step2_(イベント編)
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「どうしようかな、これ…。」
友人にもらったチケットを眺めて、そう呟いた。
スケートに行こう。
数日前、友人と会った際に「興味ないからあげる」と渡されたのは
youの住む町にある大型スポーツ施設にあるスケート場の無料利用券。
普段なかなかスケートをする機会などないので、
行きたいとは思うが、問題は誰を誘うのかというところ。
近所に住む親友の美心を今しがた誘ってみたのだが、
なかなか都合が合わず、諦めざるを得なかったという状況なのである。
「(一緒に行ってくれそうな人かぁ……。)」
一番関わる機会が多い人物は201号の住人であるアカギなのだが、
彼の私生活を考えると、スケートなどに好んで行くイメージが全く湧かない。
そもそもスケートどころか、
ストレス発散でのバッティングやフットサルなどのメジャーなスポーツすらしそうにない。
「…となると、カイジくんか零くんかなぁ…?」
「何がカイジサンと零なんだ?」
「んー…スケートに誰をお誘いするかです……ってあああああアカギさんん?!!」
ぼんやりと考えに耽っていたいたため、隣にアカギがやってきていたことに全く気付かなかったyou。
何も考えずにアカギから放たれた質問に何気なく答えたのだが、
その答えがどうにも失敗だったようだ…。
横を見ればものすご~~く不機嫌そうな顔のアカギが着席しており、
これでもかというくらい密着して、普段より低めの声で問いかけてきた。
「・・・何で。」
「え…?」
「オレは選択肢に無いワケ?カイジさんと零なら誘うんだ?」
「いや!あの!その!決してそういうワケではなくて…!」
「じゃぁどういうワケ。」
「た、ただ何かアカギさんが爽やかにスポーツしてるってイメージが全然湧かなくて、スケートとかしないだろうなって思ったので…!!」
「爽やかじゃなくて悪かったな…。」
「あああ墓穴ッツ!!」
「確かに一度もやったことないけどな。」
「あ、やっぱり…。」
墓穴を掘ったと絶叫するyouを横目に、
アカギは軽く流す様に、彼女の判断自体は強(あなが)ち間違ってはいないと言う。
ついでに言うと、爽やかでないというところも自他共に認めるところであるため、目を瞑ることにしたらしい。
「けどさ、候補にも入れてくれないなんて……ちょっと傷付くじゃない。」
「そ…それはすみません……次回から気を付けます。」
「オレはyouが誘ってくれるならどんなデートでも嬉しいよ。」
「で、デートって……でも、やったことないスケートでもいいんですか?」
「いいよ。youが行きたいなら。」
「・・・。」
「それでもまだオレを差置いてカイジさんか零を誘う?」
「わ、分かりましたよもうッ!アカギさんの予定が合えば、わたしとスケート行きませんか?!//」
「ククク……いいよ。いつ行こうか?オレはいつでもいい。youに合わせるよ。」
半ばヤケクソになりながら、恥ずかしそうな顔でアカギをスケートに誘うyou。
言うまでもないのだが、アカギはその誘いを嬉しそうに受け入れるのだった。
・
・
・
・
日取りを決めて、その予定通りにスケート場へとやってきたアカギとyou。
久しぶりに来れたと嬉しそうにしているyouと、
広い氷のスケートリンクを目にして少し驚いた表情をするアカギが対照的である。
「意外と寒いんだな。あと、広い。」
「広いですよー。夕刻からは日によってフィギュアとかアイスホッケーの練習場になるらしいいですから。」
「ふーん…そうなんだ。」
「あ、アカギさん、ちゃんと手袋持ってきました?」
「うん。」
「へー黒の皮手袋なんて素敵ですね!」
「盲牌防止の手袋だけどね…。」
「もう…??」
「何でもない、人にもらったんだ。」
「へぇ~!アカギさんにそんなお洒落なプレゼントをされる方いらっしゃるんですね。」
