step5_(恋人編:アカギ)
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めちゃくちゃ怖い経験をしているはずなのに
めちゃくちゃ快適なのは何故?!!
アカギさんといっしょ5
事の発端は赤木しげるの知人(というか最早保護者的ポジション)の南郷。
とある日、アカギが知人の刑事である安岡に呼び出され雀荘に顔を出すと、そこには南郷もおり、後に来た1人が加わって遊びで打つこととなった。
それだけであれば何のことはない、よくある光景だったのだが、
その日の帰り、解散する際に南郷がアカギに「忘れるところだった」と、とあるチケットを渡してきた。
「何ですコレ……水族館…?」
「知り合いが務めてる会社の福利厚生で貰ったんだと。忙しくて行く暇が無いからって俺にくれたんだが……オッサン1人で水族館とか寂しいにも程があるから、渡す奴は選べよと思ったが……ふと、お前ならyouちゃんと行くかもなと思って貰っておいたんだ。」
「ふーん、そうなんだ……いいの?オレが貰って。」
「逆に貰ってくれないと困るんだが…。」
「フフ、そういうことなら遠慮なく…ありがとう、南郷さん。しかしちょっと距離あるね、この場所…。」
「ああ、そうなんだ……そればっかりは俺にはどうにも…すまんな。」
勿論、場所の問題は彼の所為ではないため、アカギは全く気にしていないのだが、
外見のガタイの良さと反比例して、本当に申し訳なさそうな表情で、後頭部を掻く南郷。
そんな2人のやり取りを横で聞いていた安岡が、スパーっと煙草の煙を吐き出して「何だ」と一言。
「それなら俺の車使っていいぞ。」
「え、いいの?」
「ああ。ここ暫く現場が忙しくてな……休みの日は出かける気力も無ェんだわ。」
「フフ…不良刑事も大変なんだね。」
「うるせぇ、ほっとけ。」
「借りる日に連絡したらいい?」
「ああ、そうだな。前日に福本荘に持っててやるから、大家に言っとけ。」
「分かった。」
「まぁ、若いヤツが期待するようないい車じゃないがな。普通の乗用車だ。全対象の保険入ってるとはいえ、壊すんじゃねぇぞ。」
「ありがとう、助かる。」
「お前の為じゃない、youちゃんの為だ。ちゃんと恩売っといてくれよ。」
「それはどうでしょう。」
「お前なぁー!」
一般勤めの南郷とは違い、刑事という職業柄、多忙な為なかなかyouに会う機会の無い安岡の無念の叫びだった。
そんなアカギと安岡の会話を笑顔で聞いていた南郷だったが、
ふいにとあることを思い出して質問を投げかけてきた。
「ところで、アカギ。」
「ん?」
「お前、いつ免許取ったんだ?」
「・・・。」
「・・・。」
「フフ……いつでしょうね。」
「「おおおーーーいッツ!!!」」
2人のおじさんの盛大なツッコミの声が夜の繁華街に溶けて消えた…。
・
・
・
・
「というわけで、南郷さんに貰った。」
「えっ、嬉しい!水族館か……いつ行きますか?!わたしも同行します!」
「同行も何も普通に一緒に行くに決まってんじゃん……変な言い方。」
「あれ、この水族館ちょっとだけ遠いですね。電車なら朝早くから行かないと…。」
「ああ、それね、安岡さんが車貸してくれるって。」
「え!」
職業柄なかなか多忙で休みの日は出掛けずに家にいることが多いことや、
所有者以外が運転しても保険の適用は問題ないこと、車種など…。
アカギはyouに何故安岡から車を借りることになったのかを簡単に説明した。
「本当にご多忙なので、なかなか安岡さんにはお会いできないですね。お礼も兼ねてお土産ちゃんと手渡しできるといいな。」
「会いたがってたから喜ぶよ。」
「…ラッコのぬいぐるみとか、喜びますかね?」
「それはやめたほうがいいんじゃない。」
「ですよね。」
そんな柄じゃないし、安岡がそんな可愛いぬいぐるみを手に抱いている姿を想像すると、笑える以前にアカギとしては気持ち悪いようだ。
そんな具合で、誰に何の土産を買うか、食事はどうするか…など、色んなことを話し、当日を迎えることとなった…。
当日…。
「お邪魔しまーす…。」
「どうぞ、って言ってもオレの車じゃないけどね。」
「綺麗にされてますね。」
「めちゃくちゃ掃除したって言ってた。」
