05
夢小説設定
name changeここでの変換で本棚内、全ての小説で名前が任意の物に変わります。
偽名は『この蒼い空の下で』本編内でのみ使用します。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『イジメ反対!』とか『イジメを無くそう!』ってスローガンを書いた紙をあちこちに貼ったら政宗も大人しくなるだろうか。無理か。あいつなら紙を見ても鼻で笑うか無視する気がする。あれを読め! とか言ってもだからなんだと返してきそうだ。そんなことを考えてる私は今物置っぽいところに隠れてます。なぜかと言うと政宗からのセクハラから逃げるためです。
戦国時代に似たこの世界に来て早いものでもう一週間が経った。けど、帰る方法はまだ見つかってない、らしい。
『らしい』なのは私自身は何もしていないから。三日目にふと思い付いて政宗にお願いして私を見付けたのと同じ時間に同じ場所に連れていってもらった他は何もしていない。それだって行って何も起こらないことを確かめて終わり。後は政宗に任せっきりだ。
自分のことなのにそれってどうよと思って政宗に私にも何か手伝えることはないか聞いたけど、忍に命じているから手は足りていると言われてしまった。遠回しに私に出来ることは無いって言われたんだと思う。
正直ちょっと、落ち込んだ。でも実際城の外へ探しに行ったとて何処へ行って何をどう調べればいいのか何一つ分からないのだから確かに私に出来ることは無いのだろう。
だからと言ってご飯も着るものも寝る場所にも困らなくて、帰る方法を探すのも人任せというのもなんだか申し訳無い。それにぶっちゃけるとやることなくて暇っていうのもあったから、政宗に何か私にも出来ることは無いか相談した。
だったらと政宗は私の分かる範囲内で話せると思うことだけで良いから未来のことを話せと言ってきた。帰るための方法のヒントがあるかもしれないからかなと思ったけど違って、政宗は純粋に未来がどんな世界なのか知りたいみたいだった。
私の分かる範囲内でとか、話せることだけと言ってくれたのも、たとえ世界が違っても歴史を変えてしまうのではと私が恐れることのないようにという配慮だったのに気付いたのは少し後。
政宗が聞いてくるのがスマホだったりICカードだったりといった物に関することばかりで、何が起きて誰がどうなったとか歴史に深く関係することは一切聞いてこないことに気付いた時。
意地悪なのか優しいのかどっちなんだと思いながらも、朝食後と政宗の時間が空いた時に政宗の部屋に行って私が居た世界の話をするのが日課になっていった。
だけど、毎回なぜか気付くと政宗と言い合いみたいなことになってセクハラされている。それが流れみたいなものになってしまっているせいでもう何度小十郎さんに怒られたことか。悪いのは政宗だけだと思うのに。
セクハラよりも小十郎さんに怒られたくないから(だって物凄く怖いんだもん!)色々考えて思い付いた案、聞きたいならセクハラするなと言ってみた、けど、悲しい程に効果が無かった。
「止めてほしかったら大人しく話せ」って胸やら足やらを触りながら勝ち誇ってて尚且つ私をからかうことを楽しんでるドSの笑みを浮かべながら言いやがった。妙案だと思ったのに! バーカ!
だから次の日は離れた場所から同じことを言ってすぐに走って逃げたけど、数メートル走っただけであっさりさくっと捕まって……。あの時は本気でヤられると思った。というか、初は奪われなかったけど何かを失った気分になった。ここがもし現代だったら訴えたら絶対に勝てるって自信がある。
その後も押してだめなら引いてみろ作戦でセクハラを我慢して反応しなかったら諦めるだろうと思って反応しないように頑張ってみたら私が大人しくしてるをいいことに調子に乗って着物の合わせから手を入れてきた。それだけでもムカつくのに奴はさらに胸を直に掴みやがった! 小さいとか余計なお世話だバーカ!
ならばと侍女さんに紙と筆を用意してもらって政宗が聞きたがってることを書いて渡したら「字が汚すぎて読めねえ」とか言いやがった。習字なんか小学生の時以来なんだから仕方ないじゃん!
おまけに書き方を教えてやるとか言ってさりげなく腰触ったり首や耳に息吹き掛けてきたせいで私が超が付くほど耳が弱いことまで知られてしまった。
思い出しただけでなんか耳がぞわぞわしてきた。政宗め!
