step1_(ご挨拶編)
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「youちゃん、今度の休みっていつ?」
「13日だよ~。」
「よかった!ギリ間に合うね!じゃぁ、私と一緒にお菓子作らないっ?!」
「お菓子…?」
「だって次の日バレンタインじゃない!」
「…あ。」
そんなこんなで
近所の豪邸にお住いの坂崎美心一緒に
バレンタインのチョコレートを作ることになったyou。
バレンタインですよ福本荘!
チョコ作り当日…個々に沢山チョコレートを作るのもいいけれど、
それだとワンパターンでインパクトに欠けるから!
という美心の意見に従い、チョコレートケーキをホールで作ることに…。
お互いに菓子作りは不慣れだったが、どうにか丸一日かけて完成させた…。
小さいながらも2つ作ったので、丸々1ホールを持って帰ることとなったyou。
そんなに距離も無いが、家に帰る途中に誰に渡すかをぼんやり考えるのだった…。
「アカギさんでしょ、カイジくんでしょ、零くんにゆっきーに一条くん…これで5人ね…。」
ふむふむと頷き、いつものメンバーを脳内のケーキ譲渡リストに加えていく…。
単純にカットすれば八等分はできるホールケーキ。
残り3つの譲渡先を誰にしようかと悩み、一人を選抜した。
「あ!大家の遠藤さん!ホワイトデーは家賃下げてもらう条件で渡してみよう…。」
…意外とセコい考えをするyouであった…。
そして残り二つを誰に渡そうかと考え始めた時、福本荘に到着してしまう。
部屋で一人悩むのも癪だと思い、いっそ自分で2つを食べようかとさえ考えるyou。
そこへ現れたのは銀色の髪。
後ろ姿から判断し、それは平山に他ならないと思ったyouは駆け寄って声を掛けた…。
「平山さん!何してるんですかっ?」
「ん?」
「…え?!わ!あわ!すすす、スイマセン!!人違いです!///」
銀色の後ろ姿は平山ではなく、煙草を咥えたナイスミドルの中年男性だった。
ツンツンとハードワックスで固めた髪形の男など、そうそういるはずもない為
その人違いは、ワリと確信を持って声を掛けたyouの驚きに拍車をかけた。
そんなyouの慌てようとは裏腹に煙草の煙をフーっと吐き出し、
落ち着いた様子で男はyouに尋ねた。
「嬢ちゃん、福本荘って…ココか?」
「え、はい!そうです!」
「ココに入ろうとしてたってことは…嬢ちゃん、ここに住んでんのか?」
「え、ええ…まぁ。」
「へェ……そりゃラッキーだ、ただの一拠点にしとくのは勿体無いな。」
「???」
「ココの一階に明日越してくる予定なんだ。」
「わぁ!そうなんですか!私、二階に住んでるyouっていいます!」
「youちゃんか……オレは平井銀二、よろしくな。」
「平井さん…(平山さんと限りなく間違えそうな予感…)」
「銀二でいいさ。」
「じゃぁ銀さんはどうでしょう!」
「ハハッ!嬢ちゃんまでその呼び方なのか!」
「「まで」?」
ちょっとした疑問符を頭に浮かべて銀二を見上げるyou…。
と、そこへ「銀さーーーん!」と大きな声で一人の男が駆けて来た。
前髪をオールバックにし、短い後ろ髪を一つにくくった好青年が2人の前で立ち止まる。
見知った顔と見知らぬ顔を交互に見やり、結果的に見知った顔に疑問をぶつけた。
「銀さん、この娘は?」
「youちゃんだそうだ。この福本荘の二階に住んでる…所謂ご近所さんだな。」
「へぇ、そうなんですか…あ、オレ、森田鉄雄です、よろしく!」
ニコっと笑ってyouに手を差し出した森田。
敵意の全く感じられない彼の明るいオーラに、youも自然と笑顔で握手を交わす。
「よろしく、森田くん。」
「どうしよっか「youさん」…でいい?」
「あ、別にyouでいいですよ。」
「じゃぁyouで。」
「うん。」
そうやって、挨拶を終えたところでよいことを思いついたyou。
「銀さん、森田くん、これから忙しいですか?」
「ん?何かあるのか?」
