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夢小説設定
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「成実、美夜を見なかったか」
「見てないけど、もしかして珍しく逃げられたわけ?」
「着るモンが変わってからすばしっこくなりやがったんだよ」
「あー、美夜ちゃんてちっちゃいからちょこまか動きそうだもんな。ね……ずみっぽいよな」
「ちょっとーっ! そこは普通猫でしょ!? ていうか猫って言おうとしてわざとねずみに変えたでしょ!!」
聞き捨てならない言葉が聞こえて隠れていた部屋から飛び出したらなぜか成実さんは笑いをこらえながら驚くという器用な表情を浮かべた。
「美夜ちゃん引っ掛かるの早っ! 即効じゃん!」
「は? 引っ掛かる? わっ! ちょっ、離せ!」
「漸く捕まえたのに離すわけねえだろ」
「もしかしてさっきのは私を捕まえる罠だったの!?」
「美夜ちゃん気付くの遅っ!」
「うっさい! ちっちゃいとかねずみとか言われて黙ってられるわけないじゃない!」
「だから罠に使えるんじゃねえか」
「くぅ~~!」
悔しいー! せっかく初めて政宗から逃げ切れて良い感じの隠れ場所も発見したのに! 人が気にしてることをわざと言うなんて卑怯だ!
「はい、美夜ちゃん」
「なに、これ?」
「騙したお詫び。これあげるから騙したこと小十郎には内緒にね」
渡された包みを覗いたら黒くて短い棒状のものがたくさん入ってた。
「かりんとう?」
「当たり。知り合いに貰ったんだけど俺甘い物ってそんなに好きじゃないんだよね。はいあーん」
ぽいっと一つ口の中へと放り込まれた。びっくりしたけど黒糖の甘さに自然と頬が緩む。かりんとうって久しぶりに食べたけどやっぱり美味しい。
「美夜ちゃんて結構単純だよね」
「え、なに?」
「なんでもないよー。じゃあ俺行くから美夜ちゃんは頑張ってねー」
「へ? 頑張る? ……あー! 政宗に捕まってたんだった!」
「……底無しの馬鹿だな」
「う、うっさい! えぇと、か、かりんとうが美味しいのよ!」
「言い訳ならもっと上手いのを……Sorry、お前の頭じゃ無理だったな」
「うっさい黙れ! バカって言う方がバカなんだから! 政宗のバーカ!」
「お前と話してるとマジで馬鹿になりそうだ」
私を担いだまま器用に肩を竦めた政宗の台詞にさらにムカついて、コノヤロウと髪を引っ張ろうとしたらさわさわと体に違和感。政宗は担いだままセクハラしてきやがった!
「触るな! 撫でるな! セクハラ禁止!」
「お前、痩せたか?」
「いい加減やめ……え? マジ? 私痩せた!?」
「ああ。腰も足も胸も全体的に少し細くなってる」
「マジで!? やったー! きっと買い食いしなくなったのとあんたから逃げるためにたくさん走ってたから……。今胸もって言った?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。全体的に細くなった場所に胸まで入っているだと? それってつまり、ち、小さくなったってこと? 毎晩お風呂入りながら揉んでマッサージしてるのに? おっきくなりますようにって念じながら揉んでいるのに? ギリギリCカップはあった胸が小さくなっちゃってるの? てことは私の胸って今、び、Bカップ?
「政宗どうしよう! 大きくしたいのに小さくなっちゃうなんて私どうしたら良いの!?」
「俺に聞くな」
「揉んだら大きくなるってやっぱり迷信ってことなの!? 私の毎晩の努力を返せコノヤロウ!」
「お前毎晩ンなことしてたのか?」
「だって胸は揉むと大きくなるってよく聞くんだもん」
あと唐揚げ食べると良いとも聞いたことあるけど戦国時代に唐揚げなんて無理だから毎晩揉んでたのに。もしかしてお腹とか太股とか揉んで細くするみたいに胸も揉むと実は小さくなっちゃうのかな?
