第三章




千世「・・・・・・ん・・・」

少し重い瞼を開け、千世は目覚めた

千世「・・・・・・知ってる天井・・・」

というより、ここ最近よく見るようになった天井だ

この時代に来てから当てがわれた、自室の天井なのだから

体が少し重い・・・

そう感じた千世は首だけを動かし、辺りに視線を向けた

千世「?」

胡座をかいて座っている土方が、視界に入った

しかも首が上下に動いている

眠っているようだ

千世「なんで・・・?」

本当はあまり動きたくなかったが、なんとか腕を伸ばす

届く範囲にいてくれたおかげで、土方の足を軽く叩く事ができた

土方「ん・・・?」

気付いたのか、土方が目を覚ます

土方「目が覚めたのか・・・具合はどうだ?」

千世「・・・少し、体が重い気がします」

直後、土方が額に掌を乗せてきた

土方「熱はなさそうだが・・・山崎を呼んでくるか」

千世「あ・・・」

土方「ん、どうした?」

千世「・・・ずっと、いてくださったんですか?」

土方「ああ。聞かなきゃならねぇ事もあったからな」

千世「・・・」

土方「・・・・・・とりあえず山崎を呼んでくる。もうしばらく、そのまま横になっとけ」

そう言い残して部屋を出た土方を、千世は無言のまま見送った

彼が聞きたい事は、なんとなく察しがついている

体を横向きに変えて瞼を閉じると、また眠気がきた

それからふと意識が浮上し、瞼を開ける

そんなに時間は経っていない気もするが、山崎の背中が確認できた事でそれは違うとわかった

千世「・・・ぁ、あの・・・」

山崎「千世君?すまない、起こしてしまったか」

その言葉に、千世は首を左右に振る

山崎「少し体が重く感じるそうだが、他には何かあるか?」

千世「・・・眠いです」

山崎「寝起きというのもあるだろうが、疲労のせいだな。何が原因かはわからないが、君の体は疲れを訴えているんだろう。今日は一日、ゆっくりしているといい」

千世「はい・・・」

山崎「あとでまた様子を見に来る。では副長、ひとまず俺はこれで」

土方「ああ」

山崎が退室すると、土方は千世に顔を向け直す

土方「疲れてるとこ悪いが、どうしても聞かなきゃならねぇ事がある」

千世「・・・・・・わかっています。でも、私自身もよくわからないんです。こんな事、初めてなので」

土方「・・・あの紅い目は、なんだ?殺すってのはどういう意味だ?」

千世「・・・・・・たぶん、“あれ”が見えている時だけ、紅くなってるんだと思います」

土方「“あれ”?」

千世「・・・・・・“線”」

土方「?」

千世「なんとなく、わかったんです。あの“線”を斬れば、斬ったその部分が死ぬんだって。いつだったか、何かで聞いたんです。万物全てには、目に見えない綻びが存在するんだって。私が斬ったのは、たぶんそれです」

土方「だから、羅刹の傷は治らなかった。と?」

千世「本当に、たぶんです。詳しい事は、本当にわからないんです。今のも、感覚的な話なので」

土方「・・・声無きモノの声を聞いたり、万物の綻びを視たり・・・忙しい奴だな、お前は」

千世「あ」

土方「あ?」

千世「気になっていたんですけど・・・それ、監察方のおふたりには言わなかったんですか?」

土方「・・・・・・ああ、言ってねぇ。誰にもな。知ってんのは俺だけだ」

千世「・・・」

土方「・・・・・・お前が信用できるなら、言えばいいと思ってな」

千世「私が?」

土方「お前は山崎に、俺が信用できる奴だと思ったのなら話してもいいと言ったようだが・・・俺が信用してても、お前自身が信用してなかったら意味ねぇだろう」

千世「・・・」

途端、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする千世

土方は土方で、何か間違った事でも言ったのだろうかと眉間にしわを寄せる

自分を蔑ろにし、他人任せにしていた千世

だからこそ、土方が信用できるのなら構わないという考えがあった

一方で彼は、話を聞いたとはいえ、勝手に彼女の秘密を明かしてもいいのかと考えた上での結果だった

実際、彼女が未来から来た人間だという話をする時も、土方はわざわざ了解を得にきていた

その事を思い出し、千世は納得した

千世〈なんだ・・・この人、ただ不器用なだけなんだ〉

不器用なだけで、他人を想いやれる優しい人なんだ

そう、納得した

土方「昨晩の事も、俺と総司、斎藤、山崎以外は知らない。勝手に話してもいいような内容じゃねぇだろうし。何より、お前と話してからだと思ってたからな・・・なんだ?なんか間違ってたか?」

千世「あ・・・い、いえ。お気遣い、ありがとうございます」

土方「・・・・・・ありがとう、か」

千世「?」

土方「ここに来た頃は、礼も言えねぇような奴だったのになって思ったんだよ。原田から聞いちゃいたが、本当に変わったな。お前は」

そう言って立ち上がった土方は、部屋から出て行った

仲間に見せるような、柔らかい微笑を残して

千世「・・・・・・初めてあんな顔、されたかも・・・」

彼の中での私も、少しは変わったのだろうか?

なぜか、そんな風に気にしている自分がいる事に・・・千世は気付かなかった


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