「今日、友達と一緒にバレンタインのチョコケーキ作ったんです。よかったら食べません?」
「オレは暇だから嬉しいんだが…森田はどうだ?任せた仕事は終わったか?」
銀二とyouが同時に森田を見る…。
その視線に一瞬「え?」と声を上げた森田だったが、すぐに笑い返した。
「ちょうど終わったんですよ、だから銀さんに報告するために戻ってきてたんです。」
「そうか。」
「でもどうする、you?お前の部屋に大の男2人もズカズカ上がり込むのはイヤだろ、流石に…。」
銀二がyouの安全面を気遣って尋ねた。
が…しかし。
「では大家さんの家をお借りしましょう!」
「「え。」」
何故に大家…。
そう思って固まる銀二と森田。
「何で大家なんだ?」
「私の部屋でも構わないんですが……そうなると多分…色んな意味でゴタゴタになると思うんです…。」
「部屋が散らかってるとか?」
「ち、違いますよ!ちょっと隣人の方が…変わっててですね…。」
「隣人ん~??」
「え……えぇ、まぁ……。それなら「皆」で一緒に食べた方が安全かと思いまして…。」
「みんな?」
「福本荘の皆にケーキあげるつもりでしたし、銀さんや森田くんの歓迎会にもなるし…いいかなーって。」
「あぁ、そういうことか……馴れ合いは苦手だが…折角youが誘ってくれてるしな…。」
「じゃぁ!先に大家さんのところにいきましょうか、それから皆を呼びに行きますね!」
早速大家の遠藤宅に向かい、そこでyouは遠藤に事の経緯を話した。
面倒臭そうな顔をした大家だったが、新入居者の銀二と森田との契約的体面もあり渋々OKを出した。
「じゃぁ、私今から皆に声掛けて買い物行ってきますね!銀さんと森田くんのことよろしくお願いします!」
「よろしくって…。」
「すぐ戻ってきますんで!」
手をブンブン振って遠藤宅の玄関を出て行くyou。
残された銀二と森田をこれまた渋々居間に案内する遠藤だった…。
*。゜.*。゜.*。゜.*
「ヘェ、youが作ったケーキか。」
「はい…あ、友達と一緒に、ですけど…。これから大家さん家で食べるんですけど…アカギさんも一緒にどうですか?」
「面倒くさい。後で部屋にyouが持って来てよ。」
「あっ!そういうこと言うならアカギさんにはあげません!折角新しい入居者の銀さんと森田くんも一緒で親睦会兼ねてるのに。」
「(それが面倒だって言ってるんだが)…まぁいいや、折角youの手作りだし…食いにいくか。」
「うん!じゃぁ大家さん家に行っててくださいね、カイジくんと零くん誘ってきますんで。」
「ああ。」
ワリと素直に言うことを聞いたアカギ。一度頷いて、遠藤宅へと向かった。
そんな彼の背中を少しだけ眺めた後、youは次いで203号のチャイムを鳴らした。
すぐに扉が開いて、カイジの顔が覗く…。
「ん、youじゃねぇか…どうしたんだ?」
「あのね、突然なんだけど…明日ってバレンタインじゃない?」
「あぁ、そういえば…そう、だったか?」
ここ数年女性と接する機会があまりなかった為、カイジの脳内からはたいていのイベントは抹消されており
平日と変わらないような反応でyouに言葉を返した。
「うん、それでね、美心ちゃんと一緒にチョコレートケーキを作ったんだ!」
「み、美心も来てるのか?!」
「ううん、美心ちゃんは明日好きな人にあげるんだって。」
「(嫌~~~~な予感…。)」
「で、その作ったケーキを持って帰ってきてる時に、明日福本荘に越してくる方たちに会ってね!」
「ヘェ!新しいヤツが来んのか!」
「うん!その人たちとの親睦会も兼ねて、大家さん家で今から飲み会開こうと思って。」
「・・・遠藤ん家で…?」
「うん!アカギさんと新入りさんと遠藤さんはもう待ってるからカイジくんも先に行ってて?」
「…youはどうすんだ?」
「零くんを誘って、少し食べ物と飲み物の買出しに行こうかと…。」
「オレが行く。」
「え…。」
ガンとして言い放ったカイジの目がいつになく真剣で
youは不思議そうな顔でその真意を問う…。
