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「美夜の体が透けた、ですか?」
「一瞬だったがな」
小十郎と、とりあえず呼んでおいた成実の顔はどちらも似たり寄ったりだ。信じられない、だが言っているのが俺だから疑うつもりはない、といった風だ。
もし俺以外の者が言ったなら見間違いか寝ぼけていたか何かだと取り合わなかっただろう。それだけ二人の中にある自分への忠誠や信頼といったものが確かだという証拠だろうと自惚れでなく思う。
「美夜ちゃん本人はそのことを知らないんだよな?」
「ああ。気絶したのもまだ体が本調子じゃねえのに騒いだからだと思ってるはずだ。原因が判明するまで教える気はねえ。いたずらに教えて不安にさせる趣味はねぇからな」
「その方が良いでしょう。美夜でなくともそのようなことが己が身に起きていると知れば平静ではおられぬものです。下手をすれば心を病んでしまう恐れもありましょう」
「特に美夜ちゃんは普通の女の子だしな。けどさ、俺も梵の決定に従うことに異論は無いけどこれからどうするんだ?」
「まずはあれが毎晩起きているのか、毎晩なら時間が決まっているのかを確かめる」
「では何か理由を作って美夜に起きていてもらう必要がありますな」
「美夜ちゃんが寝てる時にこっそり部屋を覗けばいいんじゃねえの?」
「阿呆。美夜は女だぞ」
「だからじゃん! 夜這いみたいでドッキドキして楽し…んでる場合じゃないよねー! なんか良い案ないかなー!」
小十郎の睨みに冷や汗を流しながら遊び半分だった気分を切り替える成実を呆れた顔で見る。睨みだけで済んでるうちに切り替えないと説教されることを身に染みて分かっているからだ。
戦場じゃあ頼りになるのに、なぜ普段はこうも馬鹿な言動が目立つのか。作っている部分も多分にあるのだろうが素の部分もあるだろう。こいつの頭の中がどうなっているのが気になる。なんてことを思いながら視線を成実から小十郎へと移す。
「小十郎、酒の用意をしておけ」
「では美夜を酒の席に呼ぶと?」
「ああ。さっき綱元から知らせが来た。今日中には着くそうだ。確認ついでに合わせ…」
「居たぁーっ!」
突然響いた声。聞いただけで誰なのか分かる。この城であんなに元気な声を上げる女は一人しかいない。三人の視線が部屋の外に向いた。パタパタと軽い足音を立てて走って来た勢いのままに足を滑らせながらも何とか転けることなく踏みとどまったのは案の定美夜で、その手にはなぜか盆を持っている。
「政宗の部屋に居るなんて盲点だったわ。おかげであちこち探し回る羽目になっちゃったじゃない」
「え? 俺?」
「当たり前でしょ! まさか昨日のこと忘れたなんて言わないわよね?」
どこか不穏な笑顔を浮かべながら盆を振り上げた美夜と、そんな美夜の行動に顔を引きつらせた成実に、面白いことになるなと喉の奥で笑った。
◆ ◆ ◆
「ま、まずは落ち着こう美夜ちゃん! あれはほら、あれだよ! 俺なりのちょっとしたお茶目ってやつで美夜ちゃんを見捨てたわけじゃないんだよ!」
「へぇ~、今まで以上にヤバい感じに政宗に襲われてる私を見て笑顔で親指立てて去ってくのがお茶目なんだー。私の貞操の危機だったのに成実さんはそぉんな軽い気持ちだったんだー」
にこにこ笑いながらお盆を高く振り上げる。
「ご、ごめん! 謝るから角で殴るのはやめ…」
「今更遅いわぁーっ!」
高く振り上げた丸いお盆の角が、ゴッ! と聞いただけで痛くなるような音を立てて成実さんの脳天に減り込んだ。でもそれだけじゃ怒りが収まらなかったから同じ場所を平たい面で何度かベシベシと叩いてやった。頭を押さえて痛みに悶えて騒ぎながら転がる成実さんを見ているうちにやっと怒りが鎮まる。
「今度またあんなことしやがったら次は脛に同じことやるから」
「やらない! 絶対にやらない!」
「絶対?」
「絶対絶対!」
よし、今日はこれくらいにしておいてあげよう。成実さんへの制裁が終わってふと周りを見たら、面白そうに成実さんを見る政宗の他に呆れた視線を成実さんに向ける小十郎さんが居た。
「もしかしてなんか話中だった? 邪魔しちゃった、よね?」
「いや、もう終わったところだ」
「そうなんだ。ならよかった。じゃあ私お盆返さなきゃいけないから」
「ンなもん成実にやらせてお前はこっちに来い」
手招きされても警戒。小十郎さんも居るから大丈夫かもしれないけど。念のために政宗からは十分に距離を取って開け放されたままの障子の近くに座る。お盆は成実さんに渡した。
「なに?」
「お前に合わせたい奴がいる。夜になったらここに来い」
政宗がわざわざ私に会わせるんだからなんか意味があるんだよね? どんな人なのかな。ちょっとだけ楽しみだけど、政宗みたいに意地悪でドSだったり成実さんみたいに薄情じゃない人だといいなぁ。なんて政宗が聞いたら怒ってセクハラまがいの仕返しをしてきそうなことを思いながら分かったと頷いた。
城内の探索をして迷子になって、そんな時に限って政宗に見つかって笑われたりからかわれて遊ばれる内に陽が落ちた。夕飯もお風呂も済んで暇潰しに侍女さん達から碁を教えてもらっていたら政宗付きの侍女さんが私を呼びに来てくれた。お礼を言って政宗の部屋に向かうと開け放した障子戸の縁に凭れながら片膝を立てて座る政宗の側に知らない男の人が居た。あの人が私に合わせたい人?
