに代打ち頼まれたから、数日家を空ける」と連絡があり、
その数日後にメッセージで勝負に勝った報告と、〇日に帰るという内容が送られてきたのだ。
いつものように夜ぐらいになってフラッと「ただいま」と家に入ってくるだろうと思っていたのだが、一向にその気配はなく。
youもカレンダーを確認するまで「帰ってくるの今日だっけ明日だっけ?」くらいの感覚でいたくらいだ。
しかし、いざカレンダーを確認すると本日がその期日。
勿論、観光がてら旅先をでブラブラして1日2日くらい帰宅が伸びる事もアカギならあり得るのかもしれないが…。
「うーん…アカギさんの声も聞きたいし……電話してみますか。」
充電していた携帯を手に取り、自室のベッドの上でアカギへ電話を掛ける。
意外に長めのコールの後「はい」と数日ぶりにアカギの声が電話越しでyouの耳に届いた。
「あっ、もしもしアカギさん?」
「うん…。」
「もしかして移動中?…か、まだ旅先ですか?」
アカギの声がいつにも増して小さく、聞き取り辛かったため、電車やバスなどの移動中かと問う。
しかしながら、そうではないらしく「いや…」と、またまたかなりのウィスパーボイスで返された。
「えっと……大丈夫ですか?」
「・・ぇ?」
「いや、その体調とか……声小さいので、元気無いのかなって…。」
「ハハ……オレ普段そんなに元気に見えるか?」
「えっと、見えませんね。」
「まぁ、多分正解なんだけど……っゴホゴホ!」
「えぇぇ!?!」
先程の小さな声とは打って変わって、受話器の向こうで盛大にせき込み、咽るアカギの声。
ふと、自分の驚いた声に交じって通話中の携帯からではなく、実際に咽る声が壁の向こうから聞こえてくることに気づいたyou。
壁を見つめてギョッと目を丸くすると、再び携帯を耳に当ててアカギに声を掛ける。
「あ、アカギさん!今どこ?もしかして家帰ってるんですか?!」
「あー……うん、昨日の夜帰ってきた。」
「じゃあ今日一日家にいたんですか?!ゴメンなさい、もっと早く連絡すればよかった!」
「今日帰るって言ったのはオレだから……ゴホッ、仕方ない。」
「ああもう、とにかく家に行きますね!」
「ダメ、来たら…」
アカギが最後まで言葉を言い終えないうちに電話を切り、youは身一つでバタバタと部屋を出て、隣201号のドアを叩く。
何度か叩いても返事が無かったものの、中にアカギがいることは既知のため迷わずドアノブを動かした。
不用心にも鍵は施錠されておらず、youはすんなりとアカギの家に入室を果たす。
「アカギさんっ!」
「はぁ…you・・・。」
「…っ?!」
youが絶句したのも無理はないこと。
殺風景な部屋の中、アカギは敷布団の上で私服のまま横たわり、
布団代わりなのだろうか…大判のバスタオルに包まってゼイゼイと肩で息をしている状態だった。
成人男性ということで体力もあり、今まであまり風邪や病気でダウンすることが少なかったからかもしれないのだが、
それにしても身体が言う事をきかずにダウンしている時に取る対策としてはなっていないというか…全く愚策も良いところ…。
それはまるで幼い頃から今の今までの間で大人の看病を受けた事なく育ったかのような…。
身体が辛い時に時に普通はどう対処すべきかを知らないまま大人になったかのように思えて、youは胸が締め付けられる。
無意識に眉根を寄せてしまったところで、ハッと我に返り、慌ててアカギの傍に駆け寄り彼の様子を伺うyou。
「アカギさん、病院は?」
「行ってない、行く気ない……ゲホ…。」
「言うと思った……ああもう、触っただけで分かる、熱!」
「you、帰って……移るから…。」
「そういう心配するんなら、もっとわたしが安心して戻れるような状態でいてください!」
「はぁ……寝ときゃ治る…多分。」
