第1章 Philosopher's Stone
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7 暗闇の中の咆哮
その日の夕方、図書室から戻った4人を待っていたのは、最悪の知らせだった。
「ダンブルドア校長先生が、魔法省からの緊急のフクロウ便でロンドンへ呼び出されたんだって」
ハリーが声を潜めて告げると、ロンとハーマイオニーの顔から一気に血の気が引いた。
エリーは、きゅっと唇を結んだ。
「校長先生を遠ざけたってことは、今夜、スネイプが『賢者の石』を盗みに動くってことよ」
ハーマイオニーが力強く言う。
「先生たちに言っても信じてもらえない。……僕たちが、今夜あの落とし戸へ行くしかないんだ」
ハリーの言葉に、ロンが「もちろん僕も行くよ」と応じる。エリーもまた、頷いて3人を見渡した。
「私も行くわ。ここまで一緒に調べてきたんだもの。私たちが力を合わせれば、きっと石を守れるわ」
それは、ホグワーツで初めて出来た、トロールの脅威すら共に乗り越えた『親友たち』を誰一人として欠けさせたくないという、エリーの真面目で純粋な責任感からくる言葉だった。
真夜中。4人は息を殺して、談話室を出ようとした。そこに、思いがけない人物──ネビルが立ち塞がった。
「これ以上グリフィンドールに迷惑をかけちゃいけない。僕は君たちと戦うぞ!」
エリーは、ネビルが怖がりながらもグリフィンドールのために立ち向かってきているのが分かり、申し訳なくなった。
それでも、これからの戦いは、やりきらなければならない。
どうしよう、と狼狽えたその時。
「ペトリフィカス・トタルス!」
ハーマイオニーが全身金縛りの術をネビルに向かって放った。
ネビルは一瞬で動かなくなり、バタン、と床に倒れた。
「ネビル······!ごめんなさい!私たち······本当にごめんなさい!」
エリーは泣くようにして謝ったが、ハリーが「早く!」と急かし、4人はまとまって透明マントに包まり、談話室を忍び出た。
なんとか3階の立ち入り禁止の廊下へとたどり着き、恐る恐る扉を開けると、部屋の奥からはすでに低い唸り声が響いていた。
3つの頭を持つ巨大犬、フラッフィーだ。しかし、以前とは違って怪物は暴れていなかった。その足元には、ひとりでに美しい音色を奏でるハープが置かれている。
「誰かがもう、ここを通ったんだ。音楽を聴かせて眠らせたんだよ」
ハリーが囁く。怪物の6つの大きな目は、音楽にうっとりとしたように閉じられている。
「ハープの音が止まったら大変よ。急いであの扉を開けなきゃ」
ハーマイオニーに促され、ハリーとロンが怪物の巨大な足を押しのけ、床の扉を引き上げた。中は真っ暗で、何も見えない。
「僕が最初に行く。何があるか分からないから、僕が大丈夫だって言うまで、みんなは待ってて」
ハリーが扉の縁に足をかけた、その時。ハープの調べがプツリと途絶えた。
「音楽が止まったわ······!」
エリーが叫ぶのと同時に、フラッフィーの3つの頭がカッと目を見開いた。怪物は侵入者の姿を捉え、鋭い牙を剥き出しにして凄まじい咆哮を上げた。
「飛び降りて!!」
ロンがハリーの背中を突き飛ばすようにして、4人は次々と真っ暗な穴の底へと飛び降りた。
ドサリ、と奇妙な柔らかい感触が4人の身体を受け止めた。
「ふう、助かった……。植物のクッションみたいだね。痛くないや」
ロンが安堵の息を吐く。しかし、エリーはその植物の感触が、ただのクッションではないことにすぐに気がついた。
