step1_(ご挨拶編)
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それはある日のこと…。
ご近所の鷲巣さん。
休日で、市街地へ赴く用事があったyou。
目的を果たし、久しぶりの街を堪能して気分が良くなり、
いつもと違う、ちょっとだけ遠回りの道で福本荘への帰路に就いていたところ…。
「わぁ、凄い豪邸…お庭も綺麗……遠回りして良かった!」
洋風の大きな館を見つけ、思わず駆け寄る。
外観もさることながら、鉄格子の門から見える広い庭も美しく、手入れが行き届いている…。
奥の方には色とりどりの花が咲いているようで、
はしたないと思いつつも、立ち止まって覗き込んでしまうほど。
「って、何覗き込んでるの!滅茶苦茶怪しいじゃないわたし…。」
ブンブンと首を横に振り、門の前を通り過ぎようとしたyouだったが、
その時、背後から急に声を掛けられ、彼女は思い切り肩を跳ねさせた。
「you…?」
「!!」
恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのはアカギ。
彼はyouの手前か、吸っていた煙草を消すと、徐(おもむろ)に彼女が見ていた方向…。
つまりは、屋敷の方を見ながら問いかけてきた。
「この屋敷に…何か用?」
「え、いえ…そういうワケでは……ただ、凄くお庭が綺麗だなと思って…。」
ありふれた彼女の答えを聞いて、アカギは「ふーん」と軽い返事をしたのだが、
意外にもそこで会話は終わらず、この屋敷について言及してきた。
「この家には近づかない方がいい。」
「え?どうしてですか…こんな素敵なお家なのに。」
「ここには…吸血鬼が住んでるから…。」
「え…。」
「・・・驚かないの?」
「いや、寧ろアカギさんがそんな冗談を言うことに驚いているというか…。」
「冗談じゃないんだけど……まぁ、いいか。関わらなければいいこと…。」
「またそんな……こんなに手入れが行き届いて、綺麗なお屋敷に吸血鬼が住んでるなんて言われても冗談にしか聞こえませんよ。」
「ククク…。」
今の会話の何がおかしいのか、とyouが首を傾げる。
アカギはというと、珍しく話題を変えたいと思ったのか、彼女に「そんなことより」と言葉を投げた。
「youはこんなトコで何してたの。」
「えっと…市街に行く用事があって…その帰りです。」
「帰り道、こっちは遠回りなんじゃない?」
「そうなんですけど、何となく……気分が良かったんで遠回りしたくて。」
「そう…。」
「アカギさんは?」
「オレはちょっと……人に呼ばれて…。」
「そうなんですか、じゃぁあまりお引き止めしちゃいけないですよね、いってらっしゃい!」
ヒラヒラと手を振りながら家路に着こうとするyouをアカギの腕が制止する。
「…ヤダ。」
「え?」
「ねぇ、これからデートしようよ。」
「いや、今アカギさん人に呼ばれてるって…言いましたよね?」
「うん。でも、ほら折角youに会えたし?」
「いや!意味が分かりませんけど!!?約束はすっぽかしちゃいけないですよ!!?」
「いいのいいの。多分、別に大した用事じゃないし……今度軽く謝っときゃいいし……youの方が大事だし。」
「あ、アカギさん!?」
相手の呼び出しの内容もしっかり把握していないのに、行かずとも良いと押し切ろうとするアカギ…。
勿論、youはそういうワケにはいかない!と反論しようとしたのだが…。
「あっ!アカギ!こんなところにいたのか!連絡して何時間経ってると思ってるんだお前!鷲巣様は随分お待ちになってるんだぞ!」
「ククク…関係ねぇな、そんなこと…。」
「お前っ…!」
今しがたyouが眺めて感嘆の息を漏らしていた屋敷の庭から、
白いスーツにサングラスの男が一人外に出てきて、アカギに声を掛けてきた。
「そっちが一方的に呼び付けたんだろ?どう動こうがオレの勝手……行こう、you。」
「んなっ?!お、おい!何処行く気だアカギ!!」
「デートにでも行こうかと…。」
「いや!お前、鷲巣様と約束は!」
「・・・知らん。」
「知らんって!!鷲巣様との約束とその女と一体どっちが大事だと思ってるんだ!!」