「その持論は絶対過信しないの!」
「ごほ…っ…!」
何か言いた気な様子だったが、問答する気力も余りないのか、咳き込んで肩で息をするだけになってしまうアカギ。
youはそんな彼を一瞥してはぁ~~っと大きく溜息を吐くと、アカギの頬に手を添えて言った。
「アカギさん、しんどいと思うけど立てますか?わたしの部屋行きましょう。」
「何で…ゴホ…。」
「何ででも、です。お布団も薬も、備品も、アカギさんとこ何もないでしょ。」
「・・・悪ぃ…。」
「困った時はお互い様です、はい立って!」
youがポンポンとアカギの肩を叩くと、彼はのっそり気怠げに身体を起こし、フラ付きながら立ち上がる…。
すぐ横で身体を支え、アカギと2人で自分の家へと戻ることに。
ひとまず先にアカギを自分の部屋のベッドに寝かせると、再び彼の家に戻り着替えの下着や服を回収し、カギを掛けて戻ってくる。
「アカギさん、ご飯は?」
「食べてない、欲しくない…。」
「うーん……分かりました…ちょっと待っててください。」
youはその場を離れると、1分もしないうちに洗面器と、濡れたタオルを持ってきて、それをアカギに差しだした。
「とりあえず汗が凄いので身体を拭いて、着替えてくださいね…手伝いますか?」
「…いや、大丈夫。」
「じゃぁ、使い終わったタオルや脱いだ服はこっちの洗面器に入れといてね。あと、着替え終わったらそのまま寝て下さい。わたしその間に薬局で色々買ってきて、その後何か食べれそうなものを作りますんで。」
「ぅ…分かった…。」
タオルを受け取り、シャツのボタンを外し始めたアカギを見て、言われた通りに行動してくれると確信したところで、youはその場を離れ、ドラッグストアへと向かった。
アカギはというと、彼女に言われた通りに服を脱ぎ、濡れたタオルで身体を拭き上げ、準備された着替えの服に着替える。
一連の動作が終わったところでタオルや着替えた服を洗面所まで持っていこうかと思ったが、思ったのだが…。
結局高熱特有の身体の節々の痛みで、動く気力が沸き上がらなかったため、断念する結果となった。
そのため、申し訳ないと思いつつ、ここは彼女の好意に甘えて寝かせてもらうことにする。
「(全身の骨が痛い……身体が熱い……息苦しい……喉痛い……。)」
うっすら目を開けて、クク……と自嘲する。
「(あぁ、オレ……生きてんだな。)」
痛みを感じるというのは生きているということに他ならない。
そんなことを風邪を引くことで改めて実感してしまう。
アカギとしてはギャンブルに於いて与えられる不合理な痛みの方が好ましくはあったが、
これはこれでいい経験…と、思わず口角が上がるのだった。
「(それにしてもこのベッドは……youの匂いがして…。)」
そう、当然だが家主の寝具なので家主の香りがするわけで…。
それはまるで彼女を抱いているような、逆に抱きしめて包まれているような…。
多分、平常時であれば色々と…主に下半身などがのっぴきならない状態になりそうな感覚。
そんな邪な考えを巡らせると、少しだけだが苦しさが紛れた気がするので、
どこまでいっても自分は男で、そういった欲求を糧に生きているのだと思い知るのだった。
しかしながら、その香りや感覚、思考、何よりこの場所で感じるとてつもない安心感…。
そんな効果も相まってか、アカギはやっとのことで眠りに落ちていくことができた。
・
・
・
・
「ん……。」
「あ、起きた。」
「……you…。」
「まだ熱がありそうですね……薬を飲むためにご飯食べてほしいんですけど……どうですか?」
「ん……昨日から何も食ってないから、今腹減ってる……食べれそう。」
「よかった、じゃあ持ってきますね。」
「ありがとう。」
薬を買ってきて、ちょうどご飯作ってたところだったんです、とタイミングの良さを嬉しそうに語るyou。