「…じーさんだけどな。」
「そうなの?じゃぁお孫さんみたいな感じで可愛がられてるんですね…。」
「え"っ?!」
「えっ?」
「いや……何でもない…。」
微笑ましい話を聞いたと思ったyouだったのだが、
アカギの反応と表情を見る限り、どうやらそうではないらしい…。
しかしながら、普段表情の変化の無いアカギの顔を
そこまで歪に変化させるとは一体どんなご老人なのだろうかと思うyouなのであった…。
「しかしスケート靴ってのは動きにくいな…。」
「そうですね。でも氷上に上がったら今の比じゃないですよ~。」
「…youって滑れるの?」
「んー、上手くはないですけど…あまり転ばない程度には。」
「チッ…。」
「チッって……。」
共に滑れないのならまだいいが…ということだろう。
男女の自尊心の差というのも根底にある気がしないでもないが、
突き詰めても返り討ちに遭うことが分かりきっているため、
youは舌打ちに文句を言うことなく、スケートリンクへ入っていった。
入口で多少なりと躊躇う様子の見えたアカギだったが、
手摺を掴んでリンク入りを果たす。
「おい、you……滑るぞ、これ……結構、予想以上に…。」
「まぁ…氷の上ですからね…。」
「ぐ…。」
「まずは手摺の掃除から始めましょうか。」
「何か…屈辱的な言い方だな。」
「し、仕方ないですよ……いきなり手放しってのも逆に危ないですし……とりあえず手摺持ちながら一周しましょう。」
「分かった。」
一度は不服そうな顔をしたものの、割とすんなり初級者扱いを受け入れるアカギ。
youは彼の横に付き、勘を取り戻す様にゆっくりと手放しで滑り始める。
「割と上手いんだな…アンタ…。」
「そうですかぁ?姿勢が不自然だなって自分で思うんですけど…。」
「手摺持たなくていいだけいいだろ…。」
「ふふっ…。」
「笑うな…。」
「あ、えっと違うんです!そういう意味じゃなくて……アカギさん誘ってよかったなって。」
「なんで…。」
「今日は珍しく、驚いたり拗ねたり不貞腐れたり…アカギさんの色んな表情が見れたので、今凄く得した気分なんです。」
「え…?割といつも普通に驚いてるだろ…?」
「(えっ?!どの辺が?!!)」
とてもそのようには見受けられません…と言いたげなyouを見て、
何を思っているのか悟ったアカギも無言になる。
「・・・まぁ、youが楽しいんならいい。」
「はい……楽しいです!」
それは久しぶりにスケートができたことだったり、
アカギの色んな表情を見れた事に対してのことだったりと理由は複数あるのだが、
結局のところ、気心知れた相手と一緒に来れてよかったというところが一番大きかった。
youがアカギを見上げて嬉しそうに笑うと、
アカギもまたふっと笑みを作って彼女の額にコツンと軽く拳を当てた。
「さて、修行再開だ。」
「もうそろそろ一周ですね。」
「ああ、大体感覚掴めてきた。」
「・・・え?」
「え?」
再び手摺を持ちながら滑るアカギの放った言葉に
笑顔…だが、顔を引き攣らせるyou…。
アカギの言葉はそう、氷の上を滑るという感覚のことを示唆しているに違いない、
きっとそうだとyouは一人で納得し、コクコクと頷く…。
が、しかし。
「一周回ったな。」
「じゃぁ、もう一周しましょうか…今度は手摺から手を離しつつ、危なくなったら掴まるって感じで…。」
「ん、わかった。」
そんな初級者への課題を言ったかもしれない…。
二周目が終わる頃にyouはそう思い返す…。
「アカギさん…。」
「ん?」
「スケートしたことないなんて嘘でしょ!!」
「いや、ほんと。」
「コツ掴み過ぎ!!!」
「そう言われても…。」
そう、わずか二周目にしてアカギは手摺を使わずにフラつくことなく氷上を滑っていた。
勿論課題ということで手摺の近くを滑ってはいるのだが、
半周しないうちに手摺に触れることはなくなっていたという驚くべき才能。
