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◆ ◆ ◆
「はっ、はぁっ、はぁっ」
「相変わらず体力ねえな」
「あ、あんたと、比べないで」
地獄の追いかけっこの終わりは私の体力切れ。持久力に自信が無いのは昔からだけど、政宗から逃げるためにも鍛えようかな。でもちょろっと鍛えたところで政宗が相手じゃ意味ないか。あう……。
いつものように肩に担がれて部屋に戻りながら、担がれるのにも慣れてきちゃったなーと地味に落ち込む。お腹に負担が来ないように肩に手を突いて体を起こそうとしたらふらっと目眩がして手から力が抜けて失敗した。
「美夜?」
「大丈夫。ちょっと、ふらっとしただけ」
暑い中を全力疾走しちゃったからなぁ。体も怠いし喉も渇いた。今日は汗もいっぱいかいたから当然か。ダラダラとそんなことを思いながらもなぜか体を起こす気力が湧いてこない。圧迫されたお腹がつらいのに、今は腕を動かすことの方が億劫。
「政宗、喉、渇いた……」
「……美夜、お前最後に水飲んだのはいつだ」
「え? ん、と……お昼ご飯の時?」
「馬鹿か! それからどれだけ時間が立ってると思ってる!」
「だって、話が盛り上がった、から」
「ンなもん言い訳になるか!」
なんでか怒られて、俵担ぎから横抱き、いわゆるお姫様抱っこってのに変えられた。だけどなぜか恥ずかしいと思わない。というか思う気力が無い。辛いのを意識したらどんどん辛くなってきて頭を政宗の胸に預ける。政宗が侍女さんに指示を飛ばす声が聞こえてくるけど何を命じているのか気にする余裕が無い。ヤバい。これって熱中症ってやつかも。これじゃあ政宗に馬鹿って言われても仕方ないよ。
部屋に着いたのか降ろされて、帯を解かれて衿を緩められた。それだけでもだいぶ楽になって気分も少し良くなる。だけどまだ辛い。怠い。気持ち悪い。目を閉じてるのにくらくらしてる気がする。
「美夜、体を起こせるか?」
「ん……」
返事はしても一向に動こうとしない私に焦れたのかそれとも本当は自力で体を起こせないことがバレたのか、背中に政宗の手が入れられて体を起こされた。政宗はそのまま自分の体に私を凭れさせて体が楽なようにしてくれた。
「後で騒ぐなよ」
「え……」
返事をするまえに顎を掬われ唇を塞がれた。液体が流れ込んでくる。水だ。入ってきたのは少量で、渇いた喉には全然足りない。ちゃんと声が出ていたのかわからないけどもっとと口を動かせばまた水が流れ込んできた。幾度かそれが続いて、ほぅ、と吐息が零れた。
体の不調がだいぶ治まった。変わりのようにとろとろと眠気が襲ってくる。髪を梳くようになでてくれる手が気持ち良くて、誘われるままに眠気に身を委ねた。
◆ ◆ ◆
「ん……」
「お気がつかれましたか?」
目覚めると枕元で侍女さんが団扇で風を送ってくれていた。夏で暑いとはいえこんなことは初めてで、なんで今夜に限ってと侍女さんを見つめているうちに眠る前のことを思い出した。寝てる間ずっと扇いでてくれていたらしい侍女さんにお礼を言って、念のためにゆっくり体を起こす。特にふらつくことも無く起きられた。もう大丈夫みたい。外は薄暗いからたくさん寝たおかげかも。
「美夜様、どうぞ」
「ありがとう」
差し出された湯飲みを受け取ると中にはお水が入っていた。明日からは気を付けないとと思いながら水を飲む。少しぬるい。その温さが喉を伝い落ちていく感触に、眠る直前のことを思い出した。
「まさかね。無いって、うん。無い無い」
「何が無いんだ?」
「ふぉあ!」
びっくりしてバクバク鳴る心臓を押さえながら振り向くと、襖を開けたままの格好で立つ政宗が居た。どうやら私は政宗の執務室の隣の部屋で寝ていたみたい。
視界の端で侍女さんが出ていくのが見えた。二人きりにしてほしくなくて視線で助けてと訴えたのに、にこりと優しい笑みを浮かべて行っちゃった。変な気を使わないで!
