step5_(恋人編:アカギ)
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「こっちとこっち…どっちが良いと思いますか…?」
まさか…アカギさん相手にこの台詞を言うことになろうとは…
アカギさんといっしょ1
それは本格的に梅雨入りする前の晴天の日。
風は爽やかに吹くものの、日差しは強く夏を予感させるような日だった。
「そろそろ新しい夏服買いに……美心ちゃんとアウトレットモールとか行きたいな。」
「オレでよければ付き合うよ。」
「え"っ…?!」
「・・・。」
同じ空間から聞こえた同行を提案するアカギの言葉に、youは濁った言葉を発した。
それは「何で貴方が?」とか「服なんて興味あるの?」とか「一緒に服見て楽しいの?」…。
そんな様々な意味合いを含んだ一言だった…。
「何その反応、傷付くんだけど?」
「え…いや…だって……アカギさん…服とか興味あるんですか?」
「オレが?……興味あるように見えるか?」
「見えないから!あの反応だったんです!!」
ほら、わたしの考えは間違っていなかった!と、youは声を大きく荒げた。
「わたしが行きたいってだけで興味が無い人を巻き込むのも気が引けます……美心ちゃんなら洋服好きだし、win-winだなって思ったので…。」
「自分の服には全く興味無いけど、youが着る服には興味あるよ。好みも分かるし、オレにもメリットある。」
「そう…なんですか?」
「何の利もなきゃ行かないだろうけどね。何も考え無しに言ったんじゃなくて、オレはオレなりに益になる事を見出して発言してるつもりだよ。」
「成程……アカギさんらしい。」
「あわよくばyouの下着とか選びたいし。」
「成程、アカギさんらしい。やっぱ来なくて結構です。」
「ハハ、冗談だよ(半分)。」
「・・・。」
どうにも裏がありそうな乾いた笑いを見せるアカギを、じと目で睨むyouだったが、
彼がこれ以上更に情報を上乗せすることは無い気配を察して「まぁ、いいですけど」と溜息混じりに同行許容の意を示した。
「たまたまお互い休みだし、今から行こうか。」
「えっ、今日?……あーでも、ちょうどセール期間中だから先延ばしにするよりいいかも。」
「決まりだな。」
と、そんなこんなで大変意外ではあるが、youはオシャレに敏感、ファッション大好き美心ではなく、
装飾品どころか、自分の着る服等にすら一切興味関心の無い赤木しげるとショッピングに出かけることとなった…。
・
・
・
・
「ヘェ、アウトレットってこんな感じなんだな。」
「アカギさんアウトレットとか初めて?」
「ああ。」
2人が訪れたのは開放感にあふれた半屋外型のアウトレットモール。
大中小いくつもの規模のショップには、今回の目的であるアパレル以外にも、飲食店や雑貨、生活用品など様々なジャンルがあり、全て見て回るにはなかなかの時間を要するだろう。
あまりの店の多さに、今回は訪れた目的がハッキリしていて良かった…と内心安心してしまうアカギであった。
そんなアカギとは反対に、まずはどこから見て回ろうかと意気込んだyouだったが、
ふと、気になったため、アカギは普段服をどう吟味しているのかと問うことにした…。
「そういえば、アカギさんはいつも洋服ってどこで買ってるんですか?」
「・・・ドコ…。」
「え、そこで固まるの予想外なんですけど…。」
「ドコ……と言われても…。」
立ち止まり、顎に手を当てて押し黙るアカギの雰囲気に嘘はなく、本気で返答に困っていると見て理解できる。
「えっと……例えば今着てる服はどこで?」
「…え、これ?・・・・近所のスーパーの2Fとかだったかな…多分。」
「わぁーお……・・あれ?でもたまにアカギさんの服洗濯するけど、ユニ〇ロとかのシャツ着てたりしますよね?」
「ああ、たまに南郷さんがくれたりするな……親戚の子にあげる予定だったのが会う機会がなくなったからとかで…。」
「(南郷さん……マジ聖母。今度会ったら全力で感謝しよう…。)」
恐らくは親戚は建前で、アカギの服に汚れやヨレ、綻びなどを見つけた際にそれとなく購入してあげていたのだろう…。
自分が恋人になったからには、今後はその役目を自分が行いますから…と、決心するyouであった…。
「アカギさん…。」
「ん?」
「今日、アカギさんの服も買おう…。」
「いや、オレは別に…。」
「買おう。」
というよりむしろ「買え」という圧であることを言わずもがな察するアカギ…。
珍しく本気の怒気を含んだyouの言葉に「分かった」と静かに了承の返事をした。
「それじゃあ、気を取り直して…お店を見て回りましょう!」