彼女が部屋を出て時計を確認すれば、大体眠りについて2時間ほど経過している様子…。
ふと、額に違和感を感じて手を伸ばせば、眠る前には無かった冷却シートが貼られており、
寝ている間にも彼女が甲斐甲斐しく自分の世話を焼いてくれたのだという事が分かった。
「ゴホッ…風邪って栄養ドリンク飲んどきゃ治るもんだと思ってたが…そうでもないんだな…。」
「そんなわけないでしょ~!」
「あ、you。」
「食事持ってきました。体起こせますか?」
「…ん。」
「あったかい素麺です。ついでに柔らかい茹で野菜いっぱい入れておきました!」
「ありがとう、いただきます。」
キチンと手を合わせて、食事を始めるアカギ。
少し量を多めによそったため、完食できないかもしれないと思っていたが、
流石にほぼ丸一日何も食べていなかったためか、アカギは出された分をペロリと平らげてしまった。
「ご馳走様でした」の言葉を彼女に伝え、渡された錠剤の風邪薬を白湯で飲み込む。
そうして、風邪でダウンしてからここまで経って、やっと風邪薬を服用するに至った。
「やっと薬も飲めましたね。まぁ、市販の風邪薬なのでどこまで効果が出るか分かりませんが…。」
「コホ……色々ありがとな、you。」
「いいえ。何か弱ってるアカギさん見るの斬新というか……驚きましたが、貴重だったので良しとします。」
「弱ってない。」
「はいはい、でも凄く心配した……今だって、心配してる。元気になるまで、アカギさんのことが心配。」
「・・・you。」
小さく愁いを帯びた溜息を吐いて、不安そうに眉根を寄せるので、反抗的な言葉を発したアカギに罪悪感が沸き上がる。
「ゴメン、心配掛けて。」
「早く良くなってくださいね。」
「尽力する。」
「うん、早く元気になってほしい…わたし、アカギさんと一緒にしたいことあるんですよ。」
「オレも、元気になったらyouとしたいことある。」
「本当ですか?一緒だったら嬉しいです。」
「きっと一緒だよ。」
「そうかな??じゃぁ、せーので言います??」
「いいよ、せーの…。」
「美味しいお茶を飲みながらアカギさんの旅先での話を聞きたいです。」
「youとxxxしたい。」
「・・・。」
「・・・。」
「アカギさんと旅先の話を…。」
「youとセックスが…。」
「したい。」
「したい。」
「・・・。」
「・・・。」
「アカギさん。」
「ゴホっ……なに?」
「おやすみなさい。」
「さっき起きたばっかでまだ眠くない。」
「いいからさっさと寝なさーーーいッツ!!」
アカギの身体を強制的に寝かせ、布団をバッと引き上げて被せる。
声が被っていてもアカギの卑猥な言葉はきっちり耳に届いていた様子。
耳まで真っ赤にして、布団を被せて部屋を出て行ったyouをニヤニヤしながら見送り、
「どっちが風邪引いてるか分かんねェな」などと、アカギは愉悦に浸った顔を浮かべるのだった。
しかしながら、彼女をからかった直後に盛大に咳き込み、呼吸が苦しくなったため、一瞬罰が当たったのかと思ってしまう。
そもそも体調が悪くなってから、今やっと食事を摂って薬を飲んで、安静にできる状態になったのだ…。
熱もあり、咳も出て、喉も痛い状態はそのまま、寧ろそんなにすぐに体力が戻っているはずがない。
アカギは調子に乗って彼女をからかったことを反省し、大人しく寝て体力回復に努めることにした。
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・
翌日…。
寝ている間に汗を大量に掻いたのか、身体やシャツがベタついており、寝覚めは大変悪かったものの、
身体を起こしてみると昨日より遥かに体調は良くなっている様子。
熱の所為で感じていた昨日までの身体の節々の痛みは取れ、ボーっとしていた意識は割としっかり戻っている。
