06
夢小説設定
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「てぇい!」
「ぐっ!」
そんな展開誰も望んでない! ていうか私が望んでない! 望まない!
だから勢いよく頭を上げたらガツンと衝撃。狙い通り政宗の顎にクリーンヒット。イェーイ! ちょっと頭痛いけど私の勝ちー!
となるわけもなく。いや、顎には当てましたよ? でもね、至近距離に居る私を政宗が逃がすわけなかったんです。しかも顎に頭突きした私を。
「随分と可愛いことしてくれるじゃねえか」
顎を押さえていた手を離し、ゆらりと顔を上げて私を見下ろしてきた政宗が浮かべていた笑顔の怖さに顔が引きつる。
「あ、あはは。あ、顎が赤くなっちゃってるね」
「誰のせいだろうなぁ?」
「え、えーと、誰だろう? あ! はい、手ぬぐい。早く拭かないと風邪引いちゃうよ!」
「話をごまかすんじゃ、」
ちょ、なに? なんでそんな面白いこと考えついた悪魔みたいな笑顔浮かべるわけ!? 早めに謝っとけば良かった! 今からでも遅くない? 遅くないよね!? 間に合うよね!?
「ごめんましゃあっ! み、耳に息吹き掛けるなって何度言えば分か、る……」
う、うわ、なにこれ。結構近い距離で真正面から見ちゃった政宗は魅入るって表現がぴったりなくらい妖艶な笑みを浮かべてた。髪から滴る水がその妖艶さを引き立てちゃってる。
視線を下に逸らしても政宗は上着を脱いだままだから程好く鍛えられた均整の取れた体が眼に入って、その体を伝う雫にも変にドキドキしちゃってさらに動揺する。男なのにこんなに色気も艶っぽさもあるなんてどういうこと!? てか、か、顔が熱い。
「温めてくれ」
「へ? え?」
「お前の熱が欲しい」
「わ、わっ」
体重を掛けられて後ろに倒れる。でも政宗の手が頭を支えてくれたから痛みはない。ないんだけど、お、押し倒されちゃったんだけど!
こんな体勢じゃさっきのセリフがエロい方の意味に思えてしまう。体勢関係無くアッチの意味としか思えない言い方だったけど!
「美夜」
「ひゃっ」
立っていたら腰砕けになっちゃっていたかもと思うほどに色気のある、普段よりも低めの声で囁くように名前を呼ばれたと思ったら首筋に顔を埋められそこを舐められた。政宗の手が着物の合わせに入ってくる。
政宗の胸を押して離れようとしても手のひらに触れる濡れた肌の感触や体温にどぎまぎしてしまって慌てて手を離せばふっと政宗が笑ってさらに体を近付けてきた。私は着物を着てるのに政宗の体温が全身に伝わってくるような錯覚に陥ってしまう。
ど、どうしよう。このままじゃホントにヤられちゃいそうなんだけど! あ、そうだ! 成実さんか侍女さんに助けてもらえば、って手を振りながら去ってかないでぇっ!!
首筋を滑る唇の感触のくすぐったさと恥ずかしさに泣きそうになりながら二人を探して助けを求めようとしたのに侍女さんは静かに一礼して、成実さんは笑顔でひらひらと手を振ってどっかに行ってしまった。
侍女さんは女性だし立場上仕方ないとしても成実さんは別でしょ!? 男だし主を諫めるのも部下の役目じゃないの!? なのに笑顔で去るなんて成実さんの馬鹿! 後で覚えてなさいよ!
「どこを見てる」
「んっ」
首筋にピリッと小さな痛み。膝が割られ、その間に政宗の足が割り込んできた。捲れてしまった裾の間から入ってきた政宗の手の平が膝から上へと上ってくる。抵抗しようとした手は片手で簡単に頭上に纏められてしまう。心臓の音が煩くて息がうまくできなくて、開いた口からは掠れた声しか出てくれない。政宗の手が足の付け根近くまで上ってきて――。
◆ ◆ ◆
「居たぁーっ!」
「うわっ! びっくりしたぁ。美夜ちゃんかぁ」
のんびりと廊下を歩いていたところを発見して声を上げたら成実さんはビクッと肩を跳ねさせた後に出てもいない額の汗を拭う仕種をみせた。悪びれた様子が欠片も無いその姿にさらにイラッとする。
「美夜ちゃんかぁ、じゃないですよ! なんで助けずに逃げたんですか!」
「えー、だって梵の楽しみ奪ったら後で俺に被害がくるんだもーん。それに美夜ちゃんだって楽しかったでしょ?」
「楽しいわけあるかー!!」
にこにこ笑顔がムカついて、掴んだ襟をガックガクと容赦無く揺さぶってやった。
「美夜ちゃん落ち着いて! 俺が悪かったから! 楽しかった、じゃなくて気持ち良かった、の間違いだったよね!」
「それも違ぁーう!!」
「いったぁー!」
今度は足の甲に踵を振り下ろす。
「美夜ちゃん暴力的過ぎるよ!」
「うっさい! 逃げたばかりか私が政宗とヤッたみたいな言い方するあんたが悪い!」
「え? 梵とヤッたんじゃないの?」
「してません!!」
「首筋にそんな跡あるのに?」
バッと手を当てて隠す。思い出しただけで顔が熱くなるし政宗に対するイライラが再燃する。あの野郎キスマークなんか付けやがって! しかも隠せない場所に!!
「とにかく! ああいう時は私を助けてください!」
「えー」
「えーじゃないです! 小十郎さんを見習ってください!」
「もしかして途中で小十郎が来たの?」
頷く。なかなか戻ってこないし私と政宗が一緒に居るのに珍しく(珍しくって……)静かだからと様子を見に来てくれた。おかげで私は政宗に食われずにすんだ。
あれはヤるじゃなくて食うって表現の方がピッタリだった。だって本気で貞操の危機を感じたからね!
「梵は?」
「小十郎さんに説教されてます」
「うわぁー。それはまたご愁傷様だなー」
「ちなみに成実さんが助けてくれなかったこともしっかりと報告済みです」
「ゲッ! 美夜ちゃん鬼!!」
「知りませーん。助けてくれなかったのが悪いんでーす」
ガックリ項垂れる成実さんを見てちょっとだけ気分が収まった。政宗が説教されるのをちょっとだけ見たけど凄かったんだよね。小十郎さんが本物の鬼に見えたんだから。怒られていない私までビビッちゃったもん。あんなに怒った小十郎さん見たの初めて。あの小十郎さんを見たら悪ガキどころか不良でさえ絶対に即効で更正しちゃうね。
成実さんもみっちりがっつり叱られるがいいさ!!
続