第1章 Philosopher's Stone
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4 銀世界の贈り物
11月に入ると、ホグワーツ城の周りはすっかり冷え込み、毎朝のように霜が降りるようになった。
湖は鋼色に凍りつき、スコットランドの山々は早くも白い帽子を被り始めている。
「ハリー、もっと食べなきゃダメよ。今日は初めての試合なんだから」
大広間のグリフィンドールのテーブルで、ハーマイオニーがハリーの皿にトーストを何枚も積み上げていた。エリーは、アッシュブラウンの柔らかなウェーブを揺らしながら、その様子を心配そうに見つめていた。
今日はグリフィンドール対スリザリンのクィディッチ公式戦。ハリーは一世紀ぶりの新入生シーカーとして、学校中の注目を集めていた。
「食べられないよ、ハーマイオニー。緊張で胃がひっくり返りそうだ」
「大丈夫よ、ハリー。ウッドが言ってた通り、あなたの飛行は天才的だもの。スリザリンのシーカーなんて目じゃないわ」
エリーが笑顔を浮かべて励ますと、ハリーは少しだけ緊張を解いたように微笑んだ。
やがて試合の時間が近づき、ハリーがクィディッチ競技場へ向かうと、エリー、ロン、ハーマイオニーの3人は観客席の最上段へと向かった。
マダム・フーチの笛の音とともに、選手たちが一斉に大空へと舞い上がった。
クィディッチの試合は凄まじい迫力だった。赤と緑のローブが風を切って交錯し、クアッフルがゴールを駆け抜けるたびに大歓声が沸き起こる。ハリーは上空高くで円を描きながら、金色の小さなボール「スニッチ」を探していた。
「あ、ハリーがスニッチを見つけたみたい!」
エリーが叫んだ。ハリーが弾丸のように急降下を始めたのだ。しかしその直後、スリザリンの隊長であるマーカス・フリントがわざとハリーに激突し、ハリーの箒は大きく進路を乱された。観客席から大ブーイングが巻き起こる。
しかし、異変はそこからだった。
体制を立て直そうとしたハリーの箒が、突然狂ったように激しく上下に揺れ始めたのだ。ハリーは必死に箒にしがみついているが、箒はハリーを振り落とそうと、まるで生き物のように暴れ狂っている。
「おかしい!ハリーの箒、コントロールを失ってる!」
ロンが双眼鏡を覗き込みながら声を震わせた。エリーも顔を真っ白にして上空を見上げる。
「ハリー……! 落ちちゃう!」
「誰かが箒に強力な闇の魔術をかけているのよ!」
ハーマイオニーが素早く双眼鏡をひったくり、教師席を見回した。
「……見つけたわ。スネイプよ。ハリーをじっと見つめて、口の中で呪文を唱え続けてる」
「スネイプが!? 」
ロンが拳を握りしめる中、エリーはハーマイオニーの腕を強く掴んだ。
「ハーマイオニー、呪いを止めるには、先生の視線をそらすしかないわ。私、一緒に行く!」
「ええ、私に任せて。エリー、足元に気をつけて付いてきて!」
2人の少女は、混雑する観客席の階段を駆け下り、教師席の裏側へと回り込んだ。冷たい風が頬を打つ中、エリーは心臓が口から飛び出そうだった。
教師席の最前列で、スネイプは微動だにせず上空のハリーを睨みつけ、呪文を呟き続けている。
ハーマイオニーはスネイプの足元まで忍び寄ると、エリーが周りを警戒するなか杖を取り出した。
「ブルーベル・フレイム」
ハーマイオニーの杖の先から明るい青い炎が放たれ、スネイプの黒いローブの裾に燃え移った。
「火事だわ!」とエリーがわざと大きな声で叫ぶ。
周りの教師たちが騒ぎ出し、スネイプは自分が燃えていることに気づいて慌てて飛び上がった。その拍子に隣のクィレル先生が突き飛ばされ、教師席は大混乱となった。
「やったわ! 戻りましょう!」
エリーとハーマイオニーが急いで観客席へ戻ると、上空のハリーの箒はすっかり大人しくなっていた。
ハリーは地面に向かって猛スピードで急降下し、芝生の上に四つん這いになって着地した。そして、ウッと口から何かを吐き出した。
ハリーの手の中にあったのは、羽ばたきを止めた金色の「スニッチ」だった。