「昨日より全然……回復してるな。」
これなら後はちょっとお高い栄養ドリンクを服用すれば全快できるかもしれない…と、アカギはぐっと拳を握る。
そんなアカギの適当な自己管理を見透かしたかのように、youが部屋に入ってきた。
「あ、アカギさん、起きてたんですね……おはようございます。」
「おはよう、you。」
「体調はどうですか?」
「昨日より良くなってると思う。」
「本当、良かった…。」
ホッと安堵の息を吐いた表情が心底安心したようなものだったので、
彼女が昨日からずっと本気で自分の事を心配してくれていたと、嬉しく思ってしまうアカギであった。
それはそうと、彼の起床を確認したyouは「ちょっと待っててください」と部屋を出て、
アカギの着替えや、身体を拭く濡れたタオル、体温計などを準備して、再び彼の元に戻ってきた。
「はい、まずは体温測りましょう。」
「分かった。」
計測した温度は微熱より少し高いくらいで、それを見たyouの表情が少しだけ曇った。
「まだ、ちょっと高いですね…。」
「でも昨日より大分ラク。」
「そうですか……身体の痛みは?」
「ゴホッ……ん"…昨日滅茶苦茶痛かったけど、今日は無い。でも怠い。咳は出る。喉は痛い。」
「ひとまずまた風邪薬で様子見ですね……あとは咳止めとトローチか…。」
「ゲホ…。」
「そういえばアカギさん、お仕事は?」
「ん"、ああ、代打ちで呼び出された時既に「風邪引いたので数日休む」って嘘吐いておいたから大丈夫。」
「(そんな嘘ついたからバチが当たったのでは…)」
「何か言いたげだね…。」
「いえ、何も…。」
嘘から出た実、身から出た錆…というが、正にその通りだな…と、口にせずともお互い考えていることは同じだったりするのだが、そこは黙っておくことにする。
逆にアカギが彼女に休みのことを聞き返せば、本日が休みとのことで、気にせず看病に当たれると教えてくれた。
「悪かったな……折角の休みだってのに…。」
「逆に休みじゃなかったらアカギさんのこと気になって色々手に着かないかもなので、これで良かったです。」
「フフ…ありがとう。」
彼女の口から、そんな言葉が聞けただけでも風邪引いた価値があるかもしれない…などと思ってしまうアカギ。
ふいに、こんなにも弱っている自分(いや弱っていないと葛藤する部分もあるのだが)を心配してくれるのであれば、
多少の我儘や無理を言っても、もしかするといつもよりもすんなり享受してくれたりするのではないか…と、邪な考えが浮かんでくる…。
本来であればそれらは特に邪な考えなどではなく、弱っている時に誰かに甘えたくなったり、頼りたくなったりするだけのことなのだが、
ことアカギに於いては、今の今まで独りでこういった状況に耐えてきており、そうさせてくれる誰かの存在が皆無だったため、そのように考えてしまうのかもしれなかった…。
「ごほっ……まずは服を着替えたいんだけど、いいか?熱の所為で凄く汗掻いたみたいでさ。」
「あっ、そうですね。これ、着替えと濡らしたタオルです。最後に汗拭きシートするとすっきりしますよ。」
昨日と同じように準備した服やタオル、着替え後のための洗面器をアカギの傍に置くyou。
そのまま素直にアカギから「ありがとう」と言われて、部屋を出るつもりだったのだが…。
「you、悪いんだけど……手伝ってくれない?」
「え?」
「汗拭くのとか、着替えるのとか…。」
昨日あんなに身体の節々が痛そうだった時には何も言われなかったのに…?と、一瞬だけ困り顔を浮かべたyou。
その表情をすかさず見抜き、アカギはごくごく自然に目的遂行のために誘導を始める。
「着替えるのはまぁ大丈夫なんだけど、身体拭く時がさ……背中とか手を回しにくくて。」
「ああ、なるほど。」
