第1章 Philosopher's Stone
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6 禁じられた森の呼び声
夜の11時、罰則のために玄関ホールに集められたハリー、エリー、ハーマイオニー、そしてネビルの4人を待っていたのは、暗い夜の闇に沈む『禁じられた森』だった。
普段は立ち入り禁止のその森の入り口で、管理人フィルチが不気味な薄笑いを浮かべて彼らをハグリッドに引き渡す。ハグリッドは大きなボウガンを肩にかけ、愛犬のファングを連れていた。
「いいか、これからの作業は命がけだ。生半可な気持ちで付いてくるんじゃねえぞ」
ハグリッドのいつもと違う真剣な口調に、ネビルは小さく悲鳴を上げ、ハーマイオニーも生唾を呑んだ。エリーは、足元の地面をじっと見つめていた。
そこには、水銀のようにギラギラと妖しく光る、銀色の液体が点々と滴り落ちていた。
「ねぇ、ハグリッド、これって……」
エリーが小さな声で尋ねると、ハグリッドは重々しく頷いた。
「ユニコーンの血だ。森のユニコーンが、何者かにひどく傷つけられた。今週で二度目だ。水曜日に一頭死んでいるのを見つけた。いま、もう一頭がひどく傷ついてる。今夜はその手負いのユニコーンを探し出し、楽にしてやるのが俺たちの仕事だ」
「ユニコーンを殺すなんて……そんなひどいこと、誰が」
ハリーが憤る。エリーは魔法生物の教科書の記述を思い出し、胸が締め付けられるような切なさを感じていた。ユニコーンの血には命を永らえさせる強力な魔力があるが、その純潔な生き物を殺した者は、生ける屍として呪われた人生を送ることになるのだ。
ハグリッドの話を聞いて、ネビルは恐怖で今にも倒れそうだった。エリーも恐怖を感じていたが、それ以上に真っ青のネビルを見て、そのガチガチに固くなった手を優しく包み、安心させるように微笑んだ。
「ネビル、大丈夫?私、ユニコーンの特徴も、森の危険な植物の対処法も頭に入ってる。私たちと一緒なら怖くないよ。ね?」
ネビルは涙目でコクコクと頷いた。
森の奥へ進むにつれ、頭上の木々が視界を遮り、月光すら届かなくなる。静寂のなかで、自分たちの足音だけが不気味に響いていた。
「よし、二手に分かれるぞ。ハリー、お前はファングと一緒にエリーと組め。ネビル、お前さんは俺のそばを離れるな。ハーマイオニーもこっちだ」
こうして、ハリーとエリー、そして犬のファングの二人と一匹で、さらに深い霧の立ち込める奥地へと進むことになった。
マントの擦れる音だけが響く沈黙の中、ハリーは隣を歩くエリーの横顔を盗み見た。エリーの細身の身体は寒さで少し震えていたが、その瞳には怯えの色はなく、冷静に周囲を観察している。ハリーはそんなエリーを少しでも守りたくて、自然と彼女の半歩前を歩くようにした。
「エリー、怖くない?」
「うん······もちろん不気味だけど、私、魔法生物が好きなの。この森が、ただ拒絶しているだけじゃなくて、何かを怯えて守ろうとしているのが伝わってくる気がする」
エリーの不思議な包容力のある言葉に、ハリーは胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。ハリーにとって、誰もが恐れるこの森で、自分の隣にエリーがいてくれることが、どれほど心強いか分からなかった。
その時、ファングが低く唸り声を上げ、その場にうずくまった。
前方の開けた場所に、眩いほどの純白の光が横たわっていた。
「……っ」
エリーが息を呑んだ。それは、無残にも命を奪われた、息絶えたユニコーンの美しい姿だった。真珠のような毛並みが、流れ出た銀色の血に染まっている。
