第三章




文久三年九月十五日

土方「明日決行する。近藤さん、それでいいな?」

近藤「ああ。会津藩からの命を受けた。責任は全部、俺が取る」

土方「みんな、頼んだぞ。俺達が先に進むためには、どうしても避けては通れねぇ道だ」

山南、斎藤、沖田、原田、井上

彼らを集めた近藤と土方は、会津藩から受けたある命令を伝えていた

千世「・・・・・・」

偶然にも、廊下でこの話を聞いてしまっていた千世は、それがなんなのかを知っていた

芹沢鴨の暗殺--




















文久三年九月十六日

芹沢「出掛けるぞ。共をしろ!」

井吹「え?どこ行くんだ?」

芹沢「島原だ。土方達が歓待してくれるというのでな」

井吹「へぇ、そうなのか?」

芹沢「さっさとしろ!犬が主人を待たせるな!」

井吹「あ、いや!ちょっと!」

慌てて洗い物の片付けをする井吹

先に行こうとする芹沢を、これまた慌てて追いかけたのだった

そしてその日の夜、島原で・・・

土方「今日は無礼講だ!好きなだけ飲んでくれ!」

芹沢「お前達、今日は妙に愛想がいいな。どういう風の吹き回しだ?」

土方「局長と副長がいつまでも歪み合ったままってのも、よくねぇだろ?」

芹沢「・・・・・・」

土方「・・・・・・」

芹沢「・・・・・・良かろう。そういうことなら、大いに飲ませてもらおう」

永倉「左之と源さんも一緒に来れりゃあよかったのによ!やっぱ、こうやってみんなで飲む酒は、美味いんだよな」

平助「そうだよな!な、龍之介?」

井吹「ああ。俺は飲めないけどな」

千世「・・・・・・」

井吹「千世?」

千世「え?」

井吹「どうしたんだよ?食わないのか?」

千世「・・・・・・なんでもない。こういうの初めてだから、ちょっと戸惑ってるだけ」

沖田「んじゃ、ちゃんと堪能しときなよ?滅多に食べられないしね」

千世「・・・はい」

沖田「?」

斎藤「・・・・・・」

彼女の暗い様子に、沖田は首を傾げる

斎藤と土方は何かを感じたのか、無言のまま千世を見つめた

それからしばらくは、これまでの歪み合いが嘘のように楽しんだ

ただひとり、千世だけは暗い表情のまま

とはいえ、これまでも彼女が楽しそうに笑っているところなど、見たことがない

それもあってか、あまり誰も気にしてはいなかった

しばらくして

芹沢「そろそろ俺は、屯所に帰らせてもらうぞ」

山南「お酒はもうよろしいのですか?」

芹沢「ああ」

そう言って立ち上がった芹沢に続き

土方「だったら、俺も帰るぜ」

沖田「そうですね」

山南「では、私も」

次々と立ち上がる彼らを見て、井吹は慌てて完食しようと口に掻き込む

芹沢「貴様はいい。ゆっくり食べてこい」

と、芹沢が珍しい発言をした

井吹「けど・・・」

平助「いいじゃねぇか、龍之介!折角のご馳走なんだから、全部食ってけよ」

永倉「そうだそうだ!芹沢さんも、ああ言ってくれてんだしよ」

芹沢「永倉君、あとは頼んだぞ」

永倉「わかりました」

笑みを浮かべて、頷く永倉

料理を口しながらも、千世は横目で芹沢を見つめた

千世〈たぶんわかってるんだ、この人。これから自分がどうなるのか・・・〉










芹沢「ここにはもう来るなと言ったはずだが」

自室にいたのは、お梅だった

お梅「このお金は・・・受け取れまへん。お返しします。うちは・・・あんたと・・・一緒にいたいんどす!」

芹沢「・・・・・・」

お梅「・・・・・・」

何を言っても、出て行くつもりはない

そう察した芹沢は、彼女に話す事にした

芹沢「おそらく今夜、土方達はこの俺を殺すつもりでいる」

お梅「え・・・!?」

芹沢「ここにいれば、お前も巻き込まれる。今のうちにここを出ろ」

お梅「わかりました。あんたはんが死んでしまう言うんやったら、なおのことどす。一緒に死なせてください!」

芹沢「!?」

お梅「お願いどす!うちにはもう、あんたしかいいひんのどす」

芹沢「バカな女だ!」

死ぬ必要はない

そう思っての行動だった

だが彼女は、覚悟を持っていた

芹沢と共に逝く覚悟を

そうして、部屋の灯りが消された

井上「トシさん、火が消えたよ」

沖田「行きますか?」

土方「いや、あと半時。寝入るまで待つ」

暗い部屋の中、芹沢が刀を抜いた

視線の先には、隣の布団で眠るお梅

まるで、せめてこの俺自らの手で殺してやると、そう言っているかのようだ--










千世「・・・」

ふと、胸騒ぎがして外を見る

雨が降る暗い空を見上げた

井吹「ご馳走さん。俺、そろそろ帰るけど」

平助「じゃあ新八っつぁん、俺達も引き上げようか。明日、朝巡察当番だしさ」

永倉「そうだな」


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