「言うまでもなくyouだけど。」
「あ、いや、そうだな……そりゃ確かにそうだな…質問が悪かった…。」
多分、自分がアカギの立場でもそう答えるだろう、と口篭る白服の男…。
やりとりはまるでコントのようでよく分からないが、
ひとまず、アカギはこの屋敷の主である「鷲巣」という人物から呼び出されていたというところが理解できたyou。
そうなると明らかに自分が白服の男と鷲巣に迷惑を掛けているのだと気付き、
youは慌ててアカギを諭しにかかった。
「あ、アカギさん!このお家に御用があったんですね?!」
「オレは特に用事無いけどね。」
「ダメですよ、ここまで来てるんだしご挨拶しないと!わたしのことはいいので早く行ってください!これ以上待たせちゃダメですよ!」
「オレは鷲巣に会うより、youとデートしたいんだけど。」
「あ、あのねぇ…。」
あくまでも自己都合優先なアカギに、最早呆れ顔になってしまうyouと白服の男…。
アカギはテコでも動かず自分の意思を貫くだろうと踏んだ白服の男は、
こうなったら手段は選ばないと決めたようで、アカギではなくyouに声を掛けてきた。
「あの、失礼…。」
「え、あ、はい?!」
「私はこの屋敷の主である鷲巣様にお仕えしている吉岡という者なのだが…。」
「あっ、ご丁寧にどうも……わたしはアカギさんの友人のyouと申します。」
「youさん!突然で申し訳ないが……どうしても鷲巣様の元へアカギを連れていかなければならないんだ!」
「そ、そのようですね…。」
「アカギは君とでないとテコでも動かんみたいだ!もういっそ、一緒に付いてきててくれないか?!」
「えぇっ?!」
「頼むッ!」
「わたしは構いませんが…あの、アカギさんと鷲巣…さん?は……良いのですか??」
吉岡の必死さに負け、youはオロオロとアカギを見上げるが、
アカギは明らかに不機嫌そうな顔をして首を横に振った。
「ダメだ。youを鷲巣には会わせない。」
「アカギ…っ!」
ほとほと困り果てた様子が窺える吉岡の表情を見て、youは本気で気の毒に思ったらしい…。
あの…と、吉岡に声を掛けた。
「吉岡さん、わたし、鷲巣様のお庭を見学したいんですが…。」
「え…!?」
「アカギさん、そういう理由があっても一緒に行くのはダメ…?」
恐る恐るアカギを見上げるyou。
いつも感情の起伏に乏しいアカギだが、鷲巣という人物に関しては
本気で彼女を関わらせてたくないようで、珍しく眉間に皺が寄っている。
これはなかなか難しいかもしれない…と、youが苦笑を浮かべたところで、
その場にいた吉岡が徐に携帯を取り出して何処かへ電話をかけ始めた。
「はい、見つけました。門前に…!それで屋敷に入れと…
はい、言いました!しかし全く動こうとせず………
いや、何でも恋人とデートすると言ってきかず……
し、しかし鷲巣様!いるんです!実際!………此処に、その相手が……
はい………アカギは嫌がっていますが、当の本人は問題ないようです。
はい……寧ろ鷲巣様の庭が見たいと申しておりまして………
はい!はい!分かりました!すぐに向かいます!」
「…話しやがったな…。」
「そ、そのようですね…。」
会話の内容を横で聞く限り、電話の相手は鷲巣その人であり、
これまでの一部始終を全て暴露した様子。
ピと、電話を終了させると、先程とは打って変わって
明るい表情を浮かべ、最早アカギではなくyouに向かって吉岡は話し始めた。
「youさん、鷲巣様に連絡をしたところ庭の見学を許可していただけました!」
「そ、そうですか…。」
「持成したいとのことだったので、この後お時間が許せばアカギと共に鷲巣様にお会いになられませんか?!」
「そ…そうですね、お招きいただけるのでしたら…。」
「是非ッツ!」
というより、鷲巣に存在が知られた時点で遠慮して立ち去ると言うのも失礼にあたるワケで…。
アカギも、youの思考がどう動くか理解しているため、
このまま「失礼しました」と立ち去ることはしないと踏んで、盛大な溜息を吐いた…。
「ご、ごめんなさいアカギさん…。」
「いいよ、youの所為じゃない。」
「うう…。」
「ああ、でも……鷲巣には気を許さないで。」
「ど、どういうお方なんですか?」
