第一章
千世「・・・で、なんか変な流れになったけど。結局のところ、私はどういう扱いになるんですか?出て行けと言うのならば、出て行きますが?」
土方「・・・・・・ハァ・・・ここで放り出したら、あの人がうるせぇからな。仕方ねぇから、しばらくは置いてやる」
千世「・・・」
土方「なんだ?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、千世が土方を見つめていた
無表情とも言える彼女の顔が、初めて変わった
千世「・・・・・・意外と、あっさり決めたな、と思って」
土方「そんなに意外か?」
千世「仲悪そうだったから。てっきり反対すると思ってました」
土方「っ・・・」
ある意味では図星だったからか、少し視線をそらして沈黙する土方
彼を見た千世が小首を傾げると、近藤が口を開いた
近藤「まあ確かに、芹沢殿にしては珍しい発言ではあるが、ああ言ってるんだ。どうだろう、両儀君?しばらくここにいては」
千世「・・・・・・まあ、別に行く当ても帰る当てもないし。そちらが構わないのなら、別にいいですけど」
近藤「決まりだな!では、彼女の扱いだが・・・・・・どうするか?」
土方「【呆】近藤さん・・・あんたって人は・・・」
原田「ま、絶対に言うとは思ってたけどな」
山南「君は、何か特技などはありませんか?」
千世「特技・・・」
“あれら”も、ある意味では特技なのだろうか?
いや、異常なだけの体質に過ぎない・・・
千世「・・・・・・剣道」
原田「剣道って、剣術のことか?お前が?」
意外だと言いたいらしい原田は、少し目を見開いて千世を見る
他の者も同意見らしく、同じようにして彼女を見ていた
千世「これでも2段所持者なんだけど」
平助「2段?」
千世「剣道の試験。3級とか2級とか、1級もあるけど。その上が初段」
永倉「じゃあ剣の腕はそこそこ立つってか?本当かよ?」
千世「まあ疑わしいでしょうね。別にいいですけど、信じなくても」
山南「君の時代では、剣術ではなく剣道と言うのですか?」
沖田「ちょっと山南さん?この子の言う事、信じるんですか?」
山南「先程も言ったように、彼女を完全に信じたわけではありません。ですが、この場面で彼女が嘘をつく理由がありません。服装といい、発言といい、どうも怪しい点が多すぎますからね。信じることはできなくても、一種の可能性として受け入れることはできる。そう思っただけです」
斎藤「山南さんの言葉にも、一理ある」
沖田「あれ、珍しいね。一君もそう思ってるの?」
斎藤「その娘の発言全てを否定するには、証拠不十分だと言いたいだけだ」
平助「まあ、確かに・・・」
千世「・・・・・・信じる信じないは、皆さんの好きにすればいいと思います。私にはどうでもいいことです」
土方「さっきから聞いてりゃあ、投げやりな事ばかり言いやがって・・・てめぇには生きようって気はねぇのか?」
千世「あったらわざわざ自殺なんて、すると思いますか?」
土方「未来の世界ってのは、そんな人間ばかりなのか?」
千世「さあ?でもあなたは信じていない。でしょう?」
土方「・・・・・・」
千世「ほら、図星だ」
土方「確かに、信じるのは難しい。だがな、俺も山南さんの言ってることには、一理あると思う」
千世「・・・・・・へぇー」
興味無さそうに、棒読みな返事を返す
そんな千世が気に入らず、土方は思わず彼女を睨んだ
が、千世は無表情を変えなかった
まるで--勝手に睨んでいればいいと、そう言われているようだった
山南「珍しいですね」
土方「?」
とりあえず、千世を部屋に返した
彼女の気配が完全に離れてから、最初に口を開いた山南が苦笑する
その視線の先には、土方がいた
山南「何か、気に入らなかったのですか?」
土方「・・・・・・ああ、気に入らねぇさ。あの女の態度がな」
沖田「そう?面白い子だと思いますけど」
土方「総司。お前、あいつの事、ちゃんと見てねぇだろ?」
沖田「え?」
土方「・・・・・・あいつには、生きる意志がねぇ。真っ先に死ぬ人間だ、あれは」
沖田「いいんじゃないですか?せめて、僕達の邪魔にならなければ」
近藤「総司!」
沖田「いやだなぁ、近藤さん。冗談ですよ」
原田「まああの子の場合、冗談じゃ済まねぇだろうがな」
永倉「どういう意味だよ、左之?」
原田「俺も、土方さんと同じように見えたんだ。あいつには生きる意志がない。言ってる事を信じるとしたら、あいつは未来から来た。つまり、あいつがここにいる証明はどこにもねぇってわけだ」
平助「で?」
原田「この時代のいつ、どこで、どう死のうが関係ない。誰も何も思わない。それが結論だ」
土方「あいつはそもそも、自分から命を絶とうとしてここに来たんだろ?なら尚更、あいつの自殺意識を高めるだろうな。この時代のいつ、どこで、どう死のうが関係ない。誰も何も思わないんだからな」
原田の言葉を繰り返した土方の言葉に、ようやく納得がいった
今の彼女からすれば、これは絶好の機会だ
誰も自分の事を知らない
さらに、今のような時代では、戦に巻き込まれて死んだと捉えられる事の方が多い
彼女の自害は、この時代では簡単に果たせる
誰の迷惑にもならず、誰に知られることもなく
土方「・・・・・・」
“光亡き 青に映るは 何色か”--