悲しみに暮れる間もなく、木々の影から、滑るようにして「それ」が現れた。
全身をすっぽりと黒いボロ布のようなフードで覆った、顔の見えない不気味な影。それは地面に這いつくばると、ユニコーンの傷口に口を当て、その銀色の血を貪り飲み始めたのだ。
「っ……!」
ハリーは額の傷跡に、焼きごてを当てられたような激痛を感じてうずくまった。あまりの痛みに声も出ない。
黒い影が二人の存在に気づき、血に濡れた顔をゆっくりと上げた。そして、獲物を定めるように、ハリーとエリーに向かって容赦なく近づいてくる。
ファングは恐怖のあまり、尻尾を巻いて一目散に逃げ去ってしまった。
ハリーは痛みのなかで、エリーを後ろにかばおうと手を伸ばした。けれど、エリーの行動はハリーの予想を超えていた。
「(怖い——でも、こんなに辛そうなハリーを、もうこれ以上傷つけさせたくない!)」
エリーは必死に、勉強してきた呪文を頭に浮かべ、ただの明かりではなく、最大限の魔力を込めて杖を突き出した。
「ルーモス・ソレム!」
エリーの杖の先から、まるで真昼の太陽のような凄まじい閃光が爆発的に放たれた。暗闇に慣れた黒い影は、突然の強烈な光に怯んだように顔を背け、激しくうめき声を上げた。
直後、別の足音の地響きを立てて迫ってきた。エリーは「助けて!」と叫ぶ。
その鋭い呼び声に応えるように、闇を切り裂いて一騎の影が飛び出してきた。上半身が人間、下半身が馬の美しい姿をしたケンタウルス──フィレンツェだった。
フィレンツェは力強く前肢を跳ね上げ、黒い影を威嚇した。エリーの放った光と、ケンタウルスの登場に形勢不利と悟ったのか、黒い影は霧のように音もなく森の奥へと消え去っていった。
光が収まり、森に静寂が戻る。ハリーは額の痛みが引いていくのを感じながら、荒い息を吐くエリーを見つめた。
「エリー……すごいよ。君があの光を出さなかったら、僕たち……」
「ハリー、大丈夫!? 額の傷を押さえてたけど……」
エリーは自分の恐怖など忘れたようにハリーに駆け寄り、瞳に深い心配をにじませてハリーの顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、エリー。君が守ってくれたから」
ハリーは痛みと恐怖による震えを抑えながら、心からの感謝を込めて微笑んだ。
フィレンツェは馬身をかがめ、二人を見つめた。
「勇敢な若き魔法使い、そして森の声を理解する聡明な乙女よ。今の影が誰だか分かるか? ……ハリー・ポッター、君は一刻も早くここを離れなければならない。この森は安全ではない。特に君にとっては」
フィレンツェはハリーをその背に乗せ、エリーの歩調に合わせてゆっくり歩き、ハグリッドたちが待つ森の入り口まで送り届けてくれた。
◇
グリフィンドールの談話室。
ハリー、エリー、ロン、ハーマイオニーの4人は、暖炉の残り火を囲んでいた。ハリーから森での出来事を聞いたロンとハーマイオニーは、顔を真っ白にしていた。
「つまり……その影は例のあの人だったのね」
ハーマイオニーが声を震わせる。
「そして、スネイプが盗もうとしている賢者の石は、ヴォルデモートを復活させるためのものなんだわ」
「僕たちが石を守らなきゃ」
ハリーの緑色の瞳に、決意の炎が宿る。ロンも「僕も行くよ」と強く頷いた。
エリーは、ハリーの目を真っ直ぐに見つめた。
「もちろん、私も行くわ。ハリーを一人にはさせない。あの怪物を前にしても、私たちは4人で立ち向かったんだもの。今度だって、絶対に石を守り抜こう」
エリーの温かい言葉が、部屋の中に満ちていく。
ハリーはエリーの顔を見つめ、言葉にならない深い想いが胸にこみ上げるのを感じていた。自分を信じ、命の危険を顧みず隣にいてくれるエリーの存在が、ハリーの強さになろうとしていた。
