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お城に戻ったら小十郎さんも戻ってきていて馬の背や荷車から収穫した野菜を降ろしていた。私達も戻ってきたのに気付いて後の作業を手伝っていた人達に任せてこちらへと来たんだけど、私は政宗の馬に乗ってるしいい天気なのに成実さんは全身ずぶ濡れだから訝しげに眉間に皺が寄っている。
「いったいどちらへ行かれていたのですか? 成実のあの格好はいったい……」
「聞いてよ小十郎! 梵の奴酷ぇんだぜ!? 俺のこと殴ったんだよ! おかげで吹っ飛んで川に落ちてこんなんなっちまった!」
「またお前が何か言ったのだろう」
ため息混じりに言われた成実さんは小十郎さんの視線から逃れるように眼を逸らした。この感じだと成実さんが政宗に何か言って殴られるのって日常茶飯事っぽい。
「小十郎、頼んだものはどうなってる」
「今運ばせております」
「Good! お前の目利きは確かだからな。腕がなる」
「なんか作るの?」
「そのうち分かる」
馬から降ろしてもらいながら聞いたらごまかされた。ごまかされると余計に気になるのに。
「着いてくるなよ?」
「う……」
こっそり後を着けて覗き見しようと思っていたのに即効でバレた。態度にも声にも出していないはずなのに。それともそんなに分かりやすい顔をしてたんだろうか。むにっと頬を摘まんでみたら政宗に楽しげに笑われたから直ぐに離した。
「呼ぶまで部屋で待ってろ」
頭にぽんと手を置かれながら言われて、たとえ覗き見したとしても直ぐにバレちゃいそうだったから頷いたら政宗は良い子だと言うように頭に置いた手でそのまま頭を撫でてからどこかに行った。
頷きはしても諦めたのは覗き見だけ。誰かに聞くことは駄目とは言われていない。政宗の背が見えなくなるのを待って小十郎さんを見上げたらポンポンと頭を叩かれた。これは聞いても喋ってくれそうにない。それならと裾を絞っていた成実さんの方を見た。
「先に言っとくけど俺も教える気無いからね」
「えー」
「夜までには分かるんだから我慢しなよ」
「ほんとに夜までに分かる?」
「分かるよ。な、小十郎」
「ああ」
「小十郎さんがそう言うなら信じる」
「美夜ちゃん酷い……」
ガックリ肩を落とす成実さんは小十郎にさっさと着替えてこいと追い払われた。私も疲れただろうから休めと言われて侍女さんを呼ばれた。
なんか私がお城の中で迷子になるのが当たり前に思われちゃってる気がする。ひ、広いのが悪いのよ、広いのが! 私は方向音痴じゃない……はず!
◆ ◆ ◆
部屋に戻ってゴロゴロしているうちにあっという間に陽が暮れた。そろそろ夕飯の時間。朝は一人だけど(みんな早起きなんだよね。私も頑張って早く起きてはいるんだけどまだ遅いみたい)昼と夜は基本的に政宗と食べる。場所は政宗の部屋が多くて、今夜も政宗の部屋だと侍女さんが呼びに来てくれたから向かったけど政宗は居なかった。まだ何か作ってるんだろうと思って先に座って待っていたら少ししてから政宗も来た。だけど普段と違う姿に思わず首を傾げる。
「待たせたな」
「どうしたの?」
「何がだ」
「あんたがお膳を運んでくるなんて今まで無かったじゃん」
政宗は手に二人分のお膳を持ってた。しかも何故か袖が邪魔にならないように紐を襷掛けにしてる。
「今夜のDinnerは特別なんだよ」
「特別?」
私の前に置かれたお膳の上の品はいつものと比べても特に変わりはない。和え物煮物汁物エトセトラ。おかずが二つ三つ多いけど、それが特別?
