08
夢小説設定
name changeここでの変換で本棚内、全ての小説で名前が任意の物に変わります。
偽名は『この蒼い空の下で』本編内でのみ使用します。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日も政宗に聞かれるままに私が居た世界のこと、というか物についてを話をして、その休憩中にずーっと気になっていたことを聞いた。
「ねえ、小十郎さんて毎朝どこに行ってんの?」
「畑だ」
「は?」
畑? 畑って、畑、だよね? 野菜を育ててる場所って意味の畑、だよね? 小十郎さんと畑って結び付かないんだけど。
「見回り?」
「何のだよ。畑に行く用事っつったら農作物の世話以外ねぇだろ」
「のーさくぶつって、えっと、や、野菜、とか?」
「他に何がある」
「そうだけどだって小十郎さんが畑にいるって想像つかないんだもん」
「気持ちは分かるよー。あの顔で野菜作りが趣味なんて誰も思わないしね」
「趣味なの!?」
いつの間にか政宗と一緒に話を聞くようになってた成実さんの方を見る。
「うん、趣味。畑を弄ってる時の小十郎はほんと楽しそうだよ」
「年々面積も広くなってるしな」
「確か今年は米作りにも手ぇ出したんじゃなかったっけ?」
一言で言って、信じられません。だって小十郎さんだよ? 実は気が利いて優しい一面もあるって知ってるけどぱっと見極道の幹部にしか見えない小十郎さんの趣味が、土弄り?
家庭菜園が趣味のばあちゃんが、野菜の世話する時の格好を思い出す。頭は手ぬぐいかつばの広い麦藁帽子。足は長靴。腕には袖が汚れないようにアームカバー。手には軍手と鍬。
思い出したばあちゃんの姿を小十郎さんに置き換えてみる。……に、似合わない! ていうか違和感の塊なんだけど!! むしろ小十郎さんが畑の世話をしてるんじゃなくて世話をしてる人達を監視してる、の方がしっくりくるんだけど!!
「連れて行ってやろうか?」
「えっ!? マジで!? 行く行く! 見てみたい!」
「梵ー、そんなことしていいの?」
「こいつが見たいって言ったんだから平気だろ」
「ん? 小十郎さんは畑に居る姿を見られたくないの?」
「そうじゃねえよ。とにかくお前は着替えてこい」
「なんで?」
「城外でその格好は目立つだろうが」
馬鹿かお前は、って目で見られた。そうですね! 確かにどこぞのお姫様みたいな高そうな着物は目立ちますね! でもそんな眼で見なくてもいいじゃん! セクハラする前に女の子に対する優しさってもんを身に付けやがれ!
侍女さんがどこからか調達してきた町娘っぽい豪奢じゃない着物に着替えて政宗が待つ場所に連れて行ってもらった。案内が無いと迷うのはお城が広すぎるせいで私が方向音痴なわけではありません! 自分の部屋から政宗の部屋とお風呂場とトイレには一人でも迷わずに行けるんだから! ―――言っててなんか寂しくなってきた……。
草履を履いて外に出て、着いたのは厩の近く。既に政宗(と、なぜか成実さんも居た)は外に出した馬の側に居た。
「おー、すごーい。本物の馬だ。意外におっきいんだね」
「美夜ちゃんて馬見たことないの!?」
「テレビでならあるけど生では初めて。触っていい?」
許可をもらって政宗が手綱を握ってる馬の首を撫でる。あったかい! 生き物だから当たり前か。
「怖くはねえか?」
「平気だよ。むしろ目がくりくりしてて結構可愛いね」
「なら乗せても平気だな」
「なんで?」
「馬ってのは繊細な生き物だからな、乗せる人間の感情を察するんだ」
「へぇ~、そうなんだ」
「それに賢い。お前よりもな」
「そうなんだ。……って、ちょっと! 私よりも賢いってなに!? いくらなんでも馬より馬鹿じゃないわよ!」
ビシッと馬を指差しながら政宗を睨む。と、目の端で馬が口を開けたのが見えて、
「ぎゃー! ちょっ! 噛んだ! この馬私の手を噛んだんだけど!!」
「自分より馬鹿な奴にお前の方が馬鹿だと言われりゃ怒るに決まってるだろ」
「事実言っただけじゃん! 人間と馬なら人間の方が痛い! ちょっ、この馬マジ噛みしてるんだけど! 痛いんだけど!」
「そろそろ離してやれ。それ以上銜えてると腹下すぞ」
「私の手はそんなに汚くないわよ!!」
どこまで失礼なのよ! ほんっとムカつく! 馬の涎(と歯型)の付いた手で政宗を平手打ちしようとしたら後ろから頭突きされた。
「ぷっふーっ! 馬にどつかれてるよ! そんな女の子見たの俺初めてだよ!」
「笑うなーっ!!」
腹を抱えて笑う成実さんと私を頭突いた愛馬を褒める政宗の両方に猛烈な怒りを感じた。お前らいつか覚えてろよ!!
