『天』 赤木しげる(壮年)
name setting
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
気付いた時には好きだった
どうしようもないくらいに
貴方が好きになっていた
片恋
「…アカギさん。」
「……・・。」
「赤木さん!」
「ん、あぁ、youか……どうした?」
「…なんでも、ないけど。」
何でもないのに呼ぶなよ、と……軽くyouに笑いかけるアカギ。
そんなアカギとは全く逆の顔…つまりは怒りを顕にした顔でyouはアカギをじっと見る。
呼びかけに気付かなかったことが、そんなに彼女の機嫌を損ねたのだろうかと…。
アカギは困ったように笑って「どうしたんだ」「悪かった」とyouの頭をガシガシと撫でた。
そんなアカギの悪ふざけも虚しく、youはいたって真面目な顔で言葉を紡ぐ。
「イヤだなと…思ったの。」
「何が?」
「赤木さんが…遠くを見ていると……何処かいっちゃいそう。」
「そーかぁ?」
「そうなの!」
「いつものコトだろ、プラプラどっか行ってまたフラ〜っと戻ってくるなんて。」
「違う。そういうんじゃなくて、もっと胸が痛い感じ。」
「よく分かんねぇ、youの言うことは。
ま、ようするに一緒にいたいってことなんだろ?分かった分かった。」
ハハハ…と、思いっきり笑うアカギ…。
youも一瞬はつられて笑ったが、すぐにそれは下手な笑いへと変化した。
「あのね、赤木さん!」
「ん?」
「…〜〜っ、何でもなーい!」
「はぁ?!」
「今度、言うから。」
「んなもん今言えよ…。」
「いいの、今度でいいの!さ、帰ろう!」
「オイオイ…変なヤツだな。」
アカギの背中を押して、彼の家路へといざなう。
言いたくて、言いたくない言葉があった
それは貴方を好きだという言葉
赤木さんが好き、そう思えば思うほど
とらわれてしまいそうで
拒まれてしまいそうで
心が臆病になっていく
いつまでも
答えを言わないでほしかったから
伝えないままでいた
「窓、見てみて赤木さん!雪!初雪だよ!」
「おぉ、本当だな。」
「コタツでみかんは日本人の文化ですよねぇ。」
「こたつで麻雀だろ。」
「それ、赤木さんだけ。」
「赤木さん、雪が溶けてくね。」
「あぁ。」
「もうすぐ春かな。」
「そうだな。」
「今年も皆とお花見行きたいなー。」
「今年は……2人で行くか?」
「いいのっ?!」
「たまには、な。」
「赤木さーん、海行きたい。」
「オレは行かない。ヒロにでも連れてってもらえばいいだろ。
手ごろなのは遠くのオッサンより近くの若者、ってな。」
「イヤ。私は赤木さんと行きたいの。ヒロとはいつでも会えるもん。」
「アイツが聞いたらしょげるぞ。恋人なんだろ?」
「え、違うよぉ!!」
「なんだ、違うのか。」
「ちっがーう!だってだって!私の好きな人は…!」
「・・・・。」
言いかけて、止まった台詞。
グッと息を飲み込んで、youは悲しく笑った。
「実はヒロに告白はされたけどね。断っちゃった。」
「そいつぁ何と言うか…。」
「他に、好きな人がいるって言った。」
「(ヒロ…ご愁傷様。)」
「間違いのない正しさがこの世界のどこかにあるのなら、
誰も嘆かない優しさを探し続けたいって思った。」
そのシーンを思い出したのか、youの目から自然と涙が零れる…。
アカギはその涙を指で掬い、youの頭に手を伸ばしそっと身体を引き寄せた。
「んなもんあるかよ…。」
「っ…。」
「あるとするなら……もうお前は見つけてるはずだ。」
「な、ん…。」
「お前が優しいんだから。」
「優しくないよ!全然…臆病で勇気なくて何もできなくて、困らせて…。」
「優しい。」
凛とした声が部屋に響き、youは俯いていた顔を上げる…。
「お前は、優しい人間だよ。」
それはまるで何もかも包むような笑みで、
アカギはyouを見ていた。
そっと、大きな手で髪を撫でる…。
「youは優しくてあったかい、オレがそう言うんだ。それでいいじゃねぇか。」
「い、いの、か…なぁ…?」
「だからオレは笑えてる。ホラ、youのお陰だ……なっ?」
「…っ…うん!」
朗々とした声で、顔で…全身でyouを包むアカギ。
そしてyouはふと、思う…。
「赤木さんは?」
「ん?」
「私は辛い時とか悲しい時、皆がいてくれるから……その優しさに救われてると思う。」
「そうだな。」
「赤木さんの強さや弱さは?誰かに見せてる?」
「オレ、弱くないから。」
「その強さじゃないよ…弱音だって吐きたいとき…あるんでしょう?」
暫くの沈黙…。
何かを考えた後、何かを吹き飛ばすようにアカギは笑う…。
「ッハハハ!!吐かねぇよ……オレは、吐かない。吐いたことない。」
「赤木さんのバカ……そうじゃ、ないんだよ…。」
「・・・・。」
今度はぎゅっと…youの方から抱きついた。
『弱音を吐ける相手はいたの?』
それは聞きたくて、聞けないこと
それが私であったなら、も
言いたくて、言いたくない言葉