「もう大丈夫そうだな」
「あ、ああ、うん。もう大丈夫……」
政宗の顔が見れなくて俯きながら話していたのに側に来た政宗に顎を取られて無理矢理顔を上げさせられた。気にしないでいようと思えば思うほど政宗の唇を見てしまって顔が熱くなってくる。政宗が楽しそうに意地の悪い笑みを浮かべた。
「覚えてるみたいだな」
「おおお覚えてない! あれはキスじゃないもん! あれは、あれは、」
「口移し、だろ?」
「く! か、あ……ふぁぁーっ!!」
恥ずかしいーっ!! 恥ずかし過ぎるよ! だってあれ私のファーストキスだよ!? 初めてがあんななんて良い思い出とは程遠いじゃん! ち、違う! あれはキスじゃない! キスじゃなくて口移し! 口移しぃっ!?
「クッ、HAHAHA!」
「まだ居たの!?」
悶えてるところ見られた!! 恥ずかしい姿見られてばっかりじゃん!
「だから夏って嫌いなのよ!」
「こっちは楽しめるがな」
「私は楽しく無い!」
「だったらお前の居た世界の服に似せたものを作るか?」
「え?」
「楽しめるのは良いがまた倒れられても困るからな」
「私も嫌だ。もうアレは嫌。あんな恥ずかしいこと」
「もっとと自分からせがんだくせにか?」
「政宗の意地悪! 人がせっかく忘れようとしてたのに!」
頭を抱えて唸る私を見て政宗がまた笑った。なんか、しばらくこのネタでからかわれそうな気がする。うぅ。
「ああ、忘れるところだった」
「今度はなに?」
「警戒すんな。これだ。用は済んだから返しておく」
そういって政宗が取り出したのは布の包み。何重に布で巻かれていたのは前に貸したお守りの石が入った巾着袋だった。
「なんでこんなに布で巻いてたの?」
「それくらいしねえとまともに触れねえんだよ」
「私はなんともないんだけどなぁ」
袋から出して手の平の上で転がしてみてもやっぱりなんともない。どうして私だけ平気なんだろう。私の持ち物だから?
「そういえばなんで借りてったの?」
「お前なぁ、普通そういうことは貸す時に聞くことだろ」
「忘れてたんだもん」
「大切なものなんじゃねえのかよ」
「大切だよ。でも政宗なら良いかなって思ったんだもん」
そう言ったら政宗は少し目を見開いたあとに苦笑して、なぜかぐしゃぐしゃと私の頭を撫でてきた。
「You're a strange woman.」
「え? なに? なんて言ったのか聞こえなかったんだけど」
「なんでもねえよ。それより、貸りた理由が知りたいんじゃなかったのか?」
声が小さくて聞き取れなかったから聞いたのに政宗は答えてくれなかった。ごまかされたような気もしたけど知りたいことだったし、追求しても教えてくれそうになかったから頷いた。
「なんでお前以外が触ると痺れるのか原因を調べるために借りたんだ」
「分かったの?」
「原因と言うには少し違うがな。お前はその石はお守りだって言ってただろ? なら寺社関係だろうと思って名の知られた奴に見せに行ったんだが、どいつも同じことを言ったらしい」
「どんなこと?」
「『神仏の篤き加護を秘めている』だとよ」
「神仏の加護?」
まじまじと石を見てみるけどよく分からない。私には普通の石に見える。でも偉い人が言ったのならそうなのかな? だけど、どうしてそんな石を私が持ってるんだろう。
「出来る限り肌身離さず持っていた方が良いらしい」
「そうなの? なにか良いことがあるのかな? それとも何かから守ってくれるとかかな?」
「さぁな。俺は神だの仏だのそういったものは信じてねえからな」
「私も熱心な信者ってわけじゃないけど……」
蝋燭の明かりを受けて赤く光る石はどこか神秘的にも見えて、神仏の加護があるというのもあながち間違ってないような気がした。
You're a strange woman.
訳→不思議な女だな
続