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「暑い……」
パタパタと扇子で扇いでも生温い風しか来ない。この世界に来て1ヶ月は過ぎて、季節は夏真っ盛り。と言っても元の世界で住んでたとこより北にあることと、温暖化の影響が無いからか元の世界と比べればそれほど気温は上がらない。
だけど元々暑いのが大の苦手で夏はクーラーや扇風機が必需品だし一日に二、三個はアイスを食べたりしてた身には夏というだけでもう無理。
それにいつも夏は涼しさを求めてキャミにショートパンツとか出来るだけ肌が出る格好をしていたからいくら夏物の生地が薄い着物でも手足首まで丈があって帯まで締めて、はキツイなんてものじゃない。
本格的に暑くなってきてからは毎日脱ぎたい衝動と戦いまくり。衿をちょっと寛げて紐を襷掛けにして袖を捲るくらいで我慢してる。してはいるけど暑いものは暑い。汗が出て着物が肌に張り付いて気持ち悪い。肌もベタベタするし。プール入りたい。川でもいいから入りたい。
「政宗に川に行きたいって相談しようかな」
頼めば連れてっいってくれるかも。水着が無いから泳げないけど足を浸すくらいなら……。あ、桶に井戸水入れれば代用出来るかも。井戸水って冷たいし何より政宗の仕事の邪魔をしちゃう心配が無い。
「よし、井戸水を汲みに行こう」
部屋を出て、ちょこっと迷ったけど何とか玄関に辿り着くと草履を履いて外に出る。私の知ってる井戸は一ヶ所しかない。城内は広いからきっと井戸は幾つもあるんだろうけど、足を桶に浸すってことは裾を持ち上げるわけだから政宗の側では出来ない。見付かったらセクハラの餌食決定だ。
だからちょっとだけ歩かなきゃいけないけど唯一知ってる井戸のある場所、鍛錬場を目指す。涼むために暑い中を歩かなきゃいけないあたりに矛盾を感じる気がするけど深くは考えない。
汗をかきかき辿り着いた鍛錬場にはほとんど人は居なかった。でも井戸があった奥の方から騒がしい声が聞こえてくる。
もしかして、みんなもあの日の政宗達みたいに水浴びしてるのかも。羨ましい!
ちらほらとだけどいる鍛錬中の兵士さんの邪魔をしないよう気をつけながら奥へと向かうと何人もの兵士さんが居て、バシャッ! と派手な水音がした。次いで気持ち良いぜー! という声。
やっぱりみんなは水浴びをしてるらしい。良いなぁ。私も脱いで水浴びしたい。女に生まれたことに不満は無いけどこういう時は男って羨ましいって思う。
「良いなぁ」
「ん? うわぁ!」
水浴び集団を眺めながら呟いたら一番近くにいた兵士の一人が振り返って私に気付くなり大袈裟なまでに驚いた。なんでそんなに驚くんだろうと不思議に思っている私に気付くことなく驚いた兵士さんは慌てた様子で周囲の兵士さん達に私が居ることを伝えだした。伝えられた人達も私を見るなり眼を見開く。
そして最初の兵士さんと同じようにあわてふためきながら自分の近くにいるまだ私に気付いていない兵士さんの肩を叩いて私の方を指差す。そうしてどんどん私が居ることが広がっていって、ここにいる兵士さん全員に話が回っただろう頃にはみんなが私を見ながらこそこそと何か話していた。
「なん…姫さ……一人……」
「筆頭……緒じゃ……」
「俺ら…格……」
内容は断片的に聞こえてくるだけでサッパリわからない。もしかして居たら迷惑だったのかな? 水浴びが終わった後で良いから水を汲んでもらえないかなって思っていたけど迷惑なら仕方ない。後で自分で汲もう。彼等が去るまでどこかで時間を潰そうと思って立ち去ろうとしたら兵士さん全員が私に向かってなぜか土下座をしてきた。
「すいやせんしたぁっ!!」
「いきなりなに!?」
「俺ら姫さんが居ることに気付かなくてこんな格好で……。ほんとにすいやせんしたっ!」
代表してか、一番手前にいるリーゼント頭の兵士さんが喋った後に再度頭を下げると他の人達もそれに習って一斉に「すいやせんしたっ!」と言いながら地面に付くくらい深く頭を下げた。
ヤンキー(にしか見えない)集団(たぶん二十人以上はいる) 全員にいきなり土下座されて頭は真っ白。え? なにこの状況。
兵士さん達はずっと土下座姿勢。私はフリーズ。しばらくそれが続いて、じわじわと頭が動きを取り戻す。今はとにかく彼等に土下座を止めてもらうことが先決だ。
「あ、あの、頭上げて下さい。そんなことしてもらうようなこと何も無かったんですし」
「でも、俺ら姫さんの前でこんな見苦しい格好を……。はっ! おい、みんな早く服を着ろ!」
全員が弾かれたように顔を上げて脱いでいた袖に腕を通して身なりを整えた。そしてまた一斉に「すいやせんしたぁっ!!」と土下座。だからその土下座を止めてって言ってるのに!
