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「もうちょっと寄せて………出来た! 私の胸に谷間が出来た! ……少しだけだけど。でもこれなら政宗だって小さいって言わないはず!」
「この程度ならまだまだだな」
「へ?」
ガッツポーズしそうになるくらい喜んでいたら独り言のはずの言葉に答える声があった。あれ? なんで?
「だいたいそれ、手ぇ離しゃ無くなるじゃねえか」
「ぎゃっ!」
いつの間にか上から覗き込んで見ていた政宗にびっくりして背中や胸の周りから寄せて集めたお肉を押さえてた手でそのまま胸を隠しながら距離を取った。
「いつから居たの!? ていうか入る時に声くらい掛けてよ!!」
「何度もしたのに返事しなかったのはお前だろ」
「え、そうなの? それは、えと、ごめん」
気付かなかったのは確かに悪い。悪いんだけどだからと言って上半身裸になってちょっとでも胸が大きくならないかと脇とか背中からお肉を寄せて集めてた姿を見られたことは恥ずかしい。猛烈に恥ずかしい! ただ胸を見られるよりも政宗が言った通り手を離せばすぐに元通りになっちゃう虚しいことをしてた自覚がある分余計に恥ずかしい。
「で? なんでンなくだらねぇことやってたんだよ」
「くだらないって何よ! あんたが人の胸触っときながら小さいって言うからじゃない!」
「俺のためにでかくしようとしてたのか」
「そんなこと誰も言ってないでしょ! この自意識過剰男!」
「違うっつーなら大きさにこだわる必要はねえだろ」
「それは……。わ、私だって小さいのが嫌なのよ!」
「別に小さくても良いだろ」
「はぁ? 普段あんなに小さい小さい言うくせにどういう意味よ」
「小せえ方が育てる楽しみが出来るじゃねえか」
「んなっ!」
育てる楽しみだと!? それってつまりあれのこと!? 揉んで大きくする楽しみってこと!? なんて奴だ!
「なんで私があんたにそんな楽しみを与えなくちゃいけないのよ!」
「俺がいつお前のことだと言った?」
意地の悪い笑みを浮かべながらながら言われてムカつくし悔しい。確かに私の胸を、とは言ってなかったわよ! でも話の流れからそう思っちゃうのは仕方ないじゃない!! ちくしょう! 政宗に口で勝ってみたい! 参りました、って言わせてみたい!
「わ、私に何の用? 何かあるから来たんでしょ?」
政宗の意地の悪い笑い方がムカつくからさっさと追い出したくてかなり強引に話題を逸らした。だけど珍しく政宗は私をからかい続けることはしてこなくて、代わりに入口近くに置いてあったお皿を持ち上げた。
「食うか?」
お皿の上にあるのは長方形をした上部が焦げ茶色で他は濃い黄色をしたスポンジ状のもの。
「もしかしてカステラ? 食べる食べる!」
手を伸ばし一つ取ってパクリ。美味しい!
「買ってきたの?」
「作ったんだよ」
「政宗が?」
「Yes」
また一口食べる。しっとりした生地は上品な甘さでいくつでも食べられそう。買ってきたものだと言われても絶対に疑わないと思う。
「政宗ってお菓子作りも上手なんだ」
さすがにこれだけ美味しいと嫉妬する気すら起きない。
「Thanx. が、sweetはほとんど作らねえからな、上手くできたのはたまたまだ」
「そうなの?」
「sweetが好きなやつが周りにほとんど居ねえんだよ。作っても食う奴が居なきゃ意味がねえ」
「じゃあなんで今日は作ったの?」
「……そういう気分だっただけだ」
「ふぅん?」
少し間があったし眼を逸らしたようにも感じてどういう気分なのか気になった。だけど下手に追及してからかいが復活したら嫌だから気にしないことにした。
「もう一個食べていい?」
「好きなだけ食って構わねえが、食い気を優先させるのは女としてどうかと思うぜ?」
「え? あっ!」
まだ服着てなかった。うぅ、私の馬鹿! なんでこう政宗にからかわれるようなことばっかりしちゃうのよ。からかわれないようにしようと思ったばかりなのに。立てた膝にごつんと額をぶつける。情けなさ過ぎる。
落ち込んだまま辺りを見回す。服は政宗の側にあった。交差させた両腕で胸元を隠したまま膝立ちで服を取りに行く。と、腰をさらわれて政宗に後ろから抱きしめられて膝に座らされた。
