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「そのお姫様はなんでそんなに有名なんですか?」
「浮いた話一つ聞かなかった殿様に突然出来た寵姫だからだよ」
「殿様? それってもしかして政宗…様のこと?」
「ここで殿様って言ったらその方以外誰が居るのさ」
ですよね。だってここ奥州だし。でも政宗の寵姫って、誰? そんな人がいるならなんで私は許嫁のふりなんかしなくちゃいけないの? その天姫様って人とホントに婚約すればいいのに。
「なんか、もやもやする。てか、痛い」
「どこが痛いの?」
「え? あ、な、なんでもないです!」
あははと笑ってお茶を飲んだ。胸のもやもやだとかズキズキが一緒に流れてくれたらよかったのに、少しも流れてくれない。
「あの、その天姫様の話って、他にどんなものがあるんですか?」
「いろいろあるよ。天姫様はまだ十四、五歳らしいんだけど、将来が楽しみなくらいの絶世の美少女らしい、とか」
「ぜ、絶世!?」
なんて羨ましい! 私もそれくらい綺麗だったら政宗の隣に居ても似合ってたかもしれないのに。あ、またもやもやしてきた。ていうかなんでここで政宗が出てくるんだ?
「天姫様って通り名もそこから付けられたらしいよ」
「付けられた?」
そういえば天姫様は私と同じ名前だって言ってたっけ。
「そ。天姫様は結婚はしばらくしないと言っていた殿様の心を射ぬいたんだからきっと絶世の美貌の持ち主に違いない! それに殿様の二つ名は独眼竜だろ? 竜は空を飛ぶ生き物だから、その竜に見初められたってことは天上の姫君に違いない! って噂が流れていつの間にかみんな美夜姫様のことを天の姫君、天姫様って呼ぶようになったんだよ」
「ふぅん」
返事が自分でもびっくりするぐらい投げやりなものになった。それに胸の辺りがなんでか痛くて泣きそうになってくる。
全然自覚無いけど、名前が同じでも顔に差があるのが実は物凄くショックだったのかな?
「そんな落ち込むことないって。美夜ちゃんだって十分可愛いよ」
慰められてしまった。やっぱり私、顔のことが気になってる?
「あの、ほんとに天姫様の本名は私と同じなんですか?」
「そうらしいよ。それに歳も十四、五くらいだって聞いたから、美夜ちゃんと同じかちょっと上くらいじゃない? 女の子は大人になると変わるって言うし、美夜ちゃんだって数年もしたらきっと綺麗になるよ」
私、あと少しで十八なんですけど。
「まあ最近の噂だと天姫様は実は童顔なだけで本当はもうじき十八らしい、ってのもあるんだけどね」
「へぇ」
天姫様も童顔なん………んん? あれ? なんだろ。なんかこの噂、おかしくない?
お姫様の名前は美夜で、政宗が突然連れて来た人で、実年齢は十八間近なのに見た目は子供。これってなんか私と重なりまくるんだけど。
「しかも男が姫様が童顔なことを指摘するとトンデモナイ目に合う、なんて噂も一緒に流れて……美夜ちゃん? どしたの?」
「なんでもないです…」
ちょっと心の涙が止まらないだけです。人様のお家なのに行儀は悪いけどぺったり床に突っ伏す。足の痺れが心の涙と合わさってかなり痛い。
当たっちゃったよ。トンデモナイ目って、角材で股間殴られるってことでしょ? やっぱりこの噂のお姫様って私のことじゃん! くっそー! 無駄に落ち込んで損した!
てかなんでこんな噂が広まっちゃってるわけ? せめて絶世の美少女って噂と童顔を指摘するとトンデモナイ目に合う噂の真実が逆だったら良かったのに。まあそれはそれで困るっていうかなんか申し訳ない気持ちになっただろうけど。
だって太一さんや兵士さん達に可愛いって思ってもらえてるみたいだから造作自体は悪くはないんだろうけどさすがに絶世の美少女なんておこがましい。それに噂が先だった人が私を見たらがっかりするか、怒るか、別人と思われるかのどれかだと思う。
それにトンデモナイ目に合うって噂流れるの早くない? 兵士さん達と話してからまだ数日しか経ってないんだけど。誰よ、話広めやがったのは。
一人づつ問い詰めて………待て待て私。落ち着け私。あの場に居た兵士さんの顔は全員じゃないけど覚えてる。だから問い詰めるのは難しくないと思う。
でもそんなことしちゃったらまた変な噂流れるんじゃないの? ただでさえ城内の兵士さん達の多くから眼が合うだけで股間抑えられて恐れられちゃってるのに。
ああもう! どうすりゃ良いのよ! 整形手術してにっこり笑って愛想振り撒けってかコノヤロー!