「ハリーがスニッチを捕まえた! グリフィンドールの勝ちだ!」
競技場全体が割れんばかりの歓声に包まれた。エリーはロンとハーマイオニーと手を取り合って飛び跳ねた。ハリーのもとへ駆け寄ると、ハリーは泥だらけの顔で、エリーに向かって誇らしげにスニッチを掲げてみせたのだった。
この日の夜、4人はハグリッドの小屋を訪れ、スネイプがハリーを殺そうとしていたのではないかと問い詰めた。ハグリッドは「スネイプがそんなことをするわけがない」と否定し、代わりに「ニコラス・フラメル」という謎の名前をうっかり漏らしてしまった。
それ以来、4人は図書室にこもっては、その名前を調べる日々が続いた。
◇
やがて、ホグワーツに待ちに待ったクリスマスがやってきた。
城内は一面の銀世界に包まれ、大広間には何百本ものキャンドルが灯る巨大なモミの木が飾られた。
ハリーとロン、そしてエリーの3人は、クリスマス休暇中も寮に残ることにした。ハーマイオニーはエリーたちに、「忘れずにニコラス・フラメルについて調べておくよう」言い残して帰っていった。エリーの父親は「今年は仕事が忙しくて帰れないが、学校で友達と楽しく過ごしなさい」と手紙を送ってきたのだ。エリーは少し寂しかったが、ハリーやロンと一緒に過ごせることを密かに嬉しく思っていた。
クリスマスの朝、エリーが談話室へ降りていくと、ハリーとロンがすでにパジャマ姿でプレゼントの山を囲んでいた。
「おはよう、ハリー、ロン! メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス、エリー! 見てよ、僕にもプレゼントが届いてるんだ!」
ハリーはこれまでダーズリー家でプレゼントなど貰ったことがなかったため、信じられないといった様子で目を輝かせていた。
エリーからのプレゼントは、ハリーには「クィディッチ用レザーメンテナンスキット」、ロンには「カエルチョコレートの詰め合わせ」だった。
「ありがとう、エリー! これ、すごく欲しかったんだ!」
ハリーは嬉しそうにキットを抱きしめた。ロンの母親からは、ハリーとお揃いの、手編みのイニシャル入り「ウィーズリー・セーター」がエリーにも届いていた。エリーのセーターは綺麗な緑色で編まれている。
「早速着てみようよ!」
3人はお揃いの不格好なセーターを着て、顔を見合わせて笑い合った。
しかし、ハリーのプレゼントの山の一番下に、差出人のない奇妙な包みがあった。
ハリーがそれを開けると、中から液体のようにしなやかな、銀色の珍しい布地が現れた。
「それ……『透明マント』じゃない!?」
エリーは驚いて声を上げた。父からおとぎ話として聞いたことがあったが、本物を見るのは初めてだった。
ハリーがそれを肩に羽織ると、彼の体は首から下が完全に消えてしまった。
「うわあ! 本当に消えた!」とロンが叫ぶ。
同封されていた手紙には、『おまえの父親が亡くなる前、私に預けていったものだ。返す時が来た。正しく使いなさい。良きクリスマスを』と、流麗な文字で書かれていた。
その日の夜、城内が寝静まった頃、ハリーは透明マントを被り、一人で図書室へと向かった。「ニコラス・フラメル」の手がかりを探すためだ。
けれど、エリーは談話室の暖炉の前で、ハリーが戻ってくるのをじっと待っていた。
やがて、誰もいないはずの肖像画の穴から足音が聞こえ、マントを脱いだハリーが姿を現した。その顔は真っ白で、ひどく興奮しているように見えた。
「ハリー!? どうしたの? フラメルのことが分かった?」
「ううん、違うんだ、エリー。……すごいものを見つけたんだ。僕についてきて。マントの中に一緒に入って」
ハリーはエリーの手を強く引き、透明マントを二人で被った。エリーの細身の体はハリーとぴったりと密着し、自分とは違う石鹸とクィディッチの芝生と汗の匂いと、彼のドクドクと刻まれる心臓の鼓動が間近に伝わってきた。エリーは少し耳たぶが熱くなるのを感じながら、ハリーの導くままに暗い廊下を進んだ。
