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夢小説設定
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「あの、」
「へい! なんでも言ってくだせぇ!」
「な、なんでもない! なんでもないから!」
だめだ。下手に何か言ったらまた喧嘩が起こりそう。やっぱりこの人達って水汲みが好きなんじゃなくて私の役に立ちたいだけだったり、するわけないって。自惚れ注意だぞ、私。
「ねえ、ちょっと聞きたいことあるんだけど、良い?」
無言で見られ続けるのも限界で、騒ぎにならないようにと願いながら、ずっと気になっていたことを聞いてみた。何か話していれば落ち着かない気分も薄れるかもしれないし。
「なんでも聞いてくだせぇ!」
「あ、ありがと。えと、あのね、どうして私のこと、姫さん、なんて呼ぶの?」
「姫さんは姫さんだからっすけど……」
戸惑う視線を向けられた。みんなにとっては当たり前のことみたい。だけどそんな呼ばれ方をする身分じゃないから落ち着かないんだよね。
「姫さんじゃなくて名前で呼んでほしいんなーって思うんだけど」
「美夜様っすか?」
「呼び捨てで良いよ」
「そんな恐れ多いこと出来ないっす!」
うんうんと全員が一斉に頷いた。
「私は気にしないよ?」
「無理っす! 筆頭がお選びになった女性を呼び捨てなんて出来ないっす!」
そういえば表向き私は政宗の許嫁ってことになってたんだっけ。忘れてた。あ、だから姫さんって呼ぶのか。そうだよね。普通お殿様の許嫁っていったらお姫様だもんね。
もしかして私のために動いてくれてるかもって思ったのは間違ってなくて、美少女とかアイドルとかは関係無くて、ただ単に私のことを政宗の許嫁だと思ってるからあんなに親切だったのかな? にしては度が過ぎてる気もするけど……。
「あの、姫さんって呼ばれるのは嫌っすか?」
「え? んー……嫌っていうか、落ち着かない、かな」
私が考え込んでいたのは呼ばれ方のことだと勘違いしたらしく、兵士さん達は隅に集まってなにやらボソボソと話しはじめた。少ししたら戻ってきたんだけどなぜか私の前で整列。そして、ちょんまげ頭の兵士さんが一歩前に出た。
「話し合ったっすけどやっぱり恐れ多くて名前では呼べないっす。だから俺らは姐さんって呼ぶことにしたっす!」
「………え?」
姐、さん? なんで? なんで姐さん? どこをどう転がって姫さんから姐さんに変わったの? てか姐さんってなんか極道の関係者っぽい……。
「あの、ごめんなさい。姫さんのままでお願いします……」
いくら柄の悪い人が多い場所だからって姐さん呼びはちょっと勘弁。姫さんの方がずっとマシだ。
「あのー、俺らからも聞いていいすっか?」
「良いよ」
何が聞きたいのと聞いても、聞きたいことがあると言ってきたにも関わらず兵士さん達はお前がお前がと小突き合って中々話始めない。そのうちに小太りの人が前に押し出されてきた。その人は恨めしそうに後ろを見た後、覚悟を決めるように深く息を吸った。
「あ、あの! 姫さんは筆頭とどこで出会ったんですか!?」
「……え?」
「俺らの間でいつも話題に上るんです! 筆頭と姫さんがどこで出会ってどんな風に恋に落ちたのかを!」
「こ、恋!?」
「はい! 筆頭はしばらくは誰も娶らないって公言してたのに突然姫さんを連れて来られたから俺達ずっと気になってたんです!」
「そ、そうなんだ……」
話すにつれて小太りの兵士さんもその周りにいる兵士さん達も目がキラッキラしてきたから思わず引いてしまう。
そんなに聞きたいの? コイバナなんて女の子同士じゃあるまいになんでそんなに聞きたいんだろう。それにそんな目で見られてもどう言えばいいのか分かんない。本当のことは軽々しく言わないよう政宗に止められているしそもそも許嫁ってこと自体が嘘だ。
「えーと……ひ、秘密ってことで」
