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寝ている間に忘れていますようにと祈ったけどやっぱり効果は無くて、寝乱れた自分の格好が昨夜の格好と重なって朝っぱらから猛烈な恥ずかしさに襲われた。着替えを済ませても恥ずかしさが収まる気配が無い。
『まさむねさま。美夜を、可愛がってくださいませ』
「~~っ!」
忘れろ忘れろと念じても思い出してしまう恥ずかし過ぎる台詞に床に突っ伏して足をバタバタさせる。酔ってたからってなんで綱元さんに言われた通りにあんなこと言っちゃっだ! あんな格好であんなこと言ったらエロい方の可愛がってって意味みたいじゃん!! みたい、じゃないだろうけど!
そうじゃなきゃわざわざあんな風に言わせようとしないもん! 綱元さんは危険だ! セクハラ魔神の政宗とは違う意味で危険過ぎる! 見た目に騙されたら大変なことになる!
「……でも、初めて色気のある姿になれたのは綱元さんのおかげなんだよね」
成実さんや政宗だけじゃなくて小十郎さんまで驚いていた。あれはちょっと、というかだいぶ嬉しかった。いっつもガキっぽいとか女らしさが無いって言われるから余計に嬉しかった。
『勿体ねー! それ据え膳だよ! 据え膳!』
「違ーう! 据え膳じゃない! あれは、あれは……とにかく据え膳違う!」
『そんなに喰われたいのか?』
「喰われたくない! そんなこと全然思ってない!」
良い気分に浸たれのも束の間、芋づる式にその後のことまで思い出しちゃったせいで恥ずかしさが戻ってきてしまう。据え膳とか喰うとか言うな馬鹿! 成実さんのエロ親父! だいたい私は初めては好きな人とって決めてるんだから! 酔ってうっかりなんてそんなの絶対に嫌!
でも、どうして政宗は私に手を出さなかったんだろう。いつもの政宗ならここぞとばかりに襲いそうなのに。体を起こして頭を触る。政宗に撫でられた場所。手を出す素振りなんか全然無くて、撫でてくる手は温かくて、乱暴だったのに優しいと感じた。
なんであんなに優しかったのか分からないけど、政宗に撫でられるのは嫌いじゃない。どっちかというと、好き、かも。なんかホッとするんだよね。
「また撫でてくれないかな」
「美夜ちゃーん、ちょっとい…」
「うわぁっ!」
「え? なに? ダメだった?」
「う、ううん! なんでもない! 気にしないで!」
いきなり声をかけられたせいでびっくりしてバクバク鳴る心臓を押さえながら入口を見たら成実さんの隣には政宗もいた。聞かれてない、よね? 中に入ってきて座る二人の様子をこそっと観察してみても私のことをからかってきそうな感じはない。良かった。聞かれてなかったみたい。
「えっと、それで何の用なの?」
「美夜ちゃんの世界のもの見せてくれない? 俺は話しか聞いたこと無いから見てみたいんだよね」
「別に良いけど、政宗も?」
「ああ。俺も久しぶりに見たいと思ってな」
「ふぅん」
普段はうっかり誰かに見られないように鍵を掛けてる箱を部屋の隅から持ってきて鍵を開け、バックと買ったものを出す。
「一番下にあるのは何?」
「こっちに来た時に着てた服だよ」
「どんなのか見せてもらってもいい?」
「良いよ」
替えが無いから着けるのを諦めて一緒に終ってある下着は見られないように気をつけながら上着とスカートとサンダルだけを出して広げて見せる。
「うわ、なにこれ。足とか胸元とか丸見えになるんじゃねえの?」
「なるよ。だいたいこれくらいかな」
膝より少し高い位置に手を当てて、次にキャミを着た時の胸元のラインを指でなぞる。
「うっわー、美夜ちゃんの居た世界の女の子ってみんなこんな服着てるの?」
「みんなってわけじゃないけど、夏になると露出度は上がるよ」
「なにそれ最高じゃん!」
「……………」
「……美夜ちゃんの眼がすっげえ冷たい……」
「だってそういう眼で見てるもん」
成実さんて遊郭とかあるなら常連になってそう。
「Hey、美夜。これはなんだ」
「ん? ああ、それはお守りだよ」
いつの間にか鞄の中身を出していたみたいで政宗は藍色の小さな巾着袋を持ってた。それを受け取って、中に入ってる親指の先ほどの大きさの乳白色の丸い石を取り出す。
「嘘っ! ヒビが入っちゃってる!」
大事にしていたのに、取り出した石の滑らかな表面にははっきりとヒビが出来てしまっていた。
「大事なもんなのか?」
「うん。理由は分かんないけど、すっごく大事なものなの」
撫でたり着物の端で擦ったりしてみても、ヒビは汚れじゃないから消えてはくれない。
「見た感じ普通の石にしか見えないけどなぁ。触ってみてもいい?」
「んー……触るだけだよ?」
あんまり気乗りはしなかったけど、触るだけならと成実さんの手の平に石を置いた瞬間、成実さんはうわっ! と声を上げて手を払った。撥ね除けられた石がコンと音を立てて壁に当たって床に落ち、そのままコロコロ転がっていく。
「ちょっと! 大切なものなんだから大事に扱ってよ!」
「あ、ああ、ごめん」
慌てて拾って石を見てみたけど新たにヒビが出来ることもいつの間にか出来てしまってたヒビが広がっていることも無かった。良かった。
「美夜ちゃんはその石触ってもなんとも無いの?」
「無いけど、なんで?」
「さっき石が触れた瞬間にビリッときたんだよ。梵や小十郎の属性攻撃を受けた時に似た感じだったかな」
「気のせいじゃねえのか?」
「かなぁ。一瞬だったしなぁ」