「店はもう決まってるの?」
「わたしのは大体、美心ちゃんといつも行くところなので。」
「じゃあ、案内頼むよ。」
「途中メンズのお店に立ち寄りながら行きましょう!アカギさんも、気になるお店があれば言ってくださいね。」
「だからyouの下着だって。」
「見てアカギさん、早速メンズのショップがありますよ!行きましょう!!」
「(このヤロウ…)」
いつものことではあるが、アカギのセクハラ発言をさらりと交わしてスタスタ先に進むyou。
舌打ちこそしなかったものの、少しくらいは反応してほしくあったアカギであった…。
最初に入った店としてはアカギのイメージとは些か異なる、しかしアカギと大体同年代の若者に受けのいいブランドのショップ。
「デザイン性というより性能な感じで…アカギさん……どうですか、ここ…?」
「…どう思う?」
「うーん、個人的にはアカギさんのイメージではないかな……どちらかと言うとココはカイジくんぽい。」
「それオレも思った。」
「やっぱり!」
「でもあの人には高価なんじゃない、この店の服。」
「いや、でも!ほら!だいぶ値下がったセール品とか結構ありますし……!」
「そのだいぶ値下がったセール品に五千も一万も出すならパチンコに行きたがると思う。」
「わかりみが深すぎて反論できない…。」
「それが伊藤開司という人間(と書いてクズと読む)……クク…どうしようもねぇな。」
「つ、次の店行きましょう!!」
「フフ…。」
その後も、立ち寄った店で零や平山、美心などの共通の知人の好みやイメージの話で盛り上がったり、
youの毎回行く店などで気に入るものを探したりなどして、それなりに充実したウィンドウショッピングをしながら歩き回る2人。
昼食もアウトレットモールの施設内で終えて、再び店を見て回ることにしたのだが…。
「あ、見てみてアカギさん!流石ドル〇バですね、凄いデザインですよあの服!」
「どるが…??」
「ハイブランドのお店です!お値段とデザインが色んな意味で凄すぎていつも外から見る感じなんですけど……ウィンドウのマネキンが着てる服とか凄くていつも見ちゃうんですよね。」
「ふーん…。」
「アカギさん・・・?」
「入ってみていい?」
「えっ?!い、いいですけど……。」
冷やかし目的か、はたまた単に興味が湧いたのかは不明だが、アカギはその奇抜なウィンドウのマネキンをしげしげと眺めながら、店内へと入っていった。
衣類やアクセサリ、服などがあるものの、やはり、他の店内とは異なり、いくつも同じものが平積みされているような状態ではなく、
種類は少ないもの1つ1つ、そのデザインをしっかり見るために広く空間が使われている。
まるでドレスコードが必要に思えそうなその店で、アカギは興味深そうに服や時計などの装飾品を物色していく。
「アカギさん…?」
「フフ、面白いね、この店。」
「…それって興味深いって意味ですか?それとも着てみたいって意味ですか?」
「着てみたいって意味だよ。」
「どぅえええっ?!意外過ぎる!!!」
「似合わない?」
「いや……デザインとか柄によるかと…。」
「あっちのスーツと…。」
「あ、素敵ですね…。」
「そっちの派手な柄のシャツとか。」
「(ヤクザじゃん)。」
「何その顔。」
「いえ、何も……ただ…。」
「ただ?」
「その恰好で出かける時はわたしは同行を遠慮させていただきますね…。」
「何で。」
「何ででも。」
「スーツ、シャツ、どっちの問題?」
「シャツ。」
「……………分かった。」
「(長考だぁ…)」
自分の好みを押し付けるワケでも、アカギの趣味を否定するワケでもないので、柄でも無地でも何でも着てもらって構わないのだが、
あからさまに暴……否、人が近付かないような職業に就いていそうな方々と間違われそうな服装は避けてほしかったのは本音…(というか一般的にはそうなるはず)。
特に自分と並んで歩くと考えると、矢張り周囲の視線も痛いだろうし、
アカギという人間に害は無い(とも言い切れないのだが)のに、誤解されてしまうのも悲しいと思うところが特に大きかった。
そんな気持ちを詳しく吐露すれば「周りの事なんて気にしなければいい」と一蹴される事は分かり切っているため、
youはわざと詳しく理由を言おうとしなかったし、アカギもまた、彼女の考えていることなど手に取るように分かる為、それ以上余計な問答には発展しなかった。
ただ、どうしても自分の希望や願望をアカギに押し付けたくないyouは、
う~~んと唸った後「こういうのはどうでしょう」と1つ提案を持ち掛けた。
「アカギさんしか行かない場所、あるでしょ?雀荘とかカジノとか……そういう一人で行動する時用に好きな柄のシャツを選んでおくというのは…??」