アカギという存在は大変特異な生物であると認識しているyouは、
実を言うと、すぐにこうやってスケートをマスターしてしまうかもしれないと思ってはいた。
ただ、スケートリンクを見たアカギの表情や、
いざリンクで滑り始めた時の反応を見て、ひょっとしたら得手にならない事も存在するのではないかと…。
ほんのちょっとだけ、そんな期待をしていた…。
そのため、youは悔しそうに唇を噛み締めているのだが、
アカギは何処吹く風といったところ…。
反対に嬉しそうにyouに声を掛ける。
「you、もう、ちゃんと滑れそうだよ。」
「あーそうですか。流石ですねー。」
「何で怒ってるの??」
「別に……ちょっと凹んだだけです…。」
「そう……でもよかった。滑れるようになって。」
「まぁ、滑れたら楽しいですしね…。」
いつまでも手摺の掃除から抜け出せなければ、それはそれでスケートを楽しめないのかもしれない…。
そう思えば、アカギが言うことにも一理あると思い、
アカギの類稀なる才能をここでも認めることにした。
しかし、youの思うことはアカギの思う正解とほんの一部分しか掠っていないと、彼は言う…。
「うん、まぁ……それもあるんだけど…。」
「けど??」
「youと一緒に滑れるのが、嬉しい。」
「ふえっ?!」
「だから、手摺から離れられてよかった。」
「あ…アカギさん…。」
「今度はちょっと真ん中の方行ってみようよ。」
「う、うん…。」
先頭をきって滑り出したアカギの後を追い、手摺から離れる。
後ろから付いて行っても、なかなか様になっているアカギの滑り。
とても本日スケート初挑戦で外周二周しかしていないとは思えない…。
「このまま二周くらいしよっか。」
「いいですよ。」
「その後、大丈夫そうだったらさ……。」
「うん?」
「手繋いで滑ってみようよ。」
「えぇっ?!」
「・・・いや?」
「い、嫌じゃないけど…。」
「けど…?」
「な…何か色々と可愛いですよ、今日のアカギさん…//」
「かわいい……どこが??」
「いや、本当に超絶珍しく表情豊かっていうか…氷上なだけに。」
「やめて、台無し。」
「申し訳ない。」
「…何だろうね。ちょっとはしゃいでるのかもね。童心に返って。」
「えぇっ?!(そんな無表情で童心だと?!)」
「楽しいよ、スケート。誘ってくれてありがと。」
「ど………どういたしまして…//」
まるで出血大サービスとでもいうかのように今度は優しげな笑みを向けるアカギ。
それは、能面よろしく毎日ほとんど表情の変化が見られない彼の大変貴重な一瞬で…。
(本人は色んな表情をしているつもりらしいが…。)
「え…笑顔は卑怯です…//」
「何で…。」
「だ、だ…だって素敵じゃないですか…//」
「・・・そうなの?」
「そうですよ……やっぱり怒ったり泣いたり驚いたり、色んな顔があるけど…やっぱし、人間一番素敵なのは笑顔じゃないかなって思うから…。」
「なるほどね……じゃぁ、いいじゃない。笑顔。」
「そうなんだけど、そうなんだけどー!!//」
「オレが笑うと…何かマズいの?」
「マズいです。」
「失礼なヤツだな…。」
と、ツッコミを入れてみるものの、
何故マズいのか、困るのか…など、彼女の赤い顔を見る限り、容易に考え付くのだが…。
アカギはククク…と笑いながら、youの手を取った。
「でも、オレも同じ。」
「わ!ちょ、い、いきなり滑り出さないでください!!」
「youの笑ってる顔が一番好き。」
「っ…//」
「何気なく自然に笑ってくれる時があるけど、実は凄く嬉しかったりするよ。」
「アカギさん…。」
「つまりそういうことだよな?」
「……そうですね!」
頻度が多かろうが少なかろうが、単純に互いに笑いあえることが有り難いことなのだと、思い知る。
ただ、アカギの自然に笑った顔があまりに綺麗で
心臓が跳ねたことは掘り返されてはいけないと…丸く収めようとするyouなのであった…。
