第三章




芹沢「どうした、土方?これが貴様の本気か?俺を越えるんじゃなかったのか!?」

刃が交わり、力の押し合いになる

芹沢「まだまだ、本物の鬼にはなれんな」

土方「うるせぇ!なれるかどうかじゃねぇ。なるんだよ。俺は覚悟を決めたんだ!」

何度も互いの刃が交わる

その瞬間を狙い、山南と沖田が再び斬りかかる

片手で鉄扇を取り出すと、山南の刀を折り鉄扇で弾き飛ばす

沖田の突きを腕で受け止め、芹沢に隙ができる

そこへ、土方が刀を向ける

その刃は、芹沢の心臓に突き刺さった

芹沢「それでいい・・・」

土方「ッ!」

見上げれば、芹沢の表情は・・・笑っているように見えた

芹沢「よく・・・やった・・・」

土方「・・・・・・」

刀を抜くと、芹沢の体は後ろに倒れる

千世「・・・・・・これが、あなたの望んだ最期ですか・・・?」

その問いに応える者は、誰ひとりとしていなかった

山南「井吹君を探さないといけませんね?」

黙ったまま、土方が静かに頷く

沖田「殺せって事ですよね?」

原田「っ・・・」

千世「・・・」

また、千世はひとり歩き出す

雨上がりの少し冷たい風が、千世に囁く

井吹龍之介が、どこにいるのか

雨の影響か、川が増水している橋

そこに井吹はいた

走り疲れたのか、立ち止まって息を切らしている

千世「見つけた」

井吹「!?」

勢いよく振り返ると、少し息を切らした千世がいた

井吹「ち、千世・・・!」

千世「そんなに怯えなくても、私は何もしない。する気もないし」

井吹「え・・・」

千世「私はあの人達の仲間じゃない。だから、あなたを見つけても報告する義理も義務もない」

井吹「・・・・・・千世、お前も来いよ。このままだとお前も殺されるぞ」

千世「私、死のうとしてたんだよ?殺してくれるのなら、むしろ願ったり叶ったりだよ」

井吹「なんで・・・なんでだよ!?」

言いながら、井吹が千世の両肩を掴む

井吹「なんでお前はいっつもそうやって!なんで死にたがるんだよ!?ここはお前がいた所とは違うんだぞ!死んで欲しいなんて望む奴はいない!少なくとも俺は・・・お前に生きて欲しいって思ってんだよ!」

千世「--!」

井吹「だから--!」

沖田「そんなに大きな声を出すなんて、見つけてくれって言ってるようなもんだよね。井吹君?」

井吹「お、沖田・・・!?」

沖田「よりによって、僕に見つかるなんて。残念だったね」

走り出そうと踵を返した井吹だったが、水溜まりで足を滑らせて転倒する

その隙に、正面へと立ちはだかる沖田

沖田「君って、何をやっても駄目だけど、逃げるのまで下手だね」

刀を抜き、切先を井吹に向ける

井吹も刀を抜くが、あっという間に弾き飛ばされてしまった

しかも、刀は流れの激しい川の中へ

井吹「お、俺も・・・殺すのか?」

沖田「あれ?そうだってわかってたから、逃げたんでしょ?」

砂を沖田にかけ、その場から駆け出す

だが袖で庇ったため目には入らず、笑みを浮かべた沖田は仕込んでいた小さな刃を放つ

それは井吹の足に刺さった

井吹「俺は、生きる・・・!生きなきゃいけないんだ!」

千世「!」

沖田「君、変わったね。そこまで本気で、生きたいって思うようになったんだ?」

橋の手すりにまで追い込まれ、逃げ場がなくなる井吹

刀を向けたまま歩み寄る沖田

沖田「だったら、自分の運を信じてみれば?ま、君って運も無さそうだけど」

そう言って沖田は、井吹を川に突き落とした

沖田「さよなら、井吹君。もう会う事もないと思うから、これでお別れだね」

すでに姿も見えない井吹に言い残すと、沖田は橋から立ち去る

そして今度は、千世の前に立った

沖田「珍しい事もあるもんだね。君が独断で屯所から出るなんて」

千世「私をつけて来たんですよね?もっと早く出てくれば良かったんじゃないですか?様子見なんかしていないで」

沖田「君がどうするのかなって思ってね。でも、よくわかったね?僕がついて来てるって。君、そんなに鋭い子には見えないけど」

千世「・・・・・・」

沖田「・・・まあいいや。で、君はどうするの?」

千世「大人しく殺されますよ。それに、今回の事は知っていましたから。最初から」

沖田「え?・・・ああそっか、君、自称未来人だったね。忘れてたよ」

千世「・・・・・・」

沖田「・・・さて、帰ろっか。千世ちゃん」

千世「帰るんですか?殺すのではなく?」

沖田「君を殺せとは言われてないしね。それに・・・僕が一緒に帰りたいんだ。君とね」

そう言って微笑むと、沖田は千世の手をそっと掴んだ


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