「うーん…………妖怪?」
「なにそれこわい。」
かくして、思いも掛けず覗き込んだ豪邸の主と対面することとなったyou…。
吉岡に連れられて、立派な門をくぐり、鷲巣の屋敷へと通された。
・
・
・
・
「鷲巣様!アカギと連れの女性を連れて参りました。」
「うむ。」
広い玄関に高い天井。
置かれた壺や掛けられた絵画なども素晴らしく、
一体どのくらいの価値のある屋敷なのだろうかと、
思わずキョロキョロと見回してしまいたくなるくらいの豪邸だった。
ただ、そんなことをするのも失礼にあたるし、
何より自分はアカギのオマケであって、彼の品位を損ねることになりかねないと思い、あまり不躾な態度を取らないようにと思い止まった。
のだが…。
「鷲巣…。」
「アカギ…。」
「もう帰っていいか?」
「何じゃと貴様!?」
呼ばれた当事者が不躾極まりない態度を取るという不測の事態。
鷲巣だけでなく、youも思わずギョッとしてアカギを見る。
「ああアカギさん!」
「だって…もう鷲巣に会ったからいいじゃない。」
「そんなあなた…目的もきかずに…。」
「ああ、そっか……じゃぁ目的聞いて帰ろうか。」
「(何故そうも帰りたがる…。)」
「で、用事って何?」
youの説得(と言っていいのかも分からない訴え)に、
渋々ながらも頷いて、アカギは呼び出した本人にその内容を問いかける。
「用事など決まっておろう!麻雀じゃ麻雀!鷲巣麻雀をするために呼んだんじゃ!」
「え、イヤだ。」
「何じゃと貴様!?」
再び声を荒げる老人…この屋敷の主である鷲巣という男。
見た目には、きっちりと髪をオールバックに整え、
今時見掛けないような、中世欧州に流行したような洋装を身に纏った品位ある老人…なのだが、
相手がアカギだからなのか、鬼のような形相で彼に食って掛かる。
「貴ッ様ぁあ~!このワシをこんなにも待たせた挙句「もう帰る」だと?!」
「だって……アンタと麻雀するよりyouとデートした方が楽しいし…。」
「デート?!言うに事欠いてデートじゃと!?ワシを馬鹿にするのもいい加減にしろ!大体貴様はいつもいつも…!」
「あー…。」
くどくどと、まるで説教のような文句が始まり、アカギは面倒臭そうに両耳を指で塞ぐ。
最終的に「聞いておるのか!」という言葉を投げかけるも、
耳を塞いでいるのでアカギは無反応という結果になり、
より一層鷲巣の怒りは増すのであった…。
「わ、鷲巣様!落ち着いてください!」
「五月蠅いわぁあ!!」
今にも持っていた杖でアカギに襲い掛かりそうになるところを、
吉岡をはじめ、同じように白服を着た男たちが制止に入り、落ち着かせる…。
youは自分の入り込む余地も無いと悟ったところもあり、
顔を引き攣らせながら、傍観を決め込んでいたのだが、ここにきて突然話題の渦中に放り込まれた。
「わ、鷲巣様!い、今はアカギより彼女の方を優先されてはいかがでしょう!!?」
「なぁに…彼女じゃと……?」
「は、はい!わ、鷲巣様のに、庭に見惚れていたということでしたので…!」
「ワシの庭に…。」
「そうです!ごにょごにょ…(この際、逆の発想をしてみてはいかがでしょうか?)」
「逆の発想…だと?」
「はい!ごにょごにょ…(彼女を手厚く持て成して、反対にアカギを無視してしまう…ということです!!)」
「ほぅ…。」
「いかがでしょう?」
「成程……それも一理…いや、一利あるかもしれんな…。」
「鷲巣様…!」
吉岡との内緒話を終えたらしい鷲巣は急に落ち着きを取り戻し、
今までの憤怒した姿が嘘のような、品のある笑みを浮かべた。
勿論、アカギは(耳を塞いだまま)目を点にし、
youは顔を引き攣らせたまま絶句しているのだが…。
そんな2人の様子などお構いなしとばかりに、
歩み寄り、youへ向かって話し出した。
「いやいや、見苦しいところを見せてしまった。申訳ない。」
「へっ、いえ!大丈夫です!こちらこそ急に押しかけてしまって申し訳ありません!!あっ、あの!わたし…アカギさんの友人のyouと申します!」
「you君か、うむ、ワシはこの屋敷の主、鷲巣巌だ。よろしくな。」
「は、はい!!」
「さて、君はワシの庭を見学したいと言っておったそうじゃな。」