「な、何か逆に申し訳ないです…!」
「安岡さんだからね、多分youにいい顔したいんだよ……クク、相変わらずトッポイなあの刑事。」
「はぁ…?」
よく理解できていなさそうなyouはそのままに、アカギは車のエンジンを掛ける。
「あ、ギア…これか。AT(オートマ)車ってあんま乗り慣れてないんだよな…。」
「だ、大丈夫ですか??」
「ん、平気平気。」
パーキングからドライブモードへギアチェンジしたところで、youがストップを掛けた。
「ちょっと待ってアカギさん!!」
「え、何?」
「シートベルト!!!」
「ああ、うっかり。」
「うっかり?!」
普通にアカギが免許を持っているからこそ安岡は車を貸してくれると言ったのだろうと思っていたyouだったが、色々と不安が募る…。
これは最後まで聞くべきか悩んだが、自分の命には代えられない…。
「アカギさん…。」
「ん?」
「免許取られたのっていつですか?」
「・・・。」
「・・・。」
「フフ……いつだろうね。」
「おおおーーーいッツ!!」
奇しくも、先日の南郷と安岡と同じ質問、同じツッコミを入れられるアカギだったが、
当の本人は何のその「関係ねェな」とばかりにシレッとシートベルトを締めて、ブレーキから足を離し、アクセルを踏んだ。
動き出してしまった車内でyouは半泣きになりながらアカギに話しかける(というか騒ぐ)。
「アカギさんッ!いつ?いつなんですか?お願い答えて!ていうか免許本当に持ってんですかぁああ?!!」
「オレ、運転歴は長いよ。」
「うん、うん、だから!それは!いつから!いつ免許取ったーーー!!」
「……13(ボソッ)」
「降りまぁあああす!!!」
明らかに免許取得不可能な年齢を呟いたため、青ざめたyouが挙手するも、
アカギのアクセルを踏んだ脚は暫くの間上がることなく…。
「ククク……免許の有無なんて些細な事…。」
「些細じゃない、捕まる!」
「…大丈夫大丈夫。」
「何が大丈夫なんですか?!」
「信用してくれたっていいじゃない……だいたい免許持ってないヤツが白昼堂々人に借りた車の運転なんてすると思うか?」
「うっ……そ、それはそうですけど…。」
アカギの当を得た言葉に対し、逆に言葉を詰まらせるyou…。
騒がしかった車内がそれを機に落ち着きを取り戻したが、
最後まで結局免許証を確認できなかったこともあり、彼女の中で疑心暗鬼は尚も続くのだった…。
「(帰ってから絶対、免許持ってるかこっそり南郷さんに聞いてやる…。)」
「ATって運転こんな簡単なんだ…車、欲しくなるね。」
「へっ、あ、ああ、そうですね……あると便利ですよね~。」
「こんなに簡単なら断崖絶壁でもちゃんとギリギリで止まれるかもな。でも限界速度で負けちまうか。」
「そうですね~……って、はい?な、何の話ですか?」
「・・・。」
「ねぇ、何の話?」
「ATの運転しやすさの話…。」
「絶対違いますよね?!」
それ絶対チキンランとか峠攻めとかそんなアウトローな感じの話ですよね!!と、
静まった車内が再度騒がしくなってしまった…。
アカギは少々バツが悪そうな顔をして、その後すぐに話題を逸らす提案を出してみることに…。
「あー…悪ィ、ちょっと煙草吸いたいからどっかでコンビニ寄っていい?」
「む!話を逸らそうとしてますね?!」
「まだ目的地まで距離あるし、飲み物とか買わなくていい?」
「もう!そんなんでごまかされ…。」
「お菓子とかアイスとか、要らない?」
「いる…。」
「クク……何でも好きなもの買っていいよ。」
「あ、後でちゃんと聞きますからね!わ、忘れないんだから…ぜったい…!」
「ハイハイ。」
youの扱いに慣れているといえばいいのか、それとも彼女がチョロいのか…。
ともかく、アカギは見事に話題を逸らすことに成功し、スムーズにコンビニを見つけて駐車した。
まずは2人で店内に入り、アカギはコーヒーと煙草を、youはアカギの予想通りアイスと、携帯できる小さな菓子を購入する。
「煙草吸ってくるから、アイスでも食べながら車で待ってて。」
「車の中で食べちゃっていいですか?安岡さんそういうの気にしない?」
「あのオッサンはそーいうタイプじゃないよ。」
「そ、そうですか……汚さないように注意します!」
「ん。」