「自分でやるから効果が無かったんじゃねえか?」
「どういうこと? マッサージのプロじゃなきゃってこと?」
「NO、いいか? 女ってのは男のために体を磨くもんだ。だから……」
「拒否!!」
「まだ途中だろうが!」
「どうせ政宗が揉めばってなるんでしょ!? 結局それセクハラじゃん! 胸は大きくしたいけどセクハラは嫌!」
「セクハラじゃなくてMassageだ」
「あんたがやるとマッサージもセクハラになるのよ! 絶対に大きくなるって保証するなら我慢するけど保証なんか出来ないでしょ! だからこの手を離せ!」
「テメェは人の親切をなんだと思ってやがる!」
「どこが親切よ! 私で遊んでるだけじゃ、ってだから揉むなって言ってるでしょー!」
んー! と力を入れて胸から政宗の手を離そうとするけど全然効果無し。しかも「マジでちっせぇ」って呟いたのが聞こえた。
もう怒った。こいつ許さない。絶対に許さない。人の胸を小さいって言うあんたにはこうだ!
「政宗だって男としてイロイロちっさいくせに!」
「……そりゃどういう意味だ」
「知りませーん。心当たりが無いなら無視すればいいじゃん。怒るってことはほんとに小さ痛ー!!」
がぶっと耳を噛まれた。痛い! めっちゃ痛い! 耳千切れちゃう! うぎゃぁぁー! 服脱がそうとするな! ここ廊下ー!!
「梵ー、あのおっさんがまた来……こ、今回は仕方ないことだからな! 俺は梵を呼びに来ただけなんだから!」
「チッ。Timingの悪ぃ時に来やがって。マジでうぜぇ野郎だな」
「梵てさ、俺が傷付かないとか思ってないよな? ウザいのってあのおっさんのことだよな?」
面倒臭そうな顔をして政宗が離れた。私からしたらナイスタイミングだよ。顔も知らないおっさんとやらに感謝。ありがとう、おっさん。ついでに成実さんも。
「美夜ちゃん、丸見えなのにいつまで寝てんの? はっ! もしかしてじっくり見ちゃっても良いの!? 梵に傷付けられた俺の心をこれで癒してってこと!?」
「は? うきゃあぁぁぁ!!」
胸丸出しだったー!! 慌てて腕で隠して手近な部屋に駆け込んで戸を閉める。見られた。また見られちゃった! 前は私も悪かったと思うけど今回は百パー政宗のせいだよ! いつか絶対に反撃されない仕返しの方法考えて仕返ししてやるんだから!
グッと拳を握って決意した拍子に政宗に半脱ぎにされたワンピースが両肩から滑り落ちた。甚平みたいに紐を結んで留める形にしたから紐を解かれたら簡単には前がパカーンと開いてしまう。
もっと政宗にセクハラされにくい服にすれば良かったかもと思うけど、着物っぽさを残しつつ涼しい服となると帯を締める必要の無い甚平みたいな形にして丈を短くする、くらいしか思い浮かばなかったのだ。
自分のファッションセンスの無さが悲しい。
「成実さん、さっきはありがとう。私初めて成実さんに感謝を覚えたよ」
「初めてってとこが気になるけどどういたしまして。にしても今日のせくはらは凄かったみたいだね」
「あの変態野郎ここが廊下だってのに手加減しないんだもん! 本気でヤられるかと思ったよ」
「つーことは俺が梵を呼び行くのをあと少しでも遅くしてたら濡れ場を目撃出来たかもしれねえのか。勿体ねえことしたかも」
「なんか言った?」
「なんでもないよー」
なんか怪しい。でも今日ばかりは追求しないであげることした。だってさっきは本当に助かったんだもん。
「美夜ちゃーん、髪紐落ちてるよー」
「あ、ありがとう」
服の乱れがもう無いか確認して、ボサボサの髪を手櫛で直しつつ廊下に出て髪紐を受け取って紙を後ろで一つに縛る。
「ねえ、さっき政宗を呼びに来た時に『またあのおっさん』って言ってたよね? そんなにその人しょっちゅう来るの? 政宗もすんごい嫌な顔してたし」
「しつこい連中の中では断トツのおっさんなんだよ」
