第1章 Philosopher's Stone
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9 紅蓮の守護
ハリーとハーマイオニーがチェスの部屋を後にし、スネイプの仕掛けである「炎と論理のパズル」をハーマイオニーの見事な知略で解き明かした頃──。
薄暗いチェス部屋の床では、エリーが、静かに自らの任務を全うしていた。
粉々に砕け散った石の駒の破片が転がる中、エリーは気絶したロンの頭の下に、丸めた自分の制服のローブを優しく敷き詰めていた。昔、父親から教わった応急処置の記憶を必死に手繰り寄せ、ロンの気道を確保し、出血している額に清潔なハンカチを当ててきつく縛る。
「……う、ん……」
ロンが小さくうめき声を上げ、規則正しい寝息を立て始めたのを確認して、エリーはホッと胸をなでおろした。はっきりとした目鼻立ちに安堵の笑みが浮かぶ。
「(よかった、ひとまずは大丈夫そう。……あとは、ハリーとハーマイオニーが無事に戻ってきてくれれば……)」
エリーは冷たい石の床に座り込み、ハリーたちが進んでいった暗い扉の奥をじっと見つめた。部屋の隅から吹き込む隙間風が不安を煽る。
今頃ハリーは、恐ろしい危険と戦っているかもしれない。エリーは胸の前で小さく両手を組み、ただひたすらに、傷だらけの小さな騎士たちの無事を祈り続けた。
その頃、ハリーはハーマイオニーをも元の部屋へと引き返させ、たった一人で最後の部屋へと足を踏み入れていた。
階段を降りた先、広い部屋の中央にぽつんと置かれていたのは、かつてクリスマス休暇の夜にエリーと一緒に見つめた、あの『みぞの鏡』だった。
そして、鏡の前に立っていたのは、ハリーたちが疑い続けていたスネイプではなかった。
ターバンを巻いた、いつも怯えてばかりいた吃音の教師——クィレルだった。
「先生が……!? でも、あのクィディッチの試合の時、箒に呪いをかけていたのはスネイプだったはずだ!」
クィレルこそがヴォルデモートの忠実な僕であり、スネイプはむしろ、ハリーを裏から守ろうとして対抗呪文を唱えていたのだ。
最後の部屋で、クィレルはターバンを外した。その頭の後ろには、蛇のような赤い目をしたヴォルデモートの恐ろしい顔が寄生していた。
「ポッター……鏡を見るのだ。石はどこにある……」
ヴォルデモートの冷酷な声に操られるように、ハリーは鏡の前に立たされた。鏡の中のハリーは、自分のポケットに真っ赤な『賢者の石』をねじ込み、ウインクしてみせた。ハリーは嘘をつき、石のありかを隠そうとしたが、ヴォルデモートに見破られてしまう。
「殺せ! その男の子を殺して石を奪え!」
ヴォルデモートの叫びと共に、クィレルがハリーに襲いかかった。クィレルがハリーの首を締め上げたその瞬間、凄まじい奇跡が起きた。
ハリーの肌に触れたクィレルの手が、まるで火傷を負ったようにジュウジュウと音を立てて焼けただれ、水ぶくれになって崩れ落ちていったのだ。
「ギャアアアッ! 何だこれは! このガキの身体には何かがかかっている!」
「おののくな! 石を奪うのだ!」
ハリーは額の割れるような激痛に耐えながら、命がけで両手を伸ばし、クィレルの顔面を強く掴んだ。クィレルの身体は灰のように崩壊していき、やがて叫び声と共に、ヴォルデモートの邪悪な魂の霧がハリーの身体を突き抜けて狂ったように飛び去っていった。
激痛と疲労のなかで、ハリーは『賢者の石』が自分のポケットの中にあるのを感じながら、そのまま深い意識の闇へと沈んでいった。
◇
激しい戦いが終わり、数日が流れた。
ハリーが次に目を覚ましたとき、そこはホグワーツの明るい医務室のベッドの上だった。
枕元には、山のようにお見舞いのお菓子が積まれており、眼鏡をかけたダンブルドア校長が温かい微笑みを浮かべて座っていた。校長はハリーに、賢者の石は無事に破壊されたこと、そしてハリーの母親であるリリーが命を賭して遺した『愛の守護魔法』がハリーの血に流れているからこそ、クィレルはハリーに触れることができなかったのだと優しく語り聞かせた。
ダンブルドアが去った後、医務室の重い扉が静かに開いた。
「ハリー!」
飛び込んできたのは、すっかり元気になったロンと、ハーマイオニー、そしてエリーの3人だった。