「……フフ、ありがと。youは優しいね。」
「いや、同行拒否ってる時点でそうでもないです……それ以外の服着てって、ワガママ言ってますよ。」
「それ我儘なの?フフ…随分可愛い我儘だな……そんなモン享受するに決まってる。」
「そ、そう……なんですか…。」
「最初に言っただろ、youの好みが分かった方がいいって。それってオレに対しての好みも必要要素だし。」
「な、なるほど…。」
つまり、アカギは最初から彼女自身の好みと、彼女から見た自分に対する好みも気にしたいと思っていたと言う。
お互いの好みを知る事は大事とはよく言ったもので、ぴったりと需要と供給が一致するようならいいが、
どちらかの合わない部分を淘汰するのではなく、双方向から意見を出し合って折り合いをつけていく方法の方がyouとしても好ましい。
今までのアカギであれば誰に何を言われても別段気にしなかったし、気遣いもしなかったはずなので、
それを考えると、思わぬところで自分は思った以上に大事にされているのかもしれないと考えてしまうyouなのだった…。
「とりあえず上着だけも買おうかな。上着はyouもイイって言ってたし。」
「え?ここで?」
「…ヘェ、値段ってこんなモンなんだ?よく分からないけど…元値とセールの価格見ただけでもオレが今着てるのより全然高いんだな、ハハ。」
「いやだってここって……(わたしが考えている値段より多分0が一個多い……)」
「あ、しまった……今日は持ち合わせが無いや。」
「(セーーーーフ!!!)」
何がセーフなのか最早自分でもわかっていないが、初の買い物でハイブランド商品などをポンと買うことになろうものなら、
今後アカギとの付き合い方を見直さなければならない気がしたのは気のせいではない…。
「今度何かの勝負に勝ったらまた買いに来よう。」
「堅実にお金を貯めて、じゃないんですね…。」
「クク……給料なんて種銭にもならない…。」
「聞きたくなーーーーーい。」
「フフ…。」
そもそも買い物の内容ではなく、それ以外にも付き合い方を見直さなければならない要素があるワケで…。
考えだせばキリが無いと改めて気付いてしまうyouなのであった…。
結局、そこでは買い物をしないことになったので、ウィンドウショッピングというより、
冷やかし目的のようになってしまった後ろめたさを感じつつ(恐らくyouだけ)、店を後にする2人。
「流石にここまでの逸品ではないと思いますが、他にも質のいいスーツやシャツを扱っている若者向けのお店とかあるので、行ってみましょうか!」
「分かった。」
アカギとしては、確かに初めて服に興味は持ったものの、別に自分の服のことはどうでもいいと思っている。
しかしながら、そのアカギが服に興味を持って着たいものを探そうと少しでも思ってくれた事が嬉しかったのだろう、
笑顔で次の店を提案してくるyouの、その自分のための余計なお世話がまた有難くて嬉しくて、アカギはそれを了承した。
次の店は幅広い年齢層の男性から好まれているデザイナーの大型ショップで、
カジュアルなものだけでなく、後方にフォーマルなスーツまで幅広いジャンルの服が取り扱われている。
youが途次(みちすがら)そのように口頭で紹介した通り、
店内に入ると若い男性のグループや家族連れ、年配の夫婦などが服を吟味している様子が飛び込んできた。
「スーツは奥の方みたいですね。」
「確かに、これが一般的って感じだな。さっきの店とは全然違うみたい。」
「さっきのはちょっと、色んな意味で異色といいますか…まぁ、凄いお店だったんです。」
「みたいだな。」
「こっちはどうですか?」
「いや、全然いいと思う。カイジさんぽくもないし、これとか普通に着れそう。」
「あ、いいんじゃないですか?似合う似合う。」
そんな様子で並べられた服を色々と物色しながら奥のコーナーへと移動していく2人。
そうして最後、様々なバリエーションのスーツが並ぶコーナーにくると、youも興味津々といった様子でスーツやパンツをチェックし始める…。
「アカギさん何色がいいんですか?」
「別に何色でも…。」
「デザインは?」
「うーん…よく分かんねェな……こういうの?」
「あ、ここ鏡ありますよ!とりあえず全色あててみましょう!」
すぐ近くにあった大きな鏡の前に立たされ、ハンガーに掛かったままの、薄く縦にストライブの入ったデザインのスーツを体の前面に持って当ててみる。
黒、紺、グレーで、同じデザインのいくつかの色を確認してみるのだが…。
「黒か紺かな…。」
「灰色面白いな。」