「ちょっと! なにすんのよ!」
「せっかくお前から脱いだってのにすぐ着ちまうなんざ勿体ねえだろ」
「あんたのために脱いだわけじゃないし! だいたい小さくて物足りないとか言うくせに勿体無いってなによ!」
「それとこれとは別なんだよ」
「意味分かんむぐ」
カステラを突っ込まれた。くそぅ、ムカつくけど美味い。カステラに免じて今だけは許してあげようじゃないの。にしても本当に美味しい。またそのうち作ってくれないかな。
「美夜、ちょっと聞きてぇことがあるんだが、いいか?」
「なぁに?」
カステラを食べるのを中断して見上げたら、食いながらで良いとまたカステラを突っ込まれた。
むぐむぐ食べるけど、なかなか政宗は話し出さない。どうしたんだろと見上げたら、どう切り出せばいいか迷ってるみたいだった。
「何が聞きたいの? 私の世界のこと? でもあらかた話したから新しい話なんて…」
「そうじゃねぇ」
政宗は何度か言い淀む。政宗らしくない。ほんとにどうしたんだろ? 待っていると、政宗は一つ息を吐くことで心が決まったのか、ようやく話を切り出した。
「美夜、お前のFamilyのことを聞いてもいいか?」
「良いけど…」
「Thank. お前から一度もFamilyのことを聞いたことがなかったからな、聞いていいものか迷った」
わー、政宗が迷うなんて。ちょっと以外かも。でも、今なら仕方ないのかなって思う。昨日のことは、思い出せば今でも腹が立つ。
いつの間にかいつもみたいに喧嘩になってたからか、昨日のことはお互い意識してはいないけど、でも忘れてはいないし忘れることなんか出来るわけない。
政宗が急に私の家族のことを聞いてきたのも、きっと昨日のことがきっかけなんだろうなって思う。
「私はね、母方のじいちゃんとばあちゃんと暮らしてて………あ、あれ?」
「どうした」
「なんか、変、なの。途切れるって言うか、続かないって言うか……」
「記憶がか?」
「ううん。記憶はちゃんと思い出せるの。でも思い出せるのは記憶だけなの」
「? どういうことだ」
「私はね、じいちゃんとばあちゃんと三人で暮らしてたの。両親は私がまだ赤ちゃんの頃に離婚しちゃったし、お母さんは子供の頃に事故で死んじゃったから。それからはじいちゃんとばあちゃんが私を育ててくれて、寂しくないようにっていろんな所に連れてってくれたりたくさん遊んでくれたの」
「お前のことを大切に育ててきてくれたんだな」
「うん。自慢のじいちゃんとばあちゃんだよ」
「だが、それのどこが変なんだ」
「私が今話したのって私の記憶でしょ? お母さんがいなくなっちゃった時は辛くて悲しくて寂しかったとか、じいちゃん達がずっと側に居てくれて嬉しかったとか、そういう思い出に残る感情が長く続かないの。あの時こう思った、って思い出した途端にその感情を忘れちゃう……ううん、忘れるっていうより自分のことじゃなくて、えーと、客観的? な認識に変わっちゃうの」
じいちゃんとばあちゃんが大好き。と思った瞬間にはまるで誰かがそう言ったのを聞いたみたいに『じいちゃんとばあちゃんが大好きなのね』という他人の感想みたいな形に変わってしまうのだ。しかも変わってしまうのは思い出に伴う感情だけじゃなくて、今現在浮かぶ感情もだった。
思い出してみればこの世界に来てから帰りたい、じいちゃん達に早く会いたいって気持ちになったことがほとんどない。なってもすぐにその感情は薄れて、そして消えてしまう。消えてしまうと思ったことすら忘れてしまう。その繰り返しだった気がする。
他の感情、元の世界に居る家族や友達に対してのもの以外はそんなことにはならない。政宗に意地悪されれば恥ずかしいとかムカつくとか、政宗に襲われる私を助けない成実さんに腹を立てたりとかこの世界の人に対しての感情には特に何も起こらない。
元の世界の親しい人達が関係する時だけ、感情がすぐに分からなくなってしまう。薄情な人間、ではないと思う。それに前はこんな風になることは無かった。
今までは特に気にしていなかったけど、一晩で怪我が治ってしまうことと、何か関係があるのかな?