「みんな……! 無事だったんだね!」
ハリーがベッドの上で身を起こすと、ロンが嬉しそうに駆け寄った。
「当たり前だろ! 僕の怪我なんて、エリーがすぐに手当てしてくれたおかげで、マダム・ポンフリーも驚くくらい綺麗に治ったんだから!」
「本当に心配したのよ、ハリー。あなたが3日も目を覚まさないから」
ハーマイオニーが少し目元を潤ませながら言う。
エリーは、ハリーの枕元に歩み寄り、瞳を優しく細めて和らげて微笑んだ。
「お疲れ様、ハリー。一人で戦わせてごめんね。でも、無事で本当によかった」
「ううん。エリーがロンを守って、ハーマイオニーを僕の隣に送ってくれたから、僕は最後まで頑張れたんだ。みんなのおかげだよ」
ハリーはそう言って、照れくさそうに笑った。エリーのいつもの笑顔を見るだけで、あの暗闇での恐怖が完全に洗い流されていくような気がした。ハリーにとってエリーは、自分の弱さも孤独も、あの『みぞの鏡』の夜に優しく包み込んでくれた、かけがえのない大切な友人だった。その信頼の絆は、何ものにも代えがたいほど強く、4人の心にしっかりと根を張っていた。
そして迎えた、学期末の終業パーティー。
大広間は、スリザリンの優勝を祝う緑と銀色の蛇の幕で一色に飾られていた。グリフィンドールは最下位。誰もが静かにスープをすする中、ダンブルドア校長が立ち上がり、最後の「寮杯ポイントの追加」を告げた。
「ハーマイオニー・グレンジャーに、冷徹な論理のパズルを解いた功績を称え、五十点」
大広間がどよめく。
「ロナルド・ウィーズリーに、ホグワーツで近年稀に見る見事なチェスの試合を披露したことに、五十点」
ロンの顔が真っ赤になる。
エリーは大喜びで2人に拍手を送った。
そして。
「アリス・ストウナーに、危険な試練の中で植物の性質を冷静に見抜き、負傷した仲間を手際よく救護したその聡明さと深い友愛に、五十点」
「えっ、私……!?」
エリーは驚いて隣のハーマイオニーを見た。ハーマイオニーは嬉しそうにエリーの肩を強く揺さぶっている。スリザリンのテーブルからは、マルフォイが悔しそうにこちらを睨みつけていた。
「そして、ハリー・ポッターに、比類なき勇気と純粋な意志を称え、六十点」
この時点で、グリフィンドールはスリザリンと同点に追いついた。大広間が爆発的な緊張感に包まれる中、ダンブルドアは悪戯っぽく目を輝かせた。
「最後に。敵に立ち向かうのは大変な勇気が必要だが、友人を止めるために立ち向かうのはさらに勇気がいることじゃ。──ネビル・ロングボトムに十点」
その瞬間、グリフィンドールのテーブルは割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。ダンブルドアが手を叩くと、大広間の緑色の幕は一瞬にして、燃えるような真紅と金色のグリフィンドールの獅子の幕へと切り替わった。
「僕たちの勝ちだ! スリザリンを破ったぞ!」
フレッドとジョージが狂ったように踊り回り、ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてエリーの4人は、全員で手を取り合って飛び跳ねて喜んだ。一時は二百点もの大減点をされ、学校中から冷たい目を向けられた彼らが、今やグリフィンドールを栄光の頂点へと導いた英雄になったのだ。
最高の興奮のなかでホグワーツの第一学期は幕を閉じ、生徒たちは再びホグワーツ特急に乗って、キングズ・クロス駅へと向かった。
九と四分の三番線のホーム。
トランクを引くエリーの前には、優しい笑顔を浮かべた父親が待っていた。
「パパ!」
エリーが駆け寄ると、父親はエリーの髪を優しく撫でた。
「頑張ったね、エリー。学校での活躍は手紙で読んだよ。誇りに思う」
少し離れた場所では、ハリーが無愛想なマグルの一家──ダーズリー家に冷たく促され、改札口へと歩いていくのが見えた。ハリーはふと足を止め、振り返ってエリーたちを見た。
「じゃあね、ロン、ハーマイオニー。……またね、エリー」
「うん、またね、ハリー! 夏休み、絶対に手紙を書くからね!」
エリーが瞳を輝かせ、大きく手を振ると、ハリーは眼鏡の奥の緑色の瞳をこの上なく嬉しそうに和らげ、何度も頷いてマグルの世界へと消えていった。