「はいっ!そうなんですっ!」
「!」
今までの緊張した面持ちは何処へやら、
庭の話になった途端、純粋に憧れるようなキラキラした瞳を浮かべて鷲巣に詰め寄るyou。
「お外から眺めてもとっても綺麗なお庭だったので!はしたないとは思いつつ…ついつい覗いてしまって…。」
「ほぉ…。」
「それで、お屋敷に見惚れてぼーっとしてたら偶々(たまたま)アカギさんに会ったんです。」
「ハッハッハ、惚ける程美しかったか!」
「はいっ!」
「ワシが一人で手入れしたわけではないが……よしよし、気の済むまで庭を見学していくと良い。」
「本当ですか!!」
「ああ、構わん。吉岡、案内してやりなさい。」
確かに、しょっぱなからアカギに対する憤怒の様子には驚いたものの、
それはアカギの態度にも大いに問題があるため、鷲巣が怒るのも無理は無い…。
怒った態度は確かに年甲斐無く、癇癪を起こす子どものようにも思えるが、
アカギの例えのように「妖怪」とも思えないし、至って普通の老人。
寧ろ、怒れる対象であるアカギの連れな上、全く他人の自分に庭を見せてくれるなど、大変心の広い豪邸の主だと思うほど…。
頑なに紹介したがらなかった理由が分からない…と脳内で首を傾げるyou。
「youさん、行きましょう。」
「はい!お願いします!」
吉岡に呼ばれ、youは満面の笑みを浮かべて彼の後に付いていく…。
そして、その後に更にアカギが続こうとしたのだが…。
「何をしとる、アカギ。」
「え?何って……庭の見学だろ?」
「あぁ?!バカか!お前はワシと麻雀をするんじゃ!!」
「だから嫌だってば。」
「じゃぁ一体貴様此処に何しに来た?!!」
「アンタが来いって言うから…。」
「ワシが貴様を呼ぶ時は勝負!それ以外にないだろぉがッツ!」
「まぁ、そうだね。」
「だったら…!」
「嫌だね。」
「何故じゃッ!!」
「気分じゃないんで…。」
「気分て…気分て貴様ァアア!!」
「どうどう、血圧上がるよ?」
「貴様が上げとるんじゃ!!!」
後ろでギャァギャァと騒ぎ始めた2人を背に、
見ぬフリ、聞かぬフリをして、そそくさと庭へ逃げるyouと吉岡であった…。
・
・
・
・
「わぁあ!すごい!素敵なお庭…!!」
「鷲巣邸には専属の庭師がいますからね。」
「プロの仕業なんですね。」
「それを言うならプロの仕事だろ…。」
「あっ、そうか。」
「ッフ……。」
「?」
「いや、君は本当に普通の人なんだと思ってな。」
「人間ですが…。」
「ああ、いや……アカギのような男と仲が良いというから、一体どんな変人かと思ってたんだ…。」
「変人て・・・。」
「いや、褒めているというか……うん。」
あからさまに「失礼な…」と膨れっ面をするyouに、
吉岡は思わず小さく吹き出し「すまない」と苦笑しながら理由を話し始める。
「アカギも特異な人間で、鷲巣様も特別凄い御方だから、俺達は普段本当に気が抜けないんだ。」
「・・・。」
「今日もそんな日になると思っていたんだが……君が来てくれたことで場が緩んだというか…。」
「なるほど。」
「初めてのことだが……とても有難いと思ったんだ。」
「吉岡さん…。」
「今日は君が来てくれたことに感謝するよ。」
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。」
「ありがとう、youさん。」
サングラスを掛けていて、その表情はハッキリ分からないものの、
吉岡の口元は綺麗な弧を描いていて、纏う雰囲気は優しいものだった。
こちらも感謝している、と…youもそれに笑顔で応える…。
「あっ、吉岡さん…あっちの薔薇のアーチも見ていいですか?」
「ああ、案内しよう。」
「わーい!」
と…そんな2人の様子を屋内から見ていたアカギと鷲巣…。
「ほぉ……やりおるなあの娘。普段笑わぬ者共をああも容易く…。」
「・・・。」
「普段誰も外には出んが、まぁ、なかなか良い光景かもしれんじゃないか。」
「別に…ていうか昼間呼ばれる事滅多に無いから庭とか気にしたことない。」
「んー…吉岡もいい年頃だし、そろそろ結婚のことも考えてやらんとな……いや、なかなかこれは…あの2人、似合っておらんか?のぉ、そう思わんか、アカギ…んん??」