どうしたらいいのか分からなくてオロオロしていたらあのリーゼントさんが頭を上げた。だけどなぜか悲壮な覚悟を決めた顔をしてる。
「姫さん、どうか俺の命一つで許してくだせぇ」
「は? え? えぇっ!?」
リーゼントヘアーの兵士さんの覚悟に他の人達は腕を目元に押し当てて男泣きをし始めた。そんなみんなに向かって「お前らと過ごした日々は忘れねえぜ!」と泣くのを堪えながら叫んだリーゼントさんは鞘から抜いた刀の刀身を手の平が切れるのも構わず握ってお腹に突き刺そうとした。
「だめぇぇっ!」
「うわぁっ!」
頭で考えるより先に体から動いて、タックルする勢いで飛び付いていた。
「ひ、姫さん?」
「そんなことしちゃダメ!」
「止めないでくだせぇ! これは俺のけじめなんす!」
「けじめでもなんでもダメなものはダメなの! どうしても止めないって言うなら脱ぐからね!」
「姫さんが、脱ぐ?」
飛び付いた兵士さんとは別の、周りにいる兵士さんの誰かが呟いた一言にハッと我に帰った。深い穴掘って埋まりたい。いくら暑すぎて脱ぎたいって思ってたり脱いで水浴びしてる兵士さん達が羨ましかったからって。これじゃあまるで露出狂みたいじゃない!
でも、恥ずかしい思いをした甲斐もあってみんな落ち着いてくれた。私は彼等の格好を何とも思っていないことも分かってくれて、私が見ていたのは水浴びが羨ましかっただけだと伝えることも出来た。
「すいやせん。俺ら早とちりしちまったんすね」
「気にしないで。それより手の平痛いでしょ? 早く手当しないと」
「だ、大丈夫っす! こんなの唾つけときゃ治るっす!」
言ってペッペッと手に唾をかけるリーゼントさん。だけど染みたらしくギャー! と騒いだ。この人、いろんな意味で大丈夫なんだろうか。心配だ。
見兼ねた他の兵士さんに治療のためにどこかに連れて行かれるリーゼントさんを見送りながらそう思った。
「あのー、姫さん。良かったら水汲んできやしょうか?」
「いいの? ありがとう」
「い、いえ!」
「てめっ! 抜け駆けなんて狡ぃぞ!」
「馬ー鹿! 早い者勝ちなんだよ!」
「だったら俺が汲む!」
「てめぇ! 待ちやがれ!」
そんなに水汲みが好きなのかな? 変わった人達。まさか私のために汲みたいなんてことは……無いな。私は美少女でもアイドルになれるようなタイプでも無いもん。……自分で言ってちょっと落ち込んだ。
「姫さん。汲んできたっす」
「あ、ありがとう。でも、その……大丈夫?」
「これぐらい屁でもねぇっす!」
「そ、そう……」
どこからか調達してきた桶に水を入れて私の元まで持って来てくれた兵士さんは、元の髪型が分からないほどぼっさぼさだし顔や腕には引っ掻かれたり殴られたりした跡がたくさん。喧嘩してまで水汲みたいなんて変わり者過ぎだよ。
ちょっとだけ引いちゃいながらも桶を受け取ろうとしたら部屋まで運びますと言ってくれた。でも水汲みの時みたいにまた喧嘩になりそうだったら、鍛錬中の休憩や治療場としても使われる建物の縁に座ると桶を置いてもらって足を浸した。
「んー気持ち良……」
やっぱり井戸の水は冷たくて気持ち良い、と思って顔を上げたら兵士さん全員がじぃーっと私を見ていてびくっとなった。なんでみんな揃って私を見てるわけ? そんなに注目されてると落ち着かないんだけど!