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「竜はカッコイイのになんであんなに派手にしたの?」
「Coolだからに決まってんだろ」
「わっ」
いつの間にか来ていた政宗に頭に腕を置かれた。人の頭を腕置き場にするとはなんて奴だ。
「またあのように派手な物を」
「良いじゃねぇか。最高にCoolでこれこそ伊達軍だろ?」
口笛でも吹きそうな調子で言う政宗に、小十郎さんはため息を吐いた。言っても無駄だと分かってても言わずにおれないんだろうなぁ。小十郎さん、お疲れ様です。
他にも数枚広げられた旗はどれも派手で、作られる度に今のやり取りがあったんだろうなぁって思った。大漁旗にしか見えないものもあるし。
「ところでいつまで乗せてるの? 重いんだけど。背が縮んだらあんたのせいにするわよ」
「多少縮んだところで大して変わんねぇだろ」
「変わるに決まってるでしょ!」
ペシペシ頭を叩いてくる手を叩き払ったら、手の平に硬い感触を感じた。叩いた手が少しだけ痛い。なんでと思って政宗を見て、当たり前だけど戦支度を済ませていることに今更気が付いた。手にも防具を着けていて、顔以外、肌が見えない。隣に立つ小十郎さんも同様で、綱元さんだけが普段と変わらない袴姿。
甲冑姿の政宗も凛々しくてカッコイイ。けど、その格好をする理由が理由だから見惚れるよりも不安になってしまう。気が付けば政宗に抱き着いていた。陣羽織の下の硬い鎧の感触に、ふいに涙が出そうになって胸に顔を押し付けて隠す。
けど、額に当たる鎧の冷たさに直ぐにハッとなった。ようやく何をしているのかに気付いて慌てて政宗から離れる。
何か言ってごまかさなきゃと思うけど何も浮かんでこない。さっきまでのざわめきが嘘みたいに静かになっているのにも気付いて周りを見れば誰もがこっちを見ていて注目されていることに軽くパニックになる。
いつから見てたの? だ、抱き付いちゃったとこ、見られてた?
どうにかしなきゃと焦っても、猛烈な恥ずかしさで顔が熱くて頭も上手く回ってくれない。と、肩に手を置かれた。誰? と見た先に居たのはやけに目を輝かせた成実さん。
「美夜ちゃん、何やってんの?」
目を輝かせながらなぜか批判してきた。意味が分からない。
「抱き着いた後は『無事に帰るのを待ってるから』とか言いながらちゅーしなきゃダメじゃん!」
「怒るとこそこ!?」
ていうかなんでキスなの!?
「出陣する男に女がちゅーするのは普通なんだよ? 特に美夜ちゃんは梵の許嫁なんだからむしろしなきゃダメなんだよ!」
「え!? なにそれ! そんな決まりがあるの!?」
「ある!」
政宗を見たらニヤニヤ笑ってた。ほんとか嘘かわかりにくい。政宗の表情だけなら嘘っぽいけど、あそこまではっきりと断言されたらいくら成実さんが言ったことでも疑いにくい。
どうしよ。これほんとにキスしなきゃダメなの? あ、でも頬ならまだそんなに恥ずかしくない、かも?
「成実、そんな嘘を教えて美夜さんをからかってどうするんですか」
「えっ!? 嘘なの!?」
「いやいや、嘘言ってるのは綱元だって」
キラッキラ目を輝かせた成実さんと、軽く成実さんを睨む綱元さん。小十郎さんも綱元さんと似たような表情だ。
「嘘つきはあんただ」
「おぶっ」
成実さんの頬に人差し指を突き刺してグリグリ。このやろう、危うく信じて政宗にキスするとこだったじゃないか。頬にだけど。
痛いと騒ぐ成実さんの頬をグリグリし続けてたら、背後から回ってきた手に顎を掴まれて無理矢理上向かされた。
ニヤニヤと見下ろしてくる政宗を睨む。首が辛いってのがわかんないわけ? 背が高いって良いわね! こんちくしょー!
