第一章
千世「本当は質問攻めとか嫌いなんですけど・・・こっちから話すより、そっちから聞いてもらった方が楽そうなので。で、何が聞きたいですか?答えられる範囲で、お答えしますよ」
そう言って、横向きにして休ませていた木刀を、くるっと回すようにして収めた
半歩ほど後ろに下げていた左足も戻し、その場に佇む
顔を見合わせた後、最初に口を開いたのは平助だった
平助「あ、あのさ・・・お前がいたっていう未来の世界って、どんなだったんだ?」
千世「化学がめちゃくちゃ進んでる、かな。文なんか書かなくっても、それぞれが持ってる携帯端末で連絡がすぐ取れるし。人の顔や指紋、目をスキャン・・・あー・・・読み取るだけでロック・・・鍵を開けたりとかも出来るような世の中だし」
この時代では、自分が普段使っている外来語の大半は通じないだろう
そう思った彼女は、なんとか伝わり易いように別の言葉・近しい言葉に置き換えて話す
千世「学校って言うのがあって・・・子供のほとんどはそこで、色んな事を学べる。私も高校に通ってた」
平助「こうこう?」
千世「高等学校。16歳から19歳くらいまでの子供が通う学校の事。私のいた時代では、二十歳から成人の扱いだから」
平助「へぇ・・・」
千世「誰でも学ぶ機会がある。そんな時代。生きたい道を、自分達で選べるような時代。そこそこ自由のある時代・・・そんな感じ」
平助「そう、なんだ・・・」
永倉「なぁ、誰でもって・・・本当に誰でもなのか?」
千世「まあ、世界中の誰もがってわけじゃないけど・・・大半は、ですかね」
沖田「ねぇ、君の時代でもさ。人って殺し合いをしてるの?」
千世「今程じゃないです。比較的平和な世界です。世界で全く殺し合いや殺戮がないわけじゃないですけど。日本はわりと平和に近い方、かとは思います」
沖田「・・・ふぅん」
原田「けどまあ、差別とかはまだありそうだな」
千世「え?」
原田「その髪色、気味が悪いって言われてたんだろ?要は差別と同じじゃねぇか」
千世「・・・・・・いつ、どんな時代になっても・・・きっと無くならないんですよ、差別なんて。多数派は、少数派を忌み嫌う。私は、その少数派になってしまった。それだけです」
原田「・・・・・・」
土方「馬鹿馬鹿しい」
千世「?」
土方「未来だの、少数派だの・・・てめぇの話は何一つ裏が取れねぇ。そんなもんを信じろってのか?」
千世「・・・あなたも、多数派なんですね」
土方「は?」
千世「要は、少数派の事なんて受け入れたくないのでしょう?自分で見たもの聴いたものしか信用しない。信用できない。現実的で、それはそれでいいとは思いますけど・・・あり得ないもの程、実はあり得てしまうものなんです」
土方「・・・」
千世「私自身も、あなた達からしたら“あり得ないもの”だから」
そう言ってから、千世は斎藤に目を向ける
千世「あなただけ、何も聞いてませんね?いいんですか?」
斎藤「・・・・・・何故、あんたは死を選んだ?」
千世「・・・・・・それを聞きますか」
ため息混じりに言うと、全員に視線を走らせる
誰もが聞きたかった事なのだろう
全員が真剣な面持ちで見ていた
千世「・・・・・・望まれたから」
斎藤「望まれた?」
千世「私にとっても、あの世界は色がなかったから。まあ、別に消えても問題ないと思ったので。誰もが居なくなって欲しいと望んでいた、だから望み通りにしてあげただけです」
淡々と答える彼女を、斎藤は初めて睨んだ
まさかそんな理由だとは思いもしなかったからだ
そう、この場にいる全員にとっては・・・“そんな理由”なのだ
千世「“そんな理由で”・・・そう言いたそうですね、皆さん」
呆れた様子で言う千世に、とうとう全員が鋭い視線を向けてきた
千世「ふふっ」
初めて笑った千世
だが彼女の笑みは、明らかに自嘲の笑みだった
千世「私、両親がいないんです。祖母も祖父も。兄も。でも勘違いしないで下さい。別に悲観してるわけではないんです。祖母は私が生まれて間も無く、病で逝きました。祖父も死んだ。兄も、必要ないとわかっていたはずなのに、私を守って死んだ。父は、独りで家を出ました。行き先なんて知りませんし、生きてるのか死んでるのかもわかりません。母は--」
『あんたなんか・・・!』
千世「・・・・・・死にました。私の目の前で。私だけを残して。私は誰にとっても、要らない子なんですよ。要らない人間が死ぬ事に、何か問題でもあるんですか?」
土方「自分が要らねぇ人間だと、なぜ決めつける?」
千世「言われたからです」
土方「?」
千世「“あんたなんか産まなければ良かった”・・・と」
土方「!?」
産まなければ良かった・・・つまりは母親から放たれた言葉だとわかる
子供を産むのは、母親だから
千世「産みの親に否定されたら、それはもう、あなたは要らない子だと言われているのと同じではないでしょうか?」
土方「・・・・・・」