顔を上げたその人と目が合って、軽く頭を下げて挨拶されたから私も頭を下げた。それから政宗に促されてその人とは反対側の政宗の隣に座る。これだけ人が居れば政宗もそうそう何かしてきたりしないよね?
「美夜、こいつが昼間言ってた奴だ」
「鬼庭綱元と言います」
「あ、美夜です」
もう一度お互いに頭を下げた。綱元さんは見た目の歳は小十郎さんの見た目年齢と同じくらい。見た目と実年齢が同じなのかちょっと気になる。だって政宗も小十郎さんも成実さんも老け顔だもん。言ったら絶対に怒られるし特に政宗には何されるか分からないから言わないけど。
綱元さんは政宗達ほど美形では無いけれど落ち着いた佇まいが大人の男の魅力を醸し出している。一重で切れ長の眼が一見すると冷酷な印象を与えそうだけど、ほんのり浮かべた微笑が優しい印象に変えてくれている。
「綱元にもお前のことは話してある。俺も小十郎も居ねぇ時に何かあれば綱元を頼れ」
「二人とも居ない時なんてあるの?」
「戦が始まれば城を空けることになる」
「あ……そ、か」
政宗の言い方が二人共が長期間お城を留守にするみたいに聞こえて、不思議に思って聞いてみただけだったのに、返ってきた答えに不安になった。毎日があまりにも騒がしくて平和で、ここが戦国の世なんだってことをついつい忘れてしまう。だからかな。こうしてふとした時に思い出すことになると余計に不安になる。
「わ」
俯いていたら頭に手を置かれた。見上げた政宗は彼らしい不敵な笑みを浮かべてて、不安でざわついてた心が不思議と落ち着いた。政宗の側なら大丈夫。根拠なんか何も無いのにそう思った。
「顔合わせも済んだことだし飲もうぜ」
お銚子を持ち上げた成実さんを切っ掛けに、内輪の宴のような飲み会が始まった。聞けば綱元さんは政宗の代理で仕事をしに行っていたらしく、こうして四人が揃うのは久しぶりらしい。だから話にも花が咲いてお酒も手伝ってそれなりに賑やか。時々綱元さんがこの世界と私の居た世界の差異を聞いてくることもあったし政宗も話掛けてくれるからあんまり疎外感は感じない。
話したり話し掛けられたりしながら何となく政宗の盃が空になる度にお酒を注いでいたら何度目かの時にお銚子を政宗に取られて空いた手に政宗が持ってた盃を渡された。そして政宗手ずから盃にお酒を注がれる。まさか飲めってこと?
「私未成年だから飲めないんだけど」
「An? 未成年だぁ? お前十七なのは嘘かよ」
「私の居た世界だと二十歳が成人なの!」
「二十歳!? ってことは美夜ちゃんの世界じゃ俺と梵も未成年ってことになって酒飲めねえの!?」
「うん」
「うっわー。俺この世界に生まれて良かったー。二十歳まで酒が飲めないなんて堪えらんねえよ」
そう言って成実さんはお銚子に頬擦りした。けど呆れた目をした隣の小十郎さんにお銚子を取り上げられて情けない声を上げていた。
「お酒ってそんなに美味しいの?」
「お前も飲んでみりゃわかる」
「だから私は未成年なんだって」
「ここは美夜さんが居た世界ではないのですから、気にせずともよいのでは?」
わお。綱元さんて以外にアバウト。真面目そうにも見えたのに。人ってほんと見た目だけじゃ分かんない。見た目で判断出来ない人の代表みたいな小十郎さんを見たら小十郎さんにも進められた。みんなアバウトだ。
「一杯だけでも飲んでみろ」
「んー……。じゃあ、ちょっとだけ」
政宗に促されて盃に口を付ける。ぷん、と濃い酒気が鼻について、たったそれだけで意識が少しだけくらりと揺れる。私はあんまりお酒に強くないのかも。でもさすがに一杯だけで酔わないよね。身内にもお酒に弱い人は居なかったはず。だからちょっとだけなら大丈夫。そう思いながら盃を傾け口に流し込み飲み込んだらお酒が喉を通り過ぎる時に喉がカッと熱くなって噎せた。
「エフッ、ケホッケホッ」
「まだガキのお前には早かったか?」
「誰がガキ、よ…」
からかってきた政宗に言い返そうと勢いよく振り向いたら意識が強めにくらっと揺れた。体のバランスも崩れて咄嗟に床に手を着いて支える。はぁ、と零れた息が熱い。頭がくらくらする。まるで昨日湯中りした時みたい。これって酔ったってこと? あーだめだ。ふわふわする……。