夢と、現実と
夢小説設定
name changeここでの変換で本棚内、全ての小説で名前が任意の物に変わります。
偽名は『この蒼い空の下で』本編内でのみ使用します。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
細い手首を掴み引き寄せ小柄な身体を腕の中に囲う。たったそれだけでみるみる朱に染まっていく頬を指の背でくすぐるように撫でればさらに色付いて、恥ずかしそうに伏せた眼は潤んで見えた。
伏せた瞼に、朱い頬に、恥ずかしさにきゅっと引き結ばれた唇に順にKissをしていく。喉の奥で唸るのが小さく聞こえ、それに口許だけで笑うと耳裏の近くにもKissをして薄く跡を付ける。
見えるところに付けるなんてと怒るだろうが、ここなら髪を掻き上げでもしない限り見られることは無いだろう。
見られたくない美夜と、見せつけてやりたい俺の、とりあえずの妥協点。
唸りながら離れようと胸を押してきた手を捕らえ、残る片手で腰を支えながら押し倒す。出会った頃よりも伸びた髪が床に散らばり、朱い頬と合わさりどこか扇情的だ。
もう少し肉を付けろと食べさせてはいるがそれでもまだまだ細い手首を床に縫い止め間近から見下ろす。
眼が合うなりぎゅっと閉じられた瞼に再度Kissをして、先程よりも強く閉じられた唇を塞ぐ。頑ななそこに舌を捩じ込み奥に隠れる舌を探り……。
「雨、か?」
耳が捉えた音に意識を揺らされた。体を起こし開け放されたままの戸口から外を見ると強い雨が地を打ち、時折遠くの空が光るのが見えた。
「悪ぃ。ちょっと休むだけのつもりだったが本格的に寝入っちまった」
「大丈夫。それだけ疲れてたってことだろうし、休めたならその方が嬉しいもん」
自分のことよりもまず先に俺のことを気遣う美夜に相変わらずだなと苦笑し、強まってきた風で雨が吹き込まないよう戸を閉めてから美夜の後ろに座り直す。
「足、だいぶ痺れてるだろ。ゆっくり伸ばせ」
後ろから支えてやりながら正座していた足を伸ばすのを手伝ってやる。あまり足に力が入っていないのをみるに、痺れを通り越して感覚が無くなっているのかもしれない。
「今度からは痺れが我慢出来なくなる前に起こせ」
「でも、」
「お前の膝を枕にしても良く眠れるが、お前を抱き込んでも良く眠れる。だから気にするな」
強い雨を降らす雲のせいで部屋の中は薄暗く、はっきりとは見えないがふいっと逸らされた頬はきっと赤い。
「うぅ」
感覚の戻ってきた足が痺れてきたらしい。俺がつい熟睡してしまったせいだというのに眉根を寄せて呻く美夜にしてやれることが無いのが悪いなと思う。
足を掴めば痺れも早く取れるかもしれないが、ここでそれを実行するのは美夜に対するからかいの範疇を超えている。
「は……」
「治まってきたか?」
「うん」
少しして、小さく息を吐くと体から力を抜いて、恐らくは無意識にだろう、俺に凭れてきた。ゆっくりと膝や指先を曲げて確認しているのを見守る。
「ん、もう大丈夫。ありが、と?」
名残惜しさも見せずさっさと起こそうとした体を抱き留める。
「えと、もう大丈夫だよ?」
「ああ、分かってる。だから続きだ」
「続き?」
首を傾げた美夜の体を反転させ、床に押し倒す。夢と同じく床に散らばった髪。違うのは頬の色だが、直ぐに同じになる。なっているはずだ。
痺れが取れるのを待つ間にでも明かりを取りに行くべきだった。だんだんと暗さを増していく中ではどれだけ夜目が聞こうと色までははっきりと判別出来ない。
気の効く侍女達も俺らの時間を邪魔しないよう誰も来ないだろう。
「ま、お前にとっちゃあ暗い方が良いか」
「え、なに?」
夢とは違い、俺に捕らわれた手首の自由を何とかして取り戻そうともがく美夜に喉の奥で小さく笑う。
「やっぱり、現実には敵わねぇな」
「あ! 灯り! 灯り貰ってくるよ! 凄い暗いし! ね? ね!?」
俺の呟きに被せるように声を上げた美夜にまた笑う。声だけでも分かるほどに慌てている様がたまらなく可愛く愛おしい。
「灯りなら後で俺が持ってきてやる。お前は眼ぇ回してるだろうからな」
「なん……」
夢の続きを、夢では味わえない熱を味わい、奪う。
パタパタと暴れる足、往生際悪く逃げる舌。喘ぎとも呻きとも聞こえる声。だが手首から手を離し、指を絡めて握ると安心したように大人しくなる。舌だけは変わらず逃げるが、手はすがるようにきゅっと握り返してくるのがたまらない。
夢の中の、最初から大人しい美夜も、まあ悪か無ぇが、恥ずかしさを抑えきれずに抵抗する美夜が俺の惚れた美夜だ。
しょせん、夢は夢。現実には到底、敵わない。
終