そうして、このまま自然な流れでスケートに戻ろうと思った矢先…。
「っわ!!!??」
「!!」
ドン!と、後ろから何かがぶつかり、youの身体がぐらついた。
後ろ向きに滑ろうとふざけて遊んでいた子どもがぶつかってきたのだが、
それを見届ける術なく、youは衝撃で前方へと押し出される…。
「うわわわわ!!!」
「you!」
幸か不幸か、手を繋いでいたことでアカギに引き寄せられ、
バランスを崩したままのyouはその胸にダイブするに至った。
「大丈夫か…?」
「は…はひ……。」
「ガキってほんとに……無茶する。」
「こ、子どもだったんですか……何がぶつかったのと…。」
「謝りも無しか…躾がなってねェな…。」
「(零くんなら追いかけてとっ捕まえて黒いオーラで脅すんだろうな…。)」
大して痛くもなかったのか、再び滑り始めて遠ざかる子どもを目で追い、
アカギはやれやれと溜息を吐き、youは近所に住む子どもの躾に容赦のない隣人を思い出す。
そして各々思考を終えた後、はた…と我が身を振り返ると、
片手はしっかり握られたまま、身体はぴったり互いに密着している状況を改めて認識…。
途端に真っ赤な顔が再発するyouと、
「役得だ」と、愉悦の表情を浮かべるアカギ。
「あの、すみません!ありがとうございました!//」
「どういたしまして。」
「もう大丈夫です!もう大丈夫だから!」
「うん?」
「う、腕…解いて、大丈夫だから…。」
「やだ。」
「や、やだ?!」
「うん。だって今、オレの好きなyouの顔してるもん。」
「いやいや!笑顔じゃないですよ?!確実に!!」
「うん。恥ずかしがって真っ赤になってる顔も好きだからさ。」
「?!!?//」
「あと、泣きそうな顔も泣いた顔も困った顔も好きだよ。」
「なっ、な……っ!!//」
「だから離すの……勿体無いデショ?」
「鬼っ!悪魔っ!ほんと、なんてヤツだ…ッ!!//」
「ククク……何とでも言いなよ。そんな赤い顔で悪態吐かれたって可愛いだけ。」
くつくつと嬉しそうに笑うアカギには、もうどんな暴言を吐こうが効果は無いだろうと察したyou。
だったらいっそ、流れに逆らわずに享受すれば、
ひと泡吹かせられるのではないかという考えに行着いた…。
意を決し、youはアカギを見上げていた顔を下して、彼の胸に顔を埋めた。
「え…?」
「…しも……す、どね。」
「you…?」
「わたしも、好きですけどね。」
「!?」
「……アカギさんの…。」
そこまで言って、再び顔を上げると、
youが予想した以上に目を見開いて驚いているアカギがいた。
その表情はあまりにも珍しく、ハッと息を飲むほど。
瞬間的に言葉が紡げなくなったものの、そこで止めるととんでもないことになる事は必須…。
いや、最早こんな表情をさせた時点でもう既に全て手遅れなのだが、
それでも、youは恐る恐る言葉を絞り出した。
「し……真剣な顔してるとこ……と、か。」
「・・・。」
「うわ…。」
「なるほど……そういうこと…。」
「あ、ご……ごめ、す…すいま…も、申し訳ありませ…!!」
見る見るうちに怒りを帯びた表情へと変わっていくアカギを目にし、
謝罪の変化球を繰り出すyouだったが、時既に遅し。
「覚悟はいいか?」
穏やかに怒りを認めたアカギがyouから身体を離す。
何事かと思うや否や、ぐっと手首を掴まれてしまった。
そのスピードたるや…回避不可なくらい素早かったのは言うまでもないだろう…。
「ア、アカギさ…!」
「楽しかったね、スケート。」
「え、いや、あの……まだ滑り始めたばっかじゃ…。」
「慣れないスケート靴で足も疲れたしそろそろ帰ろうか。」
「わ、わたしはまだ…。」
「帰ろうか、you。」
「は………はひ…。」
帰ろうかという問いかけというよりは、
最早「帰るぞ」という命令形に等しいアカギの威圧感に気圧され、
まことに不本意ながら頷いてしまうyouなのであった…。
結局それ以上アカギに反論することができなかったyou。