「えー、教えてくださいよー」
「馬っ鹿! 筆頭との思い出は大切だから誰にも話したくないってことだよ!」
「あ! なるほど!」
……うん、もう勝手に想像しちゃって。本当のことが言えない以上は私にはどうしようもないし。
なんか、この人達ってヤンキーな見た目に反してピュアっぽいから騙してることが心苦しくなってきそう。
「はぁ……」
「姫さん?」
「な、なんでもないよ! えぇと、その……みんな政宗のことが好きなんだなって思って」
「もちろんっす!」
「筆頭は俺らの筆頭なんっす!」
「尊敬してます筆頭ー!!」
薄々感じてたことをごまかしついでに口にしたらみんなの表情がキラキラと輝きだして口々に叫び出した。中には腕を振り上げている人もいる。今まで以上の盛り上がりでみんながどれだけ政宗のことを尊敬してるのかが伝わってくる。
私の中の政宗像は、苛めとセクハラばかりしてくるコノヤロウな人だけど時々優しい人。尊敬とか憧れからは遠い。だから兵士さん達が知る政宗像が気になった。
「ねえ、良かったらみんなが知ってる政宗のことを教えてくれない?」
叫びが少し落ち着いた頃を見計らって聞くとみんな嬉しそうに政宗がいかにかっこよくて素晴らしくて尊敬に値する人間かをたくさん話してくれた。
「教えてくれてありがとう。あと、お水もありがとう」
そろそろ仕事に戻らないと、という兵士さん達にお礼を言って私もその場を離れた。
兵士さん達のおかげでせっかく涼めたのが無駄になりそうなほどまだまだ暑い中、政宗の住居スペース兼執務を行う建物へと戻り、ちょうど行き会った侍女さんに部屋まで連れて行ってもらおうと思ったけど、ふと思い立って政宗の元へ行くことに決めた。
「政宗、ちょっといい?」
「どうした」
ちょうど仕事が一段落したところだったみたいで、書類らしきものを持って出ていく小十郎さんと入れ違いに中へと入る。
「あのね、今兵士さん達と話して来たんだけど、」
「らしいな」
「知ってるの?」
「わざわざ成実が知らせに来た。お前が大勢の野郎を誘惑してた、ってな」
「誘惑って。政宗への熱烈な愛を聞いてただけだし」
誘惑なんか無理だろ、と言わんばかりに意地の悪い笑いを向けてくる政宗に返せば、政宗はなんとも言えない表情を浮かべた。意図してたわけじゃないけど反撃出来たみたいに思えてちょっと、というかだいぶ嬉しい。
「政宗のことを尊敬してるって意味だよ」
「だったら最初からそう言え」
「似たような意味じゃん」
「どこがだ」
今まで見たことのない政宗の表情が見れて思わず笑ってしまいそうになった。でも我慢。もし笑っちゃったら不機嫌になった政宗に反撃されるかもしれないもん。
「で? お前の用はそれを言いたかっただけなのか?」
「んー、用っていうか、みんなの話聞いて政宗の印象が変わったからなんとなく顔が見たくなって来ただけだよ」
「……どう変わった?」
「時々優しいけど基本的には苛めとセクハラが大好きのどうしようも無い変態野郎だ、と……い、今は違うからね!」
「今は、っつーことは前はそう思ってたってことか」
ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた政宗に早くも私の眼がちょっぴり潤みだす。調子にのって失言しちゃったよ! 私の馬鹿!
「逃げんじゃねえ!」
「嫌よ! 逃げるに決まってるじゃない!」
今出せる全速力で政宗から逃げる。すぐに捕まらないから政宗はわざと手加減してるって分かる。逃げる私を楽しんでるんだと分かってても捕まりたくないから走るのは止められない。
「追ってくるなぁーっ!」
「Ha! だったら逃げるのを止めることだ!」
「それは嫌だって言ってるじゃない!」
逃げる私に追う政宗。いつもの光景。すれ違う人達は微笑ましそうに見てるだけで助けてくれないのもいつもの光景。ほんっとこのお城の人達って変! なんでこの光景がイチャついてるように見えるわけ!?