「いいけど…どうして?」
「遠藤は苦手っつーか……アイツ、オレを目の敵にしてるからな。あんまり長く一緒にいたくないっつーか。」
「それはカイジくんがすぐ家賃を滞納するから…。」
「じゃ、行ってくるから!!」
youの言葉は聞かなかったコトにしたらしいカイジ…。
サッと右手を上げて駆け出して行く…。
そしてその背に呼びかける。
「お酒だけじゃなくて普通の飲み物もねーーー!お金は後で払うからーー!」
そう叫び終わったと同時に205号の扉が開き、零が顔を出す…。
バタバタと騒々しく廊下で騒いでいた為、何事かと思ったようだ。
零はyouに「何の騒ぎ?」と尋ねてきた。
「ちょうどよかった、零くんは今から時間大丈夫?」
「もう夕方だしね、特に用事は無いよ。」
「実は…かくかくしかじかで…一緒に遠藤さんの家にいかない?」
「うん!youの作ったケーキ、食べたい。」
「美心ちゃんとの合作だけどね。」
にっこり笑い合って、2人は遠藤宅へと歩き始める…。
それからすぐに遠藤宅に到着し、インターホンを押したのだが…
そこに現れたのは家主ではなく何故か森田が2人を出迎えに来た。
どうしようもなく困ったような顔色で。
「youちゃん!」
「あ、森田くん!こちら205号の宇海零くんだよ。」
「あ!あぁ、どうも、明日引越してくる予定の森田鉄雄です!よろしく、零君。」
慌てたようにペコリとお辞儀をした森田に零もいつもの笑顔で綺麗に挨拶を返す。
零のあの…黒々としたオーラが出ていないのを見る限りでは、森田は敵視されていないようだ。
「宇海零です。よろしく、森田さん。」
「うん。」
森田に挨拶を済ませたところで、靴を脱ぎ、家へと上がる。
そこでやっと森田がyouに言いたかったコトを話し出した。
「youちゃん、折角この集会開いてもらって悪いんだけどさぁ……。」
「え?」
「もう解散しない?」
「はい?」
「帰った方がイイよ、ていうか寧ろ帰ってくれるかな?」
「な、何?!意味分かんないんだけど!?」
「待って!開けないでその襖!遠藤さん裸だから!!」
「何で?!!」
youが叫んだ瞬間、勢い良く襖が開かれた。
勿論開いていないyouと森田と零の注目はそちらに行く。
「遅かったな」と顔を出したのはアカギだった。
「アカギさん!うっわ、酒臭っ!」
「you、待ってた。」
アカギと分かれてからものの10分15分…。
にも関わらず、彼の口臭はアルコール一色に染まっている。
そして唐突にyouに抱きつき、彼女の額に口付けてきた。
その行為には真っ赤になったyouと、零が憤慨して喝を入れる…。
「な、何するんですか!///」
「オッサン何オレのyouにセクハラしてんだよ!」
引き剥がそうと試みる零をヒラリとかわし、アカギは零をスルーして森田に声を掛ける…。
「アンタの連れ、さっきから相当金のニオイがすんだけど……まさかアンタらも闇関係?」
「「も」ってことはアンタもなのか、アカギさん…。」
「ん…どうだろうね。」
「ハァ…だと思ったよ、銀さんと対等に渡り合えるヤツなんて初めて見たからな。」
「ハハッ、そりゃどうも。」
「でも最終的には銀さんが勝つ!」
「フフ…。」
末恐ろしい話題で楽しそうに笑い合うアカギと森田だったが、
奥の部屋から「アカギ、お前の番だぞ」と、銀二の呼び声が響いた為に話はそこで中断された。
アカギはyouから離れて襖を少し閉め、中にいる銀二と会話を進める…。
「銀さん、youたちが来た。」
「ん、じゃぁしょうがねぇな……お前との勝負はまた今度、だな。」
「何で、このまま続けようよ?」
「オレは構わないがyouちゃん達を巻き込めないだろ、こんな惨状に。」
「あらら。そうだった、脱衣麻雀負け越しの大家さんね…。」
そう言って銀二とアカギが見遣った方向には、あられもない格好で項垂れる大家の遠藤の姿があった…。
*。゜.*。゜.*。゜.*
【ここで、youが遠藤宅に到着するまでの10~15分間ダイジェスト】