「…鷲巣…。」
「んーーー??なんじゃ?」
「12点。」
「あ"?」
「あれじゃ、役不足だ。」
「はぁあ??」
「フフ…。」
そう呟くや否や、鷲巣を置き去りにしてアカギは足早に玄関へ向かい、
靴を履き変えて庭へと降りたつと、youと吉岡の元へと向かっていく。
大輪の薔薇が咲き纏うアーチの入り口。
咲いている薔薇について話をしているyouと吉岡の後ろからアカギが声を掛けた。
「you。」
「っ…?!!」
真後ろから急に声を掛けられてビックリしたyouが、
オーバーアクションを取ってしまい、見事に薔薇の棘で指を傷付けた。
「ったぁああ!!!」
「あらら。」
「あああ、アカギさん!!?」
「ゴメン、大丈夫?」
「あ、はい……血は出てるけど、ちょっと掠っただけみたいです…。」
「貸して。」
「え?」
言うが早いか、アカギはyouの手首を掴み、彼女の怪我した指をぱくりと咥えた。
「?!?!!」
「!!!!?」
同じ反応をするyouと吉岡…そして、アカギを後ろから追いかけてきた鷲巣。
「あ、アカギさ……んっ!!?」
「・・・ん。」
「っ……んぅ…//」
「・・・。」
「ち……ょっと!!何するんですか!!」
「・・・消毒。」
「頼んでませんッ!」
「フフ…。」
十分に彼女の指を自分の舌で蹂躙し、解放したアカギ。
赤い顔でプンスカ怒るyouに「ゴメンごめん」といつもの如く軽く謝罪すると、
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、鷲巣を見遣る。
「これなら満点。」
「ほざけ若造!30点……いや-10点じゃ!」
「・・・何で。」
ムッと表情を変えるアカギに、鷲巣が物申す。
「嫌がっとるじゃろ!明らかに!」
「…嫌がってない。」
「嫌がっとる!」
「嫌がってない。」
「嫌がっとる!絶対に嫌がっとる!!そうじゃろ、youッ!!」
「嫌がってないよな、you?」
どうしてこうなった…。
気付けばギラリと、鬼の形相2名に詰め寄られるyou。
じりじりと薔薇のアーチの中へと追いやられる…。
「い、いや…な、何の話ですかッ?!!」
「消毒したこと。」
「ああ、今の…。」
「嫌がってないよな。」
「いや、普通に嫌でしたけど……恥ずかしいし。」
「あ"?!」
「ひっ!!」
至極当然だろうと、サラリと伝えたyouに対し、アカギの眉間に皺が寄る。
その反対にカカカカ!!!と愉快そうに笑い出す鷲巣…。
何とも濃い2人の反応に、youも吉岡も無言になる…。
「そうじゃろ、そうじゃろ!嫌、嫌、嫌じゃよな!!!」
「は、はぁ…。」
「ところで、you、庭見学はどうじゃ?」
「あ、は、はい……とても綺麗です!(何時の間に呼び捨てに…)」
「広いからな、今日一日で終えずに何度か通うと良い。」
「ええっ!?い、いいんですか!!?」
「カカカ!よいとも良いとも、君はもうワシの知り合いじゃからな、アカギが一緒でなくとも好きな時に来るがいい。なぁに、遠慮することはない。」
「わぁ!ありがとうございます、鷲巣さん!」
「まだ庭見学をするか?」
「えっと…お許しいただければもう少しだけ…。」
「良いよい!好きにしなさい!」
「ありがとうございます!」
ぱっと嬉しそうな表情で鷲巣に礼を告げるyou。
鷲巣はそれをニコニコと笑顔で返し、次いでアカギにその笑顔のままで言葉を放つ。
「アカギ、貴様はもう帰って良いぞ。」
「は?」
「帰りたかったんじゃろ?さぁ帰れ、すぐ帰れ、今すぐ帰れ。」
「テメェ…。」
「youはちゃんと家まで送ってやるから、心配せず帰ると良い。」
「そういうワケにはいかねェな。」
「あぁ?」
「言ったろ……デートするって……だったら、オレだけ帰るワケにはいかねェな。」
「ぐぬぬ…。」
「帰るぞ、you。」
「ぬお!待たんか貴様ッ!」
「やだね。」
ふっと軽く笑みを浮かべ、アカギはyouの手を取って走り出した。
「you!!必ずまた……いや、迎えに行くから遊びに来るんじゃぞ!!!」
「ああありがとうございますううーーー!!!」
引き止めるのを諦めたらしい。
後方から鷲巣が再来訪の誘いを大声で叫んでいる。