車内に戻り、自分のバッグからハンカチを取り出し、膝の上に敷いてからアイスを食べ始めるyou。
アカギ本人の車で、アカギ本人の許可であれば問題ないのだろうが、念のために…というやつだ。
溶けたアイスが零れる事も、その他の余分なカスなども特に出ず、綺麗に食べ終えたところでアカギが戻ってきた。
「ゴメン、お待たせ。」
「わたしも今食べ終わりました!」
「じゃぁ、行こうか。」
「はい!」
今度はエンジンを掛ける前にちゃんとシートベルトを締めたアカギ。
youは横からそれを見てウンウンと頷く。
それからの道のりは特に異常もなく…。
天候も大変良く、ただただ快適なドライブとなっていた。
「you大丈夫?さっきから口数少ないけど……もしかして酔った?」
「え?ううん、全然!寧ろ快適というか……アカギさん運転上手いんですね。」
「そう?……やっぱ運転歴かな。」
「あはははは多分MT車じゃないからかもですねーーAT車って色々とスムーズですからねーーー!!!」
自分の精神面上「免許取得の年からの期間≠運転歴」は考えてはいけないし、話題にもしてはいけないと悟ったyouは必至に誤魔化す…。
そうしなければ、自分は無免許で無法者の同乗者となるわけで…。
警察に指導される云々は致し方ないとしても、命が危険な可能性もあるため、なるべく考えたくないと思ったがゆえの事だった。
「(うう…しかし…めちゃくちゃ怖い経験をしているはずなのに、めちゃくちゃ快適なのは何故?!!)」
「(・・・とか思ってんだろうな…。)」
アカギにしてみれば運転など、結局はそこに誰かの認可が「免許証」という形としてあるか無いかだけの話なので、些細な事に他ならない。
免許を持っていようがいなかろうが、運転が可能な者が運転で間違いを起こせば事故は起こるもの…。
(通常はそこに法の軽さ重さも併せて考えるのだが…。)
ただ、免許証を持っているかどうかが分からない、というだけでyouがわたわたする姿が見られるなら、
暫くはその真実を黙っておく方が面白い…と、悪魔のような事を考えるアカギなのであった…。
「今日は天気もすごく良いし、外の水槽も綺麗に見えそうですね。」
「外の水槽とかあるの?」
「うん、イルカやアシカとか…大きめの海獣がいる水槽は天井が屋外だったりするので。」
「ヘェ、そうなんだ……水族館とか博物館とか、そういうの行った事無いからさ。」
「じゃぁ楽しみですね、平日の水族館や博物館って静かなので、きっとアカギさんも気に入りますよ。」
「ああ、いいね……騒がしくないのは。」
と、水族館に関して色々と話をしながら、2人は目的地にたどり着く。
駐車場に車庫入れする際も、これまた社内に搭載されたバックモニターも見ず、
スマートに1発でバック駐車を完了させるので、ますますもってアカギの免許の有無が気になるyouだった…。
チケット購入の窓口で南郷にもらった入場券を提示し、問題なく受理されれて2人は館内へと足を踏み入れる。
「わぁ、天井高い~!」
「広いな。」
水族館らしく青をベースに涼し気な雰囲気で造られた建物を、順路に沿って歩いていく。
どこの水族館も順路が決まっており、基本的には開けた大水槽に着くまでは一本道というところが多いが、
2人が訪れた水族館も同様の構造のようだった。
「アカギさん見て、小魚いっぱいで可愛い!」
「へぇ、こんな小さなのもいるんだな。」
「向こうにクラゲのコーナーありますよ!」
「ああ、カイジさんみたいな生き物ね。」
「失礼ですよ……じゃあアカギさんは何?」
「オレ?オレは……強いて言うならウツボとかじゃない?」
「う……海のギャング…。」
「クク……怒らすと噛み付いて離さない…。」
「(気を付けよう…)」
そんな話をしながら、順路通りに様々な水槽を巡り、天井まで高く伸びる大水槽のエリアへとやってきたyouとアカギ。
感情表現豊かなyouは勿論だが、巨大水槽の壮大さには流石のアカギも目を少し見開き「凄いな」と呟く…。
「すごい!大きい!圧巻ですね…!」
「高さ何メートルくらいあるんだろうな…。」
「やっぱり水族館って不思議ですねぇ、ウツボもサメも他の魚も…一緒いるのに優雅に皆で泳いでる。」
「ちゃんと管理して餌やってるからだろ。」
「いや、そうなんですけど…。」