なんだかんだありつつ政宗に抱き上げてもらって鞍に横向きに座ると移動を開始。隣を成実さんが操る馬が着いてくる。
馬上だと視線が高くなって見える景色が新鮮! なんだけど、意外にバランスが取りづらくて見てる余裕は直ぐに無くなった。政宗に言われた通りしっかり鞍を掴んでいてもお尻がずり落ちそうになる。
門をいくつか潜って城の外へ出た時にはもうすでに疲れてきてた。バランス取るって結構体力使うのね。小十郎さんの畑って遠いのかな? 近いといいなぁ。遠いならもう見るの諦めたくなってきた。
「美夜」
「なに?」
「もっとしっかり掴まってねえと落ちるぞ」
「え?」
「美夜ちゃん。馬の首でも梵でも、とにかくどこでも良いから死に物狂いでしがみついてた方が良いよ。梵の手綱裁きってかなり荒いから」
「は? それってどう…」
いう意味? と最後まで言い切る前に政宗は掛け声と同時に馬の腹を蹴った。グンと体が後ろに引かれてとうとう鞍からお尻がずり落ちた。政宗が支えてくれなかったら絶対に落馬していた。
「ちょっ! は、はや、早い! 早い、っ!」
「喋ってると舌噛むぞ!」
もう噛んだ後よ!! 痛む舌先に滲む涙。でもぐんぐんスピードが上がるから落ちないように体を支えてくれてる政宗の腕にしがみつくのでいっぱいいっぱい。政宗を睨んだりスピードを落としてと訴える余裕なんかミジンコほども無い。
今すぐに政宗の操る馬から下りられるなら大っ嫌いなジェットコースターにだって乗るよ! 連続で乗っちゃうよ! だってあっちは安全バーがあるだもん! だから誰か政宗を止めてぇーっ!!
◆ ◆ ◆
「政宗様!? 美夜を連れていったいどうなされたのですか?」
「こいつがお前の畑を見たいっつったから連れて来た」
「そうでしたか。美夜、見たいなら俺に言え。政宗様の馬に乗るなど無謀が過ぎる」
そういうことはもっと早く言ってください! そしたら私だってこんな地獄への直行便みたいな馬には乗らなかったですよ!
グロッキー状態で声に出すと胃の中の物が全てリバースしてきそうだったから心の中で訴えるだけ。城から畑までは実際にはそんなに離れてなかった、と思うけど、政宗のせいで一、二時間くらい掛かったように錯覚しちゃいそう。
「成実もなぜ政宗様をお止めしなかった。お前の馬に乗せて来れば良かっただろうが」
「いやー、ついうっかり失念しちゃってて」
なにが失念よ! へらへら笑いやがって! 代わりに乗せてくみたいなことひとっ言も言わなかったじゃない!! アドバイスよりもそっちを言ってほしかったわよ!!
小十郎さんに抱えられて馬から下ろしてもらいながら成実さんを睨んだら眼を逸らしやがった。城でのことと合わせて絶対に仕返ししてやる!!
木陰に下ろされて、小十郎さんが濡らしてきてくれた手拭いを目元に当てて横になる。政宗と小十郎さんは畑の方へ行って何か話してるのか微かに声が聞こえてくる。側には成実さんがいるだけ。
「ぅえ」
「大丈夫?」
「うっさい黙れバカ」
「酷いなぁ。ちょーっとうっかりして梵の馬に乗せたままにしちゃっただけじゃん」
「何がうっかりよ。あんたはうっかり八兵衛か」
「誰それ」
「うっかりしまくる八兵衛さんよ」
「よく分かんねえけどとりあえず俺はうっかりしまくったりしないから」
「うっかり成実さん」
「だから違うって。そんなマヌケなあだ名はやめてよー」
べっ! と舌を出して起き上がる。うん、だいぶマシになってきた。まだちょっと気持ち悪いけどリバースしそうなほどじゃない。濡らした冷たい手拭いと近くを流れる小川からの涼風のおかげだ。
小十郎さんと政宗は離れた位置で実った野菜を指差したりしながらまだお話中。そして気になってた小十郎さんの姿は普段と違って動きやそうな格好で、頭には手拭いを巻いて邪魔にならないように袖を折って捲っていた。そして側には鍬が置いてある。
想像した時は似合わないと思ったけど、実際に見てみたらなんていうのかな。しっくりくる、かも? 畑に居慣れてるというか、違和感が全然無い。
「ほんとに野菜作りが趣味なんだ」
「やっと信じた?」
「一応。ねえ、小十郎さんが一人で世話してるの?」
「まさか。さすがに小十郎だけじゃ無理だから近くの農村から人手を雇ってるみたいだよ。戦の時なんかは世話出来ないしね」
「そんなに広いの?」
「あそこと向こうに細い道があるの分かる?」
成実さんの指が私達のちょうど正面の少し遠くにある細い道と、右手の方にある森へと続く道、と言うより歩きやすいように草を刈っただけの場所を指差した。小十郎さんの畑は緩い斜面になってるからよく見えたから頷く。
「小十郎の畑はこの小川と森とあの二つの細い道に挟まれた土地全てなんだよ」
成実さんの指が、すぐ側を流れる小川と、私達が座ってる場所のすぐ背後の森、そして最初に言った二つの道を順に指差した。
広さは校庭一つ分…二つ分まではないかな。でも農作業用の機械も無いのに一人で世話するには広すぎるよね、これ。てかもう趣味の域越えてない? 農家って言ってもいいんじゃないの? 小十郎さん、その姿からは予想も付かない趣味をお持ちなんですね。びっくり過ぎてびっくり顔にもならないよ。
「ちなみに小十郎の作った野菜は絶品でね、基本的には城内の人間か雇ってる村人くらいしか食べることが出来ないから幻の野菜なんて言われてるんだよ」
「幻!?」
小十郎さんってどこまで野菜作りの腕前を極めてるわけ!!?
続