運命の決戦の時が、すぐそこまで迫っていた。
夜の11時、罰則のために玄関ホールに集められたハリー、エリー、ハーマイオニー、そしてネビルの4人を待っていたのは、暗い夜の闇に沈む『禁じられた森』だった。
普段は立ち入り禁止のその森の入り口で、管理人フィルチが不気味な薄笑いを浮かべて彼らをハグリッドに引き渡す。ハグリッドは大きなボウガンを肩にかけ、愛犬のファングを連れていた。
「いいか、これからの作業は命がけだ。生半可な気持ちで付いてくるんじゃねえぞ」
ハグリッドのいつもと違う真剣な口調に、ネビルは小さく悲鳴を上げ、ハーマイオニーも生唾を呑んだ。エリーは、足元の地面をじっと見つめていた。
そこには、水銀のようにギラギラと妖しく光る、銀色の液体が点々と滴り落ちていた。
「ねぇ、ハグリッド、これって……」
エリーが小さな声で尋ねると、ハグリッドは重々しく頷いた。
「ユニコーンの血だ。森のユニコーンが、何者かにひどく傷つけられた。今週で二度目だ。水曜日に一頭死んでいるのを見つけた。いま、もう一頭がひどく傷ついてる。今夜はその手負いのユニコーンを探し出し、楽にしてやるのが俺たちの仕事だ」
「ユニコーンを殺すなんて……そんなひどいこと、誰が」
ハリーが憤る。エリーは魔法生物の教科書の記述を思い出し、胸が締め付けられるような切なさを感じていた。ユニコーンの血には命を永らえさせる強力な魔力があるが、その純潔な生き物を殺した者は、生ける屍として呪われた人生を送ることになるのだ。
ハグリッドの話を聞いて、ネビルは恐怖で今にも倒れそうだった。エリーも恐怖を感じていたが、それ以上に真っ青のネビルを見て、そのガチガチに固くなった手を優しく包み、安心させるように微笑んだ。
「ネビル、大丈夫?私、ユニコーンの特徴も、森の危険な植物の対処法も頭に入ってる。私たちと一緒なら怖くないよ。ね?」
ネビルは涙目でコクコクと頷いた。
森の奥へ進むにつれ、頭上の木々が視界を遮り、月光すら届かなくなる。静寂のなかで、自分たちの足音だけが不気味に響いていた。
「よし、二手に分かれるぞ。ハリー、お前はファングと一緒にエリーと組め。ネビル、お前さんは俺のそばを離れるな。ハーマイオニーもこっちだ」
こうして、ハリーとエリー、そして犬のファングの二人と一匹で、さらに深い霧の立ち込める奥地へと進むことになった。
マントの擦れる音だけが響く沈黙の中、ハリーは隣を歩くエリーの横顔を盗み見た。エリーの細身の身体は寒さで少し震えていたが、その瞳には怯えの色はなく、冷静に周囲を観察している。ハリーはそんなエリーを少しでも守りたくて、自然と彼女の半歩前を歩くようにした。
「エリー、怖くない?」
「うん······もちろん不気味だけど、私、魔法生物が好きなの。この森が、ただ拒絶しているだけじゃなくて、何かを怯えて守ろうとしているのが伝わってくる気がする」
エリーの不思議な包容力のある言葉に、ハリーは胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。ハリーにとって、誰もが恐れるこの森で、自分の隣にエリーがいてくれることが、どれほど心強いか分からなかった。
その時、ファングが低く唸り声を上げ、その場にうずくまった。
前方の開けた場所に、眩いほどの純白の光が横たわっていた。
「……っ」
エリーが息を呑んだ。それは、無残にも命を奪われた、息絶えたユニコーンの美しい姿だった。真珠のような毛並みが、流れ出た銀色の血に染まっている。
悲しみに暮れる間もなく、木々の影から、滑るようにして「それ」が現れた。