「何がしつこいの?」
「娘の売り込み」
「は?」
「美夜ちゃんの存在のおかげであからさまにはしてこなくなったけど、代わりに茶会だのなんだのを開いて梵を招待しようとしてるんだってさ」
「ああ、自分の娘を政宗の奥さんにってやつね」
「そ。梵を招待してその場に娘を連れて来たりとか、なんとかして自分の娘や一族の娘を梵に引き合わせようと必死なわけよ。酒の席なら梵を酔わせてあわよくば既成事実を、とかも考えてるだろうね。毎回梵に断られて一度も成功してないんだけど……」
「な、なに?」
私を見たかと思ったら面白いもの見つけちゃった、って顔をした成実さんを警戒する。こんな顔するってことは私からしたら絶対に面白くないことに決まってるもん。
「ねえ美夜ちゃん。梵は招待を断る時に毎回同じこと言ってるらしいんだけど、なんて言ってると思う?」
「知らないわよ、そんなの」
「あいつの側を離れたくねえ」
「は?」
「美夜ちゃんの側を離れたくないから行かないって断ってるんだって。んで向こうがそれでしたら許嫁の姫もご一緒に、って言うと他の野郎の目に触れさせたくねえって言ってるらしいよ」
「………………………。し、成実さんてば冗談うまーい」
「この話、同席してる小十郎から聞いた話だから」
空耳とか名前を間違えてるとか思いたい。だって小十郎さんが言ってたなんてそれってマジで政宗が言ってるってことじゃん! 小十郎さんがわざわざ冗談言うとは思えないもん。なんでそんなものっすごいラブラブな仲って勘違いされるような断り方するわけ!? ただでさえお城で働く人達からバカップルみたいに見られてるってのに! 政宗の馬鹿!
「もっと他の断り方しろってのよ!」
「でも一番効果的な方法だと思うよ?」
「どこがよ!」
「だって梵がそれだけ美夜ちゃんに夢中だって分かればしつこい奴らでも無理に自分とこの娘を送り込んでも寵愛は得られないって諦めるやつも出てくるじゃん。実際数人ほどそう考えたのか梵に打診するの止めた奴がいるらしいし」
「でも結局得するのは政宗じゃん」
私は政宗といちゃつきまくってるってお城に居る人達以外からも思われちゃうのに。私だけ損な気がする。
「それはそうだけどちゃんと美夜ちゃんのことも考えてると思うよ?」
「はぁ? どこがよ」
「梵の断り方はあくまで自分が美夜ちゃんに惚れ込んでる、って言い方だろ?」
「うん。でもそれがなに?」
「例えば美夜ちゃんが梵に他の女に会うなって言ってるから、って断り方したら聞いた相手は美夜ちゃんは我が儘で城主の行動を振り回すとんでもない悪女だって印象を持つと思わない?」
「思う、かも」
「だろ? だから梵は美夜ちゃんが悪く思われない言い方を選んでるんだよ」
面白くない。そんなことを知っちゃったら政宗のことを怒れなくなる。
「でもさ、そんなに私と政宗の仲が良いって思わせといて大丈夫なの?」
「なにが?」
「だって私はいつか元の世界に帰るんだよ? そのあとどうするの?」
「美夜ちゃんが病気とかで死んだってことにでもするんじゃない? 死んだ相手と婚姻なんて無理だし死んだことにするほうがいろいろと楽だしね」
「聞かなきゃ良かった……」
「なんで?」
「本当は生きてるのに死んだことにされるなんて、なんか存在を否定されてるみたいだもん」
何もかも任せきり頼りきりなんだから、文句を言える筋合いじゃないのだろうけど、でもやっぱりもやもやしたものを感じてしまう。
「言われてみれば確かに。なら梵は別のごまかし方を考えるよ」
「なんでそんなに言い切れるの?」
「そう思うから。さってと、喉渇いたからお茶貰ってくるよ。美夜ちゃんの分も貰ってきてあげるね」
「……ありがとう」
わざと話を打ち切られた気がする。お茶を貰いに行く成実さんを見送りながらそう思った。
続