「いや、グレーもカッコいいですけどね。」
「まぁ、黒も紺もアリだけど…。」
「・・・。」
「・・・。」
「ふふ、全部羽織ってみましょう!」
「そうだな。」
お互いの意見が見事に割れたのだが、そんな予感はしていた2人。
顔を見合わせて少し口角を上げると、どちらも見て決めようと笑った。
と、その時、突然ショップの女性店員が2人の間に割って入るようにして現れる。
少し驚いたyouだったが、スタッフ用のネックストラップを確認して「ああ、なるほど」と突然の出現に理解を示した。
「いらっしゃいませ!そちらのスーツは隣にあるパンツとセットデザインになってるんですよ~!ジャケットだけでもいいんですが、上下揃えてスーツで1セットで着てもらってもオシャレなんで、スタッフ皆オススメなんです~~!よかったら上下でご試着されてみませんか?」
彼女は満面の笑みを浮かべて2人の持つスーツとセットになっているパンツの案内を行い始めた。
「しちゃく…?」
「(アカギさんまさか試着したことないんじゃ…)」
「you…。」
「色見の確認とか、着丈の確認もね……折角なんで試しに着させてもらいましょうか…。」
恐らく(いや十中八九)試着など生まれてこのかたしたことなかったであろうアカギ…。
youの言葉に「まさかここで下まで脱げと」というように、珍しく目を見開いている…。
しかしながら、彼が物申すよりも全然早く、女性店員が「かしこまりました!こちらへどうぞー!」と、
これまた満面の笑みでアカギを試着室に誘導することになったので、そこで彼は初めて試着とはどのようなものかを知るに至った…。
色見のことしか考えていなかったが、アカギが着替えている間、youは、渡したサイズで問題なかっただろうかなどと心配になったのだが、
ひとまず最初の試着でグレーのスーツを完璧に着こなしたアカギが試着室から出てきたことで、それが全くの杞憂だったと知る。
「わ…。」
凄く良く似合っていると、そう言葉に出そうとしたyouを遮るようにして、彼女の前に出てきてアカギへ賞賛の言葉を送る女性店員。
「え!やだ!すっっごくお似合いですッ!えっ、モデルさんみたいですよ~!!」
「・・・どうも。」
「グレーって結構人によっては浮いちゃうんですけど、え、お客様はめちゃくちゃ似合ってますよ~~~!!すごい、カッコいいー!!」
「……いいね、この色……まぁ、でもあと2着あるし……そっちも着てみていいですか?」
「モチロンです!あ、サイズはお渡ししてるもので問題なさそうですか?」
「ああ、どうも……これで大丈夫ですよ。じゃあ、ちょっと失礼します。」
「は~~~い!」
それから黒と紺、どちらも試着して着丈や3つそれぞれの色見の違い、どれが一番良いかの判断材料が出揃うこととなった。
試着を終えたアカギからスーツを3セット受取ると、ニコニコ顔の店員が「どうでしたか?」と感想を尋ねてくる。
「サイズ感は全然問題なさそうだったから、これでいいと思うが……さて、後は色だな。」
「全部お似合いでしたが、個人的に最初のグレーがとても良かったですよ~!お客様ご自身も気に入られてましたよね?やっぱり気に入った色を買われるのがいいと思うので~。」
「フフ……どうでしょうね…。」
「?」
自分の好みを優先することが最善だと言う店員に対し、何やら不思議な返答をするアカギ。
彼は店員から少しだけ距離を取り、youの近くへやってきて、同じく色味についての相談を行う…。
「youは?どう思う?」
「えっ、わたしですか…?」
「うん。どの色がいいと思う?」
「そう…ですね……確かにグレーのスーツはとっても似合ってました。やっぱり着てみないと分からないんだなって。思ってたより何倍も素敵でした。」
「そう?」
youの言葉に女性店員が「ですよねー!」と賛同しているため、後に次ぐ感想をどうしようか迷ったものの、
結局はアカギ自身が判断するだろうと思い、遠慮せずに抱いた感想を伝えることにした。
「でも、わたしは利便性の面もあるので黒か紺色の方がいいなって思いました。縦ストライプの効果プラス濃い色の方が脚も長くてスラっとして見えたし、いやアカギさん最初からスラっとしてるし脚長いんだけどね…より長く見える、適な。」
「成程ね。確かに鏡で見た感じ締まって見えた……服の色ってそういう効果あるんだな…。」
「ほとんど美心ちゃんからの受け売りですけどね。」
「別に着ていく場所とか多くないけど、確かにグレーだと場を選ぶかもしれねェな……フム…。」
「最終的にはアカギさんが「着たい」って思った服がいいと思いますよ、わたしは。」
「……逆だな。」
「え?」
