凄いらしい
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「あ……」
小十郎さんが唯一の救いだと思っていたのに、と頭を抱えたい気分で何気なく巡らせた視線が、障子戸近くに座っていたあの男性のものと合わさった。引いたはずの首の痛みと恐怖を思い出して、思わず一番近くに居た小十郎さんの影に隠れてしまう。
「あー、やっぱ嫌われちゃった?」
小十郎さんの肩越しに恐る恐る見た男性はポリポリと頬を掻いていて、その姿からは先程の恐怖を感じた姿は想像出来ない。それでも、私も悪かったんだからと(一番悪いのはセクハラやイジメを止めない政宗だと思うけど!)あの恐怖を忘れて普通に接するには記憶は新しい。
「どうした?」
「え、と……」
「美夜」
不思議そうに聞いてきた小十郎さんにどう言えば良いのか分からずいたら政宗に呼ばれた。政宗を見ると親指で男性を示していて、
「成実だ」
簡潔に紹介してくれた。謎の男性改め成実さんは政宗の紹介ににこっと笑う。やっぱり恐怖なんて全く感じない。それどころかどことなくチャラさを感じさせる笑みに瞬きを繰り返しながら小十郎さんの影に隠れたままだったけど小さく会釈を返す。
普段まで怖いわけじゃないのだろうか。さっきのも、私のことを不審者だと思ったための行動で、いわば仕事中の姿、みたいなものだったのかも。
「見ての通りただの馬鹿だ」
「そうそうただの馬鹿、なわけねぇーだろ! その説明はなんだよ! 悪意しか感じねぇんだけど!」
挨拶を交わすのを待って続けた政宗の台詞に成実さんは方膝立ちになって怒鳴るけど、政宗は煩ぇなと言わんばかりに顔をしかめるだけ。
「なんだよその顔は! もうちっと他の紹介の仕方があんだろ? 小十郎と合わせて伊達の双璧と呼ばれてる超絶頼りになる男だとかさァッ!」
「伊達の、そうへき?」
意味が分からず思わず呟くと、小さな声だったにも関わらず成実さんには聞こえたようで政宗から私へと視線を移すと逃げる間も無く距離を積め、わざわざ小十郎さんを回り込んで私の前まで来た。恐怖では無く勢いに押されて体を引いてしまう。
「美夜ちゃん、梵の説明はウソだから。俺は馬鹿じゃなくて小十郎と合わせて伊達の双璧とまで呼ばれる凄ぇ男だから。そりゃあ竜の右目と呼ばれる小十郎と同等とまではいかねぇかもしんねぇけどその次くらいには名の知れた男だから! 武の成実なんて異名も持ってるくらい凄い男だから!」
「は、はい」
勢いに押されるままに頷くと男性は漸く満足したらしく笑みを浮かべたけれど、政宗からだけでなく小十郎さんからも呆れた視線を向けられてしまっている。
仕事中は怖くて普段はどこか可哀想な感じのする人だなんて、ギャップ萌えなんて言葉があるけれど成実さんみたいなギャップは遠慮したいかも。なんて思っていたらふいに手を取られた。
「あの?」
「やっぱ女の子って柔らかくて気持ち良いよね」
「はい?」
ぼそりと呟かれた台詞を聞き取り損ね首を傾げるけれど、成実さんは気にすることなくずいっと顔を寄せてきた。さっきとは違う意味で体を引く。
「美夜ちゃん」
「は、はい」
「ちょっとで良いから触らせて。無理なら膝貸して」
「……はい?」
「うんありがとうじゃあ遠慮無ぁっ!」
予想もしない台詞に直ぐには意味を飲み込めずにいる私を今度も気にすることなく一息に言い放ちながら腕を広げた成実さんの頭は、背後から掴んだ小十郎さんによってグキリと音がしそうなほど勢いよく後ろに倒された。
「調子に乗ってんじゃねぇ! 政宗様、これで失礼致します。美夜、今のは気にするな。ただの戯言だ」
そう言って、小十郎は成実さんの頭を掴んだまま政宗に一礼すると部屋を出ていった。頭の痛みを訴えたり反省をする成実さんの声が遠退いていく。完全に聞こえなくなった頃、私の耳に政宗がついたため息が聞こえた。
「本当にどうしようもねぇな。払拭するにも他のやり方があるだろ」
「払拭?」
なんのことだろうと思ったけど、政宗に説明する気は無いらしい。
払拭……。もしかして、私がいつまでも成実さんを怖がらないように女好きのチャラい男を演じてた、とか?
「ねぇ」
「An?」
「成実さんが言ってた伊達の、そう、へき? ってなに?」
「双つの壁で双璧だ。智の小十郎、武の成実。この二人が伊達の、俺の双璧だ。アイツはそう呼ばれるだけの実力を持ってる。アレでも戦場では頼りにしてる」
やっぱり、ただチャラいだけの人じゃないみたい。でも、政宗の戦場では、という言葉が端的に成実さんがどういう人かを現している気がした。
終