アカギに手を引かれながら、リンクを後にし、
最後には泣く泣く来たばかりのスケート場を去ることとなった…。
*。゜.*。゜.*。゜.*
外界の空気の元、しょんぼり俯くyouにアカギが声を掛ける。
「そんなにがっかりしなくていいじゃない。」
「ガッカリもしますよ……折角久しぶりに来たのに…スケート…。」
「……オレの落胆に比べたらそんなもん比較にならないと思うんだけど?」
「はぁ?アカギさんが何を落胆す………ッ。」
「思い出してくれた?」
「あ……あれは……その…!!」
アカギの黒いオーラに怯えて思わず後ずさりするも、
両頬をがっちり掴まれて、youはそれ以上動くことができなくなってしまった。
「youに…好きって言ってもらえたと思って、すごく嬉しかったんだけど。」
「うっ…!!」
「今日一番驚いたのに。」
「うう…。」
「ていうか今までで一番嬉しかったかもしれないのに。」
「わぁああああ!!罪悪感がっ!凄い罪悪感がッツ!!」
「あそこからの落胆は大きい……どうしてくれるんだ?」
「ど、どうしてって……うう…。」
「そうだね……じゃぁ、お誂え向きにこうして至近距離にいるワケだし…。」
「いや、それはアカギさんがわたしの顔を掴んでいるからで…。」
「youからオレにキスしてくれたら許す。」
「なっ!なんで!!?//」
「何でって……オレの心を傷付けた罰?」
「別に傷付いてなんかないくせに……。」
「ヘェ…そういうこと言うの、youは…。」
「うっ!だ、だって!アカギさんそんなキャラじゃないでしょ!寧ろこう……何事にも動じないっていうか、心臓に毛が生えてるっていうか…。」
「アンタもなかなか度胸あるみたいだけどな。」
両頬を掴んでいた手を動かし、今度はぎゅーっと頬を引っ張るアカギ。
「ひはひ!ひはひ!ほへああーい!!(痛い!痛いっ!ごめんなさぁーい!!)」
「度胸はあると思うけどね。youのことは別。」
そう言って、パッと掴んでいた両手を離すと、
引っ張ってごめんな、というように再び大きな掌でyouの頬を包んだ。
「好きなんだから……ちゃんと傷付くんじゃない?」
「ぎ、疑問形??」
「うん。そういうの、よく分かんないけど……あの時、youの言葉で一喜一憂したのは真実。」
「アカギさん……。」
「youだってそうじゃないの?」
「………そう、かも…。」
確かに、自分に好きな相手がいて、今日のアカギとのやり取りと同じことを
されると、気分は急上昇ののち、急降下…とまではいかずとも期待した分だけ落胆は大きいはず。
それでも、好かれていないワケではないことが分かったならいいのではないかと言われればそれまでだが、
アカギに於いては常日頃から「youが好きだ」と公言しているので、
聞こえが大層悪くなるが、彼の気持ちを分かっていて弄んだと取られてもおかしくない…。
というより最早、彼はそう捉えているワケで…。
「わたしが間違ってたことは認めます…すみませんでした。」
「結構。」
「でも…その……お詫びにき…キスというのはいかがなものかと思うのですが?!」
「なんで?」
「何でって!!普通、ご飯を奢るとかぁ!」
「必要ない。」
「コーヒーご馳走するとかぁ!」
「要らない。」
「じゃぁ何がいいの。」
「だからyouからのキスだってば。」
「だめ!それ以外で!」
「xxxさせて?とか?」
「バカじゃないですか?!!//」
サラリと発されたアカギのセクハラ発言に
耳まで真っ赤に染めて反論するyou。
彼女の反応を見るのは楽しかったが、これ以上苛めるのも可哀想かと思い、
アカギは小さく溜息を吐いた後、パッと両手を彼女の頬から離した。
「分かったよ。」
「うぅ~!//」
「じゃぁ、手を繋いでいい?」
「・・・え?」
「手。」
今までのハードルと比べると格段に抵抗心の下がった依頼に目を点にし、
youはアカギの顔と差し伸べられた手を交互に確認する…。
