第一章




自嘲気味な笑みを浮かべた、千世から放たれた言葉・・・

それに対して、誰もが言葉を失った

どう返したらいいのか、わからない様子だ

フッと笑みを消し、「もう行きます」と言って背を向ける

千世「あ」

途中で振り返って戻ると、「これ」と言って木刀を原田に渡した

緋色の赤毛が、彼らの前から立ち去った

平助「・・・・・・あいつ、さ・・・その・・・母親に・・・」

永倉「胸クソ悪りぃ話だぜ」

原田「産みの親に否定されちゃあ、ああ思うのも無理ねぇな」

沖田「でもさ、それってちょっと性格捻くれてるって事なんじゃないの?」

斎藤「捻くれている、と言うより、投げ遣りな性格になっているというのが適切だろう。幼少の頃から否定されていたのならば、ああなるのも無理はない」

平助「なんで?」

土方「ガキってのは、親が正しいと思うもんだからな。何も知らねぇ内から要らない存在だと証明され続けてたんなら、自分はそうなんだと思い込むもんなんだよ」

平助「・・・」

原田「あんま深入りしない方が良いってのは、お互いの為だってわかってるんだけどよ。なんかこう・・・放っておけねぇよな」

土方「とは言え、俺達からしてみても、ある意味では要らない存在だ。どうしようもねぇよ」

原田「そりゃあ、まあ・・・わかってんだけどよ・・・」

土方「・・・」

だがこの時、否定したはずの彼が一番、千世の今後を気にしていた




















千世「・・・・・・」

一方の千世は、縁側に腰掛けて考えていた

なぜわざわざ彼らに、自分の事を説明してしまったのか

確かに、質問攻めにされるのは面倒くさいからと話したのは自分だ

だが、あそこまで細かく話す気は元々なかった

特に、母親の事に関しては・・・

千世「・・・」

空を見上げ、左手で首筋に触れる

もう残っていない手形が、今もまだあるような気がしてならない

少し冷たかった、細い指先を思い出す

井吹「千世?」

千世「?」

井吹「何してんだよ、そんなとこで。死んだ魚みたいな目ェしてたぞ?」

千世「あなたには関係ないでしょうに」

井吹「あるよ!その・・・一応、助けたの俺だしさ」

千世「つまり見返りが欲しいと?」

井吹「そ、そんな事は言ってないだろ!」

千世「じゃあなんです?」

井吹「・・・き、気になるから。それだけだ」

千世「ふぅん・・・・・・洗濯ですか?」

井吹「え?あ、ああ」

千世「ふぅん・・・手伝いましょうか?」

井吹「え?いや、俺の仕事だしさ。悪いよ」

千世「暇ですから」

井吹「・・・・・・じゃあ、頼む」

千世「ん」

短く返事をした千世が立ち上がり、隣まで歩いて来た

それを確認してから歩き出す井吹に、彼女も合わせて歩く

井吹「・・・・・・なぁ、近藤さんから聞いたんだけどさ。その・・・未来から来たって、本当か?」

千世「状況証拠を考えれば、だけど。信じる信じないはあなたの自由です」

井吹「信じるよ、俺は」

千世「?」

井吹「突拍子もない話だってのは、わかってるけどさ・・・お前がそんな嘘付くとは思えないから」

千世「・・・ここにはお人好しな人が多いんですね」

井吹「お人好し?俺が?」

千世「ん」

洗濯物を干しながら、そんな会話をする

サァッと風が吹き、千世の髪を揺らした

井吹「・・・・・・」

千世「・・・何か?」

井吹「いや・・・これさ、地毛か?」

千世「地毛」

井吹「ふぅん・・・」

千世「・・・・・・気になりますか?」

井吹「気になるっていうか・・・綺麗だなって」

千世「・・・・・・本当に、変わった感性の人が多い」

井吹「なんだよ、綺麗なもんを綺麗だって言って何が悪いんだよ?」

千世「悪いとは言いませんけど・・・これが綺麗、ね・・・」

毛先を摘んで呟く彼女に、井吹の表情が変わる

井吹「・・・・・・嫌いなのか?自分の髪色」

千世「嫌い、です」

井吹「・・・・・・勿体ないな」

千世「え?」

井吹「だってお前、髪色と目の色が合ってて、すげぇ綺麗に見えるし。顔も悪くないから、その・・・か、可愛いし」

千世「・・・」

井吹「な、なんだよ!その顔!?」

千世「可愛いなんて初めて言われた、ので・・・」

井吹「・・・・・・なぁ。敬語、やめないか?歳もそんな変わんないだろうし」

千世「うん、わかった」

井吹「順応早ぇな!?」

千世「そう?」

井吹「・・・・・・他の女と違って、調子狂うな。未来の女ってそんな感じなのか?」

千世「さぁ?鬱陶しいのなら山程いるけどね」

井吹「げ、なんかやだな。それ」

千世「本当に・・・よく飽きないなって思う。何かを追い掛ける事も。何かを虐げる事も」

井吹「千世・・・」


9/13ページ
スキ