暗闇の中で、うねるような長い巻きひげが、まるで蛇のように4人の足首や手首に音もなく絡みつき始めていたのだ。生き物のように蠢くその緑色の蔦は、もがけばもがくほど、締め付けを強くしていく。
「何これ!? 動けないわ!」
ハーマイオニーが悲鳴を上げる。
「うわっ、首まで巻き付いてくる! 助けてくれ!」
ロンがパニックになって暴れると、蔦は待ってましたとばかりにロンの身体をがんじがらめに縛り上げた。ハリーも必死に抵抗しているが、どんどん身動きが取れなくなっていく。
「みんな、暴れないで! 動いちゃダメ!」
エリーは締め付けられる痛みに耐えながら、必死に頭の中の教科書の記憶を掘り起こした。この不気味な蔦の特徴、蠢くような不気味な生態、そしてもがく者を好む性質──。
「(間違いない……これは『悪魔の罠』よ!)」
エリーは、即座に身体の力を完全に抜いた。呼吸を穏やかにし、植物に一切の抵抗を示さないよう、死んだようにじっとする。
すると、エリーの身体を締め付けていた蔦が、ふっと興味を失ったように緩み、エリーはそのまま植物の底へとスルリと通り抜けて床に落ちた。
「エリー! エリー、どこ!?」
上からハリーの焦ったような声が響く。エリーは床から立ち上がり、上を見上げて叫んだ。
「私は大丈夫! みんな、力を抜いて! リラックスするの! 抵抗しなければ、植物が離してくれるわ!」
エリーの冷静な指示を聞き、ハーマイオニーもすぐにピンときたようで、深く息を吐いて身体の力を抜いた。数秒後、ハーマイオニーもエリーの隣へと落ちてきた。
「その通りよ、エリー! 流石だわ!」
「そんなこと言ったって、リラックスなんてできるかよ!」
上空では、まだロンが蔦に吊り上げられて顔を真っ青にしていた。ハリーも力を抜こうとしているが、ロンが暴れるせいで植物全体が興奮し、再び締め付けを強めようとしている。
「どうしよう、ハーマイオニー! この植物の弱点は何だったっけ!?」
エリーが焦ったように叫ぶ。ハーマイオニーが「ええと、確か本には……」とパニックになりかながら、植物がひんやりとした湿った暗闇を好む性質であることを思い出した。
「光よ! 悪魔の罠は、太陽と火を嫌うの!」
ハーマイオニーがハッと目を見開いた。
「インセンディオ!」
ハーマイオニーの杖先から、まばゆいばかりの白い熱光が放たれ、部屋全体を照らし出す。
ジュウ、と不気味な音を立てて、悪魔の罠の蔦が一斉に身をよじり、光を避けるようにして壁の隅へと退散していった。
縛りから解放されたハリーとロンが、どさりと床に落ちてくる。
「ゲホッ、ゲホッ……死ぬかと思った……」
ロンが首をさすりながら立ち上がる。ハリーもメガネを直しながら、エリーとハーマイオニーに向かってホッとしたような笑みを向けた。
「ありがとう、エリー、ハーマイオニー。二人がいなかったら、僕とロンはここで締め殺されてたよ」
「エリーがあれの特徴をすぐに思い出してくれたおかげよ」
ハーマイオニーが少し誇らしげにエリーの肩を叩く。エリーは人好きのする苦笑いを浮かべ、服についた泥を払った。
「教科書通りに体が動いてよかった。さあ、先へ進みましょう。まだ始まったばかりなんだから」
ハリーは、暗闇の中でも毅然と前を見据えるエリーの横顔を見て、胸の奥に不思議な頼もしさを感じていた。普段は真面目でおっとりしているように見える彼女が、窮地で見せるこの冷静さは、どこか4人の中でも特別な芯の強さを感じさせるものだった。
4人が進む蔦の部屋の奥には、石造りの長い廊下が続いていた。
その先から聞こえてくるのは、サラサラ、パタパタという、無数の小鳥が羽ばたくような奇妙な音だった。
「ねえ、何の音かしら?」