「飢える事が無いから、闘争しなくても生きられる。代わりに生きられる場所が限られる。」
「・・・。」
「・・・。」
「アカギさんは、どっちがいいですか?」
「海一択。」
「ですよね~…。」
「youは水族館だろ。」
「うへぇ……そうですね、だって快適な生活って有難いですし……。」
youの言葉に「そうだろうと思った」とばかりにハハ、と軽く笑って歩き出したアカギだったが、
ふいにその左手が誰かの…否、勿論彼女の右手と繋がれて、すぐにその場で足を止める。
「でも、わたし……今はアカギさんと一緒なら、海で生きるよ。」
「…you。」
「海が広くて、深くて、荒れたり、怖い思いするとしても…。」
「・・・。」
「離れないで、生きてくれるなら。」
「離れないよ。」
「うん、良かった。」
「フフ…。」
「?」
「今度ハワイにでも行こっか、海綺麗だよ。」
「は、ハワイ?!話が飛躍し過ぎです!!」
割と真面目な話をしていたはずだったが?と、youは口を少しゆがませたが、アカギは割と本気で言っている様子。
それはもしかすると、アカギが本気で嬉しかったからこそ、どこまでも一緒に行きたいという意味合いを込めたところもあったのかもしれない。
何にせよ、思いがけずお互いの気持を確認しあう事ができ、
ありがたい気持ちで大水槽のエリアを抜けることとなった。
途中、館内にあるレストランで食事をとったり、その後すぐにイルカやアシカによるショーまで見て、
youとしては大満足な水族館巡りとなった様子…。
順路も最後の方に差し掛かったところで、周囲のライトが徐々に弱くなり、薄暗いエリアへと到達する。
「ここは……深海魚のコーナーみたいですね。」
「ふーん……深海魚か。」
周囲にほとんど人気もなく、静けさの中アカギと2人で手を繋いで異形の生物の住まう水槽を見て回っていると、ふいにアカギが言葉を零した。
「どこだったか忘れたけど、治と雀荘に行った時にさ…。」
「?」
「ヘボな雀ゴロと打って、治置いてオレだけ先に帰っちまった時があって…。」
「ヘボて……そして置いていかないであげてくださいよ。」
「その時、ソイツが治に「あの男は深海魚みたいだ」って言ったんだって。」
「アカギさんのこと?」
「そ。深い闇の底を孤独に泳ぐ異形の魚……「住む世界が違うから、雑魚が取り巻いちゃ迷惑」ってさ。」
「・・・。」
海底深く潜む深海魚…その深さで生き抜くことができるのは…異形の魚…異形の感性を持つ者だけ。
そこは常人なら辿り着けもしない深さと、厳しい環境。
逸脱し、どこかの機能が偏っていなければ到底生きられない場所…。
生き抜く為に自分の破滅さえ賭けることで、またその逆に生を実感する…。
そんなアカギの異形さを、大変分かりやすくたとえた言葉。
「youもそう思う?……オレって深海魚みたいだと思うか?」
「深海魚は……通常の深さでは生きられない子がほとんどですよね。」
「らしいね。」
「だったらわたしは、そう思えないし、思いたくないかな。」
それはもうきっぱりと、youは否定した。
彼を「深い闇の底を孤独に泳ぐ異形の魚」ではない、と。
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、治くん……今もアカギさんの近くにいるでしょ?」
「は?治?うん……まぁ、いるね。」
「カイジくんも零くんも、平山さんだって、皆いますよ、アカギさんの近くに。」
「まぁ、近所だし…?」
「わたしも、傍にいるよね?」
「ああ、いるな。」
それがどうかしたか?と不思議そうな声色でアカギがそう答えると、
youは繋いでいる手に力を込めてぎゅっと握った。
「アカギさん、今、息苦しいですか?」
「え?」
「違うな…えっと……生き辛いですか、かな?」
「ああ……成程、そういうことね。」
「わたしは……ううん、わたし達は……アカギさんといたいです、アカギさんの生き方や考え方が理解できなくても、大事な人だもん、これからだって一緒に過ごしたい。アカギさんはどう思ってますか?」
薄暗くとも、彼女がじっと自分を隣で見上げているのが分かった。
しかし、アカギは目の前の水槽の底でじっと動かない深海魚をまっすぐ見つめながら話始めた。