こうして、彼らの波乱に満ちた一年目が終わった。
ハリーとハーマイオニーがチェスの部屋を後にし、スネイプの仕掛けである「炎と論理のパズル」をハーマイオニーの見事な知略で解き明かした頃──。
薄暗いチェス部屋の床では、エリーが、静かに自らの任務を全うしていた。
粉々に砕け散った石の駒の破片が転がる中、エリーは気絶したロンの頭の下に、丸めた自分の制服のローブを優しく敷き詰めていた。昔、父親から教わった応急処置の記憶を必死に手繰り寄せ、ロンの気道を確保し、出血している額に清潔なハンカチを当ててきつく縛る。
「……う、ん……」
ロンが小さくうめき声を上げ、規則正しい寝息を立て始めたのを確認して、エリーはホッと胸をなでおろした。はっきりとした目鼻立ちに安堵の笑みが浮かぶ。
「(よかった、ひとまずは大丈夫そう。……あとは、ハリーとハーマイオニーが無事に戻ってきてくれれば……)」
エリーは冷たい石の床に座り込み、ハリーたちが進んでいった暗い扉の奥をじっと見つめた。部屋の隅から吹き込む隙間風が不安を煽る。
今頃ハリーは、恐ろしい危険と戦っているかもしれない。エリーは胸の前で小さく両手を組み、ただひたすらに、傷だらけの小さな騎士たちの無事を祈り続けた。
その頃、ハリーはハーマイオニーをも元の部屋へと引き返させ、たった一人で最後の部屋へと足を踏み入れていた。
階段を降りた先、広い部屋の中央にぽつんと置かれていたのは、かつてクリスマス休暇の夜にエリーと一緒に見つめた、あの『みぞの鏡』だった。
そして、鏡の前に立っていたのは、ハリーたちが疑い続けていたスネイプではなかった。
ターバンを巻いた、いつも怯えてばかりいた吃音の教師——クィレルだった。
「先生が……!? でも、あのクィディッチの試合の時、箒に呪いをかけていたのはスネイプだったはずだ!」
クィレルこそがヴォルデモートの忠実な僕であり、スネイプはむしろ、ハリーを裏から守ろうとして対抗呪文を唱えていたのだ。
最後の部屋で、クィレルはターバンを外した。その頭の後ろには、蛇のような赤い目をしたヴォルデモートの恐ろしい顔が寄生していた。
「ポッター……鏡を見るのだ。石はどこにある……」
ヴォルデモートの冷酷な声に操られるように、ハリーは鏡の前に立たされた。鏡の中のハリーは、自分のポケットに真っ赤な『賢者の石』をねじ込み、ウインクしてみせた。ハリーは嘘をつき、石のありかを隠そうとしたが、ヴォルデモートに見破られてしまう。
「殺せ! その男の子を殺して石を奪え!」
ヴォルデモートの叫びと共に、クィレルがハリーに襲いかかった。クィレルがハリーの首を締め上げたその瞬間、凄まじい奇跡が起きた。
ハリーの肌に触れたクィレルの手が、まるで火傷を負ったようにジュウジュウと音を立てて焼けただれ、水ぶくれになって崩れ落ちていったのだ。
「ギャアアアッ! 何だこれは! このガキの身体には何かがかかっている!」
「おののくな! 石を奪うのだ!」
ハリーは額の割れるような激痛に耐えながら、命がけで両手を伸ばし、クィレルの顔面を強く掴んだ。クィレルの身体は灰のように崩壊していき、やがて叫び声と共に、ヴォルデモートの邪悪な魂の霧がハリーの身体を突き抜けて狂ったように飛び去っていった。
激痛と疲労のなかで、ハリーは『賢者の石』が自分のポケットの中にあるのを感じながら、そのまま深い意識の闇へと沈んでいった。
◇
激しい戦いが終わり、数日が流れた。
ハリーが次に目を覚ましたとき、そこはホグワーツの明るい医務室のベッドの上だった。
枕元には、山のようにお見舞いのお菓子が積まれており、眼鏡をかけたダンブルドア校長が温かい微笑みを浮かべて座っていた。校長はハリーに、賢者の石は無事に破壊されたこと、そしてハリーの母親であるリリーが命を賭して遺した『愛の守護魔法』がハリーの血に流れているからこそ、クィレルはハリーに触れることができなかったのだと優しく語り聞かせた。
ダンブルドアが去った後、医務室の重い扉が静かに開いた。
「ハリー!」
飛び込んできたのは、すっかり元気になったロンと、ハーマイオニー、そしてエリーの3人だった。
「みんな……! 無事だったんだね!」
ハリーがベッドの上で身を起こすと、ロンが嬉しそうに駆け寄った。