ハリーが連れてきたのは、使われていない空き教室だった。
部屋の中央には、天井まで届くほどの装飾が施された、大きな古い鏡が置かれていた。鏡の縁には『みぞの鏡』という文字が反転して刻まれている。
「見て、エリー。ここに立って」
ハリーに促され、エリーは鏡の前に立った。
鏡の中に映っていたのは、ご機嫌に笑う自分自身と──その隣で、エリーの肩に優しく手を置き、温かい微笑みを浮かべている一人の美しい女性の姿だった。
「あ……ママ……?」
エリーの瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。エリーは幼い頃に亡くなった母の顔を、写真でしか知らなかった。けれど、鏡の中の母親は、まるで生きているかのようにエリーを愛おしそうに見つめ、その髪を撫でるような仕草をしていた。
「エリーにも見えるんだね。僕には、僕の父さんと母さんが見えるんだ。僕たち、やっと家族に会えたんだよ」
ハリーは鏡を見つめながら、切なそうに、けれど愛おしそうに呟いた。
エリーは涙を拭い、鏡の中の母を見つめながら、言いようのない懐かしさに胸を締め付けられていた。
けれど、エリーはハリーの寂しげな横顔を見て、そっと彼の凍えた手を握りしめた。
「ハリー。この鏡は、私たちが心から望んでいるものを見せてくれているんだと思う。……でも、これは本物じゃないわ」
「分かっているよ。だけど、ここにいると、本当にみんながそばにいてくれるような気がするんだ」
「寂しいのは一緒だよ、ハリー。でも、今のハリーには、ロンも、ハーマイオニーも、そして私もいるでしょ?」
エリーのはっきりとした瞳が、真っ直ぐにハリーを見つめる。
ハリーはエリーの手の温もりを感じながら、鏡の中の幻影からゆっくりと目を離し、目の前にいるエリーをしっかりと見つめ返した。
「……うん。そうだね、エリー。ありがとう」
二人はもう一度だけ鏡の中の家族に手を振ると、透明マントを被って、温かいグリフィンドールの談話室へと歩き出した。
銀世界の夜は更けていく。二人の距離は、この夜の秘密を通じて、ほんの少しだけ近づいたようだった。
11月に入ると、ホグワーツ城の周りはすっかり冷え込み、毎朝のように霜が降りるようになった。
湖は鋼色に凍りつき、スコットランドの山々は早くも白い帽子を被り始めている。
「ハリー、もっと食べなきゃダメよ。今日は初めての試合なんだから」
大広間のグリフィンドールのテーブルで、ハーマイオニーがハリーの皿にトーストを何枚も積み上げていた。エリーは、アッシュブラウンの柔らかなウェーブを揺らしながら、その様子を心配そうに見つめていた。
今日はグリフィンドール対スリザリンのクィディッチ公式戦。ハリーは一世紀ぶりの新入生シーカーとして、学校中の注目を集めていた。
「食べられないよ、ハーマイオニー。緊張で胃がひっくり返りそうだ」
「大丈夫よ、ハリー。ウッドが言ってた通り、あなたの飛行は天才的だもの。スリザリンのシーカーなんて目じゃないわ」
エリーが笑顔を浮かべて励ますと、ハリーは少しだけ緊張を解いたように微笑んだ。
やがて試合の時間が近づき、ハリーがクィディッチ競技場へ向かうと、エリー、ロン、ハーマイオニーの3人は観客席の最上段へと向かった。
マダム・フーチの笛の音とともに、選手たちが一斉に大空へと舞い上がった。
クィディッチの試合は凄まじい迫力だった。赤と緑のローブが風を切って交錯し、クアッフルがゴールを駆け抜けるたびに大歓声が沸き起こる。ハリーは上空高くで円を描きながら、金色の小さなボール「スニッチ」を探していた。
「あ、ハリーがスニッチを見つけたみたい!」
エリーが叫んだ。ハリーが弾丸のように急降下を始めたのだ。しかしその直後、スリザリンの隊長であるマーカス・フリントがわざとハリーに激突し、ハリーの箒は大きく進路を乱された。観客席から大ブーイングが巻き起こる。
しかし、異変はそこからだった。
体制を立て直そうとしたハリーの箒が、突然狂ったように激しく上下に揺れ始めたのだ。ハリーは必死に箒にしがみついているが、箒はハリーを振り落とそうと、まるで生き物のように暴れ狂っている。
