『天』 赤木しげる(壮年)
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消えてほしいと思う
消えないでと願う
glow
「雨か…。」
夏、生温い風が吹く日だと思っていたその日。
真っ赤な夕焼けが見える風景をその色に染めている時間帯。
ふいに…赤木の脳裏に何かの光景が浮かんだ。
それは、まるで今のような夕暮れで、空は広くて…
その片隅には、胸が苦しくなるような優しい笑顔を浮かべた女性がいた。
「…見た、気がする。」
その場に立ち尽くしたまま、そう呟き、赤木は辛く笑った。
「はは………誰だろうな。」
きっと大事な存在だったのだろうと、赤木は思う。
そうでなければこんなにも胸が痛むはずは無いのだから。
「痛いのは…嫌なんだよな、俺……。」
雨脚が強まりつつあるというのにも関わらず、
咥え煙草に火を灯して、軽く息を吸い、吐き出す。
オレンジと赤が混ざり合った空に紫煙がふわりと溶け込んで消えていった。
「ククク…なら、忘れちまおうか。」
別段、病に冒された身体を大事にするつもりもないのだが、
自分以外の痛みや悩みを抱え続けられるほど、今の自分には余裕が無いのだと。
赤木が記憶の1シーン…否、彼女の存在という想い出を完全に切り捨てようと意識を集中させた時だった。
「アカーギさんっ!」
朗々とした声が響き、呼び掛けられた方を振り向けば
そこには今の間中考え悩んだ存在がいた。
「…あ…。」
「傘、忘れちゃったんですか?」
「・・・。」
「…赤木さん?」
覚えのある、知らない顔に戸惑いを浮かべる赤木。
そんな彼の様子を不思議に思ったのか、声を掛けた彼女は赤木をじっと見上げてくる。
「・・・知ってるさ。」
「え?」
「心が。」
「ちょ、あ、赤木さん?!こ…ここ…公道…!//」
「…固ぇコト言うなよ…。」
「でも!///」
「仕方ねぇだろ……お前のこと…抱きしめたくなったんだから…。」
「っ…//」
一方的に抱きしめられていた彼女の手から傘の柄が離れる。
バサリ、と音を立てて濡れたアスファルトに落ちたそれに雨がパタパタと、涙のように降り注ぐ。
思い出せないという痛みは罪悪感なのか、赤木の胸をぎゅうっと締め付けた。
彼女を抱きしめたまま、その存在を消してしまいたいと切に願う。
だが、そんな妥協を許さないとばかりに、彼女の腕が赤木の背に回された…。
「えーっと…なんか、いつになく、きつく抱きしめられちゃってますね。」
「ハハ…まぁな。」
「どうして、こんなに…」
「忘れたくねぇよなぁ……。」
「…赤木さん…?」
「いや……何でもないんだ。」
知らないことを、知らないふりをしようじゃないか。
こんなにも痛く思う。
君は俺の好きな人なのだから。
「だけど、間違いないんだ……俺の心は本物だから。」
「変な赤木さん……でも、嬉しいかな、やっぱり。」
彼女は赤木の胸に頭を預け、ふふっと軽く笑う。
「you。」
「ん?」
「愛してる。きっと、心から。」
「わ……わたしもっ…ですっ…よ?//」
「ハハハ…。」
ああ、畜生、もう。
赤木は、自分につられて笑うyouを見下ろし、
その顔が、声が、少しずつ遠くなっていく感覚を覚えた。
「夜になっちまうなぁ。」
夕陽みたいに真っ赤に染まった、頬っぺたも
眩しいもの、何もかも。
溶けていくんだな。
「…もう、いかなきゃな。」
「…うん、でも……もう少しだけ待ってください。」
髪に、肩に、雨が徐々に染み込んでくるわ、道を通りすがる人に好奇の目で見られるわで、
居心地は悪かったが、それでも構わないのだと…youは微かに笑う。
「もう少しだけ……ぎゅっとさせてください。」
雨はまだ、もう少し降り続きそうで、ちぎれていく雲間から涙のように零れ落ちてくる。
一つ、赤木の頬を伝ったのは雨なのか、涙なのか…。
少しずつ滲む彼女を視界に入れ、赤木はぎゅっと、しがみつくようにその身体を抱きしめた。
glow with love
in the glow of sunset
(ねぇ、赤木さん?)
(わたし、知ってたよ?)
(あの時、赤木さんがわたしを忘れていたこと。)
(でも、知らないフリしたの。)
(ずっと)
(愛していてほしかった。)
*。゜.*。゜.*。゜.*
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