全身をすっぽりと黒いボロ布のようなフードで覆った、顔の見えない不気味な影。それは地面に這いつくばると、ユニコーンの傷口に口を当て、その銀色の血を貪り飲み始めたのだ。
「っ……!」
ハリーは額の傷跡に、焼きごてを当てられたような激痛を感じてうずくまった。あまりの痛みに声も出ない。
黒い影が二人の存在に気づき、血に濡れた顔をゆっくりと上げた。そして、獲物を定めるように、ハリーとエリーに向かって容赦なく近づいてくる。
ファングは恐怖のあまり、尻尾を巻いて一目散に逃げ去ってしまった。
ハリーは痛みのなかで、エリーを後ろにかばおうと手を伸ばした。けれど、エリーの行動はハリーの予想を超えていた。
「(怖い——でも、こんなに辛そうなハリーを、もうこれ以上傷つけさせたくない!)」
エリーは必死に、勉強してきた呪文を頭に浮かべ、ただの明かりではなく、最大限の魔力を込めて杖を突き出した。
「ルーモス・ソレム!」
エリーの杖の先から、まるで真昼の太陽のような凄まじい閃光が爆発的に放たれた。暗闇に慣れた黒い影は、突然の強烈な光に怯んだように顔を背け、激しくうめき声を上げた。
直後、別の足音の地響きを立てて迫ってきた。エリーは「助けて!」と叫ぶ。
その鋭い呼び声に応えるように、闇を切り裂いて一騎の影が飛び出してきた。上半身が人間、下半身が馬の美しい姿をしたケンタウルス──フィレンツェだった。
フィレンツェは力強く前肢を跳ね上げ、黒い影を威嚇した。エリーの放った光と、ケンタウルスの登場に形勢不利と悟ったのか、黒い影は霧のように音もなく森の奥へと消え去っていった。
光が収まり、森に静寂が戻る。ハリーは額の痛みが引いていくのを感じながら、荒い息を吐くエリーを見つめた。
「エリー……すごいよ。君があの光を出さなかったら、僕たち……」
「ハリー、大丈夫!? 額の傷を押さえてたけど……」
エリーは自分の恐怖など忘れたようにハリーに駆け寄り、瞳に深い心配をにじませてハリーの顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、エリー。君が守ってくれたから」
ハリーは痛みと恐怖による震えを抑えながら、心からの感謝を込めて微笑んだ。
フィレンツェは馬身をかがめ、二人を見つめた。
「勇敢な若き魔法使い、そして森の声を理解する聡明な乙女よ。今の影が誰だか分かるか? ……ハリー・ポッター、君は一刻も早くここを離れなければならない。この森は安全ではない。特に君にとっては」
フィレンツェはハリーをその背に乗せ、エリーの歩調に合わせてゆっくり歩き、ハグリッドたちが待つ森の入り口まで送り届けてくれた。
◇
グリフィンドールの談話室。
ハリー、エリー、ロン、ハーマイオニーの4人は、暖炉の残り火を囲んでいた。ハリーから森での出来事を聞いたロンとハーマイオニーは、顔を真っ白にしていた。
「つまり……その影は例のあの人だったのね」
ハーマイオニーが声を震わせる。
「そして、スネイプが盗もうとしている賢者の石は、ヴォルデモートを復活させるためのものなんだわ」
「僕たちが石を守らなきゃ」
ハリーの緑色の瞳に、決意の炎が宿る。ロンも「僕も行くよ」と強く頷いた。
エリーは、ハリーの目を真っ直ぐに見つめた。
「もちろん、私も行くわ。ハリーを一人にはさせない。あの怪物を前にしても、私たちは4人で立ち向かったんだもの。今度だって、絶対に石を守り抜こう」
エリーの温かい言葉が、部屋の中に満ちていく。
ハリーはエリーの顔を見つめ、言葉にならない深い想いが胸にこみ上げるのを感じていた。自分を信じ、命の危険を顧みず隣にいてくれるエリーの存在が、ハリーの強さになろうとしていた。
運命の決戦の時が、すぐそこまで迫っていた。