「一緒に手を繋いで帰ってよ。」
「あ……アカギさんが…それでいいなら。」
「良くはない。妥協してあげてるの。」
「うう……はい…。」
「でも、思いのほかスケートの時間が短くなっちまったな……you、どこか行きたいとこある?」
「スケート。」
「それはまた今度。」
「じゃぁ……折角なので、近くの公園にでも行きましょうか…。」
「公園とかあるの?」
「このスケートリンク以外にも近くに同じ系列の競技場とかあるんです。それで、ランニングコースや長距離ウォーキングできる大型の公園もあるんですよ。行ったことないけど。」
「そっか。じゃぁ公園ぐるっと回ってみようか。」
「はい!あ、じゃぁその帰りにスーパー寄って帰っていいですか?食材切れてて。」
「いいよ。今日飯何にするの?」
「あれ?アカギさん夜、出掛けないんですか?」
「今日はyouとデートの日だからね。どこにもいかないよ。」
「そ・・・そうですか…//」
じゃぁ行こうか、と…あまりにもサラリとアカギが手を掬い取って歩き出すので、
繋がれている手と手を目にして改めて顔が赤くなってしまうyouだった…。
それから少し歩き出したところで、本題を思い出したと、アカギが唐突に声を上げた。
「あ、you、夕飯。オレ卵食べたい。」
「生ですか?」
「…調理してよ……。」
「冗談ですよ。茹でますか?」
「・・・もういい。」
「もー、冗談ですって!あ、親子丼とかどうですか?」
「何で分かったの…。」
「え?」
「親子丼…というか、ふわってなってる卵のやつ、食べたかった。」
「(ふわってなってるって……ヤバイ、何かアカギさんが可愛い…。)」
「凄いね、エスパー?」
「いえいえ、もしかしたらシンクロかもですよ?」
「シンクロ?」
「ふふ…だってほら、わたしとアカギさん、手繋いでるじゃないですか。」
「・・・。」
「なーんてね?」
それこそ「冗談ですよ」と、自分の言葉がちょっとだけ恥ずかしくなったのか、
照れ臭そうにくすくすと笑って誤魔化そうとするyouだったが、
意外や意外にも、アカギは彼女をからかうどころか、
ふわりと嬉しそうに微かな笑みを浮かべて頷いた。
「そういうの、いいね。」
「?」
「好き…そういう考え方。youらしくて。」
「そ、そうですか??」
「うん。あったかい。」
「あ…ありがとうございます…。」
「じゃぁさ、ずっと繋いでたら…シンクロする?」
「何がですか??」
「ん?オレがyouを好きなように、youもオレを好きになってくれるかなーと思って。」
「ふわっ?!//」
「短い時間でシンクロしてもいいし、長い時間が掛かってもずっと手を繋いでられるから……ハハ、オレにはどっちも得かもしれないな。」
「あ、アカギさんっ!//」
「まぁまぁ、とりあえず公園回ろうよ。手繋いでさ。」
だからそう怒らないで、もっと一緒にいよう。と言うように、アカギは彼女の手をぎゅっと握り、歩き出す。
しばし考えたのち、youは大きく深呼吸をする。
何故そんなことをするのかとアカギがyouを見下ろせば、
彼女はふいっと顔を背け、明後日の方向を見ながらこんな台詞を吐く。
「す……すぐには……離せませんけどね…//」
「お、それってどっちの意味?」
「ひ、秘密ですッ!!絶対秘密ッ!//」
「あらら。」
本当は真意を突き詰めてしまいたい気持ちでいっぱいだったが、
アカギはワザと諦めたような言葉で話題を締めくくった。
自分のものにしたい気持ちは本物で、そうならない事に日々もどかしい気持ちを抱きもする。
しかし、今日のそれはあまりにも可愛くて、嬉しい言葉だったので、
結論付けるなら、こんな日常ならもう少し堪能していたいと思うからなのだろう。
氷上だってどこだって
手を繋いでいたい
(あーあ、でもスケート…もうちょっと滑りたかったなぁ。)
(youがオレの機嫌を損なうから…。)
(わたしの所為なの?!!)
*。゜.*。゜.*。゜.*