「おかしい!ハリーの箒、コントロールを失ってる!」
ロンが双眼鏡を覗き込みながら声を震わせた。エリーも顔を真っ白にして上空を見上げる。
「ハリー……! 落ちちゃう!」
「誰かが箒に強力な闇の魔術をかけているのよ!」
ハーマイオニーが素早く双眼鏡をひったくり、教師席を見回した。
「……見つけたわ。スネイプよ。ハリーをじっと見つめて、口の中で呪文を唱え続けてる」
「スネイプが!? 」
ロンが拳を握りしめる中、エリーはハーマイオニーの腕を強く掴んだ。
「ハーマイオニー、呪いを止めるには、先生の視線をそらすしかないわ。私、一緒に行く!」
「ええ、私に任せて。エリー、足元に気をつけて付いてきて!」
2人の少女は、混雑する観客席の階段を駆け下り、教師席の裏側へと回り込んだ。冷たい風が頬を打つ中、エリーは心臓が口から飛び出そうだった。
教師席の最前列で、スネイプは微動だにせず上空のハリーを睨みつけ、呪文を呟き続けている。
ハーマイオニーはスネイプの足元まで忍び寄ると、エリーが周りを警戒するなか杖を取り出した。
「ブルーベル・フレイム」
ハーマイオニーの杖の先から明るい青い炎が放たれ、スネイプの黒いローブの裾に燃え移った。
「火事だわ!」とエリーがわざと大きな声で叫ぶ。
周りの教師たちが騒ぎ出し、スネイプは自分が燃えていることに気づいて慌てて飛び上がった。その拍子に隣のクィレル先生が突き飛ばされ、教師席は大混乱となった。
「やったわ! 戻りましょう!」
エリーとハーマイオニーが急いで観客席へ戻ると、上空のハリーの箒はすっかり大人しくなっていた。
ハリーは地面に向かって猛スピードで急降下し、芝生の上に四つん這いになって着地した。そして、ウッと口から何かを吐き出した。
ハリーの手の中にあったのは、羽ばたきを止めた金色の「スニッチ」だった。
「ハリーがスニッチを捕まえた! グリフィンドールの勝ちだ!」
競技場全体が割れんばかりの歓声に包まれた。エリーはロンとハーマイオニーと手を取り合って飛び跳ねた。ハリーのもとへ駆け寄ると、ハリーは泥だらけの顔で、エリーに向かって誇らしげにスニッチを掲げてみせたのだった。
この日の夜、4人はハグリッドの小屋を訪れ、スネイプがハリーを殺そうとしていたのではないかと問い詰めた。ハグリッドは「スネイプがそんなことをするわけがない」と否定し、代わりに「ニコラス・フラメル」という謎の名前をうっかり漏らしてしまった。
それ以来、4人は図書室にこもっては、その名前を調べる日々が続いた。
◇
やがて、ホグワーツに待ちに待ったクリスマスがやってきた。
城内は一面の銀世界に包まれ、大広間には何百本ものキャンドルが灯る巨大なモミの木が飾られた。
ハリーとロン、そしてエリーの3人は、クリスマス休暇中も寮に残ることにした。ハーマイオニーはエリーたちに、「忘れずにニコラス・フラメルについて調べておくよう」言い残して帰っていった。エリーの父親は「今年は仕事が忙しくて帰れないが、学校で友達と楽しく過ごしなさい」と手紙を送ってきたのだ。エリーは少し寂しかったが、ハリーやロンと一緒に過ごせることを密かに嬉しく思っていた。
クリスマスの朝、エリーが談話室へ降りていくと、ハリーとロンがすでにパジャマ姿でプレゼントの山を囲んでいた。
「おはよう、ハリー、ロン! メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス、エリー! 見てよ、僕にもプレゼントが届いてるんだ!」
ハリーはこれまでダーズリー家でプレゼントなど貰ったことがなかったため、信じられないといった様子で目を輝かせていた。
エリーからのプレゼントは、ハリーには「クィディッチ用レザーメンテナンスキット」、ロンには「カエルチョコレートの詰め合わせ」だった。
「ありがとう、エリー! これ、すごく欲しかったんだ!」
