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失礼だとは分かっているけどあちこちに視線を向けてしまう。二間続きの縦長の部屋。部屋はどちらも五畳かそこら。部屋の先には玄関と台所が一つになった土間があって、太一さんがお茶を入れるためのお湯を沸かしている。
太一さんは一昨日私がお城を抜け出した時に会った男性だ。改めてお礼を言いたくて、会った神社に行ってみたら幸運にも会うことが出来た。
そのままそこで話すことも出来たんだけど、今日は曇っていて寒いからと家に招かれた。
親切な人なんだろうけどさすがに会って二回目の、それも男性の家に行くのってどうなんだと躊躇したけど、どうしたの? と聞いてきた太一さんからは危ない感じが全然しなかったし、初対面なのに親切だった昨日のことを思えばこの人なら大丈夫かなとお邪魔することに決めた。
太一さんの家は家と言うより部屋だった。時代劇ドラマでたまに出る長屋の一部屋そのもの。
もう何ヶ月もお城で暮らしているせいか眼が肥えてしまったらしい。太一さんや他の部屋の住民には悪いけど、古臭いし狭いなと思ってしまった。
けど、何となく落ち着く。広くて床の間には高そうな掛け軸とか花が生けられていたり襖には綺麗な絵柄が描いてあったり、というお城の部屋よりも、どっちかと言うと狭くて古いこっちの方が落ち着く気がする。セレブって良いなぁなりたいなぁとか思うこともあったけど、私は根っからの庶民らしい。
でもきっと、政宗は私と逆なんだろうな。だってお殿様だもん。
そう思ったら胸の辺りがズキッてなった。
ズキッてなるなら足のはずだと思うのに。今日は目立たないようにちゃんと着物を着てるから(もちろんお姫様みたいな高いのじゃなくて町娘みたいな着物)正座をしなくちゃならない。だから痛むなら足のはずなのに、なんで胸? なんかの病気とかだったらヤだなぁ。
「お待たせ。って言ってもお茶請けが無かったんだけど」
「あ、じゃあこれどうぞ」
申し訳なさそうに笑う太一さんに持ってきた包みを渡す。中には今朝作ったばかりの栗きんとんが入っている。太一さんへのお礼の品だ。
「これお菓子? 初めて見るよ」
「栗きんとんっていう栗のお菓子ですよ」
「へぇ、これ栗なんだ。でも良いの? 珍しい菓子なんじゃない?」
「太一さんに渡したくて持ってきたものだし、結構簡単に作れるから気にしないでください」
「そう? じゃあ遠慮なく。でもほんと美夜ちゃんて変わってるね」
また言われた。無事再会出来た時にお礼を言いたくてって言ったら律儀というか変わってるというか、って笑われた。嫌な笑い方じゃなかったから良いんだけど、そんなに変なことかな?
いつも感謝の気持ちを忘れずに、って言われてきたし、太一さんのおかげで立ち直れたからお礼をしたいと思っただけなのになぁ。
「でも俺も美夜ちゃんにもう一度会いたいって思ってたから会えて良かったよ」
「太一さんも?」
「うん。この間の美夜ちゃんはちょっと変わった服を着てただろ? そのことが聞きたかったんだ」
「あ、あー……あれは、ですね」
「なになに?」
「えーと………洋服、というか、南蛮の服、な感じ?」
着物の形をベースに動きやすいように洋服要素を取り入れたデザインだけど、スカート丈が短いことを覗けばぱっと見は和服に見えなくもない。だけど太一さんとは間近で話したから和服とは違うことに気付かれたんだろう。
しどろもどろに大雑把に言うと、太一さんは興味深そうな顔を浮かべた。
「へぇ、やっぱりそうなんだ。俺南蛮の服って初めて見たけど、向こうの女性ってあんなに足を出してるんだね。凄いなぁ」
「……………」
太一さん、ごめん。私が言ったことだけど、あれスカートはスカートでもこの時代のスカートとは長さがかなり違うと思う。私の生まれた世界の戦国時代辺りと同じなら、女性はドレスとかロングスカートで足は出してないと思う。というか、注目するとこ足なの?
「ん? 何?」
「な、なんでもないです!」
全然そんな風には見えないけど太一さんも成実さんみたいにむっつりなのかなーって目で見てしまってた。気をつけないと。
「ねぇ、南蛮の服が着れるってことは美夜ちゃんは実は良いとこのお嬢さん? 俺失礼な口聞いちゃってる?」
「そんなことないですよ。あれは夏に私が暑さで倒れちゃったから政、じゃなくてえぇと……お世話になってる人が作ってくれたんてす」
「そうなんだ。南蛮物なんて高いだろうに、その人太っ腹だね」
「太っ腹っていうか、優しいんです。すごく。セクハ……スケベな意地悪もいっぱいしてくるんですけどね」
日本語だけで喋らなきゃならないってかなり大変。お城の人達は政宗が私を気に入った理由の一つに、政宗が流暢に操る南蛮語、つまりは英語が理解出来るというのもあると思っているみたいで、おかげで今まで気を使う必要が無かった。だから気を付けていないとぽろっと言ってしまいそうになる。
政宗の名前やお城で暮らしてることも言えないから言葉には十分気をつけないと。
「美夜ちゃんてさ…」
「はい?」
「実は、囲われ者?」
「? 私何も囲って無いですよ?」
聞き返したら驚かれた。なんで?
「えーとさ、囲われ者っていうのは妾って意味なんだけど」
「んぐぶっ! ゲホッ、ゴホッ」
飲んでたお茶が変なとこに入った。
妾って愛人ってことだよね? 私が政宗の愛人? なんか響きがエロい! じゃなくて!
「違います! 私は政宗の愛人なんかじゃないです!」
「違うの?」
「違います!」
「でもさ、さっきお世話になってる人って言ってたよね? 妾じゃないならどんな関係なの? 妾でも何でも無いのに男の家に若い女の子が住むなんて、ちょっと普通じゃないと思うんだけど」
言われて初めて気が付いた。
私と政宗の関係って、なんなんだろう。
許嫁ってのは嘘だし(あ、また胸がズキッてなった)友達、ってのもちょっと違う気がする。知り合いだと他人行儀なだけでなく浅い関係のように感じてなんか嫌。
「えっと……居候先の主と、居候させてもらってる側?」
「なんで疑問形なの?」
「き、気にしないで! 居候です! 居候!」
政宗との関係が何なのかはっきりと表せないことがなんだか悲しくて、これ以上この話題が続かないよう強引に話を終わらせると続けたくない意思表示も込めて湯飲みに口を付けた。
政宗と、私の、関係……。
「そういえばさ、美夜ちゃんて最近周りにからかわれること増えてるんじゃない?」
言外のお願いに気付いてくれたのか、太一さんは話題を変えてくれた。
「なんで分かるんですか!?」
政宗に遊ばれてることは話してないはずなのになんで、まさか太一さんはエスパー!? なんて思っちゃったけど違った。政宗は関係無かった。
「だって美夜ちゃんの名前って天姫様のお名前と一緒だし。年頃も近いでしょ? だから比べられたりしてるんじゃないかなって」
「あまひめ様? 誰ですか、その人?」
「え、知らないの!?」
ものっすごい驚かれた。太一さんの眼がカッ! って見開かれてる。
「天姫様って今城下で一番話題になってるお姫様だよ!?」
「そうなの?」
城下には何度も政宗に連れてきてもらっていたのに全然聞いたことがない。というか、政宗に、だったから聞いたことが無かったのかも。だって政宗のやつ、いつでもどこでも私をからかって遊ぶんだもん。