「言っとくけどしないからね!」
「なんでだよ」
「成実さんの嘘だったのになんでしなきゃならないのよ。しかもこんな大勢の前で!」
興味津々で注目してる兵士さん達をビシッと指差す。と、成実さんが「野郎共ー!」と大声を上げた。ちょっと待て。何するつもりだ!
「美夜ちゃんは注目されてるとちゅー出来ないみたいだから全員後ろ向けー!」
「Yeahー!!」
「そういう問題じゃないし! ていうかキスするなんて一言も言ってないって言ってる側から顔近付けるなー!!」
どこの暴走族だと突っ込みたくなる返事をしてちゃんと回れ右する兵士さんと成実さんに突っ込みを入れつつ政宗の顔を両手で押す。
なんでそんなにキスさせたがったりしたかったりするのよ! 私は見世物じゃないし顔が良いからってキスを許すような軽い女じゃないんだからね!!
「政宗様。美夜をからかうのも程々になさいませ」
「チッ」
止めてくれた小十郎さんにホッとする。頬だろうがなんだろうが公衆の面前でキスとか出来るわけないだろ。じゃあ二人きりなら良いのかって言われてもダメなことに変わり無いけど。
「美夜」
「何よ」
「仕方ねぇからな、帰った時まで待ってやるよ」
「待つって何をよ」
「kissに決まってんだろ」
「誰がするかバーカ!」
こんな時までセクハラするなってのよ!
くつくつと楽しげに笑いながら引かれてきた自分の馬の元に向かう政宗の背中を睨む。ふと、何かが気になった。なんだか違和感みたいなものが……。
なんだろと政宗の全身を上から下まで見て行って、気付いた。
「あの、綱元さん。政宗はなんであんなに刀を下げてるんですか?」
「殿は六爪流の使い手でもあるからですよ」
「ろくそう?」
「六の爪と書いて六爪、です」
爪? 爪って、爪だよね? 思わず自分の指先を見る。刀を爪に見立ててるってこと? でも二本しか持てないのになんで見立てることが出来るわけ?
「指と指の間に柄を挟むんですよ」
私が不思議に思ってることに気付いた綱元さんが、自分の手の平を広げて指差しながら教えてくれた。
指と指の間に挟む? そりゃ政宗は手が大きいから挟むことは出来るだろうけど、固定することは出来ないんじゃないの? 振るってもすぐに外れちゃう…。
そういえば政宗って握力凄かったっけ。最近は無いけど出会ったばっかの時はマジで頭蓋骨を握力だけで割られると何度も思ったもん。
政宗は握力測定器使っても壊れて測定不能になりそうだ。うん、なんかだんだん政宗のあの握力なら指と指の間に挟んでも難無く扱えそうな気がしてきたぞ。それにしても。
「政宗って凄いんですね」
「我等の殿ですから当然です」
誇らしげに即答された。政宗って側近からも一般の兵士さんからもみんなから慕われてる。
馬に跨がった政宗の横顔が眩しく見えた。ついさっきまで私にキスさせようとしてくるセクハラ野郎だったのに。
前にもあんな政宗を見たことある気がした。いつだったっけと記憶を探る。
ああ、あの時だ。天下を目指すと言った時も、今みたいに眩しかった。
ふとこっちを向いた政宗と目が合った。浮かべた笑みになぜかドキドキして視線を逸らしてしまう。心なしか頬が熱い。落ち着けと何度も言い聞かせながら、そういえばずっとあった不安が小さくなってることに気付いた。
いつからだっけと考えて、政宗と言い合いをしている時は不安を感じることすら無かったと思い出す。もしかして、こんな時にまでセクハラしてきたのはわざと? 私の不安を和らげるためにいつもと変わらない態度を取ったの?
兵士さん達に号令をかける政宗の姿を見ながら複雑な気分になる。意地悪は優しさから、なんて怒るに怒れないじゃない。バカ。
続