第一章
千世「【ぼー】・・・」
原田「千世」
千世「・・・?」
原田「暇そうだな」
縁側に腰掛け、柱に頭を預けていた千世
ぼーっとしていると、通り掛かった原田が声を掛けた
千世「暇ですから、実際」
結局、どのような扱いでここに置くのかを決められないまま、数日が過ぎた
今の千世は何かをするでもなく、ただ1日の大半をぼーっとして過ごしている
服装は「そのせーふくとやらは目立つ」と土方に言われ、彼らが世話になっている八木さんに男物の着物を調達してもらった
原田「ま、だろうな。お、そうだ!これから隊士連中と稽古なんだ。お前も来るか?」
千世「・・・・・・どちらでも」
原田「なら行くぞ。ほら、来いよ」
千世「あ」
結局は強制参加らしく、原田に手を引かれて行く
平助「左之さん!遅ぇ・・・って、あれ?千世じゃん?」
稽古場に着くと、平助と永倉がいた
その近くでは斎藤が別で稽古を、沖田は階段に腰掛けて見物していた
永倉「なんで千世ちゃんまでいるんだよ?」
原田「暇そうにしてたからな、連れてきた」
千世「連行してきた、の間違いでは?」
原田「縁側で、日がな1日ぼーっとしてるよかマシだろ?体動かした方が、スッキリするぞ」
千世「?」
原田「それにお前、剣は得意なんだろ?」
千世「得意というか、なんというか・・・」
平助「あ!それ、オレも気になってた!なあなあ、お前のいた時代ってさ、どんな剣術を使うんだ?」
沖田「なに?まさか、平助も信じるの?この子が本当に未来から来たって。それも160年くらい先の未来から」
平助「だってさ、こいつがオレ達に変な嘘つく理由がないし・・・あの妙な格好だって・・・」
斎藤「その娘を信じるか否かは、己自身で考えればいい」
平助「そう言う一君は?」
斎藤「俺は・・・・・・まだ、決めかねている」
千世「・・・・・・梅の花 一輪咲いても 梅は梅」
斎藤「?」
沖田「ぶはっ!」
永倉「どうした総司?」
沖田「なんでも・・・プッ・・・わかった、今のでちょっとは信じる気になった。その子、未来から来たって」
平助「なんだよ、それ・・・」
原田「今の俳句でか?」
沖田「ここ数日、部屋か縁側でぼーっとしてるだけのこの子が、今の俳句をどこかで知ることなんてできるわけないからね。作った本人は懸命に隠しちゃってるから、盗み見るのも無理。未来で知ったのなら、納得できるでしょ?」
平助「総司が言ってることが本当なら、そうかもだけど・・・」
沖田「それで?なんで君、突然その句を読んだのさ?」
千世「なんとなく。思い付いたので」
沖田「ふぅん?ま、本人がいなくて良かったね。いたら君、確実に斬られてるよ」
千世「そうですか?」
沖田「うん、間違いなく」
千世「別にいいですけど」
沖田「・・・・・・」
原田「そんな事より、ほら」
千世「木刀・・・」
原田「なんだ?木刀は嫌だったか?」
千世「そういうわけじゃあ、ないですけど・・・竹刀が主だったから、使い慣れてなくて」
原田「なら、竹刀取って来てやるよ」
千世「いえ。しばらく素振りでもしてれば、慣れると思います」
そう言って木刀を構えた千世
永倉「お?」
平助「ん?」
原田「ほう・・・」
斎藤「・・・」
沖田「へぇ・・・?」
そこそこ剣術が使えるというのは、あながち嘘でもなさそうだ
彼女の構え方を見た全員がそう感じた
千世「・・・・・・ふぅ・・・」
しばらく素振りをしていた千世が、ふと手を止めた
顔を左右に軽く振ると、その動きに合わせて揺れる赤髪
それを見た沖田が、ふいに口を開いた
沖田「・・・・・・ねぇ。君のその髪色ってさ、地毛?」
千世「ん?そうですけど」
沖田「ふぅん・・・」
千世「・・・・・・すみません」
沖田「いや、なんでそこで謝るの?」
千世「気味の悪い物を見せたから」
沖田「誰もそんな事、言ってないでしょ」
千世「言わないだけ。所詮、その人が何を考えているのかなんて、他人にはわからないから」
平助「まあ、そうだけどさ・・・何も頭っからそんな否定的にならなくても」
原田「俺はいいと思うぜ?その色」
永倉「だな。綺麗だしよ」
千世「・・・」
明らかに疑っている視線を向けてくる彼女に、原田と永倉は苦笑するしかなかった
そんな中、ずっと沈黙を守っていた斎藤が動いた
近くまで歩み寄ると、緋色の赤毛を一房すくい取る
千世「?」
掌の赤毛を見つめ、呟いた
斎藤「・・・夕陽の色だな」
千世「え・・・」
原田「お。上手いこと言うな、斎藤。俺もそう思ってたとこだ」
千世「・・・・・・夕陽?」
また、彼女の無表情が崩れた