ハリーは嬉しそうにキットを抱きしめた。ロンの母親からは、ハリーとお揃いの、手編みのイニシャル入り「ウィーズリー・セーター」がエリーにも届いていた。エリーのセーターは綺麗な緑色で編まれている。
「早速着てみようよ!」
3人はお揃いの不格好なセーターを着て、顔を見合わせて笑い合った。
しかし、ハリーのプレゼントの山の一番下に、差出人のない奇妙な包みがあった。
ハリーがそれを開けると、中から液体のようにしなやかな、銀色の珍しい布地が現れた。
「それ……『透明マント』じゃない!?」
エリーは驚いて声を上げた。父からおとぎ話として聞いたことがあったが、本物を見るのは初めてだった。
ハリーがそれを肩に羽織ると、彼の体は首から下が完全に消えてしまった。
「うわあ! 本当に消えた!」とロンが叫ぶ。
同封されていた手紙には、『おまえの父親が亡くなる前、私に預けていったものだ。返す時が来た。正しく使いなさい。良きクリスマスを』と、流麗な文字で書かれていた。
その日の夜、城内が寝静まった頃、ハリーは透明マントを被り、一人で図書室へと向かった。「ニコラス・フラメル」の手がかりを探すためだ。
けれど、エリーは談話室の暖炉の前で、ハリーが戻ってくるのをじっと待っていた。
やがて、誰もいないはずの肖像画の穴から足音が聞こえ、マントを脱いだハリーが姿を現した。その顔は真っ白で、ひどく興奮しているように見えた。
「ハリー!? どうしたの? フラメルのことが分かった?」
「ううん、違うんだ、エリー。……すごいものを見つけたんだ。僕についてきて。マントの中に一緒に入って」
ハリーはエリーの手を強く引き、透明マントを二人で被った。エリーの細身の体はハリーとぴったりと密着し、自分とは違う石鹸とクィディッチの芝生と汗の匂いと、彼のドクドクと刻まれる心臓の鼓動が間近に伝わってきた。エリーは少し耳たぶが熱くなるのを感じながら、ハリーの導くままに暗い廊下を進んだ。
ハリーが連れてきたのは、使われていない空き教室だった。
部屋の中央には、天井まで届くほどの装飾が施された、大きな古い鏡が置かれていた。鏡の縁には『みぞの鏡』という文字が反転して刻まれている。
「見て、エリー。ここに立って」
ハリーに促され、エリーは鏡の前に立った。
鏡の中に映っていたのは、ご機嫌に笑う自分自身と──その隣で、エリーの肩に優しく手を置き、温かい微笑みを浮かべている一人の美しい女性の姿だった。
「あ……ママ……?」
エリーの瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。エリーは幼い頃に亡くなった母の顔を、写真でしか知らなかった。けれど、鏡の中の母親は、まるで生きているかのようにエリーを愛おしそうに見つめ、その髪を撫でるような仕草をしていた。
「エリーにも見えるんだね。僕には、僕の父さんと母さんが見えるんだ。僕たち、やっと家族に会えたんだよ」
ハリーは鏡を見つめながら、切なそうに、けれど愛おしそうに呟いた。
エリーは涙を拭い、鏡の中の母を見つめながら、言いようのない懐かしさに胸を締め付けられていた。
けれど、エリーはハリーの寂しげな横顔を見て、そっと彼の凍えた手を握りしめた。
「ハリー。この鏡は、私たちが心から望んでいるものを見せてくれているんだと思う。……でも、これは本物じゃないわ」
「分かっているよ。だけど、ここにいると、本当にみんながそばにいてくれるような気がするんだ」
「寂しいのは一緒だよ、ハリー。でも、今のハリーには、ロンも、ハーマイオニーも、そして私もいるでしょ?」
エリーのはっきりとした瞳が、真っ直ぐにハリーを見つめる。
ハリーはエリーの手の温もりを感じながら、鏡の中の幻影からゆっくりと目を離し、目の前にいるエリーをしっかりと見つめ返した。
「……うん。そうだね、エリー。ありがとう」
二人はもう一度だけ鏡の中の家族に手を振ると、透明マントを被って、温かいグリフィンドールの談話室へと歩き出した。
銀世界の夜は更けていく。二人の距離は、この夜の秘密を通じて、ほんの少しだけ近づいたようだった。