「大丈夫? やっぱりどっか具合悪いんじゃ……」
「大丈夫です。あの、すみません。そろそろ帰ります。陽も暮れてきたし」
まだちょっと足が痺れてるけど立ち上がる。送ると言ってくれたけど帰る場所がお城だから遠慮した。噂のお姫様と同一人物ってバレたくないしもしかしてって思われるのも避けたい。
帰り道はあえてゆっくり歩き、人々の話し声に意識を向ける。時々だけど確かに『天姫様』という単語が聞こえてきた。しかも殿様だとか政宗様という単語とセットで。
一番多いのは政宗が戦でお城を留守にしているから天姫様は心配で仕方ないだろう、っていうもの。中には天上の国のお姫様だからきっと神秘の力で伊達軍を助けてくれるに違いないなんて言ってる人までいてもうその場にへたりこみたくなった。
神秘の力ってなに。訳分かんない。そんな力あるなら元の世界に帰ってるし。噂には尾鰭が付くものだけどあんまりデカイ尾鰭は付けないでほしい。だって現実との差ってものがあるんだもん。その差がデカイほど真実が分かった時のガッカリ感って凄いんだから。
「はぁ……あっ」
俯いてトボトボ歩いていたせいでお店から人が出て来るのに気付かずにぶつかってしまった。
「どこを見て歩いている!」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて頭を下げて謝ったけど怒鳴られてしまった。だけどその声は高くて、よく見たらぶつかったのは私よりずっと年下の男の子だった。多分十一、二歳くらいだと思う。
こんな子供の時からちょっとぶつかっちゃっただけであんなに怒るなんて。ぶつかった時に持ってた物を落としちゃったとかでも無いみたいなのに。怒りっぽいと良いことないぞー。
「あ、居た居た。美夜ちゃーん」
「ん? あ、太一さん」
呼び声に振り向くと太一さんがこっちへ向かって駆けてくる所だった。手には見覚えのある布を持ってる。あれは確か栗きんとんを包んでた風呂敷だ。
「間に合ってよかったよ。はいこれ、忘れ物」
「わざわざすみません」
「気にしないで。頼み事もあったし」
「頼み事? なんですか?」
「あのお菓子の作り方教えてもらえないかなって思って。美味しかったから知り合いのお菓子好きにも食べさせてあげたいんだ」
「良いですよ。簡単だからなんなら今教えましょうか?」
茹でるか蒸すかした栗にお砂糖混ぜて形を整えるだけと手順は少ない。口頭でも十分説明出来るしメモしなくても覚えられると思う。
「そうなの? あ、でも失敗したくないから作りながら教えてもらいたいんだけど、良いかな?」
「もちろん良いですよ」
「ありがと。じゃあ明日にでも俺栗拾いに行ってくるからそれ以降に家に来てくれる? 美夜ちゃんの都合の良い日で良いから」
「分かりました」
約束をして改めて太一さんと別れた。
いつ行こう。予定なんて何にも無いからいつでも行けるけど、政宗達が戦に行ってる時に何度もふらふら出歩くのはなんか不謹慎な感じする。今更かもだけど。かといってあんまり日にちを置くと太一さんに悪い。
「ん?」
視線を感じて周りを見たら何人かが遠巻きに私を見ていた。
「名前も年頃も同じとは、可哀想に」
なんて声が聞こえてきた。そうか、太一さんが私の名前を大声で呼んじゃったせいか。注目を浴びちゃってる理由は分かったけど、でもそれとこれとは別だ。
可哀想ってなによ! 可哀想って! すみませんねぇ絶世の美少女じゃなくて! でも私が噂のお姫様なんですけど!? ほんとはお姫様でもないし絶世の美少女じゃないけどそんなの私のせいじゃないじゃない!
ムカムカしながらその場を離れたけど、お城に戻ったら戻ったで私の顔を見た門番の二人が揃って股間を庇ったから更にイラっとした。
「ん?」
開けてもらった通用門を潜ろうとしたら突き刺さるような視線を感じた。振り返って周りを見るけど、居るのは門番の二人だけだ。門前の坂を下れば城下の人達が居るけど、日暮れを前に家路を急ぐ人ばかりでこちらを見ている人は見当たらない。
「どうしたんすか?」
「今、誰か私のこと見てなかった?」
「さっきガキがあそこに居たっすけど」
門番の一人が指差した方を見ても今は誰も居ない。子供と聞いてぶつかった少年が浮かぶ。けど後を着けられる理由が浮かばない。
もしかしたら帰る方向がたまたま同じで、ぶつかってきた私にまだムカついてたから睨んだとか、そういうことかもしれない。
何かされたわけじゃないからと、ガキを探して連れてきやしょうかと息巻く門番の二人を宥めてから門を潜った。
続