「当たり前だろ! 僕の怪我なんて、エリーがすぐに手当てしてくれたおかげで、マダム・ポンフリーも驚くくらい綺麗に治ったんだから!」
「本当に心配したのよ、ハリー。あなたが3日も目を覚まさないから」
ハーマイオニーが少し目元を潤ませながら言う。
エリーは、ハリーの枕元に歩み寄り、瞳を優しく細めて和らげて微笑んだ。
「お疲れ様、ハリー。一人で戦わせてごめんね。でも、無事で本当によかった」
「ううん。エリーがロンを守って、ハーマイオニーを僕の隣に送ってくれたから、僕は最後まで頑張れたんだ。みんなのおかげだよ」
ハリーはそう言って、照れくさそうに笑った。エリーのいつもの笑顔を見るだけで、あの暗闇での恐怖が完全に洗い流されていくような気がした。ハリーにとってエリーは、自分の弱さも孤独も、あの『みぞの鏡』の夜に優しく包み込んでくれた、かけがえのない大切な友人だった。その信頼の絆は、何ものにも代えがたいほど強く、4人の心にしっかりと根を張っていた。
そして迎えた、学期末の終業パーティー。
大広間は、スリザリンの優勝を祝う緑と銀色の蛇の幕で一色に飾られていた。グリフィンドールは最下位。誰もが静かにスープをすする中、ダンブルドア校長が立ち上がり、最後の「寮杯ポイントの追加」を告げた。
「ハーマイオニー・グレンジャーに、冷徹な論理のパズルを解いた功績を称え、五十点」
大広間がどよめく。
「ロナルド・ウィーズリーに、ホグワーツで近年稀に見る見事なチェスの試合を披露したことに、五十点」
ロンの顔が真っ赤になる。
エリーは大喜びで2人に拍手を送った。
そして。
「アリス・ストウナーに、危険な試練の中で植物の性質を冷静に見抜き、負傷した仲間を手際よく救護したその聡明さと深い友愛に、五十点」
「えっ、私……!?」
エリーは驚いて隣のハーマイオニーを見た。ハーマイオニーは嬉しそうにエリーの肩を強く揺さぶっている。スリザリンのテーブルからは、マルフォイが悔しそうにこちらを睨みつけていた。
「そして、ハリー・ポッターに、比類なき勇気と純粋な意志を称え、六十点」
この時点で、グリフィンドールはスリザリンと同点に追いついた。大広間が爆発的な緊張感に包まれる中、ダンブルドアは悪戯っぽく目を輝かせた。
「最後に。敵に立ち向かうのは大変な勇気が必要だが、友人を止めるために立ち向かうのはさらに勇気がいることじゃ。──ネビル・ロングボトムに十点」
その瞬間、グリフィンドールのテーブルは割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。ダンブルドアが手を叩くと、大広間の緑色の幕は一瞬にして、燃えるような真紅と金色のグリフィンドールの獅子の幕へと切り替わった。
「僕たちの勝ちだ! スリザリンを破ったぞ!」
フレッドとジョージが狂ったように踊り回り、ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてエリーの4人は、全員で手を取り合って飛び跳ねて喜んだ。一時は二百点もの大減点をされ、学校中から冷たい目を向けられた彼らが、今やグリフィンドールを栄光の頂点へと導いた英雄になったのだ。
最高の興奮のなかでホグワーツの第一学期は幕を閉じ、生徒たちは再びホグワーツ特急に乗って、キングズ・クロス駅へと向かった。
九と四分の三番線のホーム。
トランクを引くエリーの前には、優しい笑顔を浮かべた父親が待っていた。
「パパ!」
エリーが駆け寄ると、父親はエリーの髪を優しく撫でた。
「頑張ったね、エリー。学校での活躍は手紙で読んだよ。誇りに思う」
少し離れた場所では、ハリーが無愛想なマグルの一家──ダーズリー家に冷たく促され、改札口へと歩いていくのが見えた。ハリーはふと足を止め、振り返ってエリーたちを見た。
「じゃあね、ロン、ハーマイオニー。……またね、エリー」
「うん、またね、ハリー! 夏休み、絶対に手紙を書くからね!」
エリーが瞳を輝かせ、大きく手を振ると、ハリーは眼鏡の奥の緑色の瞳をこの上なく嬉しそうに和らげ、何度も頷いてマグルの世界へと消えていった。
こうして、彼らの波乱に満ちた一年目が終わった。
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