「何が特別なの?」
「食えば分かる。お前の舌が馬鹿じゃなければ、だがな」
「味音痴じゃないし」
なんだか政宗楽しそう。それに意地悪な感じが全然しない笑み。なんでだろうと気にはなったけど、とりあえず食べようと手を合わせていただきますと言って箸を持って最初に眼に映った和え物を口に運ぶ。
「あれ? 味が、違う?」
「口に合わねえか?」
「ううん、そんなことない。すっごく美味しい。でもいつものと味付けがちょっと違う気がしたの。作る人替わった?」
ヒュゥ、と政宗が口笛を吹いた。
「俺が作ったんだよ」
「……はい?」
「今夜の俺とお前のDinnerは俺が作った」
政宗が、作った? これを? このすっごく美味しいご飯を? ……あ、このお野菜小十郎さんの畑にあった。これも。てかほとんどそうじゃん。
「……小十郎さんの作ったお野菜美味しいね」
「俺が作ったのがそんなに信じられねえのかよ!」
「だって美味しいんだもん!」
「Ha! 要するに自分が料理が出来ねえもんだから悔しいわけか」
「作れるわよ! 小さい頃から手伝ってたんだから!」
まだちょこっと切り口がガタガタになるけど魚だって三枚に下ろせる。
「だったら明日のDinnerはお前が作ってみろ」
「良いわよ。そのかわり美味しかったら謝ってもらうからね!」
「OK、いくらでも頭下げてやるよ。その代わり不味かった場合はどうする」
「あんたの言うこと何でも聞いてあげる」
「良いのか? そんなこと言っちまって」
「良いわよ、別に。絶対に不味くないもん」
「OK、なら不味かった場合は……そうだな、俺の命令に一つ従え」
「一つと言わず何個だって従ってあげるわよ」
「その言葉、忘れるなよ?」
不敵に笑う政宗に私も同じ笑みを返す。料理はわりと得意だ。政宗と同レベルの料理って言われたら悔しいけど無理だ。でも美味しい料理、なら自信はある。だって身内だけじゃなくて友達からも美味しいとしか言われたことないんだもん。
◆ ◆ ◆
「んー、良い気持ちいぃー」
さすがお城よね。毎日広いお風呂に入れるなんて最高だわ。ぐっと手足を伸ばして壁に凭れる。
明日は何を作ろう。美味しいものを食べさせて政宗の悔しがる顔と土下座が見たいから久々に手の込んだものでも作ろっかな。お城なんだから材料には困らないだろうし……。
「ああっ!」
叫びながらザバッと勢いよく立ち上がる。けどすぐにがっくりしゃがみ込んで浴槽の縁を掴んでぶくぶくと口まで沈んだ。しまった。忘れてた。うっかりしてた。ここ、世界は違っても戦国時代だった。圧力鍋もコンロもレンジも無いし調味料だって限られてるはず。
コンロの代わりは……かまどと囲炉裏、だよね? どっちもテレビでしか見たことないから使ったことなんてない。火加減てどうやるの!?
「どうしよう! このままじゃ絶対に負けにされる! 作れないくせに強がり言ったって思われちゃう!!」
両手で頭を抱えて叫んでも良い案なんて浮かんでこない。負けたくない。セクハラされたくない。見返してやりたい! でも作れない!!
