24
夢小説設定
name changeここでの変換で本棚内、全ての小説で名前が任意の物に変わります。
偽名は『この蒼い空の下で』本編内でのみ使用します。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「美夜ちゃーん?」
目の前で手を振られてハッとなる。またぼぉっとしちゃってたみたい。
「今日も元気ないね。またなんか悩み事?」
聞くよ? と言ってくれた太一さんに大丈夫ですと答えて栗が茹で上がるのを待つ。
前と違って今回は話せない。太一さんは前のように深く追求してくることはなくて、何気ない話題で話し掛けてくれる。
でも、こうやって呑気にお喋りしたりお菓子を作ったりしていてもいいのかなって思う。ずっと罪悪感のようなものがある。
『今日明日にでも戦火が開かれるでしょう』
城下に行くことを伝えに行った時に綱元さんが教えてくれた。私がこの世界のことを学んでいきたいと言ったから、隠さずに伝えることにしたのだとも教えてくれた。
聞いた時、城下に行くのをやめようかとも思った。でも、やめたからって私に何か出来ることがあるわけじゃない。それに太一さんとの約束をすっぽかすわけにもいかなかった。
だけど、太一さんに気を使わせてしまうくらいなら仮病でも使えばよかったかもと思う。どのみち約束は数日中にというもので今日と決まっていたわけじゃない。
政宗が、伊達軍が勝ったって知らせを聞いてから改めて太一さんを訪ねて、ちょっと用事があって、とか何とか言って……。嘘をついちゃうことになるけど気を使わせてしまうよりはマシな気がする。今更なんだけど。
「ねぇ、それよく触ってるけど、中に何が入ってるの?」
指摘されて気付く。いつの間にかお守り袋を握っていた。最近多い。癖になっているのかも。神仏の加護があるらしいからって祈っても叶うかなんて分からないのに。
「石です。これ、お守りなんです」
袋から布の塊を取り出し、見えやすいように手の平の上に広げる。
「随分大切にしてるんだね。誰かから貰ったものとか?」
「どうなんだろ。いつから持ってたのか覚えてないんです」
「物心つくまえから持ってたってこと?」
「多分。あっ!」
太一さんが石に触ろうとしたから慌てて布ごと石を握り締めて隠す。触ってない、よね?
「ごめん。お守りなんだから勝手に触ったらダメだったね」
「すみません」
太一さんの様子を見る限り、どうやら触ってはいないらしい。良かった。一時的にでも渡すことは政宗の時と違ってかなり躊躇う、というかなぜか絶対に嫌って思うけど、触るぐらいならまだ平気。
だけど政宗や成実さんが言うにはこの石に触ると痺れるらしいから、気味悪がられたりしないためにも触られるのは避けた方が良いはずだ。
石を布で包んで袋に戻しながら、どうしようと思う。少し空気が悪くなっちゃった気がする。なんだかちょっと気まずい。
「そろそろ茹で上がったかな」
太一さんが立ち上がって鍋の様子を見に行った。そしてちょうどいいみたいだよと栗をザルに移して持ってきた。
「次は中身をくり抜くんだよね? なら団扇使って触れるくらいまで冷まそっか」
「あ、はい」
何も無かったかのように話し掛けてくれて、やっぱり太一さんて優しいなって思った。
◆ ◆ ◆
「今日はわざわざありがとね」
「いえ、こちらこそお土産まで貰っちゃって」
作った栗きんとんの入った包みを見る。せっかく作ったんだからと分けてくれたのだ。
「気にしないで。教えてもらったお礼みたいなものだから」
気をつけてねと太一さんに見送られて帰り道を急ぐ。まだ明るいけど、この時期の日暮れは早い。それに綱元さんからも日暮れ前には必ず戻るようきつく言われている。
そういえば、今日の綱元さんは変だった。前に城下へ行くことを伝えた時にも日暮れ前に戻るように言われたけど、今日は特に念を押された。それに城下に行くことを伝えた最初は渋っているみたいだった。結局はこうして許可してくれたけど。
そんなことを考えながら歩いていたら、前方の横道から見覚えのある人が歩いてきた。今日はお仕着せではなく私服らしい着物姿で印象が違ったから直ぐには分からなかったけど、侍女の楓さんだ。向こうも私に気付いたらしく足を止めた。
「今からお帰りですか?」
「うん。楓さんも?」
「はい。ご一緒しても構いませんか?」
「もちろん」
楓さんと並んで歩く。知り合いに会ってきた帰りなのだと言う。楓さんは物静かな人で、自分からはあまり喋らない。最初の頃は正直少し苦手だった。
でも話し掛けるとちゃんと答えてくれるし最近は楓さんからも少しだけど話し掛けてくれるようになったから、苦手意識はもうあまり無い。それなりに弾んだ会話を交わしながら二人並んでお城への道を歩く。
「美夜様、こちらへ」
「え?」
この先の角を曲がって少し歩けば大通りに出るという所まで来た時、突然楓さんが私の手を掴んで横道に逸れた。歩く速度も上げた楓さんの横顔は緊迫したものだ。
「楓さん、どうしたんですか?」
「美夜様、もしもの時はこちらを強く吹いてください」
質問には答えてもらえず、変わりに小指ほどの大きさの笛を渡された。特殊な作りをしていて普通の笛よりも遠くまで響くため、緊急時に使うものなのだという。なんで楓さんがこんなものを持っているのか、どうしてそれを渡されるのか。ますます訳が分からない。
楓さんが再び私の手を引いて歩き出そうとした。けれど直ぐに止まって別の横道に入っていく。横道に入る寸前に、進もうとしていた道から柄に手を添え私達の方へと走ってくる二人の男の姿が見えた。
男の一人と眼が合う。その瞬間、喉が詰まるほどの圧迫感を感じた。前にも感じたことがある。あれは……そうだ。成実さんに初めて会った時にも感じたもの。
それが殺気と呼ばれるものだと知ることもなく、楓さんの歩く速度がさらに上がった。もう歩くというより走っている。
背後でギィンと金属同士がぶつかる音がした。お急ぎ下さいと楓さんに促されて一瞬しか振り向けなかったけど、体にぴったりと合った動きやすい黒一色の衣服を来た、忍者と言えばこれ、という格好の人が私達に向かってきていた侍風の男二人に応戦しているのが見えた。
「か、楓さん!」
「話は後です。今は走ってください!」
「楓、こっちだ!」
前方からどことなく楓さんに似た顔立ちの、応戦した人と同じ忍者みたいな格好の男の人が現れて一つの道を示した。楓さんは迷わずその道に進んでいく。男性の横を通り過ぎる時、我等にお任せくださいと言う声が聞こえた。その男性も別の道から現れた抜き身の刀を持った男に対峙する。
いったい何が起こってるの? 狙われてるのは私なの? でもなんで? なんで私が狙われなきゃいけないの?
「あっ!」
足がもつれて転んでしまった。走りにくい着物だったのと、元々体力が無いせいで苦しいほどに息が上がっている。足もガクガクと震えて中々立ち上がれない。呑気に倒れてる場合じゃないのに!
「少し、休みましょう」
「ご、ごめ…なさぃ」
ぜぇぜぇと荒い息の中、なんとか謝罪の言葉を口にする。私、足手纏いになってる。狙われてるのは私らしいのに。早く逃げなくちゃいけないのに。