アカギ
「どうも、大家さん。」
遠藤
「あ、アカギ?!お前も来たのか?!珍しい!」
アカギ
「こちらがyouの言ってた新入りさん?」
遠藤
「あぁ、明日越してくる予定の平井銀二さんと森田鉄雄君だ。」
銀二
「どうも、平井です。」
森田
「森田です、よろしく。」
アカギ
「アカギです。」
遠藤
「何だか妙なコトになっちまったけど、この時間からの会合だ、普通に考えて宴会だな。ビールでも持ってくるわ。」
銀二
「すまないな。」
森田
「あ、ありがとうございます。」
アカギ
「どうも。」
・
・
・
遠藤
「じゃ、まだyouちゃん来てないけど…乾杯ー。」
森田
「かんぱーい。」
・
・
・
銀二・アカギ
「「ヒマ。」」
森田
「そんな…まだ5分と経ってないのに…。」
銀二
「何か勝負でもしようぜ、森田よ…。」
森田
「勝負って…。」
アカギ
「いい考えだ……。」
銀二
「お、やるかい?アカギさん…。」
アカギ
「いいだろう、何をする?」
銀二
「遠藤サン、何かあるかい?」
遠藤
「何かって…。」
銀二
「トランプでもいいぜ、ポーカーとか…。」
森田
「あ!ちょうど4人だし、オレ久しぶりに麻雀やりたいかも!」
アカギ
「ククク……面白い…。」
森田
「遠藤さん、麻雀とかってあります?!」
遠藤
「麻雀なんてやめとけ!オレはそこのアカギにどんだけ金を攫われたか…!!」
森田
「え?アカギさん麻雀強いんですか!?」
アカギ
「さぁ…どうだろうねぇ…。」
森田
「銀さんには敵わないかもですけど…ねっ、銀さん!」
銀二
「さぁなぁ…。」
アカギ
「銀さん…か…。いいね、アンタ……イイ、ニオイがする…。」
森田
「なっ……!?///」
銀二
「アカギさ…いや、アカギ。お前もな……やるか森田、久々に。」
アカギ
「ククク…。」
銀二
「フフフ…。」
森田
「何か知らないけど銀さんの勇士が見れる!遠藤さん、早く麻雀の用意を!!」
遠藤
「オレは嫌だって言ってんだろ!絶対金なんか賭けねーぞ!!」
森田
「別に何でもいいですよ!銀さんが戦ってるトコ見れれば!」
遠藤
「お前…何て無責任な…。」
森田
「早く!じゃぁもう遠藤さんだけレートは脱衣でいいですから!!」
遠藤
「おま…っ!あくまで俺に賭けさせるのかよ!しかも今時脱麻で!?」
森田
「何でもいいから早くッツ!!」
遠藤
「あぁっもう!やればいいんだろ、やればっ!!」
・
・
・
・
「…という深い事情があって、今…遠藤さんが着替えてます。もうちょっと待ってくれる?」
「別に深くない。」
森田の解説に零のツッコミ(というよりは率直な意見)が入る。
そんな遣り取りを続けていると襖が再び大きく開き、部屋から銀二と遠藤が顔を出した。
*。゜.*。゜.*。゜.*
「あ、終わった?」
というアカギの言葉に「あぁ…まぁ…うん…」と、お茶を濁しながら返事を返す遠藤。
一度深い溜息を吐いてからyouと零に目を遣った。
「すまないな、騒がしくて。」
「いえ……もう飲んで出来上がってるのには驚きましたけど…。」
「それも併せてだ…。」
「は、はい……あ!今カイジくんが軽く買出しに行ってくれてるんですよ!戻ってきたら皆でケーキ食べましょうね!」
「そうだな、それが本来の目的だもんな。」
「はい!」
ニッコリと見上げたyouの頭に遠藤は大きな手を落とし、ポンポンと撫でてやった。
そこですかさずyouが彼女にとっての本来の目的を遂行する…。
「でね、遠藤さん!」
「ん?」
「ホワイトデーには家賃1000円下げてくれると嬉しいな~!」
「お前……それが目的で俺の家で会合開いたのか?」
「…ううん、皆にあげたいのが9割だから!」
「1割は思ってんじゃねーか!!………ったく…特別だからな!」
「わー!遠藤さん素敵っ!!」
男ばかりの福本荘の中でyouは紅一点ということもあり、
中々に遠藤に気に入られているようだ…。
福本荘は既に個人資産の為、家賃の上げ下げは遠藤の自由。