「それにまだちょっと倦怠感はあるから……手伝ってくれると有難いんだが…。」
最後にゴホゴホっと、容態の悪さを嵩増ししてアピールすれば、
この愛しくもお人好しな恋人があっという間に陥落するだろうことも熟知しているワケで…。
アカギの目論見通り、youは再び心配そうな目を彼に向け「分かりました」と提案を受け入れるに至った。
そんな彼女に感謝の言葉を一言述べ、アカギはゆっくりとした動作で来ているシャツを脱ぎ、身体を拭ける状態にする。
「えっと……とりあえず背中拭きますね。」
「うん。」
ひたり、と体温と相反して水で適度に濡れ、冷えたタオルが熱い肌に触れると、
身体に直に伝わるそのコントラストがとても心地が良く、アカギは思わず目を瞑って堪能する。
広い背中を何度か濡れタオルが行き来し、粗方拭き終えると、youが恐る恐るこの後はどうするかと尋ねてきた。
「あの…背中こんなもんでいいですか?前は自分で拭けますよね…?」
「拭けるけど……youに頼んじゃダメか…?」
「!!」
落ち着いた甘い声に、若干入った猫なで声のエッセンス。
普段であれば、十中八九これはアカギの罠だと確信するレベルの良い声で懇願されるので、
youは顔を真っ赤にしながらも断ろうと口を開いたのだが…。
ふいに、昨日の光景が脳内にフラッシュバックする。
暗い自室で薄いバスタオルに包まり、肩で苦しそうに息をするアカギのその姿…。
風邪で弱っているのに「弱っていない」と虚勢を吐き、栄養ドリンクと睡眠だけで問題ないと、さも当然のように言い切る思考。
今まで誰かに看病などされたことなど無いのではないか、と…。
そのように薄々感じてはいたので、割とすんなりと彼女の中で、今のこれはアカギなりの甘えなのだと理解するに至った。
いつも天上天下唯我独尊、何様俺様アカギ様、弱味?なにそれおいしいの…と、まぁ、兎に角人に隙を見せないアカギ…。
そんな様子で普段は雄味が強いというか…どちらかというと自分を庇護してくれる方向にあるため、
なかなか自分がアカギを守りたいというシチュエーションには恵まれなかったのだが、今回初めて、今まで持ち得なかった母性本能が沸き上がる。
最終的に、体調不良が原因とはいえ無意識に人に頼るという行為を自分に見せたというのであれば、恋人として嬉しくないわけもなく、アカギの依頼を受け入れることを決めたのだが…。
思考の逡巡で顔を赤くしたり蒼くしたりしたのち、最終的にやんわり笑みを浮かべるという百面相をしており、ばっちりアカギに指摘されるのであった。
「凄い表情の推移だったけど……何考えてんだか。」
「はっ!な、何でもありません!とりあえず体!体拭きますね!」
「やってくれんの?ありがとう。」
アカギが礼を言うとすぐにyouは彼の腕を取り、ずっと手に握っていたタオルを優しい手つきで拭き上げていく。
途中、拭きにくくなって、ベッドの上に腰を下ろしたため、アカギと同じ目線になる。
ばちりと目が合い、少し恥ずかしくなったので咄嗟にパッと逸らしたが、
逸らした先にもアカギの逞しい胸板が目に入るので、じわじわとyouの顔は熱くなっていった…。
「you、しっかり拭いて。」
「わわ、わかってます……分かってます…!」
「なに?オレの裸なんてもう既に全部見てるじゃない……今更何照れてんだか。」
「照れますよ!だって……だってそんなに、慣れてない、から…。」
「フフ……ま、でも…初々しさも味わえなくなるかもしれないし…ゴホ、今のうちに堪能しとかないとね。」
「それはどういう…?」
「ん?ああ、だって……そのうち一々動揺しないくらいオレの裸に慣れてもらうつもりだし。」
「!!!」
まるで猫が身の危険を感じて警戒心から毛を逆立てる勢いで肩を跳ねさせたyou。
そのまま距離を取るため身体を動かそうとしたが、アカギに両腕をガッシリ掴まれ、阻止されてしまった。