「え?え?」と頭に疑問符を浮かべながら、そのまま薔薇のアーチを走り抜けた…。
・
・
・
・
「あ…っ、アカギさ……ちょっと待って…もう走れない…!!」
「体力無いね、you……まだ鷲巣んトコ出で3件も離れてないじゃない…。」
「だ…だって……はぁ…急に走るから…っ。」
「まぁ、いいけど……。」
「っでも、何で急に帰るなんて……。」
「鷲巣がアンタに目を付けた。ああもう、本当にこれだから……会わせたくなかった。」
「目を付けたって…。」
「大方、オレへの嫌がらせだったり、呼び出す出汁に使ったりってトコだろうけど…。」
「???」
「まぁ、そういうワケだから……鷲巣とはあまり関わらないでくれると嬉しいんだけど?」
「そう言われましても…。」
「じゃぁ、基本的に鷲巣とどうしても会うことになる場合はオレも一緒に行く。いいか?」
「それは…はい。元々鷲巣さんはアカギさんのお知り合いですし。」
「ん。それならいい。」
youの返事に納得すると、アカギは彼女の髪に手を伸ばしてクシャクシャと撫でた。
セットが乱れたと少し頬を膨らましながらyouが髪を整えていると、ふいに再びアカギから声を掛けられる…。
「そういえば、庭で白服と何話してたの?随分楽しそうだったね。」
「そうですか??普通に薔薇とかお庭のお手入れのお話とか、専属の庭師がいらっしゃるとか……ですけど。」
「ふーーん…。」
「アカギさん?」
「いや、ただオレの普段見た事ないような顔で笑ってたから。」
「そんなこと無いと思いますけど…。」
「そんなことあると思うんだけど。」
「え?え??何で怒ってるんですか?!」
「・・・youのバカ。」
「えぇ!!?」
先程吉岡と会話していた時に見せていた穏やかな微笑み…。
いつも彼女を困惑させることが主な(自覚しかない)アカギとしては、なかなか自分は拝むことのできない表情、いや寧ろ一度も見たことがないのではないかと考え、不機嫌になる。
「・・・。」
「あ、あの…!」
別段怒ったりはしていないが、僅かに不機嫌なオーラを漂わせて無言でアカギが歩き出すと、
youは彼の服の袖を少し摘まんで立ち止まらせた。
アカギが彼女を見下ろせば、不安そうな表情で見上げているため、
謝罪でもされるのかと思いきや、不思議な回答を告げられる…。
「よ、よく分からないですけど、わたし、緊張した笑いになってました?吉岡さんに失礼な表情だったかな…だとしたら申し訳ない…。」
「は?」
「いや……だって……アカギさんが見た事無いわたしの表情なんてあったかなと思ったから…。」
「!!」
「笑ったり、怒ったり、泣いたり、驚いたり……多分、アカギさんが一番わたしの顔を知ってると思うんですけど…。」
「youはそう思うの…?」
「え、ええ、はい………うん、そう思います。」
「・・・。」
「だから、上手く笑えてなかったのかなって……っ!?」
「思って」と最後まで言い終わらないうちに、youは正面からアカギに思いっきり抱きしめられた。
それはもうギューっと。
「ちょ、あああアカギさんッ?!!//」
「ああ、もう………本当好き。」
「っ…!?」
「こういう……赤面した顔も、オレだけかな。」
「そ、それは分かりませんけどッツ!」
「フフ…。」
ひとしきり抱きしめ終えた後、身体を少し離してみると、
訳が分からないと困惑する表情で顔を真っ赤にするyouが眼下に映るので、
頗る嬉しそうな表情でアカギは笑うのだった。
ご近所の鷲巣さんのお庭は素敵!
(あ、そういえばさ、さっき…「オレが見た事ないyouの表情なんて無いんじゃないか」って言っただろ?)
(はい、言いましたね。)
(見た事ないyouの表情、多分結構ある。)
(えっ、そう…かな…そうなの…?)
(うん。凄く見たいけど、見れてない表情……あるな。)
(そうですか……ちなみにどんな?)
(どうしよう……聞きたい?言っていいの?)
(えー、どうかな、でもわたしの事だからなぁ……やっぱり知っておきたいな、教えてください!)
(xxxする時の表情とか。)
(もうイヤ、この男ッ…!)
word from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*