第三章




斎藤「駄目だ」

立ち上がった永倉達を、斎藤の一言が止めた

ゆっくりと顔を戻し、外から斎藤へと視線を移す千世

斎藤「あんた達は、ここにいてくれ」

近藤に視線を向ける永倉だが、彼は黙ったまま

永倉「もしかして、これから何かが起こるのか?芹沢さんを・・・殺すのか?」

井吹「えっ!?」

平助「一君?」

斎藤「・・・・・・」

永倉「近藤さん、どういう事だ?そういう命が下っちまったのか?」

斎藤「そうだとしたら、どうする?」

永倉「他の奴らはみんな知ってるのか?」

斎藤「いや、限られた者だけだ。あんた達も見ない方がいいという、副長の判断だ」

永倉「なんだそれ?ふざけんな!俺には言えないってのか!?」

平助「おい待てよ、新八っつぁん!」

そんな中、井吹が飛び出した

平助「龍之介!」

先に平助が追いかけ、永倉が続く

斎藤「待て!」

近藤は黙ったまま、そこに座っている

千世「・・・・・・止めないんですね」

近藤「・・・・・・俺には、止められんよ」

千世「そうですか」

また、外へと視線を向ける

千世〈・・・・・・始まった〉

雨が告げる

斎藤と永倉が斬り合いを始める

だが斎藤は永倉を止めるため、生かすため、峰打ちで片をつける

芹沢暗殺を止めるため、井吹は走る

井吹を死なせないため、平助も走る

土方「あんたはやり過ぎたんだ、芹沢さん。新選組のために、死んでもらう」

芹沢「貴様らがこの俺を殺すだと?面白い冗談だ」

土方「冗談でもなんでもねぇ!伊達や酔狂でこんな物を抜けるはずねぇだろ。新選組のためなら、どんな罪でも被って・・・地獄の鬼にでも・・・なってやるさ!」

芹沢「そうか?本当の鬼になると?そう抜かすか!?」

そうして、斬り合いが始まった

雨が告げる

歴史が動き始めたと

千世に告げる

千世「・・・・・・」

近藤「千世君?」

静かに立ち上がった千世は、雨が導くままに走り出す

振り向いた彼女の真剣な瞳を見て、近藤はなぜか走り出す背中を止められなかった

邪魔する者は誰もいない

そういう道を選んで、走っているからだ

迷ったりはしない

雨が、導いてくれるからだ

井吹「芹沢さぁーん!」

芹沢「!」

井吹「やめろー!やめてくれー!」

井上「井吹君!」

井吹「なんでだよ!?なんで!」

平助「龍之介・・・」

土方「馬鹿野郎!井吹、お前なんでここに来やがった!?」

井吹「やめてくれ!頼む!その人は、病気なんだ!」

土方「だからどうした?俺達はもう・・・後には引けねぇんだよ!」

井吹「!」

土方の一振りが、芹沢の左腕に切り傷をつけた

芹沢「バカ犬が!」

言いながら袖から取り出したのは・・・

芹沢「手間を掛けさせる」

沖田「!?」

山南「変若水!?」

井吹「な・・・何をするんだ、あんた!?」

止めようとする井上を振り切り、駆け寄ろうとした井吹

だが、空になった硝子の小瓶が飛んできて、足が止まる

土方「ちっ」

沖田「また面倒なことになりますよ」

千世「・・・・・・」

降り頻る雨の中、まるでそこに存在していないかのように静かに、千世が佇む

雨で全身が濡れるのも構わず、ただ見つめている

芹沢「かかって来んのか?では、こちらから、行かせてもらう!」

言いながら仕掛けてきた一撃を、なんとか刀で受け止める土方

だがあまりの力に、彼の体は弾き飛ばされてしまう

山南が斬りかかるが、芹沢の体当たりに負け、隣の部屋にまで吹き飛ばされる

芹沢「俺はそう簡単には倒されんぞ」

笑みを浮かべながら、腰を抜かしている井吹に歩み寄る

動けなくなってしまった井吹は、簡単に首を掴み上げられる

芹沢「貴様ごときに命を救われるなど・・・虫酸が走るわ!」

平助「龍之介!」

原田「うおぉぉぉ!」

助けるためか、槍を芹沢に向ける原田だったが、簡単にやられてしまう

井吹「原田!」

沖田の突きも弾き、拳で倒してしまう

井吹「なんで・・・?なんでこんな事になるんだよ?俺には、あんた達がわかんないよっ」

芹沢「--生きろ、犬。懸命に生きれば、貴様にも・・・わかる日がくる」

井吹「!」

そう言った時の芹沢の笑みは、いつものものとは、どこか違った

だからなのかもしれない

その言葉は、千世の耳にも響いた

井吹を投げ飛ばした芹沢

井上、山南が斬りかかる

が、やはり返り討ちにあう

平助「大丈夫か、龍之介?」

その時、井吹は目に涙を浮かべていた

平助「龍之介!」

走り出した井吹は、どこかへ行ってしまった


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