「まだ終わってないデショ。」
「お、大方拭きました!背面は勿論、ぜ、前面も!がんばって拭いたもん!」
「何言ってんの、まだだよ…まだ終っていない…まだまだ終わらせない…!地獄の淵が見えるまで、限度いっぱいまでいく…!」
「やだ、何か怖い事言ってる!!」
「ククク……ほら、まだ下が残ってるじゃない…。」
「じっ……!」
じり…と、顔を近付けて迫ってくるアカギに恥ずかしさと恐怖を覚え、半泣きになりながらyouは…。
「自分で拭けぇええッツ!!!」
アカギに掴まれた腕を振り解き、濡れたタオルをビターーン!と彼の顔面に叩きつけ、逃走した。
「あらら…。」
と、いつものように乾いた笑いを一つ零すアカギ。
意地悪をし過ぎて全身を拭いてもらえなかったのは少し残念ではあったが、
自分をとてつもなく意識してくれている反応は大変に嬉しかったため、顔から手元に落ちてきたタオルで満足気に全身を拭き上げるのだった。
その後は彼女に言われた通り、着替えの服と拭いたタオルを洗面器に放り、簡易的な汗拭きシートで再び全身を拭き上げる。
どうやらアカギの為に昨日購入してきてくれたのだろう、メンズ用のそれは冷感タイプのもので、拭き終えた後にスーッと体に冷たさを感じられた。
「ゴホ…へェ、凄い気持ちいいなコレ……こういうの使ったことなかったけど、仕事終わりとか使いたいかも。」
夏でも冬でも、工場という場所は暑いため、そこで活用できそうだ、と考えたアカギだった。
そこから時間にして約10分程、アカギが着替えをゆっくりとし終えて再び布団の中に入った頃、ドアの向こうからyouの声が響いた。
「アカギさん、着替え終わりました?」
「うん、終わった。」
アカギの言葉を聞き「じゃあ入りますね」と、youが食事のトレイを持って部屋へ戻ってくる。
布団に入った状態のアカギにトレイを差出し、彼女は立ったままで食事の説明をし始めた。
「朝なので少な目にしてるので、足りなければ言ってください。」
「ありがとう、美味そう。」
「いつぞやアカギさんが作ってくれたお粥の方が絶対美味しいですよ。」
「(根に持ってんな…)」
まだ2人が付き合う前、いつぞやyouが体調不良に陥った際に
アカギが「テキトーに作った」と提供してくれたお粥のことを、未だ超えられない…と嘆いているようだ。
(※「アカギさんとわたし12」参照)
「あの時も言ったかもだけど、オレはyouの作る料理の方が好き。」
「むー…でも。」
「気持ちを入れてくれてるから、それだけで美味いんだよ。」
「そうですかぁ?」
「そうだよ。」
「塩と砂糖入れ間違っても~?」
「それでもいい、特にこんな……オレだけの為に作ってくれたものとか、最高じゃん。まるでyouの心を食ってるみたいでさ。この世じゃ人の心が一番美味いと思うんだよね、オレは。」
「・・・。」
「you?」
急に押し黙ったyouをアカギが覗き込む。
すると彼女はアカギの両頬に手を添えると、少しだけ口を尖らせ、拗ねたように問いかける…。
「飽きないでくださいよね?」
「は?」
「だっていつも……ご飯だけじゃなくて、全部……言葉とか、態度とか……わたし、アカギさんを想ってるから…。」
「!」
「毎日同じ心を渡しても、ずっと飽きないで貰ってくださいね?」
「何度も言わすな……オレの気持は変わらないよ。」
両頬に添えたyouの手首を優しく掴んで下ろした後、膝の上に載せていたご飯のトレイを横に置くと、立ったままの彼女の腰に手を回し抱き寄せる…。
ぎゅっと掴まったまま目を閉じれば、いつもの彼女の香りが直に漂うので、危うく寝てしまいそうになり、
名残惜しいとは思いつつも、アカギはそっとその体を解放した。
「ふふ、良かった。」
「ん。」