「どうにもオレの周りには真っ黒なスーツでサングラスのクローンみたいな奴等が多すぎる……だから逆だ。黒は着たくない。」
「そ、そうなんですか…。」
「とすると、総合的に考えて紺色かな。」
「グレーじゃないんですか?」
「ああ、紺だな。それにグレーは……いや、何でもない。」
「?」
「店員さんすみません、紺色にします。上下セットで。」
最後に何か言いかけた言葉が気にはなったが、尋ねる間もなく紺色のスーツを持って店員がアカギを会計の場所へと連れて行ってしまったため、更なる追及はできなかった。
会計後、まるで最後の最後まで一緒に行動したいというように購入した商品を出入口まで持って付いてきた女性店員。
「またお越しくださ~い!」と、アカギに商品を渡して一礼……の、後ブンブンと手を振って見送ってくれた…。
「わぁ…まだアカギさんに手振ってくれてますよ……。」
「そうなの?随分手厚い接待……服屋の店員も大変だな。」
「いや、あれは違うでしょ…。」
「違うって?」
「あの子はアカギさんのことすっごい気に入ったんだと思いますよ。あそこまであからさまな店員さんっているんだなって思うくらい…。」
「ヘェ、気に入られたの、オレ?」
「人によるかもですけど、他の店員さんは別に出入口までお見送りとかしてなかったですし、それに…確かにスーツ着るのも買うのもアカギさんなんだけど、一緒にいるわたしの顔一度も見てませんでしたしー…。」
一回も視線が合わなかった、と少し膨れ気味に愚痴をこぼす。
アカギが黙っていれば美形でモテ要素しかないことは理解しているし、
実際、今まで一緒にいる中で街中でも彼がよく入浸る夜の界隈でも人気が高いことを知る場面に何度も遭遇したため、今回の店員の対応にも納得はできる。
だがしかし、流石に店員として、来店者を空気扱いは如何なものか…。
色々と考えているうちに、モヤモヤしてきたのか歩きながら徐々に唇が拗ねたように尖っていくyou。
アカギはそれを横目で盗み見て、面白い玩具を見つけたようにニヤリと口角を上げた。
「もしかして嫉妬?」
「え?は?え??いや、別に嫉妬というワケでは……いやまぁ、それも根底にあるのかな…。。」
「あらら、意外に素直な感想。てっきりもっと全力で否定するかと…。」
「うーん、アカギさんがおモテになるのは知ってますからね……気にしても仕方ないと言い聞かせてます。」
「めちゃくちゃ達観してるんだな……物分かりが良いのはありがたいけど、嫉妬を表現してくれないのは残念かも。」
「わ、我儘ですねぇ…。」
「まぁね。」
「今のも勿論嫉妬しました!でもそれより、やっぱり社員でもバイトでも接客業としてちゃんとお客さんの対応はすべきだと思ったので、そっちにモヤモヤしちゃって。」
「成程、真面目な回答。youらしいね。」
「堅苦しくてすみません…。」
「そういう妙に真面目で面白いところも好きだから。」
「お、面白いって…。」
「自分にずっと関わるような人間じゃないんだし、刹那の邂逅の相手なんて気にしても仕方ない……この先害があるか無いかが重要…。」
「そ、それはそうかもですが……むぅ…。」
「そんなことより…。」
「ん?」
「さっき、ずっとそんなこと考えてたの?」
「そんなことって……店員さんの接客のことですか?」
「そう。」
「え、うん……まぁ……ちょっと、気にしてましたよね…。」
「何だ、youだって失礼じゃない。」
アカギの意表を突く急な発言に、youは打って変わって動揺し始める。
「え?!な、なぜ?!何か失礼なことしてました?言ってました?わたし?!あ、謝ってきたほうがいいですかね…?」
「クク……そうだね、謝ってくれるなら、謝ってほしいな。」
「どうしよう、わたし、何を…。」
自分が失礼な対応を取られていたと思っていたのに、まさか先程の女性店員に自分が失礼なことをしていたとは思っていなかったyouには青天の霹靂。
半ばパニックになりながら、くるりと方向転換。
先程の店に戻ろうとする彼女の腕を勿論アカギはしっかりと掴んで引き留めた。
「どこ行くの。」
「えぇ?!だからその…。」
「謝ってほしい相手はオレなんだけど。」
「へ?」
二度程パチパチと瞬きをして、youは困惑した瞳でアカギを見つめる…。
「な……何でアカギさん…?」
「だって……オレの事見て、考えて、悩まないといけない時に、他の誰かのことで頭がいっぱいだったんでしょ?」
「…は…っ…。」
「オレに失礼じゃない?」
「え…と…その…。」
とりあえず、先程の店員に対して無礼な態度をとっていたワケではないと分かり安堵はしたのだが…。
アカギの言い分は、もっともではあるものの、その顔色からは自分をからかっていることも見て取れるので、