それでも諦めたくないと痛む
届かないこの想い
なのに明日を壊すことに怯えてる
届きそうなこの、指
「やっぱり海はいいや…赤木さんとココに、いる。」
「…そうか。」
撫でてくれるその手の大きさに、包み込んでくれるその体温に
「youが好きだと」いう声が聞こえた気がして、
彼女はぎゅっと手を握り締めた。
願うことで全てが叶うと思っていた
我侭な時間は終わりにしよう
伝えよう
『赤木さんは一人じゃないんだよ』って
伝えよう…
それは夏の終わりの晴れた日で
それはとても綺麗な空だった。
「海ーーー!!」
「結構風が強いな…。」
「秋だから!」
「…そーかい。」
砂浜を靴でサクサクと踏んで歩く。
youは楽しそうに。
アカギはどこか寂しそうに。
咥え煙草に火を点けて、吐き出した白い煙。
天に昇って空に溶けた。
youはアカギが吐き出した白い煙を見つめながら、告げた。
「ねー、赤木さん。」
「あ?」
「私ねー、赤木さんが好き。」
アカギが目を大きく開いたのは、驚きからか、それとも…。
逆にyouは目を細めて、言葉を続ける…。
「気付いた時には好きだった。どうしようもないくらい好きになってた。赤木さんのこと。」
「・・・・。」
「ずっと一緒にいたかったから、ずっと言えなかった。」
「おい…。」
「でもね、なりたかったから言うの。赤木さんが弱音吐ける相手になりたかった、だから言うの。」
「……ッ…。」
「すき。」
アカギの少し前を歩いていたyouの歩みは止まり、
泣きそうな笑顔でアカギを見ていた。
アカギは何かをぐっと飲み込んで、彼女に答えを告げた。
「馬鹿なヤツだ……本当に…馬鹿なヤツだ…。
言わなければ、オレなんかの面影に囚われずに生きることができたのに…。」
一歩、また一歩と距離を縮め、アカギはyouの頭に手を乗せた。
フーッと煙草の煙を吐き出し、アカギは天を仰いだ。
「オレも、好きだったよ。youのことが。」
パッと明るい表情に変わりそうになったyouの顔が困惑の色を浮かべた。
「昨日まで、な。」
「なん?!」
「冷めた。好きだと言われたら、何か冷めた。」
「うそ!」
「嘘じゃねぇ。」
「嘘!」
「本当だ、もうお前とは会えねぇ。会わねぇ。」
「っ…ヤダ!!やだやだ!そんなの絶対嘘だよ!」
パン…
と、小気味良く響いたのは頬を打つ音。
何が起こったのか理解できないでいるyou。
恐る恐る打たれた頬に手を添える…。
「もう帰れ。」
「ゃ…。」
「オレの心は変わらない。」
「ふ‥ッ…。」
そう告げてアカギはyouに背を向けて歩き出した。
堪えられない涙がボロボロとyouの目から零れ落ちる。
拭うことさえ忘れて、泣きながらアカギの反対へ向かって歩く。
もう10mは離れただろうか、そのくらいの距離でアカギは立ち止まった。
目を閉じて、言の葉を思い出すように呟いた。
「変わらない……オレもずっと、お前が好きだった、you。」
そう言い終えた瞬間だった、
それは強い風の中聞こえた声。
それはアカギの背負う、
はりつめた孤独に覗いている僅かな光。
「でも…私ーっ……ずっと赤木さんが好きーー!!」
叫び終えてもなお振り向かないアカギの背を見つめながら
嗚咽を堪え、youはその場に崩れ落ちた。
しかし彼女は知らない…
俯いた銀色の下からパラパラと透明な雫が数滴…
砂の色を少し変えていたことを。
「イヤだなと…思ったの。」
「何が?」
「赤木さんが…遠くを見ていると……何処かいっちゃいそう。」
「そーかぁ?」
「そうなの!」
「いつものコトだろ、プラプラどっか行ってまたフラ〜っと戻ってくるなんて。」
「違う。そういうんじゃなくて、もっと胸が痛い感じ。」
それはつまりこういうことで
「馬鹿なヤツだ……本当に…馬鹿なヤツだ…。
言わなければ、オレなんかの面影に囚われずに生きることができたのに…。」
それはつまりそういうことだったんだと
知ったのは2日後のことで
失恋のショックで一日臥せっている間に
赤木さんはいなくなった
この世界のどこにも、
いなくなってしまった
もう届かないこの想いが
届きそうだったこの指が
未だ君を失くすことに震えてる
それでも、私は…
youは目を閉じて、アカギの姿を探す。
真っ先に思い浮かんだのは、あの日、
アカギが自分を「優しい、あたたかい人間」だと言ってくれた日。
抱きしめられた腕から伝わった確かな想い。
「私ね、知ってたよ……赤木さんが私をスキだって。」
一陣の風が舞い、緑の葉が一枚天に昇った。
愛し君の香運びけり、片恋ひ。
(おま…何自信過剰発言してんの…。)
(ひっ、ヒロ?!いつからそこに!)
(けっこう前から…。)
(す、ストーカー!!)
(違っ///オレはただお前が心配で…!)
(ヒロに心配されるなんて…不覚…ッツ!)
(いい度胸じゃねぇか…。)
(…冗談だよ、ありがとう。)
(…勝てない人だけど、オレ、お前のコト諦めないから。)
(……うん。)
*。゜.*。゜.*。゜.*
3/6ページ