それ故遠藤は軽くyouの頼みを承諾するのであった…。
そしてただ、アカギと零だけが面白くなさそうな顔で2人の遣り取りを見ていた…。
3月の家賃を下げることに成功したyouは嬉しそうに笑って
アカギと零に「羨ましいでしょ~!」と自慢気に言い、彼らを振り返った。
「よかったな、you。」
「えへへ…。」
「じゃぁオレからも何か返さないとな……何がいい?」
「え?!い、いいですよ別に!」
「オレ、とか。」
「いらん。」
「何…大家以外からの施しは価値ナシってか?」
「い、いえ…決してそういうワケでは……ていうかアカギさん酔ってます?!」
「オレが酔う?面白い冗談だ。」
「そう…ですよね…。」
「ちょっと前が歪んで見えるだけ…。」
「酔ってんじゃん。」
「you…。」
「もー!重たいですーー!!」
youの背後から腕を回し、体重を預けるアカギ。
脱力した身体の重さにyouが文句を言うと、そこで氷のように冷たい眼差しを感じる…。
ハッとしてyouが視線を探すと、じーっと零がアカギを睨みつけていた。
「酔ったフリしてyouさんにベタベタするのは止めて下さい、アカギさん。」
「…いたんだ、友達ゼロ…。」
「宇海零だっ!!」
「どっちでもいいよ、流石に同類にはバレるか……残念。」
「ホラ、酔ってないんだったらyouさんからさっさと離れてくださいよ。」
「なんで?酔ってなきゃ抱きついちゃいけない規則でもあんの?」
「んなっ!……何て屁理屈を…!」
バチバチと火花を散らすアカギと零。
困った顔で深い溜息を吐くyou…。
そして・・・
「面倒なヤツらだなー…。」
「アカギさんって意外と子どもっぽいんですね…。」
「無邪気な悪漢ってのは周りが困るんだ、周りが。」
順に銀二、森田、遠藤の言葉…。
特に遠藤は苦虫を噛み潰したような表情なので、心の底から出たの本心のよう…。
そしてその時…もう一人の「面倒なメンバー」が遠藤宅へと到着する…。
バタバタと廊下を走って登場したのは、203号のカイジ。
勢い良く「買ってきたぞ!」と買い物袋を一同の前に突き出した。
「ありがとう、カイジくん!おかえり。」
「おう!」
「レシートちょうだいね、後でお金返すから。」
「え、いいって別に!酒飲みで女に金出させる程落ちぶれてないっつの。」
「でも、私が無理言って集まろうって言ったんだし…。」
「いいーーの。」
「でも…。」
youが困った顔をしてカイジを見ていると、そこに笑い声が響いた。
その場にいた一同が確認すると、その主は銀二であった。
初対面となるカイジが頭に疑問符を浮かべて見ていると、
銀二は彼の言いたいことを悟ったようにカイジの肩に手を置いて話し出した。
「どうも、明日越してくる予定の平井銀二だ。」
「あ、どうも…二階の伊藤開司です。」
「アンタなかなか男じゃねぇか…気に入ったぜ。」
「へ?」
「…足りない分はご愛嬌だ。」
そう言って銀二はカイジのポケットにグイッと何かを押し込んだ。
慌てて確認すると、それは万札が3枚ほど…。
足りないどころかおつりの方が高いという…
その金額に目を見開いて、銀二とお金を交互に見て叫ぶカイジ。
「ななな、何?!」
「youちゃんにイイトコ見せたかっただけか、本心からは分からねぇが……ハッキリああいうコトを言えるのは男らしくていいよな。」
「そ、それがどうして…?」
「気に入った、ってコトだ。」
「な…でも、これは受け取れな…。」
「取っておけ。」
「マジか?!でも!でも!!い、いいのか?!本当にいいのかっ?!」
「あぁ。」
「っ……!!優しいおじさん…///」
「銀二だ。」
「銀さん…!!」
「(何か金に困ってるオーラ出てるしな…)」
そんな銀二の本心は知らぬまま、餌を与えられた捨て犬のように目を輝かせているカイジだった…。
それから銀二は部屋に戻って、流れの途中だった麻雀を片付け始める。
アカギは「楽しかったのに…」とボヤきつつ、そして遠藤もそれを追って片付けに参加した。