その後もあれこれと無い知恵絞って考えたけど、何一つ効果は無くて結局最後は政宗にセクハラされてしまう。かといってセクハラなんかに慣れるわけないし慣れたくもない。ってことで今日新たな作戦を考えたわけです。
いつも政宗付きの侍女さんが案内してくれるんだけど(お城の中って広いのよねー)、今日は道を覚えたから一人で行きますと行って侍女さんが居なくなった後に誰にも見つからないよう気をつけながら政宗の部屋とは逆方向に行って隠れられそうな場所を探した。
で、見つけたのが物置らしきこの部屋。大小様々な箱が積み上げられてるおかげで薄暗いけど隠れるにはうってつけ。押しても引いても捻ってもセクハラされるとなればもう隠れるしか策は無いと思う。逃げるみたいでなんか悔しいけどここは我慢だ。
昼までには小十郎さんが帰ってくる。そしたら政宗も多少は大人しくなるからそれまでここに隠れてよう。
小十郎さんは怒るとすっごく怖い。だからなのか政宗は小十郎さんが居るとセクハラを控えるくれるのだ。控えるより止めてくれると嬉しいんだけど。
とにかく小十郎さんが居るのと居ないのとでは大違い。怒ってなくても怖いけど小十郎さんにはずっと側に居て欲しい。でもなぜか毎朝居ない。機会があったらどこに何をしに行ってるのか聞いてみよう。もし行かなくても良いような用事ならずっと政宗を見張っててくださいってお願いしてみようかな。
「ふぁ」
欠伸が出た。なにもせずにただ隠れてるのがこんなに暇だなんて。うっかりすると寝ちゃいそうだ。何か暇潰しになるようなものを持ち込めば良かったかも。でも暇潰しになるものなんて何も無いしなぁ。
これが元の世界に居た頃ならネットを見たり音楽聞いたりアプリで遊んだりしてたけど、今はそのどれも出来ない。落としたわけでもないのにスマホが壊れてしまっていたのだ。
戦国時代に似た世界だから、ネットに繋ぐ必要のあるものは使えないことは最初から分かってた。それに充電も出来ないから音楽を聞いたりするのも控えた方が良いと思って、スマホは時間の確認くらいにしか使えないなーと思ってたのに肝心のその時計がダメになっていた。
夜に見ても朝に見ても夕方の時間を示したまま、ちっとも変わらない。電源を入れ直してみても無駄で、設定から何とか出来ないかなと試してみたけど無理だった。手入力でと思ったのに、どれだけ数字を動かしても指を離すと元に戻ってしまうのだ。何度試してもダメだった。
時計としても使えないんじゃただの板同然じゃん! って落ち込みかけたけど、そこでバッテリーが全然減ってないことに気が付いた。
バッテリーが減らない故障って意味分かんないけど、減らないなら音楽だけでも聞き放題じゃん! と思ってちょっとだけ、と聞こうとしたんだけどそこに偶然政宗が来て、何をしようとしてたのか聞かれて素直に答えたら止めておけって止められた。
私の素性も事情も知っているのは帰る方法を探してもらっている忍の人を除けば政宗と小十郎さんだけ。ほとんどの人は知らないのだから、この時代に存在しないものを見られたり聞かれたりした時にどんな反応があるのか分からないから、リスクは侵すなって。
この時ばかりは自分のことしか考えていなかったことに反省した。政宗が私が来ていた服や靴、鞄とかを入れるために用意してくれた箱が鍵付きだった理由も、この時まで考えようともしてなかった。
当事者の私こそがもっと考えて気を付けなきゃいけないのに。
もしかして、私があまりにバカだから、だから政宗にからかわれるのかな?
積み上げられた箱と壁の間に座って落ち込んでいたら微かに話し声が聞こえた。慌てて更に奥に隠れて膝を抱え体を小さくする。
私自身にからかわれる理由があったとしても、だからってやっぱりセクハラは嫌だしダメ。ドSな政宗のことだ。隠れているところを見つかったら隠れていたことに対して理不尽なことを言ってイジメテくるかもしれない。どうか話し声の主が政宗じゃありませんように!
お願いお願いと心の中で祈っていると襖が開く音がして誰かが入ってきた。でも聞こえてきた二人分の声はどちらも女性のもの。政宗じゃなかった。ホッとしつつも見つかってここに居る理由とか聞かれたら困ることに変わりは無いからそのまま静かにしていると二人は探し物が見つかったのか出ていった。
「ふぅ」
知らず詰めていた息を吐く。なんか警察から逃げる犯人の気分だ。
その後も部屋の前を何人かの人が通っていく足音がしたけど中にまで入ってくる人は居なかった。
そろそろお昼かな? 小十郎さん帰ってきてるかな?
お腹が空いてきたからお昼頃のはず。政宗も諦めて仕事に戻っているかもしれない。念のため、と耳を澄ませて足音がしないことを確認。……よし、大丈夫だ。
出ていって小十郎さんが居るか、政宗が何をしているのか確認して、まだ危なそうだったらここに戻って隠れよう。そう思って箱から背中を離して立ち上がろうとした瞬間だった。足音も襖が開く音もしなかったのにいきなり誰かに強い力で手首を掴まれたかと思うと引き摺り出され、驚く間もなく今度は首を掴まれ床に倒された。床に打ち付けた頬と掴まれた首が痛むけど、圧迫された喉からは掠れた声しか出ない。苦しさに目の前が霞む。
「っ、ぁ」
「あれ? 君って確か……美夜ちゃん、だっけ?」
聞き覚えの無い男の人の声。私だと認識したからか、首の圧迫が無くなった。手も離してくれて、やっとまともに息が吸えるようになる。身を丸めて咳込んでいたら、知らない男の人が私の背中を撫でながら謝ってきた。
「ごめんねー。まさか美夜ちゃんだとは思わなかったからさぁ」
本気で悪いとは思っていない、軽い口調。でも、掴まれた手首や首に残る痛みが反論する気力を全て奪う。
どうして、なんで、あんな。
そこまで思って、ああここは戦国時代だったと思い出した。多分、この人は私を侵入者と間違えたんだ。お城の中で、しかも人目を忍んでこんな場所に隠れてるなんていかにも怪しい。不審者を捕らえて尋問、とか時代劇でも定番のシーンだ。
だからさっきのこの人の行動は、この人の中では普通の行動だったんだろう。もう少し力を込められていたら窒息していたか首の骨を折られていたかもしれない。そんなことを躊躇いなく行ってしまえるのが普通の、この世界。
なかなか引かない痛みが恐怖を倍増させた。
早く、帰りたい。
涙が出そうになった。