「……オレはさ、治からその話を聞いた時、言い得て妙というか……割と正しい比喩表現だと思った。」
「…アカギさん…。」
「深海魚、誰にも理解されない者、はぐれ、狂人…異端者……まぁ、こんなところか?そういう風に、オレはオレの事をきっと今だってそう思ってる。」
「・・・。」
「けど、自分で思ってることと、誰かがどう思うかは別だからな。」
「えっと…??」
「オレはただ……そんな酔狂な男の傍にいたいって言ってくれるyouって存在が有難いって思うよ。」
「わたしだけじゃないですよ。」
「そうかもだけど、オレはyouがいてくれればいいかな。」
「もう!」
「だから別に、生き辛くなんてない。」
「・・・はい。」
「そういえばさっき、オレ自分で言ったしな…。」
「何をですか?」
「たとえて言うならウツボだって。」
「そういえば……言ってましたね。」
「あんまり自覚無かったけど、意外と浅い場所でも生きてけそうで良かった、youと一緒に。」
「そうです、一緒に…生きてくださいね。」
それはいつの間にか福本荘で誰かと毎日関わり合いながら過ごすうちに、
アカギにとってそれが当たり前になっていたのだと気付いた瞬間だった。
住まう人間に脛に疵を持つ異端者が多いのも要因なのか、「慣れ合う」というのとはまた違う感覚。
そして、更にその中で普通過ぎるが故に一際輝く異色の存在であるyou。
そんな彼女らと過ごす日常を、全て捨て去っていつかの自分に戻れるかと言われれば、アカギは100%「戻れる」と言うだろう。
しかし「戻りたいか」と問われると、その答えはきっと今は「戻りたい」ではない。
ただ、そう自覚しただけの話。
アカギは暫し目を閉じて、深海魚の水槽から目を離すと、
ようやくyouと視線を合わせてフッと笑った。
「まぁ、アンタだけ連れ去って2人だけで生きるのは全然、望むところではあるけどね。」
「は??何の話ですか?」
「ううん、何でもない。次に行こうか。」
そう言って、アカギは繋いだ手をぎゅっと握り、歩き出す。
暗く、ひんやりした空間に別れを告げて、また次の場所へ…。
さて、そうして最後のコーナーとして紹介されたエリアはというと…。
「まさかの淡水魚…。」
「しかもアマゾン川!」
そう、最後に設けられていたのは淡水魚を紹介するエリアだった。
結果。
「いやー…めっちゃ大きかったですねピラルク!」
「電気ウナギって本当にいるんだな…。」
2人して意外と楽しんでいた。
そこには日本の河川に住まう小魚だけでなく、アロワナやピラルクといった巨大淡水魚も各水槽で泳いでおり
最終的に海だけでなく川の魚もしっかり見て、真の意味で大変興味深い水族館巡りとなった…。
そうして最後に館内の出口付近に設けられた水族館のショップへ入った2人。
チケットを譲ってくれた南郷と、車を貸してくれた安岡へのお土産を選ぶことにしたのだが…。
「アカギさん、ありましたよ、ラッコのぬいぐるみ!」
「いやラッコだけど、しかもそれ、ぼのぼのじゃん。」
「えっ?!」
「え?」
「あ、アカギさん……ぼのぼのちゃん……知ってるんですか?」
「その丸み……フォルム、手触りまで……クク……無論……知っている……。」
「な、何で……意外過ぎる…漫画読んだことあるんですか?」
「いいや……だが知っている……この手がな……。」
「手?!」
「ククク……沼田玩具……文字通り、玩具の工場だ。そこで玩具も作ったぜ、ぼのぼの…。」
「なるほど!そういうことか!」
「聞けば、またアニメ化が決まったというじゃないか、新しい玩具も生まれるだろうな……それは---必然っ。」
「あー…そういえば放送されてますね。」
「連載30周年……累計900万部(2016年3月時点)……大したものだ、実際……。」
「めちゃくちゃ詳しいですね?!!」
「さすがに、新たにアニメ化されるだけのことはある。」
「アカギさんはそこ、すごく押してきますね!!」
「ククク…。」
「(しかし何故急にそんなけったいな口調に…)」
何かに取り憑かれたかのようにラッコが主役のゆるい漫画について語り出すアカギ。
若干引き気味になりつつ、youは(元々冗談のつもりだったこともあり)安岡へのぬいぐるみを諦めた。
「…となると、やっぱりお菓子とかに落ち着きますかね。」