更に面子の一人で麻雀を打っていた森田も部屋へと向かった…はずだったが。
彼は通りざま、カイジの肩をガシッと掴んで言った…。
「あぁ、そうだ…銀さんの相棒の森田鉄雄です…。」
「あ、あぁ…伊藤、伊藤開司だ。(ちょ、肩痛ぇ…)」
「ヨロシク。」
「はぁ、どうも。(物凄い痛いぞ?!何だコイツ!?オレに何か恨みでもあんのか?!)」
掴まれた肩の痛さに思わず顔を歪めたカイジ。
パッと開放され、安堵の息を吐いた瞬間……森田がドスの効いた声でボソっと呟いた。
「((銀さんに気に入られたからって…いい気になるなよ…。)))」
「?!?!」
「…じゃ、明日からよろしく伊藤君!」
「いや……別にカイジでいい…けど…。」
「そうか、じゃぁ…よろしく、カイジ。」
「あ…あぁ…。」
「銀さーーん!オレも手伝いますよー!」
先程の極悪面とは打って変わって、明るく笑って銀二の元へと駆ける森田…。
今後の付き合いに一抹の不安を抱くカイジであった…。
*。゜.*。゜.*。゜.*
何だかんだでどうにか部屋を片付け終え、皆一様に席につく。
目の前には多種のおつまみと缶ビールと酎ハイとジュース、
そして切り分けて皿に盛られたチョコレートケーキ…。
「何か……シュールな絵面だな…。」
「ごめんなさい遠藤さん……お茶とケーキだけにすればよかったですね…。」
「いや、この時間だし飲むのは賛成だから…。」
「ケーキ、片付けますか?ラップして冷蔵庫に入れて明日にでも食べてくれれば大丈夫ですし!」
「折角youが今日作ってくれたんだろ?なら俺はいただくさ。」
「遠藤さん…!」
用意されたフォークでケーキをカットし、口へと運ぶ遠藤。
その姿を嬉しそうに眺めて「ありがとうございます」とyouが笑う。
勿論そんないい雰囲気を黙って見過ごす住人達ではない。
「youさん、ケーキありがとう。凄く美味しい!」
「よかった、零くんに気に入ってもらえて!」
「ねぇ、じゃぁまたケーキ作って?」
「うん!作った時の要領は押さえてるから、そのうち作るね!」
「やった!じゃぁ一緒に食べようね!」
「うん!勿論!」
零のアピールが終わると今度はカイジが身を乗り出す。
「you!お礼に今度何か奢ってやるよ!何がいい?」
「え!いいの!?じゃぁパフェがいいな!駅近くの店なんだけどね…!」
「了解!今度休み教えてくれ。」
「うん!やったー!」
そしてアカギ。
「で、オレからのお返しは…。」
「あ、結構です。」
「なんで。」
「だってアカギさんから何か貰ったら大変なことになりそうだし。」
「よく分かったな。」
「うん、もう…なんか分かってきました。」
ニヤリと不敵に笑うアカギに負けじと対抗するyou。
その牽制状態を打破したのは銀二と森田の何気ない会話だった。
「銀さん、じゃぁオレたちもyouに何かあげなきゃですかね!」
「そうだな。」
「you、何かリクエストある?」
森田ににっこり微笑んで問いかけられたyou。
今日初めて出会った人物からもお礼の申し出があり、驚いた顔で2人を見る。
「い、いえっ!そんな!勝手にお誘いしたのは私だし…明日引越し当日なのに、逆に付き合っていただいて申し分けないのに…。」
「どうせ作業は業者だし、引っ越す前から仲良くなれるなんて嬉しかったし!」
「森田くん…。」
「こんな機会をくれてありがと。ですよねっ、銀さん!」
「あぁ、そうだな」と返事を返し、銀二もyouを見て微笑んだ。
気付けば彼らだけでなく、全員が同じようにyouを見ていることに気付く…。
そんな現状にyouは本当に嬉しそうに笑った…。
のだが…何故かその目から涙が零れ、一同が驚いてざわめき立つ。
「「you?!」」
「あれ…あれれ??」
「大丈夫、youさん!?」
アカギとカイジが立ち上がり、彼女の隣にいた零がその背中に手を伸ばす。
そして彼女は「あはは」と笑いながら、涙を拭った。
「ありがとう、大丈夫…。」
「ホントか?」
「うん、何か……嬉しくて。」