怒ったらいいのか、素直に謝ったらいいのか…。
そんな様子で、すぐに答えを出せずにいると、アカギはクスリと一つ笑みを落としてyouの顎に指を掛けて軽く強制的に上を向かせて言った。
「ちゃんと、オレだけ見てなよ。」
「!!」
「返事。」
「は……はい…。」
「よし。じゃぁ、次はyouの下着だな。」
「はい……って言うとでも?」
所謂、顎クイという状態で一瞬ときめいたのも束の間、アカギの不純な発言に目を細めたyou。
パシッと添えられていた手を払い除けた。
「罪悪感で認可してくれるかと思って。」
「しませんよ。」
「残念。」
「それよりアカギさん、スーツの中に着るシャツは買わなくていいんですか?」
「いい。何か試着して疲れたから……youの着る服一緒に見る方が楽しそう。」
「そう、ですか…?」
「うん。」
「ありがとうございます……じゃぁ、お言葉に甘えて自分のを探してみちゃおうかな。」
「今まで回ったところには気に入ったの無かった?」
「今、1か所気に入った服見つけてます……これから回るところにそれ以上があればなって。」
「いいね、じゃあ先に進もうか。」
「はい!あ、でもアカギさんも勿論気になるお店とかあったら言ってくださいね。」
「ああ。」
気を取り直して!と、意気込んで歩き出したyouにフッと笑みを浮かべてその後ろを付いていくアカギ。
数分経たないうちに、いつも彼女が美心と見に行くというショップへ辿り着き、
これまた数分経たないうちに気に入った服を見つけたようだった。
「こっちとこっち…どっちが良いと思いますか…?」
「・・・。」
彼女が手にしているのはロング丈のノースリーブワンピースと半袖のミディ丈ワンピース。
色は異なるが、どちらも初夏に相応しい色合いのもので、
ハンガーに掛かったままの服を両手に持つyouを見て、どちらもよく似合うだろうとアカギは思った。
「どっちも。」
「答えになってないです…。」
「どっちも似合うと思う。」
「うーーん……有難いお言葉ではあるんですけど……どっちかに決めないとなんで…。」
「両方買えばいい。何なら前の店で見たっていう気になってる服も一緒に。オレが払うし。」
「うーーーーん……違う、そうじゃない…。」
「違う?何が違うんだ?欲しいんだろう?」
欲しいものがあり、そのための資金があればそうする方がストレスにならずスカッと生きれる、とアカギは言っているのだろう。
しかしながら、それはアカギなど、特異な者にのみ通用する考えであり、
何なら資産を築き上げた鷲巣などと異なり、博打で稼ぐという方法が無ければアカギも庶民と変わらない。
常人には我慢というものも必要なのだとyouは諭す。
「アカギさんの考えは正直凄く羨ましいし、お言葉に甘えたくなっちゃう。」
「うん、だから甘えちゃいなよ。オレ達は今、そういうこと提案できるし、youだってそれを享受できる関係になったんだから。」
「でもそれに慣れるのはダメ…というかちょっとイヤ、かな…。」
「…なんで?」
「うまく言えないんですけど……アカギさんは博打で稼いだ泡銭は使っちゃえって思って、全部買えって言ってます?」
「うん。」
「やっぱりそうか…。」
「そうじゃなきゃ次の種銭として使うまでだし……それなら折角だし、オレとしてはyouのために使いたいって思うよ。それじゃダメなの?」
それは例えるなら、臨時収入があったから花をプレゼントしたいと言うようなものだろう。
その気持ちはとてもありがたいし、その感覚も理解はできるのだが…。
「あのね、アカギさん…。」
「?」
「臨時収入で高価なプレゼントをポンっと買って貰えるのは確かに嬉しいんだけど、わたしはアカギさんが一生懸命働いたお給料で貰えるプレゼントの方が嬉しい人間なの。」
「・・・。」
「伝わるかなぁ?」
「・・・。」
「アカギさん??」
「ああ……うん。」
アカギとしてはそんなに深く考えて遠慮せずに、自分に甘えてほしいというだけの考えだったのだろう。
だが、彼女は「もっと価値を見出せるもの」が既に分かっていて、それはアカギが努力して得たものを欲するというもの。
恐らく彼女は無理にそれが欲しいと言っているワケではなく「そうしてくれると嬉しい」くらいの感じで…。
それは勿論理解できてはいるのだが、成程、常識的な概念というものは案外厄介なもので、自分よりも彼女の方がもっと貪欲な生き物かもしれない…そんなことを考えてしまうアカギ。
「フフ……それはそれで面白いかもね。」
「うん?」
「いや、伝わった。すごく。分かった、理解できた。youの言いたいこと。」