ハーマイオニーの囁きに、4人は杖を構え直しながら、次の試練が待つ部屋へと足を踏み入れた。
その日の夕方、図書室から戻った4人を待っていたのは、最悪の知らせだった。
「ダンブルドア校長先生が、魔法省からの緊急のフクロウ便でロンドンへ呼び出されたんだって」
ハリーが声を潜めて告げると、ロンとハーマイオニーの顔から一気に血の気が引いた。
エリーは、きゅっと唇を結んだ。
「校長先生を遠ざけたってことは、今夜、スネイプが『賢者の石』を盗みに動くってことよ」
ハーマイオニーが力強く言う。
「先生たちに言っても信じてもらえない。……僕たちが、今夜あの落とし戸へ行くしかないんだ」
ハリーの言葉に、ロンが「もちろん僕も行くよ」と応じる。エリーもまた、頷いて3人を見渡した。
「私も行くわ。ここまで一緒に調べてきたんだもの。私たちが力を合わせれば、きっと石を守れるわ」
それは、ホグワーツで初めて出来た、トロールの脅威すら共に乗り越えた『親友たち』を誰一人として欠けさせたくないという、エリーの真面目で純粋な責任感からくる言葉だった。
真夜中。4人は息を殺して、談話室を出ようとした。そこに、思いがけない人物──ネビルが立ち塞がった。
「これ以上グリフィンドールに迷惑をかけちゃいけない。僕は君たちと戦うぞ!」
エリーは、ネビルが怖がりながらもグリフィンドールのために立ち向かってきているのが分かり、申し訳なくなった。
それでも、これからの戦いは、やりきらなければならない。
どうしよう、と狼狽えたその時。
「ペトリフィカス・トタルス!」
ハーマイオニーが全身金縛りの術をネビルに向かって放った。
ネビルは一瞬で動かなくなり、バタン、と床に倒れた。
「ネビル······!ごめんなさい!私たち······本当にごめんなさい!」
エリーは泣くようにして謝ったが、ハリーが「早く!」と急かし、4人はまとまって透明マントに包まり、談話室を忍び出た。
なんとか3階の立ち入り禁止の廊下へとたどり着き、恐る恐る扉を開けると、部屋の奥からはすでに低い唸り声が響いていた。
3つの頭を持つ巨大犬、フラッフィーだ。しかし、以前とは違って怪物は暴れていなかった。その足元には、ひとりでに美しい音色を奏でるハープが置かれている。
「誰かがもう、ここを通ったんだ。音楽を聴かせて眠らせたんだよ」
ハリーが囁く。怪物の6つの大きな目は、音楽にうっとりとしたように閉じられている。
「ハープの音が止まったら大変よ。急いであの扉を開けなきゃ」
ハーマイオニーに促され、ハリーとロンが怪物の巨大な足を押しのけ、床の扉を引き上げた。中は真っ暗で、何も見えない。
「僕が最初に行く。何があるか分からないから、僕が大丈夫だって言うまで、みんなは待ってて」
ハリーが扉の縁に足をかけた、その時。ハープの調べがプツリと途絶えた。
「音楽が止まったわ······!」
エリーが叫ぶのと同時に、フラッフィーの3つの頭がカッと目を見開いた。怪物は侵入者の姿を捉え、鋭い牙を剥き出しにして凄まじい咆哮を上げた。
「飛び降りて!!」
ロンがハリーの背中を突き飛ばすようにして、4人は次々と真っ暗な穴の底へと飛び降りた。
ドサリ、と奇妙な柔らかい感触が4人の身体を受け止めた。
「ふう、助かった……。植物のクッションみたいだね。痛くないや」
ロンが安堵の息を吐く。しかし、エリーはその植物の感触が、ただのクッションではないことにすぐに気がついた。
暗闇の中で、うねるような長い巻きひげが、まるで蛇のように4人の足首や手首に音もなく絡みつき始めていたのだ。生き物のように蠢くその緑色の蔦は、もがけばもがくほど、締め付けを強くしていく。