「だいたい似たようなモンだし、何でもいいんじゃない?」
「いや、職場や学校なら何人分いるかあげるとか、缶は捨てにくいから紙パケにするかとか…色々あるんですよ…。」
「ふーん、何か知らんが大変なんだな。」
「まぁでも、今回は南郷さんと安岡さんだけですからね!わたしは美心ちゃんにも買うけど……アカギさんは他に渡すんですか?」
「いや?」
「鷲巣さんとか?」
「あのじじいに土産?…ククク……狂気の沙汰だな…。」
「喜ぶと思いますけど…。」
「多分毒でも入ってると思われて捨てられるんじゃない?」
「いつもどういう会話したらそう思われるんですか?!理解不能です!!!」
「そう言われてもなぁ…。」
youとしてはアカギと鷲巣の関係は、孫が祖父に呼ばれて退屈しのぎに麻雀などの遊びに付き合ってあげている…くらいの想像なのだが、
実際は面倒くさがるアカギを強制的に連行して大金と血液を賭けて麻雀を打たせたり(でも本気で嫌がらないあたりアカギもやはり狂人)と、もっと殺伐としているのだが、彼女にはあずかり知らぬ事…。
言わぬが花とばかりに、鷲巣との関係に関してはそれ以上は口を噤むアカギであった。
結局、アカギは鷲巣への土産は買わずに、南郷と安岡への土産のみyouのチョイスで彼女と折半で購入。
youはというと、美心にお菓子と、彼女が気に入りそうな可愛い海のキャラクターの付箋やペンなどをお土産にする様子。
「youは決まった?」
「はい、美心ちゃんには可愛いものを、と!」
「ああ、いいんじゃない?それで、youのは?」
「?美心ちゃんの分を…。」
「自分の、何も買わないの?」
「はっ…!」
「オススメあるよ。」
「え、何ですか?」
「これ。」
「ぼ・・・ぼのぼのちゃん…(水族館コラボ)!!」
最後の最後まで何故か押してくるのが謎ではあったが、
大変可愛かったので、アカギの言う通り、かの有名なキャラクターのぬいぐるみを迷わず本日のお土産とする。
そうしてお土産まで買い終えて、楽しかった一日に満足し、福本荘までの帰路につくことになったのだが、
車に乗り込んでアカギがハンドルを握った瞬間、再び免許の有無の疑心暗鬼に苛まれることなるyouなのであった…。
結局免許はお持ちなんですか?!
you
(南郷さん!あ、今日は安岡さんもいらっしゃったんですね、よかった!!先日は水族館の券と、車も…ありがとうございました。)
南郷
(ああ、こちらこそお土産ありがとう。この間アカギからもらったよ。)
安岡
(久しぶりだな、youちゃん。俺も受け取ったよ、ありがとな。)
you
(ほんと、安岡さんとはお久しぶりですね。いつもお忙しいみたいで……お体ご自愛下さい。)
安岡
((何でこんな清い子があんな悪魔のツレなんだ…。))
you
(安岡さん?)
安岡
(あぁ、いや!気にしてくれてありがとう。おじさん頑張るよ。あはは…。)
you
(それはそうと、アカギさんいますか?帰りに一緒にご飯食べたいからこの雀荘まで来てって呼び出されたんですけど…。)
南郷
(ああ、もうすぐ出てくると思うよ、今店のトイレ行ってるから。)
you
(あの!せっかくお2人がいてアカギさんがいないんで、お聞きしたいんですが!!)
南郷
(ん?)
you
(アカギさんって……免許…。)
南郷・安岡
((!!!!))
you
(持って…)
南郷
(ご、ゴメンyouちゃん、おじさん、そろそろ帰らなきゃ!!)
安岡
(世の中絶対的に知らない方が幸せって事も、俺はあると思うんだ…。)
you
(な、南郷さん?!や、安岡さん?!!って早!!おじさんにあるまじき俊足じゃん!!!)
アカギ
(ククク……正に「脱兎のごとく」ってヤツだな。)
you
(っ……アカギさんっ?!)
アカギ
(お迎えありがと。さて、飯食い行くか……you、何か食いたいモンある?)
you
(もぉお!あとちょっとでアカギさんの免許の有無が詳しく聞けたのに~!!)
アカギ
(フフ……聞いても教えてくれるかねェ…。)
you
(えっ…。)
※ぼのぼののくだりについて…近代麻雀オールスターズ 闘牌伝のぼのぼのコラボの台詞を一部使わせていただきました。
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*