「でも待てよ。政宗って基本意地悪だけどたまぁに優しい時があるから道具が違うからってことを話せば勝負を無かったことにしてくれるかも。あーでも確証なんて無いし予想が外れたら幾つも政宗の言うことを聞かなきゃならないし……」
くっそー。さっきなんであんなこと言っちゃったんだ。自分で自分を叱りたい。これじゃあ政宗に馬鹿って言われても仕方なくなっちゃう。なんとかしなきゃ。たった一日でしかも政宗にバレずにかまどや囲炉裏の使い方をマスター、するのは厳しい、というか無理としか思えない。やっぱり勝負を無しにしてもらえる方法を考えよう。またそっちの方が希望がある気がする。
「何か、何でも良いから良い方法……」
ちょっと頭を動かしただけなのに頭がクラクラしてつかの間目の前が歪んだ。やばい。長湯し過ぎたかも。考えるのは後にしよう。湯あたりでぶっ倒れる前にと思って立ち上がったけど、急に立ち上がったせいか頭がふわぁ、となった。体が後ろに倒れていく。分かっているのに身体が動いてくれない。あーこりゃ完全に湯中りだわー。なんて人事みたいなこと思いながら意識はゆっくりと遠退いていった。
◆ ◆ ◆
「あーらら。完全に眼回しちゃってるよ。なんで侍女の一人も側に居ないわけ?」
おかげで俺様が出てくる羽目になっちゃったじゃん。ま、今のこの子の状態なら姿見られる心配は無いけどと思い、いや、と訂正する。入浴というのは思わず気を抜いてしまう行為の一つだ。だからちょっと大胆に壁越しに観察してみたけど気付く素振りは全く無かった。気付いていない振りをしていたのなら逆上せるなんて間抜けで危険な状態に陥るわけが無いから俺の存在には全く気付いていなかったのは確かだろう。
ただ、こんなに間抜けなのに一人きりというのが気になる。独眼竜に突然出来た許嫁。実家はどこの勢力のどの家なのかを調べに来たけど立ち居振舞いやこの間抜けさ、側に侍女の一人も居ないことを考えるとそれなりの家の出の人間じゃないってことなのか。ある程度の身分ならこの間抜けさを補うために侍女なり護衛なりを一人くらいは付けるはずだ。それだけの人間を揃えられない家の出か、それとも付ける必要が無いと思われているのか。
後者は恐らく無い。この子、大切に育てられてきた子だ。手入れのされたきめ細かい肌や顔立ちの柔らかさがそれを物語っている。っと、誰かこっちに来るな。
気配がこちらへと近付いてくるのに気付いて視線を脱衣所とを繋ぐ木戸に向ける。気配も消さずに女の入浴中に湯殿に来るとしたら長湯した彼女の様子を見に来た侍女かもしれない。どのようにも動けるように体勢を整える。程なくして廊下と脱衣所とを繋ぐ木戸が開閉される微かな音がして、浴場とを繋ぐ木戸の向こうで気配の持ち主が立ち止まった。
「美夜様、まだご入浴中にございますか?」
思った通り様子を見に来た侍女らしい。一応収穫はあったし、後のことは任せてさっさと退散するに限る。この子の面倒を俺様が見る義理も義務も無い。それに竜の旦那もその右目の旦那も揃ってる状態で長居するのは危険過ぎる。たとえ見つかっても逃げ切る自信はあるけど、余計な騒ぎを起こす必要はない。この後別の騒ぎは起こるだろうけど。
ぐったりしている美夜ちゃんを見下ろし、その顔が湯の中に沈まないようそっと浴槽の縁に頭を預け、外にいる侍女にまだ美夜ちゃんは中に居ることを教えるために軽く水面を叩いてパシャンと水音をさせてから素早く窓から外へと出ると身を隠す。
「美夜様? まだ中にいらっしゃるのですか? 入りますね?」
案の定水音はすれど中から返事が無いことを不審に思った侍女が木戸を開けたのはそれから数拍ののち。彼女の状態に気付いた侍女が悲鳴を上げ、他の侍女も集まり騒がしくなってきたのに紛れるようにして城を離れた。
◆ ◆ ◆
「……鼠が入り込んだようですな」
「どうせ美夜のことを探りに来ただけだろ。探られて都合の悪ぃことは何も無ぇんだ。放っておけ」
政宗様の言に短く了解の意を返す。が、城内の一角、それも湯殿のある辺りがざわつきだしたことに気付くと政宗様と視線を合わせ、同時に立ち上がり騒ぎの元に急いだ。
「どうした! いったい何があった!」
「片倉様! それが、ご入浴されていた美夜様が湯中りなさってしまったのです」
行き会った侍女に問い質して返ってきた答えに、騒ぎの理由が侵入者とは関係の無いものだと分かり張り詰めていた気を緩ませる。
「ったく、湯中りするまで入ってるなんてどこまで馬鹿なんだよ」
呆れながらも湯殿へと向かう政宗様を見送り、美夜を休ませるために部屋を整えるよう侍女に指示を出した。
続