右目の考え
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遠ざかる二人分の気配を感じながら、娘の持ち物に手を伸ばす。
娘が治療の間、政宗様が特に興味を持ってご覧になられていたものの一つ。確か手帳、と言ったか。表面は不思議な弾力を持ったつるりとした素材で、中は細い金属で閉じられた紙束だ。四角で区切られた枠の中に数字や文字が書いてあり、紙の裏表全てに見たことの無い柔らかい筆触で無数の花が描かれている。文字も墨とは異なるようで色も豊富で鮮やかだ。中には細かな光る粒子がまざっているものまである。
森で政宗様に見せられた手の平大の板状のものは素材からして理解の範囲を越えたものだったが、この手帳というものは技術の高さを感じることが出来る。
だからこそ『未来から来た』という政宗様の判断を受け入れることにした。南蛮の国だとて、これほどの物を作れるだけの技術力はまだ無いだろう。
信じる信じないではなく、あくまでも状況からの判断だ。
頭は堅い方では無いと思っているが、それでもさすがにいきなり『未来から来た』などという突拍子も無いことを信じることは難しい。
それにしてもあの娘、どうにも性質が捉えにくい。
怯えていたかと思えば一方では冷静に物事を見ているように感じた。物事と言うより、人を、か。
少々(どころでは無い部分もあるようだが)抜けている部分もあるようだが周囲の人間がどんな人間かを見定めようとする眼をしていた。それも恐らくは無意識に。
あのような幼い身でそれが身に付いてしまうなど、纏う柔らかな雰囲気にそぐわぬ経験をしてきたのかもしれない。妙に肝が座っているのも同じ理由だろうか。
「泣き喚かれるよりはマシか」
子供の扱いは得意じゃない。それが女の子供となれば尚更だ。下手に泣かれては扱いに困る。
それに、あの娘の場合幼いからなのか考えていることが顔に出て分かりやすい。こちらを観察されたところで何事かを企んだとしても簡単に暴ける。もちろんだからと言って油断する気は無いが。
そろそろ戻ってこられる頃かもしれないな。
懐から風呂敷を取り出し、中が見えぬように娘の持ち物を包む。
娘の部屋はどこが良いか。政宗様はご自身の自室近くを望まれそうだがさすがに不用心が過ぎる。
あの娘の筋肉に乏しい細腕では政宗様には掠り傷一つ付けることは出来ないだろうし女を武器にして迫ることはもっと難しいだろうがそれでも会ったばかりの女を早々に政宗様の近くには置けない。
かといって離れ過ぎていては政宗様のお考えを邪魔することなる。近すぎず遠すぎず、適度な距離の部屋で、尚且つ『姫』が滞在するに相応しい部屋でなければ。
幾つかの候補の中から一つを選び、部屋を整え必要な道具類の準備もするため侍女達の控え部屋へと足を向けた。
終