「美夜、貸してみろ」
「大事に扱ってね?」
念を押してから今度は政宗に渡す。と、手の平に置いた途端に政宗は顔をしかめた。手にも不自然な力が入っているのが分かる。
「政宗?」
「美夜、お前本当に何も感じねえのか?」
「感じないよ。政宗は感じるの?」
「ああ。……チッ、返す」
「? うん」
しかめっ面をしてる政宗から石を返される。石から手を離すと政宗は息を吐いて、手の平を閉じたり開いたりを繰り返した。だけどまるで麻痺しているかのようにその動きはぎこちない。
「梵?」
「痺れてやがる」
「やっぱ属性攻撃みたいなもん?」
「いや、似てるが違うな。……抜けたか」
ようやく痺れが取れたらしく、政宗の手の動きがスムーズになった。でも属性攻撃って、なに? それに石に触ったら痺れるって、私そんなこと一度も無いんだけど。
指先で摘んでまじまじと石を見てみたり手の平に転がしたりしてみても痺れたりなんかしない。静電気のようなことも起きたりしない。だけど政宗のあの手の動きは演技なんかには見えなかったし演技をする理由も浮かばない。
「美夜、元の世界に居た時にその石を触った奴はいるか」
「えぇっと……」
じいちゃんとばあちゃんには見せたことはあっても触ってはいなかった気がする。友達は……そもそも見せたことがなかったと思う。
「多分、居ない」
「石はどこで手に入れた?」
「えっと……どこ、だっけ。覚えてない……というか、いつから持ってたっけ」
「分からねえのか?」
「うん。気付いたら持ってた、気がする。多分覚えてないくらい小さい頃に貰ったか買ってもらったんだと思う」
「Hnm……。ひびがいつ頃出来たのかは分かるか」
「分かんない。でも最後に見たのは確かこっちの世界に来る二、三日前だったと思うから、それ以降だと思う」
「そうか」
聞きたいことは聞き終えたのか、政宗は考え込むように視線を下げた。もういいかなと石を仕舞おうとしたら手首を掴まれ止められる。止めたのは政宗だ。
「美夜、その石を借りることは出来るか?」
「え……」
「無理か?」
「んー……無理っていうか、人に預けたことが無いから心細いような不安なような……」
どうしてたかが石一つを貸すだけでそう思うんだろう。お守りだから? そういえばどうしてお守りだなんて思ってるんだろ。誰かにそう言われたのかな?
手の平の上で石を転がす。何となく、だけど、政宗に貸すのだけは平気な気がした。
「いいよ、貸してあげる。政宗なら大事に扱ってくれると思うし。でも出来れば早く返してほしいな」
「Thank. 安心しろ。数日中には返す」
「うん」
石を巾着袋に戻してから渡した。政宗はそれを懐に入れると、もう用は済んだのか成実さんを促して立ち上がった。二人が帰るならと出した物を箱の中に戻していたら政宗に頭を撫でられた。
「なに?」
「撫でてほしいんだろ?」
ニヤリと笑った政宗に最初何を言われたのか分からなくてきょとんとなった。でも直ぐに一気に顔が熱くなる。
「聞いてたの!?」
「可愛がってほしくなったらいつでも来い」
「行かないわよ、バカ!」
くつくつ笑いながら出て行く政宗の頭目掛けてちょうど持ってたスマホを投げ付けたけど、振り向くことなくキャッチされてしまった。ちくしょう!
「笑い堪えるのが大変だったくらい悶えてる美夜ちゃんの姿は最高に面白かったよ!」
「面白くない!」
成実さんは親指を立てながら言うと何かされる前にとさっさと出て行きやがった。閉められた障子の向こうからは思い出し笑いをしてるのか笑い声が聞こえてきて余計に腹が立つ! 安心していたとこに時間差で言ってくるなんて質が悪い! 見られた後直ぐに言われるよりずっと恥ずかしいんだからね!!
◆ ◆ ◆
袋に入ったままでさえ僅かだがピリピリと痺れる。だが攻撃というよりは拒絶や牽制のように感じる。持ち主以外は触るな、ということなのだろうか。
「政宗様、お呼びと伺いましたが」
「ああ。これを触ってみろ」
小十郎に石の入った袋を渡す。僅かに眉をしかめ、中身を手の平に取り出すと眉間の皺が深くなった。
「これは……」
「私もよろしいですか?」
小十郎の手から綱元が石を摘み上げようとするが、すぐに離し己の手を見た。
「殿の持ち物、ですか?」
「NO、俺じゃなくて美夜のものだ。守り石らしい」
「では美夜さんは殿や小十郎と同じ婆裟羅者なのですか?」
「いや、違うだろう。これは属性のものとは少し違う。攻撃の意志を感じねえ」
「俺も同じ意見だ。それに、美夜は触れても何も感じないらしい。他者が触れればそうなることを知らなかったようだ」
「美夜さんはこれをどちらで?」
「いつからかはっきりとは覚えていないらしい。覚えていないほどガキの頃に誰かにもらったのかもしれないとは言ってたがな」
「それはまた、なんとも不思議な話ですね」
石を返した後、小十郎は手を握ったり開いたりを繰り返している。俺と同じで手の平に長く置いていたために痺れが残っているのだろう。
「神仏関係で名の知られた奴を知らねえか?」
「少し前に北山の寺に徳の高い僧侶が滞在していたとか。今もまだ居られるのかは分かりませんが」
「私の方はこちらに戻る途上である神社に御利益のある札を作るとかで付近では名が知られた男がいるという話を聞きました」
小十郎と綱元、それぞれの意見を聞いてから忍を呼ぶ。袋の上からさらに布で包んだ石を渡し、件の寺と神社に行き石について調べてくるよう命じた。
続