「よかった。だから、ね、今日は自分で買うの。セールだし、気に入ったのを1着。」
「そっか。」
「それをアカギさんが一緒に選んでくれると、とても嬉しいんだけど?」
「分かった。そういうことなら決めないとな…真剣に。」
「じゃあ、改めて…率直な感想、どうぞ!」
「そうだな…。」
フム…と、改めてyouガ両手に持つ2つのワンピースを見比べるアカギ…。
「…オレと同じで、試着してみたらどう?」
「・・・それもそうですね…。」
と、ある意味率直な意見を出されて納得してしまうyouであった…。
それから店員に断りを入れて試着室を利用させてもらい、
2着のワンピースを着た姿をアカギにチェックしてもらって、退室。
再びワンピースの売り場に戻り、ちょっとした購入検討会議が始まった。
「どっちも似合ってたと思うよ。」
「あ、ありがとうございます…。」
「予想なんだけどyouの欲しいのってこっちじゃない?」
「えっ、当たり!ノースリーブの方が欲しい。」
「でもそっちの半袖にしようと思ってる?」
「思ってるっていうか……はい…着てみたら半袖爽やかで結構可愛かったし、ノースリーブだとどうしても二の腕気になるからカーディガン羽織るだろうし…って。」
「なるほど、上に何か羽織るんだな…。」
顎に手を当て、アカギは何らかの思考を巡らせている様子。
買おうと思っている服を当てられてしまった以上、もう決まったようなものなので
もう少し検討したかったがそれを断念して、youはノースリーブのワンピースを元あった場所に戻そうとする。
すると彼女のその手をアカギが掴み、制止したためyouは「え?」と目を丸くして、
掴まれた手とアカギを何度か交互に見直した。
「それならオレはこっちをyouに着てほしい。」
「え?何で…?」
「youが、こっちが欲しいって思ってるから。」
「でも…半袖の方が…。」
「半袖よりこっちの方が少し…いや大分オレにはメリットがあるから。」
「あ、アカギさんにメリットがあるんですか???」
「ああ。」
「な、何故…?」
「それはまだ言えない。」
「まだ?!」
「まだ」って何だ?どういう意味なんだ?と、困惑したもの、総合的に考えて利点がある方を選ぶのは当然の流れ。
youは不思議に思いながらも、ノースリーブのワンピースを購入するに至った。
「ノースリーブの方を買ってしまった……いや、欲しかったから当然嬉しいんだけども…。」
「やっぱり半袖、オレが買おうか?」
「いえいえ!それはいいです!ただ、何でこっちを勧めてくれたのかだけが気になって…。」
「フフ…それはまた後で教えるから。」
「何か怖いなぁ…。」
「フフ…。」
アカギの含み笑いに嫌な予感をひしひしと感じながらも、気に入った服が買えた嬉しさの方が上回ったらしい、
「ま、いいか!」と彼女はすぐに笑顔を取り戻した。
それから数軒ほど店を回り、半日ほど掛けてアウトレットモールを大方一周見回ったことになる。
昼前に着いたのが、気付けば夕暮れになりかける時間帯になっていた。
「もう大体1周した感じですね…!」
「もう見るものは無いか?」
「わたしは無いかな、アカギさん、本当に今日はインナーのシャツ買わなくていいんですか?」
「ああ、今日はいいかな。また来てもいいし。」
「そうですね…。」
「その時は付き合ってよ。」
「はい!もちろんです!」
「じゃ、そろそろ帰るか。」
「そうですね、あ、面倒なのでここで夕飯食べて帰っちゃダメですか?」
「いいよ。」
「良かった!じゃあレストランのエリア行きましょう!」
そうして歩き出したのだが、ふとyouは途中で気になった「ある事」を思い出して立ち止まる。
急に歩みを止めた隣の恋人に「どうしたの?」と当然、アカギは問うた。
「あ、いや……ふと気になることを思い出したので…。」
「気になる事・・・なに?」
「さっき、スーツを選んでる時ですけど……黒を避けた理由は分かりましたし、総合的に判断して紺を選んだのも分かりましたけど…。」
「…グレーを諦めるに至った理由か?」
「はい…だって、実際思ったより何倍も素敵でしたし……あの時、アカギさん何か言いかけましたよね?だからちょっと気になって。」
「フフ……そこを突かれるとはね…。」
「?」
結果的に気に入って紺を選んだというのも分かるため、そのまま流しても良かったのだろうが、
普段口数の少ない自分がまるでヒントのように「いや、何でもない。」と後付けしたため、彼女の中で印象深く残ったのかもしれない。
どうあれ、youが自分の心理に近付きたいと思ってくれたことには他ならないので、アカギは少しだけ嬉しい気分になってしまうのだった。