「…じゃあ、しっかり食べて薬飲んでください!大丈夫、塩と砂糖は間違えてません。」
「さっきのさ「言葉や態度でも」オレのこと想ってるってヤツ、あれ本当?」
「え、うん……本当ですけど…?」
「じゃぁ、オレがご飯食べさせてくれって言ったら、食べさせてくれるの?」
「そうですよ??だからお粥用意したし…??」
「そういうんじゃなくて……「あーん」って、食わせてくれたりすんの?」
「はぁっ?!」
「うん?」
思いもよらないアカギの言葉に驚嘆の眼差しを向けるyou。
アカギとしては別に一人で食べれはするし、そんな子どもみたいなことをやってもらうのもどうかとは思っているので、
からかい半分、興味本位半分で尋ねてみただけのことだった。
なので別段、これに関してはアカギ自身も少し恥ずかしいとは思っていることもあり、
雑な言い訳して、断ってもらっても全然問題なかったのだが…。
youの中ではアカギが風邪で体力、精神力ともに弱っており、人に頼りたいのだろうと解釈が入るモードになっていた…。
「い、いいですけど……。」
「え・・。」
「アカギさんがそうしてほしいなら…。」
「・・・。」
「まだ倦怠感があるってことですよね……自分で食べるのもダルいというか。」
「えー……っと…。」
思いがけず、あっさりと提案を飲んでくれるというyouに、逆に面喰い、暫し悩むアカギだったが、
結局、流石にそれは柄じゃないだろ…と、自分に言い聞かせ(というか冷静さを取り戻し)、断りを入れることとした。
「…やっぱいい、自分で食べるよ。」
「そう?」
「うん、ありがとう。」
ただ、風邪で弱っている時にはいつもの何十倍もyouが自分を気遣って、甘やかしてくれることをやっと悟ったため、
絶対に今後に生かそう…と心に決めるアカギなのであった…。
その後は作ってもらった朝食を美味しく完食し、薬を飲んで一息。
起き上がるのも昨日よりはラクになったため、歯磨きなどを済ませ、喉の痛みを和らげるトローチを口に含みながら布団に戻った。
「することなくて退屈かもですけど、寝て体力回復に努めてくださいね、絶対良くなりますから。」
「本当に退屈だな……まぁ、何かする気力もあんま出ないけど…。」
「まだ倦怠感取れませんか……いつもの元気が恋しくなる気持ち、分かりますよ……しんどいですよね。」
「・・・。」
昨日の今日の状況で容体が一変して回復するワケもないため、アカギのことが余程心配な様子。
気だるげに布団に潜ったアカギを心配そうに見下ろし、youはその髪を優しく撫でる…。
引き続き、献身的に看病してくれる様子の彼女を見て、
…ふと、ある考えが赤木しげるの脳内を過ぎりった。
『これ、押せば昨日の「元気になったらyouとしたいこと」の言質取れるんじゃね?』……と。
そんな悪漢の邪な考えなど微塵も気付いていない可愛い恋人。
ベッドの横で冷却シートを台紙から剥がし、額にぺたりとそれを添付してくれた。
額に広がるひんやりした温度のお陰で、思考も更にすっきり冴え渡り、纏まる。まとまってしまう。
「それじゃあ、わたしはリビングにいますから…何かあったら呼んでください。声が出しにくければ携帯のメッセージでもいいですから。」
「you、本当に沢山、ありがとな。」
「いえいえ、そんなの全然……今はとにかく、早く良くなってください。」
「ああ、良くなったら一緒に出掛けような。」
「っ、はいっ!」
「ゴホッ・・・ん……何かまた身体怠くなってきた……ちょっと熱い気も…。」
「えぇっ?!大丈夫ですか?!」
「ゴホ…you…。」
はぁ…と、苦しそうに息を吐くと、アカギはそっと布団から手を出して、youの頬へと伸ばした。
彼女はその手に自分の手を重ね、不安そうにアカギを見つめる。
「あ、アカギさん…。」
「不思議だな、熱出すって……普段考えもしないような不安に駆られるっていうかさ…(嘘)。」