今度はくすぐったそうに笑って、ゆっくり言葉を紡ぎだした。
「福本荘に来てよかったなーって。こんなに素敵な皆さんと仲良くなれて…。ご近所さんにもよくしてくださる方ばかりだし…。」
「「(あ、ヤバい…)」」
「ケーキはご近所の美心ちゃんと一緒に作ったので、完全に私からというものでもないのに……皆お返し考えてくれたりで、逆にとても申し訳ないです……。」
「「(これ、かわいいって…)」」
「果報者ですね、本当……ありがとうございます。」
そう言い終えて、ペコっと頭を下げた。
その動作に至るまでの全てに於いて、全員が同じことを思っていることは全く考えていないyou。
ほんのり赤色になってしまった瞼を軽く擦って「そういうことです!」とニッコリ笑った。
「何か困らせちゃってスイマセンでした!さぁ!では、若干名先にお酒飲んでる人もいますが、ケーキを食べちゃってください!」
「「いただきます。」」
youの言葉に良い気分になった一同、合掌してフォークを手に取り食べ始めた。
「どうかな…ホールで作ったから味見ができなかったんだけど…。」
「うまいよ。」
「ウマイ!」
「美味しいよ、youさん。」
福本荘二階の面子がそれぞれ笑顔でyouに感想を告げ、
残る遠藤や銀二たちも同様に「美味い」と笑った。
その彼らの反応に安堵の溜息を吐くyou。
一分経たないうちに全員がケーキを食べ終え、福本荘歓迎会が開始されるのだった。
「youはやっぱ、酒飲まないのか?」
「うん、零くん一人飲めないのって辛いじゃない?」
カイジの質問に答えたyouの横から、零が顔を覗かせて言葉を付け加えた。
「わー、オレも飲みたかったけど、今のでyouさんに遠まわしに未成年禁止令出されたー。」
「え!ごめん!私、真面目過ぎ?!」
「あはは!でもオレのこと気にしてくれてるんだよね、それは凄い嬉しいから…禁酒でいい。」
「うう…。」
それから酔ったふりをしてyouに絡むアカギを零が阻止したり、
アカギ、森田、銀二、カイジで麻雀の再戦をしてカイジが素寒貧になったりと
終始笑いの耐えない歓迎会となった…。
そして会合もクライマックスに近づいた頃、
アカギが彼女に告げた言葉によって『いつもの』状態になるのだ。
こうやって…。
「今日はありがと、you。」
「はい?」
「ケーキ。」
「あ、いえ!全然!」
「ホールで作ったんだろ?」
「うん。」
「youは食べなくてよかったのか?甘いもの好きだろ?」
「あ、八等分だったから私の分は無いの。」
「八等分?何で?だったら2つ余ってるんじゃないの?」
「うん、でも……他にあげたい人がいるから。我慢なの。」
「・・・だれ。」
「え…誰って……って皆目ェ怖!」
ふと気付けば、アカギは勿論のこと…酔いつぶれて眠そうなカイジは根性で目を開き、
本気モードの零もいつものあの冷たい視線でyouの口から出る人名をじっと待っていた。
遠藤と森田はそのピリピリした空気に面倒臭そうな表情を浮かべているが、
銀二はどちらかというとワクワクした顔で事の成り行きを傍観しているよう…。
そしてそっとyouが口を開く…。
「誰って……隣マンションの平山さんと一条くんだよ……私がお世話になってること、皆もよく知ってるでしょ。」
「「「・・・・。」」」
結局彼ら(平山、一条)も障害物になり得るのかと…
争奪戦に拍車が掛かったバレンタインの前日であった…。
バレンタイン当日の後日談…
アカギ:youと無理矢理一緒に夕飯外食して(バレンタイン当日ということで)デザートだけを奢らせた。
カイジ:youとは会えず、美心に全く同じケーキを1ホールもらった。
零:youと昼過ぎておやつにパフェを食べに行った。
平山:当日の朝早く、youが家までケーキを届けに来た。
一条:平山と同じく、シフトの希望と一緒に家までyouがケーキを届けに来た。
銀二:youが引越しの手伝いをしに来た。
森田:銀二と同じく、youが引越しの手伝いをしに来た。
*。゜.*。゜.*。゜.*