「youはさ、あの3色の中でどの色がオレに合うと思った?率直に。」
「えっ……うーん、どれも本当に似合っていたんですけど……うーーん…何て言ったらいいんだろう……グレーは何となく……うーん、軽い?若い?みたいな??だから今のアカギさんには濃い目の色が合うと思った…みたいな…?」
「ククク……成程。」
「すみません、何言ってるか自分でもよく分からない…。」
「いや、分かるよ。」
「え。」
何とも抽象的な表現で、こんなの絶対に伝わらないと思っていた感想。
少し驚いてアカギを見上げれば、彼は本当に確信したという表情で、また大変満足そうな雰囲気でもう一度「分かる」と言った。
「クク……こうも嬉しいモンなんだな、惚れた相手がちゃんと自分のことを見てくれてるって分かるのは。」
「へっ?!」
突然のアカギの甘い台詞に、服の話ではなかったのか?と、素っ頓狂な声と顔で反応してしまうyou。
「オレも同じ感想だったから、分かる。」
「え!?同じって…。」
「単純に、グレーは今のオレには似合わないってだけのハナシさ。もう2,3若ければ軽く見えて年相応。或いはもう少し歳重ねりゃ灰色でも箔が付くだろうって思った。」
「あ…凄い、分かりやすい!」
「要はyouも同じことを思ったって事だろ?」
「はい、多分そんな感じです!」
「ありがとうな、you。オレのこと、ちゃんと見ててくれて。」
「い、いえ……何となくそう思っただけで……あと、濃い色が凄く似合ってたのも事実なので…!」
「フーン、成程……youはああいう恰好したオレが好みなんだな。気に留めとく。」
「!」
くすくすとからかうように笑い、一歩、youを追い越して前に出たアカギ。
すると、腰の辺りの服を一部掴み、彼女はそれを引き留める。
首だけ斜め後ろを振り向けば、至って真顔のyouが自分を見上げていた。
「わたし、多分どんな格好しててもアカギさんが好きですよ?」
「!?」
「あっ、でもどうだろう……やっぱり変な恰好だと指摘するかも…ホラ今日のすごい柄のシャツとか…!」
「っ…。」
「アカギさん??」
「あー……うん…。」
「うん?」
「長いこと我慢したんだしもう無理矢理にでも襲うべきなんじゃないかなって思って(ただ、こうも普通に好きって言ってもらえるのが嬉しくてさ。)」
「・・・ぇ。」
「しまった……また本音と建前が逆に…。」
「怖ッ・・!!」
(主にアカギが己が欲望のため尽力して)徐々に徐々に近付いていたお互いの距離が、秒速で離れた瞬間だった…。
「まぁ、でも……ちょっとくらい考えておいてよ。」
「~~!!」
「さて、ちょっとお腹空いてきたし、ちょうどいい、飯行こう。」
「わっ!」
これ以上その話題で距離感が離れていくのはマズイと判断したのかは分からないが、
ちょっとだけ事態を好転させるように、アカギはyouの手を取って歩き出す。
恋人になるということは、歩み寄ること…。
自分としては傍にいるだけで幸せなので、それ以上を特に望むことはないのだが、
いずれはアカギの望むような事も考えないといけないと改めて考えさせられてしまう。
ただ、今話題をはぐらかしてくれたように、今はまだアカギの寛大な包容力…否、鋼の理性に甘えさせてもらおうと思うyouなのであった…。
だってこんなに
お互いを理解し始めてる
(やっと家に着いたぁ~~!今日はお疲れ様でした。買い物付き合ってくれてありがとう、アカギさん!)
(いいよ全然、オレも楽しかったし…服のことも色々興味湧いたから。)
(そういえば、わたしの服は何でこのワンピースを勧めてくれたんですか?確かアカギさんにもメリットがあるからって言ってましたよね??)
(ああ、それ…。)
(結局メリットって何なんですか??)
(露出度。)
(え。)
(そっちの方が露出度が高かったから。)
(そ……え、そ、そんな不純な理由……もっとこう、何か…ときめくいい感じの理由じゃ…。)
(外に出る時は上着を着て、他の奴らには肌が見えなくて、家にいる時はオレだけが上着を着てない姿を見れるし触れる。)
(触れるって何…。)
(触れる。)
(2回言わんでいい。)
(まぁまぁ……ときめくかどうかは分からないけど……。)
(はい、まるでときめきませんね。)
(ドキドキはするでしょ、you、オレに触られると…。)
(しししししますんよ?!!)
(クク……どうだか。)
(しし、しませんッツ!)
(そう、じゃあそのワンピース着るの楽しみにしとく。)
(~~!!!)
words from:yu-a
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