「うん、分かりますよ。」
「人恋しくなる……オレの場合はyouね。」
「うん、ちゃんと傍にいますから。」
嘘を吐く時はその中に本音や真実を交えると、真実味を帯びるのだという…。
アカギがそれを知っているかどうかは分からないが、ともかくとして、この男はそういった嘘と真実で誘導し、
いとも簡単に彼女の思考を自分のシナリオ通りに動かす。
「傍にいるだけじゃなくてさ、キスしたいし、抱きしめたい。」
「えぇと…それは……風邪が治ってからかなぁ…。」
「だよな……分かってる…ゴホ…っ。」
「ああ、もう……早く寝ましょ?!」
「寝たくない……youにもっと触れてたい…っ、ゴホゴホっ!!」
「あ、アカギさん……咳もまた酷くなってません?!あぁ…困ったな…。」
「you……。」
「は、はい。」
「はぁ……元気になったら、長い時間抱きしめていい?」
「うん、元気になったらね。」
「キスしていい?」
「それも、元気になったら。」
「ゴホッ……それ以上は…?」
「えぇ?!」
「元気になって、youを抱きしめて、キスして……その後もシたい…。」
「それはその…。」
「風邪で近付けないって、凄くもどかしいんだな……そう思わない?」
「それは…思いますけど…。」
「だから……元気になったら、youの身体に触れたい。」
「~~っ!!」
「youとセックスしたい……はぁ、ゴホっ……ダメか…?」
懇願するような瞳は咳で何度も咽た所為で涙で潤み、熱に浮かされた表情は、それこそ正に情事の其れ…。
希う姿ではあったが、母性ではなく明らかに反応したのは雌の部分の感情で…。
youは困った表情を浮かべながらも、羞恥で顔を赤らめながら「分かりました…」と蚊の鳴くような声でアカギの要望を受け入れるのだった…。
後日、風邪から解放され、全快したアカギに「風邪でスキンシップ取れなかった分だけ触れ合いたい」と体よく何回戦も付き合わされることになったのだが、それはまた別の話…。
絶対わたしに風邪が移るから
約束なんて忘れて反故にできると思ってたのに!!
移らないなんて!!!
(カイジさん、回覧板だよ。)
(ギャッ!!ああああアカギ?!!いつの間に!)
(いやノックしたし。インターホン押してないけど。)
(インターホン使え!!てか勝手に入ってくんな!鍵は!)
(クク…盗られるモンが無いからって流石に不用心じゃない?……掛かってなかったよ。)
(ぐぬぬ…)
(てか何、真っ昼間からAV見てたの?アンタも大概だね。ああ、だから気付かなかったんだ?)
(いやそのそれはその……これはその…佐原…バイトの同僚に借り…押し付けられて…)
(何これ、ナースもの?ふーん、カイジさんこういうのがシュミなんだ?)
(いや別に趣味ってワケじゃ……ただその…出てる女優が……に、似てるって言うから…佐原が…)
(・・・。)
(・・・。)
(ねぇ、カイジさん……今からその佐原ってヤツ誘って雀荘行かない?)
(え、何…何かめっちゃオーラ怖いんだけど……ていうか佐原も?)
(ええ。別に麻雀が嫌なら別の博打でも……ククク……今は兎に角、アンタ達から無性に毟りたい気分でね。)
(ヒッ、ななな何で?!オレお前に何かした?!ちょ、オレ煙草買いに行ってく…)
(逃がさないよ。)
(ギャァアアア!!)
((知らないとはいえど人の女とAV女優を重ねてヌくなんて行為、そうは問屋が卸さない……ていうかナース服か……ソイツで今度看病してもらうのはアリかもな。))
((何か虫の居所が悪かったんだろうけど滅茶苦茶機嫌悪いじゃん!!……ん?ていうか何で201号のアカギが回覧板持ってきたんだ???))
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*