「何これ!? 動けないわ!」
ハーマイオニーが悲鳴を上げる。
「うわっ、首まで巻き付いてくる! 助けてくれ!」
ロンがパニックになって暴れると、蔦は待ってましたとばかりにロンの身体をがんじがらめに縛り上げた。ハリーも必死に抵抗しているが、どんどん身動きが取れなくなっていく。
「みんな、暴れないで! 動いちゃダメ!」
エリーは締め付けられる痛みに耐えながら、必死に頭の中の教科書の記憶を掘り起こした。この不気味な蔦の特徴、蠢くような不気味な生態、そしてもがく者を好む性質──。
「(間違いない……これは『悪魔の罠』よ!)」
エリーは、即座に身体の力を完全に抜いた。呼吸を穏やかにし、植物に一切の抵抗を示さないよう、死んだようにじっとする。
すると、エリーの身体を締め付けていた蔦が、ふっと興味を失ったように緩み、エリーはそのまま植物の底へとスルリと通り抜けて床に落ちた。
「エリー! エリー、どこ!?」
上からハリーの焦ったような声が響く。エリーは床から立ち上がり、上を見上げて叫んだ。
「私は大丈夫! みんな、力を抜いて! リラックスするの! 抵抗しなければ、植物が離してくれるわ!」
エリーの冷静な指示を聞き、ハーマイオニーもすぐにピンときたようで、深く息を吐いて身体の力を抜いた。数秒後、ハーマイオニーもエリーの隣へと落ちてきた。
「その通りよ、エリー! 流石だわ!」
「そんなこと言ったって、リラックスなんてできるかよ!」
上空では、まだロンが蔦に吊り上げられて顔を真っ青にしていた。ハリーも力を抜こうとしているが、ロンが暴れるせいで植物全体が興奮し、再び締め付けを強めようとしている。
「どうしよう、ハーマイオニー! この植物の弱点は何だったっけ!?」
エリーが焦ったように叫ぶ。ハーマイオニーが「ええと、確か本には……」とパニックになりかながら、植物がひんやりとした湿った暗闇を好む性質であることを思い出した。
「光よ! 悪魔の罠は、太陽と火を嫌うの!」
ハーマイオニーがハッと目を見開いた。
「インセンディオ!」
ハーマイオニーの杖先から、まばゆいばかりの白い熱光が放たれ、部屋全体を照らし出す。
ジュウ、と不気味な音を立てて、悪魔の罠の蔦が一斉に身をよじり、光を避けるようにして壁の隅へと退散していった。
縛りから解放されたハリーとロンが、どさりと床に落ちてくる。
「ゲホッ、ゲホッ……死ぬかと思った……」
ロンが首をさすりながら立ち上がる。ハリーもメガネを直しながら、エリーとハーマイオニーに向かってホッとしたような笑みを向けた。
「ありがとう、エリー、ハーマイオニー。二人がいなかったら、僕とロンはここで締め殺されてたよ」
「エリーがあれの特徴をすぐに思い出してくれたおかげよ」
ハーマイオニーが少し誇らしげにエリーの肩を叩く。エリーは人好きのする苦笑いを浮かべ、服についた泥を払った。
「教科書通りに体が動いてよかった。さあ、先へ進みましょう。まだ始まったばかりなんだから」
ハリーは、暗闇の中でも毅然と前を見据えるエリーの横顔を見て、胸の奥に不思議な頼もしさを感じていた。普段は真面目でおっとりしているように見える彼女が、窮地で見せるこの冷静さは、どこか4人の中でも特別な芯の強さを感じさせるものだった。
4人が進む蔦の部屋の奥には、石造りの長い廊下が続いていた。
その先から聞こえてくるのは、サラサラ、パタパタという、無数の小鳥が羽ばたくような奇妙な音だった。
「ねえ、何の音かしら?」
ハーマイオニーの囁きに、4人は杖を構え直しながら、次の試練が待つ部屋へと足を踏み入れた。