私に、いったい何が起きてるの?
怖くて、不安で、無意識に縋るように政宗の手を掴む。
「心配すんな。きっとhomesicknessになったりして気持ちが沈んで二度と帰れないとか後ろ向きな思考に陥らないように無意識のうちに精神を守ろうとしてそうなってるだけだ」
「そう、なのかな」
「ああ」
両腕で強く抱き締められた。力強い腕と政宗の温もりが、不思議と不安を和らげていく。政宗はよく煙管を吸うからか、袖からその匂いが微かにした。煙草の匂いは大嫌いなはずのに、なぜか安らぐ。政宗が纏う匂いだから?
「なんで…」
「どうした」
「な、なんでもない」
なぜか頬が熱くなってきて、体に回された腕にぎゅっとしがみついて顔を伏せる。袖に染み付いた煙管の匂いをさっきよりも少し強く感じた。それでもやっぱり臭いとは思わない。
さっきまでの恐怖や不安が嘘みたいに消えていく。変わりにドキドキしてきて落ち着かない。けど、もう少しこのままで居たいと思ってしまうくらい落ち着く。
矛盾してると思う。でもこれが今の正直な気持ち。こんな風に思うのなんて初めてで、なんでそうなるのかが分からない。
そっと政宗に体重を預けてみた。背中から、腕から、政宗の体温を感じてますますドキドキしてくる。
きっと服を着てないからだ。それだけなんだと言い聞かせても、落ち着かないのに落ち着くという矛盾した感情に変化は起こらないし、ドキドキも治まってくれなかった。
◆ ◆ ◆
体に掛かる重みが僅かに増した。どうやら寝ちまったらしい。半裸のままだってのに。最近は陽が傾けば涼しくなってくる。通り掛かった侍女に袿を持ってこさせ美夜の体を包んだ。
元々baby faceだが、寝顔はさらに幼く見える。痩せちまったせいで細かった体はますます細くなり、本人は喜んでいたが俺からすれば細過ぎて心配でならない。
少し力を込めただけで折れてしまうんじゃないかとさえ思う。カステラを気に入っていたようだし、これからは頻繁にsweetを作って食べさせるか。多少体に肉を付けさせねぇと安心出来ねぇ。
「ん……」
起きたかと思ったが、寝心地の良いpositionを探して身動いだだけだったらしい。ずれて肩が見えている袿を掛け直し、壁に背を預ける。
美夜の世界のことじゃなく、美夜自身のことを聞くために滅多に作らねぇsweetを作ってまで会う口実を作った。そこまでして美夜のことを知りたがる自分に対する戸惑いはなかなか消えない。なぜそんなに知りたいのかも解らない。
それに、なんで美夜を抱きしめているだけでこんなに落ち着くのか。細くなった美夜の体に触れていると、こんなに痩せ過ぎて大丈夫なのかと心配になる。が、同時に落ち着きもする。香とは違ったどこか甘く感じる匂いにも安らぎを覚える。
美夜が無防備に寝ていいのは俺の前でだけだ。寝顔を晒していいのも俺にだけ。
そんな思いが無意識に浮かんだ。
「Ha…何考えてんだ、俺は」
独占欲丸出しじゃねえか。女一人に何考えてんだ。頭を一つ振って思考を切り替える。今考えることはもっと別のことだ。
思いがけず判明した美夜の感情の異変。深夜に美夜の体に起こる異変と何か関係があるのだろうか。
だが、調べようにも情報がなさすぎる。少数の忍にのみ美夜の正体を話し、情報収集のために各地に飛ばしている。が、異なる世界を渡るなどという夢物語のような現象に関する有益な情報は全く入って来ない。この様子では今後も期待は出来ないだろう。
やはり、全ての事柄を解決に導くには美夜の失われた記憶が必要、ということか。だが、無理に思い出させて美夜の身に負担をかけさせたくはない。美夜の身に負担のかからねぇ方法はあればいいが……。
続